第10話

第10話




ソンリェン「牢を破ろう」




持っていた短刀で鎖状の鍵を断ち切って破壊するソンリェン

天上の力を使ったらしい…簡単にそれは裁断された


扉を開きマリの手をとり牢から出すと、3人は地上へと続く長い階段を急いで駆け上がった




ソンリェン「マリ、遅くなって済まなかった。なかなかお前の正確な居場所を特定する事ができなかったのだ。」












ソンリェン「は??マリが攫われただと?!」




政務室にて部下からの突然の報せに驚き思わず手に持っていた書類をハラハラと床に落としてしまうソンリェン




ソンリェン「なぜ?!この国でも一二を争う程腕の立つ優秀な護衛を複数つけていたのだぞ?!!」




ソンリェンの怒りを含んだ声色に怯える官達に代わって答えるリンリェン




リンリェン「護衛は全員無事だが、様子がおかしい。外傷はなく、ずっと眠ったままだ…俺が診た所、彼等にはどうやら呪いがかけられているように思う」








そのまま急いで王宮の救護室へと向かうと、ソンリェンは早速寝台に寝かされ看護されている護衛達をそれぞれ触診し始めた


リンリェンの報告通り、護衛達に傷は何1つなく、ただ眠っているかのように息をしてはいるものの、ソンリェンが何度呼びかけても誰一人として目覚めない




ソンリェン「精神と肉体が切断された状態と言ったところか?リンリェンと診立て通り彼等全員に何等かの呪いがかけられているのだろう…このままでは目覚めない。術者を探し出す必要がある」




リンリェン「呪い…天上の力を使って眠らされたというのなら、マリを攫った者は天上人という事に…何故天上人がマリを攫う?」




ソンリェン「いや、お前も彼等に触れてみて感じたとは思うがこれは天上人の…マリの持つ力の質とは異なるように思う。どちらかといえば俺が持つ力の性質とよく似ているとは思わないか?」




リンリェン「いや、しかし…つまりそれは王の力を持つ者がお前の他にもいると?」

リンリェン「…だが王の力は、この国の王たるもの、たった一人にしか与えられない…目覚めない力ではなかったのか?」




うなずくソンリェンを見て、まさかと驚くリンリェン




ソンリェン「俺もそう思っていたのだが、どうやらそうではないらしい」










マリが攫われてから数日後、政務室にてリンリェンを呼び出し、巻物のようなものをバッと机の上に広げるソンリェン




ソンリェン「どいつがやったかはある程度の目星はついている」




広げられた巻物にはギッシリの人の名前が羅列されており、ソンリェン曰く王に恨みがあるだろう者達らしい…

あまりの名前の多さにこんなにお前は恨まれているのか?と思わず呆れ口に出してしまうリンリェン




リンリェン「多すぎだろうが…!」




ソンリェン「一番最初にあげた名前の男以外は今回の件に手を貸しているか、関係ないかのどちらかだ。」




それを先に言えよと小言を言いながら巻物に書かれていた最初の名前を改めて確認するリンリェン

するとそこには「セイラン」と書かれてあった。


リンリェン「こいつは…確か南州の1領主だったと思うが…?根拠はなんだ?」




ソンリェン「そいつの領内に俺の力が及ばない場所があった…内情を探れないのだ」



ソンリェン「ならなぜ俺の力が及ばない?もしかしたらそこにマリがいるのかもしれない」

ソンリェン「証拠を掴むために何人か忍を送ったが帰っては来なかった…おそらく既に殺されているだろう」




リンリェン「そこまで怪しいのなら軍は出さないのか?」




ソンリェン「兵を出したにも関わらずマリが見つからなかったとしよう…そうなればマリを失って血迷い、何の罪もない領主にあらぬ疑いをかけ、王という立場を利用し権力を欲しいがままにしたのだと官や民に判断されたくはない」

ソンリェン「証拠が無いにもかかわらず兵を派兵しセイランを捕らえるのであるのなら必ず結果を出さなければならない」




ソンリェン「一番の問題は、何故マリが神力を使って自ら何かしかの報せを俺によこさないのかだ」




リンリェン「既に殺されている可能性があると?」




ソンリェン「わからない、可能性が無いわけではないが…すでに殺されているなら内情を知られないようにする必要はない、おそらく生きてはいるのだとは思うが、良い状態ではない…という事なのかもしれない」

ソンリェン「神力には精神を操る力もある…記憶や精神を操られマリが、マリでない者にさせられたか…あるいは意識を失い、瀕死な状態という事なのかもしれない…」




ソンリェン「つまりもはや忍を使って証拠を探し出すなど悠長な事はしていられなくなった、最悪の可能性も考えてマリを無事に救い出したいのなら一刻も早く手をうたなければならない」




リンリェン「どうするんだ?兵は出せないのだろう?」




もちろん、とうなずくリンリェン…だがその顔は暗く沈んではいなかった。むしろ瞳に炎を宿し、心の内に闘志を溢れさせているようだった。




ソンリェン「俺とお前が直接探りに行こうと思っている…王としてではなく、俺が個人的にセイランを訪ねたという建て前であるなら何ら問題はないだろう」




リンリェン「いや、問題はあるだろ!」




ソンリェンの自ら赴くという救出案に驚き思わず突っ込みをいれてしまうリンリェン




リンリェン「お前は本当に前に出たがる奴だな…以前戦場の最前線に立って戦い、死にかけたのを忘れたか?!」


リンリェン「お前は王都で偉そうに座っていろよ。万が一の事があったらこの国はどうなる?俺だけが探りに行くならまだしも何故お前まで?」




ソンリェン「セイランは…俺の腹違いの兄だからだ…この国で俺以外に天上の力に目覚める可能性が一番高いのは王家の血を引くあの男しかいない…護衛達を診て真っ先に奴ではないかと疑った…だから奴の領内に神力を使って探りを入れてみたのだ」




リンリェン「腹違いの兄だと??兄がいたのか?」

リンリェン「身分や出自に関わらず、力ある者が王位に就く事にはなってはいるが…お前に万が一の事があった場合、お前の兄であるというのなら第2王位継承者という事になるだろう?なぜここ(王宮)にいない?」




リンリェンの質問ににうなずき話を続けるソンリェン




ソンリェン「先代王后は公式には病死だとなっているが実は違う」




ソンリェン「先代王后は罪を犯し裁かれ、後に処刑された。そしてその事実は王家の権威を守るため隠蔽されたのだ」

ソンリェン「国の象徴たる国母が私怨で罪を犯すなど許されず、親族にも厳しい処分が下ったが、奴はまだ年若く母の罪を問われない代わりに身分全てをはく奪され、跡継ぎのいない地方領主に引き取られた」


ソンリェン「あれから20年近く経った今では王后やその家族について真実を知っている者は少ない、お前のようにな」




ソンリェン「複数の腕の立つ護衛と忍が奴に対抗できなかった…彼等の体には怪我一つなく、おそらくセイランが一人で彼等を相手にし、彼等に触れる事なく天上の力でねじ伏せたのだろう。かなりの神力の持ち主だ」




ソンリェン「だが俺は、どのような立場でどんな理由があろうとも、マリを諦めるつもりは無い、必ず彼女を取り戻す!」




ソンリェン「天上の力を持つ者に対抗できるとするのなら、同じ力が使える者しかいない…軍という数で押し切る事もできず、無駄死にさせるとわかっていてこれ以上、部下達を送り込むわけにもいかない」




ため息をついたあと、リンリェンに向き直すソンリェン




ソンリェン「頼れるのはお前だけだ。俺に力を貸してほしいリンリェン」

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