Lv.99⑤
「――今にも泣き出しそうな顔をしていますが、手を貸した方が宜しいでしょうか?」
天音の突き破った窓から割って入ってきたのは、白銀の少女だった。
シルクを彷彿とさせる長い髪に負けず劣らずのきめ細やかな白い肌、切れ長の目に真珠のような瞳、すーっと通った鼻筋、細身の長身に鏡のように磨かれた白銀のアーマーを纏っていた。全体的な色合いのせいか、凄くクールな印象を受けた。
「あと……え……?」
思考を放棄しかけていた脳で、俺は上手く言葉を紡げなかった。
「ジャマダ、キエロ、キエロ、キエロ――!」
スウィフトもその闖入者を見極めようと、動きを止めていた。
「そうですか、承知しました。貴殿の手柄を横取りするような野暮な真似は致しません」
「いいから、助けてくれ!」
少女の察しの悪さに珍しく苛立った俺は、怒鳴るようにそう助けを求めた。
「了承しました」
少女は不敵な笑みを浮かべると、眩い白銀の剣を鞘から引き抜き、一躍でスウィフトに肉薄した。
「何が起きてるの……?」
穂波は目を丸くしていった。
俺だって、その答えを持っている人が居るなら是非教えてもらいたかった。
突如現れた謎の少女がスウィフトと互角に渡り合っていた。
「あたいも直接会ったことはないが、噂に聞いた孤高の戦姫の容姿にそっくりだ」
「あれが孤高の戦姫――
「どうしてここに孤高の戦姫が現れたのか考えるのは後回しだ。終生、一気に畳みかけるぞ!」
「はい!」
こうなると、形勢は完全にこちらへ傾いた。スウィフトは防戦一方となった。
Lv.99のワールドボスが守りに徹すると相当厄介だったが、それでも俺たちの猛攻に耐えきれず、徐々に影が削ぎ落されていった。
「これで仕舞いだよ!」
楓の斬撃がスウィフトの首筋を掠めた。
やはりそう易々と命までは取らせてくれなかった。
俺の繰り出した二連斬も、左腕一本で防がれた――と思いきや、まるでガラス細工のように左腕が粉微塵に砕け散った。
これを勝機と見た有希がさらに一歩、スウィフトの懐へと踏み込んだ。
「キィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ――!!」
追い詰められたスウィフトは、耳を劈くような奇声を発した。
意識にぐらっと来る音に、俺たち三人は身動きが取れなくなった。
次の瞬間、スウィフトは体中から黒い霧を一気に放出させた。
ホワイトアウトならぬブラックアウトで、一瞬のうちに光が遮られた。
俺は咄嗟に、その黒い霧を吸い込まないようにして、範囲外から飛び出した。
同じく、楓も黒い霧から飛び出した。
「これを吸い込んだらダメだ!」
有希の姿が見えなかったので、俺は透かさず叫んだ。
遅れて一呼吸、有希も黒い霧の中から退いてきた。
「あと一歩のところで、仕留め損ないました」
「いや、ここまで追い詰めただけでも十分だ。この霧さえなくなれば次は仕留められる」
まだまだ予断を許さない状況ではあるが、俺にはどうしても一つだけ確認しておきたい事柄があった。
「もし人違いだったら申し訳ないが、白銀有希だよな?」
「はい。そういう貴殿は凉城ですね?」
「どうして俺の名前を?」
まさかこの世界で一番有名なプレイヤーに名前を知られているとは思わなかった。
「城から落ちてきた八雲に事情を聞きましたので」
「やっぱり天音は無事だったか」
ちなみに、有希が大広間に突入できたからくりは、天音がフィールドから離脱したことで、十六人の制限に一つ空きが生じたからだった。
「つかぬことを伺いますが、今のランクを教えて頂けないでしょうか」
「今は、ランク:8だな」
「いつ頃、ランク:8になられたのですか?」
有希はぐいっと顔を近付けながら聞いてきた。
「いつ頃って、ついさっきだけど」
「そうですか。ちなみに、私は四日前にランク:8になりました」
有希はふんすと鼻息を鳴らしながら、自慢げにいった。
「あ、うん」
俺は孤高の戦姫に、誰とも群れずにただひたすらに己の牙を磨き続けるクールな印象を勝手に抱いていたが、それは撤回しよう。これはかなりの負けず嫌い人間だ。
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