Lv.99②
「『エンチャントウェポンLv.10』! 『悪鬼降霊』!」
つい先日、楓はあの孤高の戦姫と同じランク:7に到達したソードマスターだ。
楓のユニークスキル悪鬼降霊は、武器に宿ったモンスターの能力を自身に憑依させるというものだ。
楓の構える真っ赤な刃の刀は、Lv.59のワールドボスの素材を元に紅葉が作った物であり、ユニークスキルによって得られる恩恵は大きかった。
ユニークスキル発現中の楓の攻撃性能は、あの孤高の戦姫すら凌駕するというのが、周囲の評価だった。
彼ら前線をサポートするのが、治癒補助のランク:6コンビ、プリティ・ボブと甘井棗だ。
そうして、全員が動き出そうとした瞬間、スウィフトは一呼吸のうちにエレファント斎藤へと肉薄していた。
「ぬぅ――!?」
敵を前に気を抜いては居なかったはずだが、スウィフトの疾さにエレファント佐藤は面食らった様子だった。
しかし、歴戦の冒険者、殺気に反応して咄嗟に盾を構えることはできていた。
鈍い金属音、金属の引き千切れる音、スウィフトの右の鉤爪が盾もろともエレファント佐藤の体を引き裂いていた。
「馬鹿なっ……!」
それだけを言い残して、エレファント佐藤の巨躯は両膝から崩落した。
そんな俄には信じられない光景を尻目に、それでもスコーピオン鈴木は怯むことなく、寧ろエレファント斉藤を沈めたスウィフトに対して怒りを爆発させて斬りかかっていた。
狙いは首、仕損じはしない。
スコーピオン鈴木の斬撃に対して、スウィフトは左手で防御の構えを取った。
「舐めやがって、その左手ごと首をもらうぜえええええ!」
今度は甲高い金属音、スコーピオン鈴木のマチェットが、スウィフトの左手に受け止められていた。
「――嘘ォ!?」
そのまま、スウィフトは腕の刃でスコーピオン鈴木の胴体を掻っ捌いた。
楓は二人の犠牲が生み出した隙、スウィフトの右手後方に回り込んでいた。
そして、その無防備な背中を斬り付ける――ことができなかった。
「ちっ」
スウィフトの右腕から伸びた刃が、楓の喉元を掠めていた。腕から生えた刃は伸縮自在のようで、あと一歩踏み込んでいたら首を串刺しにされていただろう。
楓はスウィフトの腰を蹴り、一旦距離を開けた。
好機を一つ失ったが、まずは一つ、スウィフトが手の内を晒した。
「こいつはあたいが引き付けておく、棗は二人う……どお……あ……」
突如、楓は呂律が回らなくなり、その場で片膝を着いた。
スウィフトの刃は首元を掠めただけで、致命傷には見えなかった。
けれども、楓の様子は明らかにおかしかった。
「楓が倒れたのは、血中に瘴気が入ったからと推測。あの黒い霧を吸い込むのも、なるべく避けた方がいい」
僅か十秒足らずでギルド獅子奮迅の主力三人が戦闘不能になった絶望を前に、栞は冷静に分析した。
確かに、スウィフトの移動した跡のようなものが、一定時間空中に漂っていた。
「ちょ、ちょっと待って、スウィフトがLv.78に上がってる……!?」
「この短時間で成長したのか?」
俄には受け入れがたい話だが、この異常事態を説明するには十分な説得力だった。
そのような状況下、頭の中が作戦のことで一杯一杯になっていた天音は、スウィフトを中心に時計回りに移動しながら挑発スキルを使用した。
もしエレファント佐藤が戦闘不能になった場合、次に攻撃を引き付けるのが天音の役割だったからだ。
「ああああたしを食べても美味しくないですよ~」
とても挑発しているようには聞こえなかったが、大事なのは天音がスキルを使用したかどうかだ。
「オマエ、メザワリ」
スウィフトの標的が天音に向いた。
「天音ちゃん、逃げて!」
俺たちの中で、エレファント佐藤の無残な姿と天音がダブった。
「ほぇ?」
またもや、スウィフトは寸秒で間合いを詰めて、その鋭い爪を繰り出した。
鼓膜に突き刺さるような金属音が鳴った。
スウィフトの攻撃で盾もろとも引き裂かれたりはしなかったが、天音の筋力ではその威力を受け止め切れなかった。
天音の体はそのまま勢い良く弾き飛ばされ、運悪く窓を突き破って城外へと放り出されてしまった。
「ひょええええええええええ――!」
そのまま、悲痛な叫び声と共に天音は真っ逆さまに落ちていってしまった。
「これくらいの高さなら、天音は無事だな」
「同意」
「二人とも、ちょっとは心配してあげようよ……」
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