第2話 入学式

「ねえ、稔兄、お願い!」

「断る!」

「えーっ! どうして?」

「駄目なものは駄目! 自宅から通えよ!」

「バイトするし、炊事、洗濯とか協力するから、お願い!」


「駄目だ!」

「彼女……いるから?」

「それもある」


「邪魔?」

「邪魔!」


「迷惑掛けないから!」

「駄目!」


「………………」


「……分かった……無理そうだから……諦めて帰る……変わらなそうだし……」



私は帰る事にした。


その直後、隼人君と遭遇した。




「あれ? 悠羽ちゃん」

「……隼人君……」

「どうしたの? そんなにヘコんで」

「稔兄に、ここから通わせてって言ったら断られちゃった……まあ、23だし……彼女もいるし邪魔になるんだろうけど……じゃあね……」


「………………」



私は帰って行く。




~加賀 隼人 side ~



俺は彼女の兄・稔紀さんに交渉する事にした。



「稔紀さん」

「隼人君」

「悠羽ちゃん、ここから通わせて欲しいって?」

「ああ。悠羽から聞いた感じ?」

「はい、偶々。今、廊下で会って……。すみません、俺が兄妹の間に口出すのはと思ったんですけど……理由いくつかあるんでしょう?」



「確かに、ここから通わせた方が近いから通わせてあげても良いんだけど……」


「………………」


「協力しますよ」

「えっ?」


「俺、業界の人間だけど、彼女の事……正直、気になるっていうか……」

「隼人君……」


「悠羽ちゃんが来たら稔紀さんが親代わりになるからですよね? 色々と心配なんでしょう? ましてや女の子だし。俺も出来る限り見張ってますよ」



「隼人君……しかし……」


「まあ見張るって言い方は言葉的には違うだろうけど、姉貴もいるし、俺達3人で悠羽ちゃんの面倒見れば良いと思いますよ」



「………………」



「彼女、悠羽ちゃんをここから通わせてあげましょう!」


「隼人君……ありがとう」

「いいえ」





俺が協力したいと思ったのは


今迄に会った事がない


女の子だったからだ


俺は業界の人間になって


いろいろな人に出逢ったけど


俺は彼女を


傍で見守ってあげたいと思った


ありのままの自分を出せると


そう思ったからだ


初めて会ったとき


お互いほぼ本音で接していた


特別扱いとかしない


ありのままの自分で


彼女は接してくれていた


そんな気がしたから


彼女の事を


俺自身が知りたいと ―――





●入学式



「悠羽」

「あっ!裕香(ゆうか)」



私の親友・瀬木山 裕香(せきやま ゆうか)



「ねえ、どんな子いるのかな?」

「そうだね! 楽しみだね!」



私達は色々と話をしながら入学式に向かう。




「この前さ、稔兄の所から通わせてって頼んだら断られちゃったよ! 確かに良い年だし彼女いるから邪魔かもしれないけど、バイトだってするし、家から通うには遠い訳じゃん!」


「悠羽の所からは確かに遠いよね?」

「稔兄には理解して欲しかったなぁ~」




学校へ向かうと ―――



「キャー、嘘ーーっ!」

「マジーっ! ?本物ーっ!?」

「超ラッキー!」

「同じ学校って超ハッピー! 夢みたーい♪」

「夢じゃないよね?」



やけに騒々しい。



「ちよ、ちょっとーっ! 加賀 隼人君だよ!」

「加賀 隼人? あー、芸能人の?」



私の親友も騒ぎ出す。



「そうそう!嘘ーっ!? マジラッキー! 同じ高校って……あっ! サイン、サイン!」

「そんなの後にしなよ」

「ねえねえ、こっち見たよ! 近付いて来てるっ! こっち向かって来てるってばっ!」


「裕香、興奮しすぎだから」

「興奮せずにいられないってば!」

「どうも! 藍上 悠羽さん」


「ちよ、ちょっとっ! 悠羽っ! 何で!? どういう事!?」

「えっ? あー……」

「お兄さんに話ついた?」

「いいえ、全く」



≪良くもまあ平気で声かけれるなぁ~≫



視線が痛い。



「何なら俺が頼んであげようか?」


「結構です! あ、でも、逆に許可おりるかも? 頼んで良いかな? 加賀 隼人君に。だけど、許可おりるなぁ~? 絶対、駄目の一点ばりだと思うけど」


「おーーい、隼人ーーっ! 行くぞーーっ!」

「ああ、すぐ行くーーっ! 悠羽さんの友達の方、ちょっと待っててね?」


「は、はいっ!」



裕香から距離を離す。



「何?」

「あんたのお兄さんの隣人つー事、言うなよ!」

「言わないし! その前に平気で気軽に声をかけてくるから説明が大変なんだけど? どうしてくれる訳!?」


「お前なら出来る! じゃあ頼んだからな!」

「あっ! ちょっとっ! もうっ! 信じらんないっ!」


「悠羽、私達も行くよ! 後で理由聞くからね!」


「えっ!?」



≪どう説明すべき? 納得出来る理由なんてある?≫




そして、入学式が終わり ―――



「悠羽」



私の名前を呼ぶ男の人の声。



「稔兄ぃっ!? 何してんの? 今日、仕事……」

「休み貰ったんだよ」

「えっ?」

「じゃあ、悠羽、先に帰るね」

「待って! 裕香ちゃん! 悠羽の隣に並んで!」


「えっ?」

「記念、記念」

「稔兄、恥ずかしいんだけど」

「良いだろう? 高校生活の始まりで今日しか撮れない特別な日なんだから」



正門で写真を撮ろうとした、その時。



「あー、俺もー」



そういう声がし、視線の先には隼人君と、その友達。



「はい、4人並んで」



何枚か写真を撮る。





「じゃあ、悠羽、また明日」

「うん、また明日ね」



結局、隼人君との関係は裕香に聞かれる事もなく私達は別れた。



「悠羽、お前の荷物、最低限持って来てるから部屋の片付けしてもらうからな」


「えっ?」


「どうしても必要な物とか要らない物とかあるなら車は出すから、とにかく片付けろ!」


「稔兄? どういう事?」

「そのままだ! ほら、車に乗った、乗った!」

「うわっ!」



私達の姿を見つめる隼人君。



「さーて、俺も仕事に行こうっと!」

「隼人君、入学式も仕事?」

「そう」

「頑張ってね」

「ありがとう」



「やった!話せた!」



「大変だな? 隼人も」

「本当。なあ、由希(ゆうき)、変わってくんね?」

「俺に演技しろと? 出来る訳ねーだろ! じゃあ明日な!」

「ああ、また明日な!」



俺は、親友の・峯山 由希(みねやま ゆうき)と、別れた。





「稔兄、本当に良いの?」

「ああ、母さんからも許可は貰ってるから。でも、不満があったりしたらすぐ追い出して良いからだと」

「そ、それは避けたい!」


「まあ、つまりきちんと協力すれば良い訳だし。バイトもするのは構わないけど、俺の言う事も聞いてもらう事と、きちんと約束は守れよ!」


「うん! 分かった!ありがとう! 稔兄」



そして、私と稔兄の同居生活が始まるのだった。

















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