ギルド結成!③

 朝食を済ませると、俺たちは昨日の戦利品である大量のオリハルコンの原石、そして、ワールドボスから獲得した素材を持って鍛冶屋を訪れた。

「流石栞ちゃん、この町一番の鍛冶屋といったらここだよね!」

 町外れの辺鄙へんぴな場所に、ぽつんと石造りの建物があった。

 鍛冶屋といえばまさにこれというような外観だった。

 プレイヤーはお金さえ払えば建物を所有することができ、外装も自由に選べるはずなのだが、この鍛冶屋はどう見てもデフォルトのままだった。

 プレイヤーの建物に限らず、全ての建物に幾何いくばくかの趣向が凝らされているこの町で、これほどまでにシンプルな建物は反って異質であった。

「黒い羊の群れに一匹だけ白い羊が混じってたら、逆に目立つやつだな」

「その通り」

「本当はそんなこと思ってないだろ」

「その通り」

「その言葉、万能だな」

「ウォー爺の店に並んでいる武器の大半が、ここで作った物」

「ほう」

 相槌を打ちながら、鍛冶屋の中へと入った。

「お邪魔します」

「こんにちは」

「です~」

「お、穂波と天音じゃないか。元気してたか」

「お久しぶりです、紅葉さん。って、なんて格好してるんですか!?」

「あわわわわ~」

 紅葉と呼ばれた女性は、燃え盛るような真っ赤なざんばら髪、額にはゴーグル、身長は俺よりも高く、引き締まった筋肉質な体、溢れんばかりの二つの膨らみを乱暴に押さえ付けるようにさらしを巻いていた。

 正直、男の俺は目のやり場に困ってしまった。

「あっはっは。別にあたいの肌を見て興奮する物好きなんて居ないだろ」

 紅葉は豪快に笑った。

「ところで、そっちの二人は初顔だね」

「初めまして、凉城終生です」

「静川栞」

「んん? 最近どっかで聞いたことがある名前だな。あっ! ワールドボスを討伐した残り二人だね!」

「はい。でも、終生君と栞ちゃんが居なかったら、絶対に倒せていませんでした」

 そもそもの話、俺たちが居なければあの部屋に入ることもなかったけれど、そんな野暮なことはいわないでおこう。

「いい仲間に巡り会ったんだね。それで、今日はどういう用があってあたいのところに来たんだ?」

「ここここれなんですけど~……」

 天音は紅葉の顔色を窺いながら、おっかなびっくりボロボロになった大盾を取り出した。

「ああん? 何だそのボロっちい盾は――」

 紅葉はそこまで口にして、表情を一変させた。

「――ってこれ、よく見たら、あたいの最高傑作じゃねぇか! 大切に使えっていったじゃないか!」

「ふぇぇ~、ごべんなしゃい~」

 紅葉は天音のほっぺたをびろ~んと引っ張った。

「紅葉さんの盾が、天音ちゃんを守ってくれましたよ!」

 穂波は透かさずフォローを入れた。

「はぁ。まぁ、別に怒っちゃないよ。こいつも主人を守れて本望だっただろうしさ。要するに、今日来た要件ってのは、こいつを打ち直して欲しいってところか?」

「それもあるんですけど、いい素材が手に入ったので終生君の武器を作ってもらおうかなと」

 穂波は所持品からオリハルコンの原石[22]とオリハルコンを守護する者の牙[1]、オリハルコンを守護する者の鱗[1]を取り出した。

 オリハルコンの原石は希少だが、この広大な世界にいくつも眠っている。

 しかし、オリハルコンを守護する者の素材は、世界に一つだけの物である。

 この素材から生み出される武器もまた、世界に一つだけの装備となる。

「オリハルコンか、しかもこんなに。終生っていったか、あたいにパラメータを教えてくれないか」

「はい」

 俺のパラメータは、オリハルコンを守護する者との戦いを経て、大幅に成長していた。


 生命力:9

 体力:5

 筋力:7

 敏捷力:14

 精神力:6

 魔力:4

 知力:0


 一度数百、数千の世界を体験してしまったせいで物足りなく感じるかもしれないが、一回のダンジョン攻略でこれだけ成長するのは十分驚異的なのだそうだ。

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