ギルド結成!⑨

 栞の希望した天空の書物庫のあるアキューストムの塔は、俺にとっての始まりの町、シティブレスが最寄りの町だったので、約五日振りに故郷へと帰ってきた。

「アキューストムの塔の情報は栞が持っているんだったよな?」

「そう。アキューストムの塔は六階層から成るダンジョン。階層毎に出現するモンスターが異なるけど、難易度は変わらない。適正ランクの四人で挑む場合、攻略に二日はかかるといわれている」

「今後の長期遠征攻略を見越しては、いい経験になりそうだな」

「しっかり準備しないとだね」

「いっぱい食べ物を買うです~」

「そうだな、食べ物も大事だな」

 昼間のうちに市場を回って物資を買い込むと、日が沈み始めた夕方頃にシティブレスを出立した。

 攻略に時間がかかるので、朝一番でダンジョンに突入したかったからだ。

 夜中に馬車は走らなかったが、代わりにガークという大型の走鳥類が荷車を引いてくれた。

 俺の記憶にこのような生き物は居なかったので、恐らくファンタジー・イン・リアリティのオリジナルだろう。

 走る荷車の上の寝心地は、お世辞にもいいものとはいえなかったが、寝て目が覚めると体はすっかり元気になっていた。

「ここがアキューストムの塔か。こういっちゃあれだが、なんか閑散としてるな」

「攻略に時間がかかるし、上り切っても本が置いてあるだけだから、みんなあんまり興味がないんだよね」

「ちょうどいい。本は静かに読むもの」

 塔を上るのに二日、そこからさらに栞が満足いくまで読書するのに三日、計五日分の食料は持ってきていた。

 気になった本を持ち帰るのはダメなのかと聞いたところ、天空の書物庫に収納されている本を外部に持ち出したり傷付けたりすると、呪いを受けるそうなのだ。

 おっかないおっかない。

 なので、最短で塔を上り、天空の書物庫を拠点に四階、五階を探索する予定だ。

「よし、行くか!」

 アキューストムの塔のモンスターは、箒や桶といった昔使われていた道具に悪霊がとり憑いたという設定だった。

 モンスターの強さはLv.20前後で、これまでのような楽な攻略にはならないだろう。

 けれども、そんな心配は杞憂に終わった。

 元々人間の使っていた道具ということもあり、モンスターの挙動が予測しやすかった。ぷかぷか浮かんでいるだけで、基本的には直線的な動きしかしてこなかったのだ。

 これまでのダンジョンに比べてモンスターはしぶとくなっていたが、脅威度でいうと水晶カタツムリの方が上だった。

 マップも持っていたので、さくさくと塔を上っていき、夕暮れには最上階、天空の書物庫へと到着した。

「天空という割には、少し高い位置にある書物庫だな」

 俺は窓辺からの景色を眺めながらいった。

「いい景色じゃない」

「夕日が綺麗です~」

 無論、栞は景色などに興味はなく、早速天空の書物庫の書物を物色していた。

「栞、気持ちはわかるが先にご飯にしよう。朝から何も食べてなくてもうぺこぺこだ」

「わかってる」

「わかってるならまずはその手に持った本を置いたらどうだ」

「……」

 スルー。

 ま、ご飯ができるまでの数分くらいは好きにさせよう。

 活き活きしている栞を見ているのも悪くない。

「シェフ、今晩の献立は?」

「ジェリーキャンドルのお肉を使って、姿煮を作るです~」

「ジェリーキャンドルって、さっき倒したあの蝋燭のモンスターか? 今から俺たち、蝋燭を食べるのか?」

「何事にも挑戦です~」

「一応食材アイテムだし、死にはしないと思うよ」

「そうだな。見た目で判断するのは良くないよな」

 待つこと五分、料理が完成した。

「できました、ジェリーキャンドルの姿煮です~」

「おー」

「こうして見ると美味しそうだな」

 白い蝋燭の塊も、黄金色の煮汁に包まれれば立派な料理だった。

 ジェリーキャンドルの姿煮を一口、美味い。

 ジェリーキャンドルの肉自体は癖もなく、コリコリとした食感を楽しむ物だった。

 そこに天音の作った程よい濃さの煮汁が合わさり、おにぎりを頬張る手が止まらなかった。

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