ギルド結成!⑩
「それにしても、栞がすんなりご飯を食べに来たのは意外だな」
「どういう意味?」
「初めて会った時、本を読むために俺を何時間も待たせただろ?」
「ここにある書物は古くて傷んでいるけど、シティブレスの図書館にある物と相違ない」
「左様で。つまり、興味をそそられる本がないってことか」
「せっかく上って来たのに残念です~」
「そうだよ、せっかく上って来たのに、シティブレスにあるような本が並べてあるのは不自然だ。しかも、本を持ち出したり傷付けたりするだけで呪いまでかかるなんて」
この部屋に何らかの細工が仕掛けてあって、それを解くのに本が必要というのが、ゲーム的には自然な考え方だ。
「終生君、冴えてるね。こういう時こそ、私のスローアイの出番じゃない?」
「だな」
「待っててね」
穂波は目を凝らしながら部屋をぐるりと見回した。
最上階はそれほど大きな空間ではなかったので、部屋の中央から全体を見渡すことができた。
「どうだ?」
「ん~、隠し扉らしき物はないね」
「そうか」
謎解き要素を省いてお宝ゲットとはいかなかった。
「まだ全ての書物に目を通したわけじゃない」
「予定よりも早く攻略できたし、気が済むまで読んでくれ。ところで、あのドアは何だ?」
俺は階段の対角にあるドアを指差した。
「地上へ下りられるエレベーターがあるはずだよ」
「ああ、そこにあるのか」
上ってきた塔を、もう一度モンスターを倒しながら下りる必要がない親切設計となっていた。
所持品からテント[1]を選択して使用する。
すると、簡易のテントが敷設された。
テントはモンスターが出現しないピースゾーンでしか使用できないが、一度敷設して中に入ってしまえば、どのような要塞よりも堅牢な空間となるのだ。
ちなみに、テントはそこそこ重たい物なので、このパーティでは俺が一つ持っているだけだった。
「本当にみんなで寝るのか?」
テントを購入する際にも確認したが、俺は改めて聞いた。
「広さは十分あるでしょ?」
「テント初体験です~」
「いや、無粋な質問だったな」
どうやら穂波と天音には、俺に対する警戒心はこれっぽっちもないようだ。
それはそれで異性として意識されていないようで悲しいが、信用されていると前向きに捉えるとしよう。
「終生は二人に邪な感情を抱いているけど、二人は抱いていないのかという意味」
「栞、その解釈は色々と誤解を招くぞ」
「冗談。寝る」
栞はそういって、テントの中へと入っていった。
「俺たちも寝るか」
「そうだね」
「はいです~」
翌朝、栞は引き続き書物庫の本を調べていた。
俺たち三人は読書に関してほとんど戦力にならなかったので、五階でモンスターを狩っていた。
通常のモンスター狩りにおいて、栞は専らナビのような役割に徹しており、酷い話、居なくてもどうにか狩りは成立したのだ。
無論、常に周囲を警戒している栞が居なければ事故が起きる確率というのは上がってしまうので、いつもより慎重に狩りを行った。
五階のモンスターを半分くらい片付けたところで、程よい空腹感になっていた。
お昼ご飯を食べるために、一旦最上階へと戻った。
「はー、戻ってきたー」
「疲れたです~」
「狩りは捗った?」
「ま、ぼちぼちだな」
「そう」
「栞の方こそ、何か新しい発見はあったか?」
「表紙がなくてわかりにくいけど、ランドダーク英雄物語の書物がばらばらに収められている」
「ほうほう。どういう物語なんだ?」
「孤独で三十歳を迎えた主人公が、ある日第三の目を開眼させて覚醒、仲間を集めて魔王を討伐する物語」
「あ、それ私も読んだことあるかも」
「ちょうど六巻を見付けたところ。これで揃う」
栞は手に持った本を、本棚の歯抜けになった場所へと収めた。
すると、本棚からもくもくと湯気のようなものが立ち上り始めた。
「何だこれ、モンスターか?」
いきなりのことで俺たちが身構えていると、本棚の方から突風が吹き抜けた。
「きゃっ」
「ひょえぇぇ~」
「……みんな、無事か?」
俺はゆっくりと目を開けて、首を動かした。
「うん、私は平気だよ」
「だ、大丈夫です~」
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