隣人~2つの部屋がつながる扉~

ハル

第1話 隣人

ザアアーーー


空からはバケツをひっくり返したような雨が降り出す。



「えええーっ! さ・い・あ・く……雨だよ雨!街に出て来てこれって……ついてない……確か、ここから稔兄の所近いんだっけ? 行こう、行こう!」



私はとあるマンションの建物に駆け込む。


そして、同じように、もう一人の人影が駆け込んで来た。



「雨、凄いですね」

「えっ? あ、はい。本当そうですね」



顔を合わせる私達。

私に声をかけてきたのは、私とそう変わらない男の子だ。



ドキン

私の胸が大きく跳ねた。



≪マジ、カッコイイんだけど……でも……何処かで……≫



私は内心、そう思う中、見とれていると、男の子は先にマンションの中に入って行き始める。



「あれ? 行かないんですか?」


と、足を止め私に尋ねた。



「えっ? あ、はい。えっと……連絡しないといけない相手がいるので……」

「彼氏?」

「いいえっ!ち、違いますっ!兄に」

「お兄さん?」

「はい」


「そうなんですね。それじゃ、お先に」

「はい」



男の子は去って行く。



「カ、カッコ良すぎて……ヤバイっ! ドキドキしてる……あっ! 電話、電話」



私は気を取り直し兄に連絡する。



「もしもし、稔兄? 私」

「悠羽? どうした?」

「今、平気?」

「ああ」


「今、稔兄のマンションの建物の前にいるんだけど部屋番教えて!」

「何!? 部屋番? やだ!」

「やだ! じゃなくて、実の妹が急な雨に見舞われてずぶ濡れに近いんだけど? だから、お願い!」



「はいはい」



私は、兄貴である

藍上 稔紀(あいがみ としき)。23歳に部屋番を教えてもらい鍵を開ける。


そんな私は妹の藍上 悠羽(あいがみ ゆう)。15歳。


新高校1年生になる女の子だ。



受験も終わり、中学も卒業し街に出た矢先、突然の雨に見舞われてしまったのだ。


取り合えずシャワーを浴びる事にし、しばらく体にバスタオルを巻き脱衣場を後に洋服を物色中。



「やっぱり男だし女物はないよね……ん? あれ?これは女の人の? 彼女のかな?」



取り出して見るものの私には大きい。



「まさか……稔兄の? いやいや、まさか、いくら何でもそっち系? そんな変態趣味あるわけ……」


「いやぁ~まずありえないっしょ? まさか、お兄さんがそんな……」

「だよね~?だって……ん? ……あれ? 今……声が……」



私はバッと振り返る。



「どうも~」



笑顔で言う男の子。


ドキッ



「あれ? さっきのイケメン男子。いやいや違うっ! 違うっ! えっ!? 誰!? 何でいんの?」


「君は誰?」

「あ、あなたこそ誰ですかぁっ!?」


「………………」


「け、警察っ!」



私は手元に携帯がなく取りに向かおうとした。



「ま、待てっ!」



グイッと腕を掴まれた。



「きゃあっ! や、やだ! 離してっ!」

「離す訳にはいかねーなっ! 警察沙汰なんて面倒な事されたらこっちが困んだよっ!」

「そんな事、知った事じゃないしっ!」




私は、もう片方の掴まれていない手で平手打ちをしようとしたが受け止められた。


両手が塞がり私は足で蹴りを入れようとしたが交わされる。



「ム、ムカつくっ!」



抵抗する中、バランスを崩す私。



「きゃあっ!」



ドサッ

床に尻もちをつく。



「いったぁ~……あっ! 今だっ! 電話っ!」



グイッ ドサッ

腕を掴まれ押し倒され私の上に股がると両手を押え付けた。



ドキーッ

心臓が飛び出すかの勢いで私の胸は大きく跳ねた。



「いい加減、大人しくしろよっ!」

「で、出来る訳ないでしょうっ!?」


「………………」



しかし、上からイケメンに見下ろされるこの体勢は恥ずかしさと、ドキドキと胸が加速していく自分がいた。


私は男の子の顔がまともに見れず目を反らす。



「初対面の女の子に、こんな形で聞きたくないけど、暴れられたらかなわないし。俺、事情あって警察沙汰したくないんだよね?」


「………………」


「つーか……大騒動なんてなったら、一大事なんだよ。それ分かった上で、このまま質問させて貰うけど、あんたさっきここの住人知ってる様子だったけど? どういう関係?」


「……私……妹……」

「妹?」



私はこくりと頷く。



「雨に濡れて、稔兄に連絡してシャワー浴びた後で……」

「着替え探していた所、俺と遭遇したってわけだ」



男の子は私から降り、起き上がらせ自分の洋服を羽織らせた。



ドキン



「悪かったな。俺、隣に住んでるんだけど……」

「……隣に住んでる……人? えっ!?どうやって来たわけ? 」

「あそこのドア」



1つのドアを指差す。



「えっ!?」



私の手を優しく掴み立ち上がらせると、ドアの前に移動させた。



カチャ

普通にドアが開いた。



「!!!!」



部屋の中をのぞいてみると確かに隣の部屋と繋がっている普通のドアだ。


どういう事?


「隣が俺の住んでる部屋。一先ず、せっかく温まったのに元も子もねぇな」



優しく微笑む男の子。



ドキン



「洋服ありそう? ちょっと待ってな」




そして ―――



「姉貴の貸しても良いけど、勝手に触ると怒られるから。お兄さんのじゃかなり大きいんじゃない? 俺の洋服で我慢して。着替えたら、また隣に来な。温かい飲み物作るから」



「……ありがとうございます……」



私は着替えてから隣の部屋に移動した。



「そこ座んな」

「うん」



私は椅子のあるテーブルに腰をおろす。



「マジ悪かったな。大丈夫? 寒くない?」

「うん、大丈夫」



私達は向かい合って話をする。



「名前、何?」

「えっ? あっ、悠羽。藍上 悠羽」


「俺、加賀 隼人(かが はやと)いくつ? 俺とそう変わらない気がするんだけど……まさか見た目の顔とは違う年上系とか?」


「違います! 15。今度、高校生になる」

「じゃあ俺と同級なんだ!」

「そうなんだ! 本当に同級生? ていうか……何処かで見た事あるんだけど……」


「同級生。ちなみに似ている人は3人いるからな」


「まあ……そうなんだけど……」




そこへ ―――



「ただいまー」



女の人の声。




「俺の姉貴」と、小声で言う男の子。



「あら? お客さん?」



≪うわっ! 美人な人……弟もカッコイイはず……≫



「は、初めまして! すみません。お邪魔しています」



頭を下げる私。



「まあ、可愛い♪ あんたと交換したい位だわ!」

「おいっ! 隣のお兄さんさんの妹さんの悠羽さん」


「そうなんだ! 宜しくね♪ 悠羽ちゃん♪」




≪凄い感じの良いお姉さん≫

≪おまけに美人だし≫



「こ、こちらこそ宜しくお願いします!」



再び頭を下げる。



「ところで、あんた仕事は?」

「この雨じゃ無理だから中止」



≪仕事? 中止? バイトじゃなくて?≫



「あ、あの……仕事って……? バイトじゃなくてですか?」

「あー、その子、業界の人間だから」

「業界……? あ……あーーっ!」




ガタガタン……


私は後退りした。




「そ、そうだっ! 加賀 隼人君だ! どうりで見た事あるって……やだっ! ごめんっ!……芸能人であるあなたに先程は飛んでもないご迷惑を……」


「いや、まだお互い知らなかったし、不法侵入扱いされるの当たり前だし」

「いやいや、下手すれば大ニュースに……本当ごめんなさい」



私は頭を下げる。



「気にすんなって!」



私達は、さっきの出来事を話す中、色々話をしていた。







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