第9話

第9話




「どこ??どこにいるのですか??」




マリは夢の中で顔や姿だけでなく名前さえも思い出せない相手を必死に求めさまよい続けた…

今度は自ら夢の中に入り込み、いつもそこで出会う不思議な男性を探すマリ




マリ「私はここです!私はここです!私はここです!」




救いを求めるように泣き叫ぶも、男性はいっこうに現れない…




マリ「どうして?」




夢の中での闇はさらに深く…深淵となり、絶望感がマリを襲い…目が覚めてしまう。

救いを求め…どこに逃げ行けばよいのか、頼みの綱であった見知らぬ「彼」を見つける事ができず、途方に暮れるマリ。










牢の中…岩でできた寝台の上に仰向けになって寝かされていた事に気付く…

起き上がろうと手をついた時、手や服に死んだ老女の血糊が残っている事に気付き、さらなる孤独感が彼女を襲う…

この現実が地獄のように感じるマリ




マリ(どのくらい時が過ぎただろう?わからない…ここは暗くて日が差さないからもしかしたら実際は何日も経っているのかもしれない…)

マリ(また私は記憶を封じられてしまうの?)


マリ(…もしかして私はもう何度も記憶を封じられて、今の状況を何度も繰り返し続けているのではないだろうか?)




孤独と不安ばかりがマリを襲う




マリ(眠ってしまえば…もっと深く眠りにつけばあの人に会えるだろうか??)




再び眠りにつこうとすると、牢の通路の奥から灯りが差し込み、囁くような小さな声が聞こえてくる…

複数の人がやってくる気配を感じ、思わず身構えてしまうマリ




男性1「本当にこの地下で合っているのか?」



男性2「おそらく…確かにこの辺りで感じたのだ」




マリのいる牢の前で立ち止まる見知らぬ二人の男…ランタンの灯りをマリに向けその姿を確認する




男性2「当たりだな…」




男性1「まさか、神の御使いである天女を牢に閉じ込めておくとは…」




男性2「おそらく別の場所に封じていたが何かやむおえない事情があって移動させたのだろう、マリを捉えたのは一瞬だった…ここは既に封じられている」




男性の一人が牢の前でマリの目線に合わせるように少しがかがみ込み、マリに優しく声をかける




男性2「マリ、無事か?」




マリ「…貴方は?」




男性2「貴方??」




驚くような声をあげ、首をかしげる男性…

ランタンの光はあるも、薄暗くよく姿と顔が見えない…マリは体を起こし、ゆっくり恐る恐る牢の扉へと近づいた




マリ「私を知っているのですか?何も思い出せないのです…記憶を封じられたのだと…」




男性2「なるほど、記憶を封じられた…か。だから自ら居場所を知らせる事や、自力で戻って来る事ができなかったのだな…」




男性は納得したようにうなずくと、マリに向かって手を差し出した。




男性2「マリ、こっちへおいで…」




差し出された手を牢越しに恐る恐るマリは手を伸ばすと、男性はその手を強く引っ張り引き寄せた。

そしてマリの顔を見つめ…服は汚れ、髪や肌は荒れ、疲れた目をしているマリの姿に心を痛めるも…安心したようにふっと笑う


マリの無事を確認し、優しく笑いかける見知らぬ…どこか暖かさを感じる男性を見つめ返すマリ…




マリ(私はこの人を知っている気がする…この人の魂の煌めきを私は知っている気がする…)


マリ(ああ、そうか…!!)


マリ(この方は夢の中でいつも私を呼んで探していた方だ…!私がずっと会いたいと待ち望んでいた方だ!)




夢の中での出来事を思い出し…涙がマリの頬をつたって流れ落ちる




マリ「私、貴方を知っているような気がします。ずっと貴方がいらっしゃるのを待っていたような気がします…」




マリ(そうだ、私は知っている…この方の暖かく優しい魂の煌めきを…私への本当の想いを)




男性はマリの言葉にそうだろうと頷きマリの涙を指先でぬぐう




ソンリェン「俺の名はソンリェンだ。攫われた妻を…君を取り戻しにきた」


ソンリェン「ところでマリ、記憶を封じたのはセイランか?」




セイランの名を出され、自分が知らない事の全てを知っているのだろうかと驚きつつ、肯定し頷くマリ


ソンリェンはマリが頷くを見て隣にいる中背で細身の男性に声をかける




ソンリェン「凛懍(リンリェン)、奴が俺と同じ力を使える事が確定した…記憶を封じたのは神力(天上の力)のせいだろう」




ソンリェン「リン、お前ならこの呪いをなんとかできそうか?」




ソンリェンにそう言われ、マリの顔をまじまじと見るリンリェン




リンリェン「掛けられた呪いが強すぎる、解呪には時間がかかるだろう…今すぐにはできそうにない」




そうかとがっかりしたようにリンリェンに応えるソンリェンを見て、自分にとって大切な…ずっと疑問に思っていた事をマリは問いかける




マリ「ソンリェン様は…私の夫なのですよね?」


マリ「お腹の子は…貴方の、ソンリェン様の子供ですか?」




驚いたようにマリを見返すソンリェン




ソンリェン「腹の子?妊娠しているのか?」




マリ「はい…おそらく…ここに囚われている私を世話してくださっていた方がそうだと…」




亡くなった哀れな老女の最期を思い出し、心が悲しく苦しくなり、目を伏せるマリ


思わぬ吉報を聞き、ソンリェンは嬉しさのあまり高揚し、牢越しだったがマリを強く抱きしめた




ソンリェン「そうか…そうか、子ができたのか…!!」




心から嬉しそうに喜ぶソンリェンを見て、腹の子の父親がセイランではなくこのソンリェンという男性であるのだと確信するマリ


マリはソンリェンの暖かい体のぬくもりを感じ、安堵し、思わず目を閉じて身をゆだねてしまう


気の緩んだ2人を見て、リンリェンは呆れ、現実に引き戻そうと呼びかける




リンリェン「おい、今はそのような話をしている場合ではない…早くここから逃げ出すぞ」


リンリェン「封じられていた場所(牢)に近づき、マリと接触したのだ…奴(セイラン)は俺達に気づいたはずだ」

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