第3話ファーストキス~契約キス~

「稔兄、今日、何食べる? バイトまだ見付かりそうにないし、しばらくは、私が夕飯作る。それとも、彼女の手料理にする?」


「えっ!?」


「隼人君から聞いたよ。隼人君のお姉さんと付き合ってるんだって?」


「えっ? ああ……まあ……」



つい最近、発覚した。


稔兄の彼女は、なんと、隼人君のお姉さんの加賀真理絵(まりえ)さんと付き合ってるらしいのだ。



「真理絵さん美人だよね? あっ! そろそろ時間だ! はい、お兄ちゃん行ってらっしゃい!」



私は追い出す様に押し出した。




「帰る時、連絡頂戴!」



そして、私も学校に行く準備をし、学校に行くのだった。



「ねえ、裕香、今日、何食べたい?」

「えっ?」

「今日の晩御飯のおかず何しようかな?って意見を聞こうかと思って」

「ハンバーグなんてどう?」



私達の会話に割って入る男の子の声。



「ハンバーグかぁ~……この前したんだよねー。……ん? うわっ! 隼人っ!」

「おっ! 呼び捨て良いね♪」

「えっ? あっ!」

「別に気にしないから呼び捨てにすれば? その代わり俺も悠羽って呼ぶけど」


「いやいや」

「良いじゃん! で? ハンバーグが駄目ならオムライスは? 美味しいよ♪」


「オムライス……子供染みたリクエストだね」

「ええーっ! 良いじゃん! なあなあ裕香ちゃんオムライスとかハンバーグとか駄目?」

「うーん……私は別に……」


「駄目駄目! 23歳の兄貴に食べさせる料理じゃないってば!」

「ファミレスにもあるんだから年齢関係ないと思うけど」

「た、確かに、そう言われるとそうだけど……ねえ、隼人の所……あっ! 隼人君の所は、どういう料理作る?」


「別に呼び捨てで良いのに。家は和食かな? 肉じゃがとか煮物とか」

「和食……? う~ん……味付け難しそうだね。まさに、おふくろの味だしなぁ~」


「この際、これを機に花嫁修業したら良いんじゃないの?」

「は、花嫁修業!? まだ、ずーっと先の話だよ」

「まあ、難しく考えなくても良いんじゃない? お腹に入れば一緒という事で、悠羽ちゃん、まあ頑張りたまえ!」



ポンと両肩に両手を置き、私達の前から去った。



「隼人君、誰にでも対等だよね」

「確かに。だからこそ友達多いんだろうね」




その日の夕方 ―――



ガチャ

加賀家と藍上家を繋ぐドアが開く。



「こらっ! 隼人っ!」

「うわっ! ちょ、ちょっと包丁振り回してんじゃねぇよ!」


「あんたが悪いんでしょう!? あんたの事ミンチにしてやるわ! さぞかし美味しいおダシと極上ミンチが出来るんじゃないかしら~? フフフ……包丁研いだばかりですものね~」


「ミンチって……俺をハンバーグか肉団子にする気かよっ! さあて……何処からいこうかしら?」



加賀家の姉弟が藍上家に乱入し、部屋の中を走り回り鬼ごっこ状態。


この光景は日常茶飯事に近い程、見受けられる。


喧嘩する程、仲が良いというのは確かなんだけど…………




ドタドタドタ……



ドタドタドタ……




「………………」


「こらぁぁーーっ!」



ピタリと動きが止まる。



「暴れるなら外か、自分達の部屋でお願いしますっ!」




私は二人を藍上家の部屋から追い出す。



「全く!」




その直後。




「ただいま」

「あっ! おかえり」



そして、お互いの夜は更けていく。



その日の夜、私はふとトイレに起きた時、稔兄の部屋からうっすら灯りが漏れていた。



「あれ? 稔兄……まだ起きてんのかな? それとも……電気の消し忘れ?」



私はドアノブに手をかけ開ける。


次の瞬間 ―――



ドキーッ

私はドアを閉めた。



私の目に飛び込んだ光景は男女の裸姿。

甘い囁きと声が漏れていた。


私は衝撃的過ぎて、目が覚めてしまい自分の部屋に行く所か、隣の部屋に移動した。



「………………」



パチッ

電気がついた。



ビクッ

驚く私。



「なんだ姉貴かと思ったら悠羽じゃん! こんな時間にどうしたの? 」

「いや……は、隼人こそ、どうしたの?」

「俺? 俺は、姉貴を茶化すつもりで……」

「茶化す?」

「うん。姉貴、今、最中だろうって思ってて、やけに戻って来るの早いな~って思ったから」

「さ、最中!?」



私は、何となく隼人の言葉が分かる気がした。


つまりそれって私が、今、目撃したと思われる、その事だろうと ―――



私はさっきの光景が脳裏によぎり顔が真っ赤になった。



「うわっ! 何? その反応……」


「………………」


「いや……えっと……ちょっと……」


「あー、もしかして見ちゃった的な?」


「………………」


「図星!?」


「いや……その……うっすら電気がついてたから稔兄の消し忘れかな?と思って……」


「あー、そういう事。まあ、恋人同士だしHは付き物だろう?」

「Hぃぃぃっ!?」


「………………」


「まさか結婚するまでHは抜きって、それは浮気されるって! まさか、お前、そういうタイプ?まあ、場合に寄っては絶対に結婚する保証もないだろうけど、恋人同士なら一回は関係持つでしょう?」


「そ、それは……」


「つーか、その反応は純なだけ? それとも他に理由あり? 取り合えずコーヒーでも作る。戻れねぇだろう? そこ座ってな」



私は腰をおろす。



「ほら、コーヒー」

「あ、ありがとう」

「なあ、お前可愛い系だし、イケてるしHの経験あるんじゃないの?」

「ま、まだ高校生になったばかりなのにあるわけないよ」

「嘘!? 俺てっきり……今、結構やることやってる人いるから……」


「15年間生きて恋もしたけど、片想いばっかで」

「告白しなかったの?」


「恋愛になると、すごい奥手で……友達とか中2位から付き合ったりしていたの見ると正直羨ましくて……良いなぁ~って遠くから眺めてた。好きな人と肩を並べて歩いてみたり手を繋いで街歩いてみたりしたいなぁ~って……いつも思ってた」


「……悠羽……」


「や、やだ……ごめんっ! 恥ずかしい……」

「良いじゃん! お前はお前らしくしてれば」

「えっ?」

「俺、お前とマジ恋したくなった」



ドキッ

胸が大きく跳ねた。



「えっ? あ、あの……私よりも相応しい人いるじゃん! 女優さんとか、私以外沢山いる……」



キスされた。


ドキッ

私の胸が大きく跳ねた。



≪う、嘘……キスされた……≫



「………………」



「あんたの事、本気(マジ)になった時、一生、俺の女。契約キス」



ドキン

意外な言葉に戸惑う中、胸が大きく跳ねた。



「わ、私だって選ぶ権利あるよ! それに色気とか全然ないし!」

「じゃあ、俺がイイ女にしてやるよ!」

「そういう問題じゃないよ! 第一隼人は演技してからかってんでしょう?」

「演技じゃねーし。俺、マジっつったらマジだし!」



「………………」




私達の夜は更けていく所か明けていくのだった。

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