第3話 史上最強の魔王。劣等種族に転生する。

 俺は改めて、自分の全身を眺める。

 自分のことを知らなければ、始まらないのだ。


「……これが人族の身体か」


 魔人は魔力が高く魔法が得意だ。

 だが、魔神の支配下にある。


 エルフは身体能力、そして魔族ほどではないが魔力も高い。

 だが聖神の支配下にある。


 身体能力だけならエルフより高いのが獣人だ。

 そして獣神の支配下にある。


 そしてドワーフは手先が器用で様々な工作技術に優れている。

 ドワーフも当然、鍛冶神の支配下だ。


 そして、加護を与える神がいない、神に見放された種族が人族なのだ。

 だから俺は、とっさに人族を選んだ。


「……あまり知られてはいないが、人族には利点が大きいからな」


 人族は弱いとされている。

 それは成長が非常に遅いうえに、神の加護がないから寿命が短い。


 具体的に言えば、神の加護により魔力が多くなる。

 魔力が多ければ多いほど、老化が遅くなり寿命が長くなるのだ。


 加護のなく、魔力の少ない人族は、強くなる前に老いて衰え、死んでしまう。


「だが、人族は潜在能力は最も高いし、成長率も最も高い」


 神は人族を恐れているから、寿命を奪ったのだと主張する学者もいるほどだ。

 それゆえ、戦闘経験と記憶、魂と魔術回路を持って転生するならば人族が圧倒的に強い。


「とはいえ、実証例は皆無だが……」


 とにかく転生は難しい。しかも種族を超えた転生はさらに難しい。

 歴史上でも、魂が消滅する危険を冒してまで、転生に挑戦した者はほとんどいない。

 そして成功例はもっと少ない。


 その上、リスクが跳ね上がる種族を変更しての転生の実例は皆無だ。

 挑戦した者はいたらしいが、成功した者は歴史上いない。

 そして人族は転生魔法を扱えるほど成長する前に死んでしまう。


 だから、人族に転生したのは歴史に記録されている限りでは俺が最初だろう。


「本当に人族が最強か確かめてみたいな」


 俺は新たな身体の感覚を確かめるようにゆっくり動かす。


「悪くはない。悪くはないが……。まだ慣れてないな」


 五百年経っていたとしても俺の目的は変わらない。

 魔神を殺すことだ。


 五百年も経っていたら、当然今は別の者が魔王になっているのだろう。

 もしかしたら、魔王は複数いるのかも知れない。


 俺だからこそ、統一できたのだ。

 俺が死んで五百年も経てば、国はバラバラになっているかもしれない。


「それならそれでもいい。魔神を倒した後に世界を征服してやればいいしな」


 魔力が高いほど寿命は長い。

 そして俺は魔力が多い。現世の寿命もそれなりに長いだろう。


「神も悠久を生きる奴等だし、急いでも仕方が無いからな」


 俺は改めて今後のことを考える。

 神は舐めてはいけないと思い知らされた。


 俺としては舐めたつもりはなかった。入念な準備をして魔神との戦いに挑んだ。


「あんな神罰があったとは……」


 どの文献にも載っていなかった。

 そもそも神と戦った者がほとんどいないのだ。資料が少なくても仕方が無い。


「最初から使わなかったのだし、恐らく使いたくはなかったんだろうとは思うが……」


 神罰の使用にデメリットがあるのか。それとも、魔神のプライドで使わなかったのか。

 戦う前には、それも調べておきたい。


「……フィルフィも、まだ生きているのかもしれないな」


 フィルフィは俺の養女だった魔族の少女だ。

 それも潜在能力が非常に高かった。


 魔力が多い者の寿命は長い。今、生きていても不思議はない。


「もっとも、戦闘好きの魔族が、寿命を全うできることはほとんど無いが……」


 実際。俺自身、寿命が来る前に戦死したのだ。

 フィルフィが死んでいるにしても生きているにしても、どうなったのかは知りたい。


「生きているなら話がしたい。墓があるなら花を手向けよう。子孫が居るなら可愛がってやろう」


 少し考えて、俺は現世での行動指針を決めた。

 まずは神殺しのための情報収集。

 神が俺を殺した後、どこで何をしているのか知りたい。


 それに神罰についても知っておきたい。

 実は、魔族だけでなく、人族も神罰で殺せるとなったら、別の策が必要になる。


「……神殺しをなすならば、警戒しても警戒しすぎると言うことはないからな」


 それに、俺の娘、養女であるフィルフィのことも知りたい。

 五百年経っているのだ。こちらも難度は高そうだ。

 だが、時間はある。俺の寿命は長く、神もまた悠久を生きる者だ。


「さて、神殺しを始めようか」


 そう考えて、ハイラムは部屋の外へと向かった。

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