ギルド結成!⑤

 俺の短剣に発現した『風刃』は、切っ先から高速の刃を飛ばすというものだ。

 ちなみに、ウェポンスキルの発動にはマナが必要だった。

 まったく使い道のなかった俺のマナにも、ようやく出番が回ってきた。

 尤も、マナの総量が40しかないので、一発撃てばガス欠になるわけだが。

 装備を更新したことで、俺はランク:2に、穂波はランク:3に、天音はランク:6に昇格した。

 装備を更新していない栞はランク:2のままだった。

 ただ、栞は精霊階級魔法を扱うだけで、未だに存在しないランク:7相当の魔法使いに格上げされるので、完全なランク詐欺だった。

 ランク:2と表示されているのは、精霊階級魔法を習得しているけれども扱えないとシステムに判断されているからだ。

 まさか魔道兵器用の燃料を飲んでマナをブーストするなんて、システム側も想定していない荒業だということだ。

 新しい装備を作ったからには、それを試さずに居られないのが人間の性であろう。

 そういうわけで、俺たちは次に攻略するダンジョンの話をした。

「やっぱりノーヴィス湖中庭園は外せないよね」

「黄金の遺跡ゴールドスパークも観てみたいです~」

「天空の書物庫」

「見事にばらばらだな。ちなみに、ダンジョン攻略に回数制限とかあるのか?」

「ない」

「それなら、難易度の低いところから順番に回ればいいんじゃないか?」

「栞ちゃん、天空の書物庫ってアキューストムの塔の最上階のことだよね?」

「そう」

「ノーヴィス湖中庭園も黄金の遺跡ゴールドスパークも初心者ダンジョンだけど、アキューストムの塔の上層階は少し難しいかもね」

「それなら、塔は後回しにした方がいいな。庭園と遺跡なら、どっちの方がシティブレスから近いんだ?」

「ノーヴィス湖中庭園かな」

「じゃあ、先に庭園から攻略しよう」

 そんなやり取りをしたのが、二日ほど前のことである。

 蒸気機関車でほぼ丸一日かけて初心者の町シティウェルへ、そこからさらに馬車で揺られること半日、やって来たのはノーヴィス湖である。

 話によると、このノーヴィス湖中庭園は、一度は訪れておきたい絶景初心者ダンジョンの堂々第一位なのだそうだ。

「月が満ちる刻に現れるノーヴィス湖の精霊に、『天使の涙』と呼ばれる水晶を渡すことで、湖中庭園に入れる」

 栞は事前に調べてきた情報を話した。

 もちろん、今回もマップを購入済みだ。

「その天使の涙はどうやって手に入れるんだ?」

「ノーヴィス湖周辺のモンスターからの戦利品、もしくは露店で買う」

「いい商売してるな」

 天使の涙は取引可能アイテムなのだ。

 お金には余裕があるので、天使の涙は露店から人数分購入した。

「ねえ、月が満ちる刻って何時頃なのかな」

 俺たち四人は湖畔に腰掛けながら、ぼんやりとノーヴィス湖の水面を眺めていた。

 ノーヴィス湖周辺には俺たち以外にもちらほらとパーティの姿を確認することができた。

「さあ。満ちるっていうのは、満月って意味じゃないよな?」

「満月って美味しそうですよね~」

「満月である必要はない。ただ、新月の日に精霊は現れない」

「それもそうか。月に一回しか入れないダンジョンとかおかしいもんな」

 ゲーム的な意味で。

「結構暗くなってきたね」

「はわわわわ~、光が欲しいです~」

「ランタン、出す?」

「いや、あれを使ってみよう」

 俺は所持品から焚火[1]を選択して取り出した。

 すると、井の形に組まれた薪が地面に出現した。

 着火剤などの火を作る道具は必要なかった。地面に置かれた焚火を使用すれば、薪が勝手に燃え上がるからだ。

 この焚火一つで、大体三時間は火が使えるようになる。風の強い場所では薪の持続時間が減り、雨に打たれると鎮火するらしい。

「意外と熱を感じるな」

 お手軽に使える割には、しっかりとした焚火だった。

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