理想のパーティーでさくさくダンジョン攻略⑦

「いやぁ、生き返った気分だ」

「ご馳走様」

「も、もう、動けません~」

「確かに、あんなに食べたら動けないだろうな」

 天音は小柄な体躯にも拘らず、俺の三倍近くある量を平らげた。

 しかも、そのほとんどは甘いお団子で、締めはミルクティーだった。

 余計なお節介かも知れないが、後程さり気なく注意しておこう。仲間として、人間として。

「穂波、変な顔してる」

「栞、いきなりどうした? 宣戦布告か?」

「んと、あのね、ちょっと気になることがあって」

 穂波はここで視線を右往左往させてもったいぶった。

 話すべきかどうか迷っている様子だった。

「天音の鼻先に生クリームが付いていることか?」

「ふぇぇ!?」

「いや、それもあるんだけど、私のスローアイは、物の仕掛けや隠し扉なんかも見破れちゃうんだよね」

 穂波の視線の先は何の変哲もない岩壁だった。

 俺は岩壁の前まで歩いて行き、ノックするように手の甲で叩いてみた。

 別に中が空洞になっているような感じもしなかった。

 というか、手の甲が痛かった。

「ここに隠し扉があるのか?」

「うん」

「マッピングされていない。恐らく、誰にも発見されていない」

 栞はいつの間にか俺の傍に立ち、そっと壁面に手の平を当てた。

「開けるにはスキル『開錠Lv.7』以上が必要」

「へぇ、そんなことまでわかるのか」

 そう俺が感心していると、突如洞窟の岩壁が轟音と共に、真っ二つに割れるように開いた。

「栞ちゃんが開けたんです~? すごいです~!」

 そういえば、栞はこの世界のありとあらゆる物を解除できるアンロッカーの持ち主だった。

 スローアイとアンロッカー、ダンジョン攻略においてこれほどまでに有用な二人が巡り会ったのは、まさしく僥倖ぎょうこうだった。

 隠し扉の向こうには下へと続く階段があり、奥の方が仄かに青白く光っていた。

「終生、どうする?」

「誰も立ち入ったことがない隠し扉か……」

「お宝があるかも! ちょっとだけ覗いてみない?」

「お宝を手に入れたら、好きな物いっぱい食べるです~!」

 天音が乗り気だったのは少し意外だったが、お宝を前に尻込みするようなやつなら、そもそもダンジョン攻略をしようとは思わないということだ。

「よし、いずれは未開のダンジョンを攻略するわけだし、その予行演習ついでにお宝を取りに行くか!」

 俺はそう意気込んだ。

「結構下まで続いているのね」

「深さだけなら五階層」

 俺たちは緩やかな螺旋を描く階段を下りていった。

 そして、青白く発行する柱の立ち並ぶ、幻想的な空間に辿り着いた。

「神秘的だな」

「ピカピカして綺麗です~!」

「うわ、これ全部オリハルコンの原石だよ!」

 穂波は興奮気味にいった。

「オリハルコンって、この世界だとどれくらいの価値がある物なんだ?」

 ゲームの知識としてオリハルコンという単語は知っていた。

 他にもミスリルやアダマンタイトといった伝説の鉱石もあるが、その辺りの価値は設計者の匙加減一つで変わってしまう。

「武具制作に最も適した金属。稀少で市場にもほとんど出回ってない」

「じゃあ、本当に宝の山があったってことか!?」

「スキル『抽出』を習得してる人ー?」

 穂波はそう挙手を求めた。

「「…………」」

 栞と天音は首を振った。

 俺に至っては、それが何なのかさえわからなかった。

「うーん、私だけみたいだね。がんばるよ」

 鉱石の採取に、ピッケルで砕くような物理的な方法は取らなかった。

 スキルを使えば、オリハルコンの原石がアイテムとして所持品に加わるのである。

 もちろん、ピッケルを持参していれば、物理的な方法で採取することも可能である。

「抽出は魔法の一種、知力:0の終生は逆立ちしても使えない」

「左様で。それなら、魔法使いの栞は使えるんじゃないのか?」

「習得していない」

「援護も不向きっていってたけど、どんな魔法を習得しているんだ?」

「大魔法」

「へぇ。小回りの利かない高火力アタッカーって感じか」

「そう」

「一個が結構重たいよ。全部を持って帰るのは無理そうだね」

「そりゃ、こんだけの量を一度に持って帰れないだろうな」

 ドゴゴゴゴゴゴゴゴ――!

 穂波がオリハルコンを抽出した直後、突然耳をつんざくく轟音が鳴り響いた。

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