第6話 史上最強の魔王。古代竜と仲良くなる
俺はヨルムの言葉に驚いた、
「……ヨルムは俺に会ったことがあるのか?」
「あるよ。ヨルムンガンドって名前覚えてない?」
「偉大なる竜王ヨルムンガンドだな。もちろん覚えている」
それは前世の俺が力比べに勝利し、臣下とした古代竜の名だ。
前世の俺が戦った中でも最強の古代竜である。
臣下と言っても、盟友、顧問のような存在だった。
数万年を生きた古代竜の長老格であり、強いだけでなく、人にはない叡智を持っていた。
俺も、ヨルムンガンドに助言を求めたことが何度もある。
「ヨルムンガンドはヨルムの父ちゃんなんだ。だからちっちゃい頃、偉大なる魔王ハイラムに会ったことがある」
「そういえば、小さな幼竜を紹介されたことがあったな」
そのときのヨルムは中型犬ぐらいの大きさで人語も話せず、きゅるきゅる鳴いていた。
とても可愛かったことを覚えている。
「覚えてくれてたんだ」
そういって、ヨルムはゆっくりと尻尾を動かす。
ヨルムンガンドが、俺の墓所を守らせるためにヨルムをこの場所に住まわせたのかも知れない。
そんな気がしてならなかった。
「ちなみに聞くが、ヨルムの父、俺の友にして臣下である偉大なる竜王ヨルムンガンドはどうなったんだ?」
「……わかんない。元々、ここには父ちゃんと一緒に住んでたんだ。僕が二つ名を手に入れたときに、ここに住み続けるように言って、どこかに行っちゃった」
ヨルムを育てながら、墓所を守っていてくれたのだろう。
俺がどこに転生するかを明かしたのは、ごく一部の信用できる臣下だけだ。
そのごく一部の臣下の一頭がヨルムンガンドである。
「……思い出したぞ。人族に転生することを勧めてきたのが竜王ヨルムンガンドだったな」
ヨルムンガンドは「魔神に敗れ転生するときは、人族になされませ」と言ったのだ。
そのとき、俺はリスクが高すぎると思った。
転生魔法は難度が高く、成功率が低い。
魔族から人族だけでなく、種族を変更しての転生は成功率を格段に落とすと言われている。
だから俺は魔族に転生する術式を組んでいたのだ。
だが神罰をうけて死ぬ寸前、魔族以外に転生するために術式を変更した。
そのとき、俺が、エルフでも獣人でもなく人族を選んだのは、ヨルムンガンドの助言が大きな理由の一つだ。
「ヨルムンガンドともいつか会えるかもな」
今、ヨルムンガンドはどこかに旅に出たのかも知れない。どこかでのんびり寝ているのかも知れない。
「どうだろうね。父ちゃんは本当にどこ行ったかわからないよ。死んでるかもしれないし」
ヨルムはそんなことを言って、ぶしゅーっと大きく息を吐いた。
そんなヨルムに俺は尋ねる。
「ヨルム。少し聞いていいかな?」
「何でも聞いて」
「先ほど、ほぼ相討ちと言ったが、俺は魔神に敗れたはずだが……」
「あ、そうか、ハイラムは先に死んじゃったんだもんね」
そう言ってヨルムはうんうんと頷いた。
「どういうことだ?」
「神罰を使った反動で、魔神は肉体だけじゃなく霊体の方まで瀕死の状態になったんだ」
それは知りたかった情報の一つだ。
「それには興味がある。ヨルム詳しく教えてくれ」
「う、うん。神罰って、神という存在概念を使っての攻撃だから……強力だけど反動がすごいんだよ」
前のめりになった俺に、若干ひき気味ながら、教えてくれる。
「存在概念自体でぶん殴るみたいなもんだからね。概念にひびが入りかねないというか」
ヨルムの説明は俺にもよくわからなかった。
だが、とにかく神罰を使うのは存在を危うくするほど非常に危険なことらしい。
「なるほどな。魔神の神罰は人族に使えたりはしないのか?」
「使えないよ。神の加護って、首輪みたいなものでもあるからね」
どうやら、神の加護を貰っていない人族には神罰も通用しないということらしい。
「ヨルム。非常にためになる話だった。ありがとう」
「どうもいたしまして」
「それで、ヨルム。その後、魔神はどうなったんだ?」
「それは僕にも、わかんない。姿消したからね」
それは面倒な話だ。どこに居るのか探すところから始めなければならない。
神界に引き込まれていたら、非常にやっかいだ。
地上に、肉の身体を持った状態で降臨してこなければ、神は殺せないのだ。
「神界にもどったのでなければいいのだが」
「それは大丈夫かと思う」
「そうなのか?」
「うん。霊体が傷つきすぎて、存在が危うくなったから、神界にも戻れないだろうって」
そう父ちゃんが言ってたとヨルムは言う。
「この地上のどこかに隠れているってことか」
「うん。父ちゃんの予想だと、どこかに繭みたいなの作って引きこもってるんじゃないかって」
竜王ヨルムンガンドは、魔神は結界の中に隠れて、傷ついた存在概念を癒やそうとしていると予想していたらしい。
「……五百年も経ったのに、まだ癒やせていないのか」
「まだ五百年だよ?」
古代竜のヨルムにとっては五百年などつい最近のことなのかもしれない。
古代竜より長いときを生きる神ならば、五百年など一瞬のことなのだろう。
「父ちゃんに聞いたんだけど、魔神が魔王に自国民の虐殺を命じたのは何回かあるみたい」
それを聞いて俺は驚いた。
俺が魔神と戦った理由がまさにそれだったからだ。
そのことは臣民にも伏せられていた情報だ。
「……古代竜は何でも知っているんだな」
「何でもは知らないけど。長生きだからね。ほとんどの魔王は魔神の神勅に従ったんだ、中にはハイラムみたいに断って戦った魔王もいたけど、ハイラム程戦えた魔王はいなかったよ」
「そうか」
「じいちゃんが知る限り、神罰の発動も初めてだったらしいよ」
それまで、魔神と戦った魔王は神罰を発動される前に殺されたようだ。
「そういう話が伝わってるから、古代竜の間では偉大なる魔王ハイラムは英雄なんだ」
そう言われると、俺としても少し照れ臭くなる。
ヨルムは、しばらく俺のことをジーっと見つめた。
鼻から熱い息を長く吐いてから、下顎を地面につける。
「魔神に挑みし偉大なる魔王ハイラムに敗れたのなら恥じゃない。最期の相手が君で良かった。……僕はどうだった?」
「さっきも言ったが、とても強かったよ。これは嘘じゃない」
「……そっか、ありがとう。光栄だよ。もし、父ちゃんに会ったら、僕は勇敢に戦ったって言っておくれ」
そしてヨルムは再び目を閉じる。
「……僕の身体が目当てだったね」
「そうだ。ヨルム。今はお前が目当てだ」
「……これ以上話していると、名残惜しくなってしまう。最期に話せて楽しかった。思い切り殺しておくれ」
「ヨルム。お前が目当てだが、命は目当てではないぞ」
「どういうこと?」
ヨルムはきょとんとする。
「ヨルム。俺、いや我に仕え、我が覇業を手伝うがよい」
あえて前世の口調に戻して俺は言った。
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