第4話 史上最強の魔王。古代竜に会いに行く。

 俺は部屋から出るために扉の封印を解いた。


「なに?」


 その瞬間、強大な魔力を持つ存在の気配を感じ取る。


 俺が墓所とした部屋は、大きな山の中腹に密かに作った。

 そして、その強大な気配は、俺の墓所の上、山の頂上付近に存在している。


「……五百年の間に竜でも住み着いたのか?」


 それもただの竜ではない。

 竜の最上位種である古代竜の中でも強い部類だろう。


「古代竜か。ちょうどいいな」


 まだ、人族に転生したばかりで、身体に魔力が馴染んでいない。

 馴染ませるには戦闘が一番だ。


 ちまちまと雑魚を狩ってもどうにもなるまい。

 やはり、ある程度強い敵との戦いが必要だ。


 だから俺は、古代竜の居る場所に向けて歩き始めた。


 墓所は厳重に魔法で封印を施しているだけでなく、迷宮に囲まれている。

 もちろん、迷宮を作ったのも俺だ。


 迷宮は作った自分でも中々素晴らしい出来だと思う。

 よほどの魔導師でもなければ、迷宮があることにも気付くまい。


 迷宮にはいくつもの入り口がある。

 迷宮の存在に気付き、出入り口の一つから入ったとしても、気付かないうちに別の出入り口から出てしまう。

 そういう魔法がかけられている。


「フィルフィと一緒に作っていて、途中から、楽しくなってきて複雑にしすぎたんだよな」


 大きな山だが、山の麓から中腹まで迷宮となっていると言っても過言ではない。

 幼女であったフィルフィも、その魔法の才能をふんだんに発揮して、迷宮を複雑にしてくれた。


「あれは楽しかった」


 親子で楽しみすぎたのだ。



 懐かしい思い出に浸りながら、俺は古代竜に向かって歩いて行く。

 複雑かつ難攻不落な迷宮とはいえ、俺は製作者なのだ。

 迷うこともなく、進んでいった。


 俺が近づいていることに気がついたのか、古代竜が吠え始める。


「GUAAA……」

「中々鋭い古代竜だな」


 俺自身、今は魔力を隠しているわけではないが、垂れ流しているわけでもない。

 ほどほどに魔力を抑えている。


 古代竜との距離を考えれば、気づけるのはよほど気配察知が巧みなのだろう。


「これは期待できるな」


 俺はわくわくしながら、古代竜に向かって歩いて行く。

 迷宮を進みつつ、山を登る。迷宮から出て、頂上付近へと進んでいく。


 頂上近くにある大きな横穴から、古代竜の気配がした。

 ここが古代竜の巣なのだろう。


 ちなみに五百年前にはこのような横穴はなかった。

 古代竜が掘ったのかも知れない。


「GUAAAAAAA!」


 そして、古代竜は威嚇の咆哮を繰り返している。


「邪魔をするぞ!」

 俺は大きな声で挨拶すると、古代竜の巣に足を踏み入れる。


 古代竜は小山のように大きかった。

 赤い鱗がまるで宝石のように見えるほど綺麗だ。

 四足に大きな羽を持つタイプだ。後ろ足は太くて力強く、前足には鋭い爪が生えている。


「GUA!?」


 古代竜は、俺を見て何故か驚いていた。

 まるで、不意に知らない人が巣に入ってきたかのようである。


 威嚇の咆哮をくりかえしていたのだから、俺が近づいていることは知っていたはずだろうに。

 もしかしたら、近づいてきていることは気付いていたが、距離は把握出来ていなかったのかも知れない。


 人には、いや竜にも得意不得意はあるものなので仕方が無い。


 俺は古代竜に向かって話かける。

「名も知らぬ古代竜よ。俺と力比べをしよう」

「GA!」


 古代竜はそれを聞いて身構えた。

 知能が高く、魔力も高い古代竜は、人の言葉を理解することが出来るのだ。


 そして、古代竜は、特別な理由が無い限り力比べを断らない。

 これは古代竜の習性、本能、もしかしたら文化かも知れない。


 古代竜同士でも、力比べはよくするようだ。

 少なくとも五百年前はそうだった。


「申し込んだのは俺だ。いつでも仕掛けてきていいぞ」

「GUAAAAAAAAAAA!」


 大きく咆哮すると、古代竜は灼熱のブレスを吐いた。

 同時にその鋭い爪を振るう。その爪は目にも止まらぬほど速い。


「いい動きだ」


 俺は、左手で作った障壁でブレスを防ぎ、右手で爪を受けとめた。

 前世の身体ほど馴染んではいないが、この身体も中々強い。


「やはり人族で正解か」

「GUO……?」

 古代竜は威嚇ではなく、驚きの声をあげる。


「GUOOOOOOO!」

 そして、古代竜が力強く咆哮した。

 それはこれまでの威嚇のための咆哮とは一味違う。


 いわゆる竜の咆哮ドラゴン・ボイスと呼ばれるものだ。

 俺を強敵と認め、攻撃する意思をはっきりと示すための咆哮だ。


 古代竜自身、気合いを入れなおすという意味もあったのだろう。


 竜の咆哮には多量の魔力が含まれている。まさに音のブレスとも言うべきものだ。


「並の、いや一流の戦士でも倒れただろう。それぐらい見事は咆哮だった」


 前世の癖で、つい俺は褒めたが、もしかしたら古代竜には皮肉に聞こえたかも知れない。

 反省しなければならない。

 前世の俺は史上最強の魔王だった。褒めれば古代竜でも喜んだ。


 だが、今の俺はただの人族の少年だ。

 褒めるべきときも考えなければなるまい。


「すまない。皮肉ではない」


 俺は謝るが、古代竜は聞いていない。

 いや褒め言葉の時点で聞いていなかったのかも知れない。


 俺を倒そうと目に闘志があふれていた。

 古代竜は竜族最高位の種族にふさわしい猛攻を開始する。


 その全てを俺は防ぎきる。攻撃はまだしない。

 勘を取り戻し、人族の肉体をうまく扱えるようになるためのリハビリでもあるのだ。


 古代竜という強大な敵の鋭くて強力な攻撃を捌くことは簡単ではない。

 だからこそ、最良のリハビリとなりうる。


 俺は古代竜の爪を、牙を、尻尾による攻撃を、そして竜の息吹を全て防ぐ。


「なかなかやるな、古代竜!」

「GUUU……」


 十分ほど俺がひたすら防御し続けていると、古代竜が攻撃を止めた。


「……どうした? もう終わりか」

「――GRUUUUU!」


 古代竜は大きく口を開くと、咆哮し、同時に灼熱のドラゴン・ブレスを吐いた。


「古代竜、見事なブレスだ!」


 俺は風の魔法を使ってブレスを吹き飛ばす。

 俺の風で飛ばされた灼熱の竜の息吹が、巣穴の壁を撫でた。

 それにより、岩壁が融ける。


 それだけでは古代竜の攻撃は止まらない。

 ブレスを吐くために開いた口をそのままに、俺に食らいつこうとする。


「ちぃ……」


 俺は、とっさに食らいつこうとする古代竜の下顎を右手で、上顎を左手でとらえる。

 いくら俺でも、魔硬玉すら砕く古代竜の咬合力を腕の力で押さえ込むことは出来ない。


 一時凌ぎのつもりで、魔法で身体強化して上で、古代竜の顎を手で掴んだのだ。


「GUUAAA!」

「……前世より力は上がっているな」


 なんと、古代竜の顎を、腕の力で押さえ込むことが出来た。

 前世では、身体強化の魔法を使っても、流石に古代竜と力比べは出来なかった。


「GUUUUUAAAAAAAA?」


 古代竜も人に顎を止められて、困惑している。

 人族の身体ならば、身体強化の魔法を用いれば古代竜の咬合力すら抑えこめるようだ。


 それがわかって、俺は満足した。


「うおおおおおおお!」


 俺は顎を掴んだまま、古代竜を投げ飛ばす。


「GAAA!」


 驚いたのは古代竜である。その長い竜生において、人に投げられたのは初めてだったに違いない。

 俺は古代竜を背中から固い岩の上に投げ落とす。そして起きかけた古代竜の顔を思い切り殴りつける。

 そして暴れる古代竜を重力魔法を駆使し、押さえつけた。


 さらに暴れ続ける古代竜を、俺は十分間押さえ続ける。

 そして、ついに古代竜は敗北を認めてお腹を見せた。

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