理想のパーティーでさくさくダンジョン攻略⑩
「栞ちゃん! どうしよう、すごい熱だよ……!」
穂波は倒れた栞の介抱に向かい、慌てふためいた。
「じっとしてれば平気、経験済み」
栞はそれだけ言い残すと、静かに瞼を閉じた。
「のんびり休んでいてくれ、出口は探しておく」
俺はコアラのように引っ付いていた天音を引き剥がして、探索を開始した。
出入口は瓦礫の山で塞がったままなので、別の出口を探すしかなさそうだった。
まさかワールドボスは倒したけれど、生き埋めになったままゲームエンドなんて鬼畜仕様にはなっていないはずだ。
壁沿いに空間をぐるりと一周して、瓦礫の山の前に戻ってきた。
「人が出られそうな穴は開いてなかったな。ひょっとして、出口も隠し扉なのか?」
「それなら私が探すよ」
穂波はお得意のスローアイを発動させた。
視線を巡らしていって、不意に表情を
「みんな、落ち着いて聞いて。そいつ、まだ生きてる……!」
「嘘だろ……?」
直後、オリハルコンを守護する者の残骸にピシッと亀裂が入った。
「はわわわわわ――」
まるで卵から新しい生命が生まれ出すように、オリハルコンを守護する者は炭化した外皮を破り、
栞のとっておきの切り札である精霊階級魔法を持ってしても、オリハルコンを守護する者には傷一つ付いていなかった。
再び立ち上がったオリハルコンを守護する者が標的にしていたのは、最も脅威だと認識した栞だった。
マナの尽き果てた栞に、オリハルコンを守護する者を討ち滅ぼすだけの力は残されていなかったが、それを判断できる知能は備わっていないようだった。
(まずいぞ)
栞はとても動ける状態ではなかった。
穂波は動けない栞を庇うように構えていたが、オリハルコンを守護する者を真正面からどうにかすることは不可能だった。
このままだと、二人ともやられてしまう。
「フシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――!」
オリハルコンを守護する者は恐怖で顔を引き
オリハルコンを守護する者の武器の一つである鋭い爪は朽ちて剥がれ落ちていたが、あの巨大な棍棒を振り回すだけの筋力があれば、人間を捻り潰すことなど造作もないはずだ。
(ダメだ、間に合わない――!)
それはまさしく心が折れようとした刹那、俺の存在は世界から外れた。
俺は自分でも驚愕するくらいの速さで先回りすると、二刀短剣を使ってオリハルコンを守護する者の攻撃を受け止めていた。
もしオリハルコンを守護する者の攻撃を止めようと考えずに、倒そうと考えていれば、容易くその首を落とせていただろう。
「終生君……?」
突如目の前に現れた俺の背に、穂波も目を丸くしていた。
「シュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――!」
オリハルコンを守護する者は雄叫びを上げると、左腕に渾身の力を込めた。
「くっ、こんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――!」
俺も負けじと声を張り上げ、ぎりぎりとオリハルコンを守護する者の左腕を押し返した。
この世界での力比べは筋力の値が全てであり、ソウルバグにすら負ける俺がオリハルコンを守護する者を押し返すなど絶対にあり得ないことだった。
しかし、そのあり得ないことが現実として起こっていた。
自分でも何が起こっているのか理解が追い付いていなかったが、全身に力が
「ほぇぇ~」
「摩訶不思議な光景……」
栞は薄目で状況を確認しながら、そう零した。
両者の力は均衡しており、このまま
栞の魔法でさえ全くの無傷と思われたオリハルコンを守護する者の鱗は、その艶々した見た目とは裏腹に完全に防御力を失っていた。
脱皮直後の爬虫類の皮膚が柔らかくなっているように、オリハルコンを守護する者の新たな鱗も柔らかくなっていたのである。
この形勢を嫌ったオリハルコンを守護する者は、後方に大きく跳躍して距離を取ろうとするが、俺は短剣を逆手に持ち替えると、強気に追随した。
「逃がすか!」
オリハルコンを守護する者は反射的に鋭い爪を繰り出していたが、俺はそれを短剣でいなしながら懐に潜り込むと、がら空きになっていた左の脇腹を斬り付けた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――!」
(浅いか!?)
心臓を狙ったつもりだが、短剣の刃ではその分厚い肉の奥まで届かなかった。
俺はそのままオリハルコンを守護する者の背後に回り込んだ。
「――ぶふぉっ」
直後、オリハルコンを守護する者の大木のように太い尻尾が、俺の胴体を薙ぎ払った。
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