理想のパーティーでさくさくダンジョン攻略⑪
俺の体は打ち出されたボールのように吹っ飛び、天井に激突した。
「いてて」
口の中に血の味が広がっていたが、意識ははっきりしているし、体は動く。
まだ戦える。
体は鍾乳石に短剣を突き刺して支えていた。
俺は体勢を変えると、天井に両足を着け、膝を曲げた。
天井を蹴り、俺はオリハルコンを守護する者へと一直線に突っ込んだ。
当然、こんな見え透いた攻撃、オリハルコンを守護する者も迎え撃つ構えをとった。
「私のこと、忘れてない?」
穂波の放った矢はオリハルコンを守護する者の頭部を捉え、爆炎を巻き起こした。
オリハルコンを守護する者の視界が遮られた。
「フシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――!」
オリハルコンを守護する者は透かさず咆哮をあげ、爆炎を掻き消した。
しかし、その一瞬が明暗を分けた。
「はああああああ!」
俺は思いっきり反り返った全身のエネルギーを短剣に集中させて、オリハルコンを守護する者の脳天に突き立てた。
この場に居た誰もが、しばし放心状態となった。
「死んでるね……」
ようやく訪れた静寂の中で、穂波が最初に口を開いた。
今度こそ、間違いなくリザードマンを倒した。
その証拠に、出入口を塞いでいた岩が、音もなく消滅していた
「たたた助かったです~」
「穂波、ナイスアシストだったぞ」
視界の端で穂波が弓を引き絞っているのは見えていたが、矢を外したり射るタイミングが少しでもずれたりしていれば、やられていたのは俺の方だった。
あの時、俺は穂波に自分の命を託したのだ。
ファンタジー・イン・リアリティにおいて、弓矢の命中率に関連するステータスは存在しなかった。つまり、技術力、集中力、センス、感情といったプレイヤーそのものの能力に依存するのだ。
その点、穂波の射手としての才能はずば抜けて高いことが伺えた。
「終生、今のが奥の手?」
栞は横になったまま、じと目で尋ねてきた。
そんな力があるなら出し惜しみしないで、さっさと使えと責めているような声色だった。
「いや、俺にも何が何だか……」
「ステータスを確認」
「あ、ああ」
有無をいわさぬ栞の指示に従い、メニューからメインパラメータを開いた。
画面には、つい先刻見た時とは桁違いの数字が表示されていた。
物理攻撃力:2120
魔法攻撃力:0
物理防御力:720
魔法防御力:720
マナ:600
素早さ:1800
状態異常耐性:800
重量制限:700
「んん、どういうことだ!? ランク:7になっているぞ!?」
「この短期間にその成長率は不可解。ユニークスキル?」
「ユニークスキルか」
俺はステータスの一番下にあるユニークスキルを開いた。
そこには不可解な文字が浮かび上がっていた。
「何だこれ、タコとイカがタップダンスを踊ったような文字が表示されているぞ」
「楽しそうです~」
「意味不明。読むことは可能?」
「いや、まったく読めないな」
そうこうやり取りをしていると、ユニークスキルの文字がさーっと消えていった。
それと同時に、パラメータも急激に下がり始めた。
「ちょ、ユニークスキルが消えて、ステータスが下がっていくぞ!?」
「ユニークスキルが消えるなんて、聞いたことがないけど……」
「同意」
「ダメだ、すっげぇ体が重たくなってきた」
パラメータが元に戻っただけだが、全身に重しを付けられているような感覚に襲われた。
「とりあえず、栞ちゃんの体調も心配だし、一回戻った方がいいよね」
「はいです~」
「ま、その方が良さそうだな」
「私は問題ない。それより、せっかくの戦利品を持ち帰らない方が嫌」
栞は自身の体調よりも、成果を優先するようだ。
ああ、なんて
というわけで、穂波はオリハルコンの抽出に専念し、俺と天音の二人で部屋の探索をしてみると、色々な物が見付かった。
「ペンダントが落ちてました~」
「こっちには
マッピングされていないはずの部屋に、様々な人工物が落ちていた。
これらの物が意味するものは、容易に推測できてしまった。
「多分だけど、私たちみたいにこの部屋を発見して、あのワールドボスにやられちゃった人たちの遺品だよね……」
この世界の生き物は、死を迎えてから一定時間で消滅するようになっているので、冒険者の死体やその際身に付けていた物は残されていなかった。
遺品の数々は、プレイヤーの所持品ではなくなった、死闘の痕跡だった。
「ふぇぇ~」
「だから手負いだったのか……」
オリハルコンを守護する者は初めから隻腕の設計ではなく、先人の冒険者らによって右腕を切り落とされていたのだ。
もし、俺たちがこの部屋の第一発見者だと考えると、生きた心地がしなかった。
オリハルコンを守護する者が万全だったら、果たして俺たちは勝てていたのだろうか。
「たとえ偶然でも、私たちは生き残った。結果が全て」
「勝手に人の心を読まないでくれ」
「アンロッカーでも、他人の心の鍵を開けることは不可能。でも、終生の顔はわかりやすい」
「左様で」
遺品はここに置いていくことにした。
その後、俺たちは元来た道を戻ってクレイドルの洞窟から生還を果たした。
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