理想のパーティーでさくさくダンジョン攻略⑧

「なに、なに!?」

「警戒」

「ひゃああああああああああああん!」

「おい、まずいぞ、出口が!」

 この轟音は洞窟の崩落によるもので、落石が狙い澄ましたかのように、ピンポイントで出口を塞いでしまった。

「……閉じ込められた?」

「嘘でしょ……?」

「どどどどうするんですか!?」

 四人が呆然と瓦礫の山を眺めていると、不意に背後でドシンと何かが落ちた。いや、着地した。

「なっ……!?」

 振り返ると、そこには蜥蜴と人間を合わせたような、筋骨隆々な肉体を持ったリザードマンがそびえ立っていた。

 リザードマンは右腕が二の腕の辺りからなくなっており、左腕一本で二メートル近くあるこん棒を担いでいた。

「ワールドボス、オリハルコンを守護する者Lv.56……!」

 穂波は震える声で、目の前の怪物の情報を読み上げた。

「なんだ、ワールドボスって?」

 初心者ガイドのダンジョンの項目に、そのような記載はなかった。

「ワールドボス、その種族の中で特別秀でた固体」

「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――!」

 オリハルコンを守護する者は雄叫びを上げると、一直線にこちらへ向かって走ってきた。

ゴブリンの大群の時は気迫に押されたが、今回のやつは生き物としての防衛本能が警鐘けいしょうを鳴らしていた。

 逃げなければ、間違いなく死ぬ。

「こっちだ!」

「みんな、早く!」

「ひぃぃ~!」

 三人は咄嗟に柱の陰に回避したが、天音は完全に腰を抜かしてしまい、大盾を構えるので精一杯の様子だった。

「天音ちゃん――」

 穂波の声は、爆音によって掻き消された。

 天音の小さな体躯が、巨大なこん棒によって叩き潰された。

「あ……まね……?」

 死んだ。

 あまりにも呆気なく死んでしまった。

虫けらが人間にはたき潰されると死ぬように、人間はあんな風にたたき潰されると死んでしまう。

 それだけは理解できてしまった。

「そんな……、天音ちゃんが……!」

 穂波の目から涙が溢れた。

「よくも!」

 穂波はすぐさま矢筒から三本の矢を取ると、魔力を込めて炎の矢を放った。

 穂波の放った三本の矢は正確無比にオリハルコンを守護する者の側頭部を射貫いたが、その強固な鱗に傷一つ付けられなかった。

 オリハルコンを守護する者は矢を放った穂波の方へ向き直ると、次はお前の番だと恐怖心を植え付けるように、ゆっくりとこん棒を持ち上げた。

 そのこん棒の下には、天音の姿があった。

「痛いです~!」

 天音は全くの無傷、ぴんぴんとしていた。

「天音ちゃん……!」

「ケシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――!」

天音の生存に驚いたのはオリハルコンを守護する者も同じのようで、けたたましい咆哮を上げると、何度も何度も棍棒を振り下ろした。

「はうっ」

「あうっ」

「わわっ」

「やめてください~!」

 オリハルコンを守護する者の雄叫び声と天音のほんわかした声との温度差のせいで、異様な光景ができあがっていた。

 あの様子だと、天音はしばらく耐えそうだが、いつまでも持つとは限らなかった。

 俺は短剣を引き抜き、オリハルコンを守護する者の気配を窺いながら、柱の陰からじりじりと体を出した。

「終生、何するつもり?」

「天音を助けないと」

「無駄死にするだけ」

 容赦のない言葉ではあるが、栞は別に悲観的になってそう忠告しているわけではなかった。

 ランク:2の穂波の矢ですら通さない強固な鱗を持つ相手に、ほぼほぼ最低値の俺の攻撃力では、どう足掻いても敵わないからだ。

「天音ちゃんを見殺しにするの!?」

「否定。私が何とかする」

「何とかできるのか?」

「私の扱う魔法は精霊階級」

「え、栞ちゃん、それ本当なの……?」

 精霊階級がどれほどの魔法なのかいまいちピンと来なかったが、穂波の反応から察するにそれが相当なものであることくらいは理解できた。

 実は精霊階級とは人類の到達できる最高位の魔法とされており、これを扱えるプレイヤーは未だ現れていないというのがこの世界の認識だった。

「問題は、私の保有するマナでは詠唱を維持することができない」

「どれくらい足りないんだ?」

「2000」

「ごめん、私のマナだと、全然力になれない」

 俺はいわずもがなだ。

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