理想のパーティーでさくさくダンジョン攻略⑥
そうして、洞窟内でも一際開けた空間に躍り出た。
天音はまるで亀のように、大盾を背負って壁に向かって蹲っていた。
「うぅぅぅ……」
駆け寄ってみると、天音が嗚咽を漏らしていた。
「どうかしたのか?」
「負傷の可能性」
「天音ちゃん、怪我したの!?」
「こここ怖かったです~。気が付いたらみんさん居なくなって、ぐすん、振り返ろうとしたら転けちゃって、ぐすん、壁で顔を打ちました~」
「ああ、天音ちゃん、鼻血出てるよ、じっとしてて」
穂波はすぐさまハンカチを取り出し、天音を介抱した。
「ここがちょうど折り返し地点」
「大体三時間か」
俺はメニュー画面で時刻を確認しながらいった。
当初の予定では二時間半でここに到着するはずだったが、ま、許容できる範囲内だった。
「ふぇぇ~、まだ半分なのですかぁ~」
「まだ半分も残っていると考えるんじゃなくて、天音ちゃんはもう半分もこのダンジョンを攻略したんだよ!」
「そうだ! 山でいえば、ここは山頂だぞ!」
「山頂だけど、景色は代わり映えしない。あと、登山は下山の方が疲れる」
「栞、本だけじゃなくて空気も読もう」
栞は人差し指の先を舐めると、顔の横で立てた。
「何をしているんだ?」
「空気を読んでいる」
「ああ、それをいうなら風の流れだろ? というか、手袋したままだと風の流れもわからないか」
「クレイドルの洞窟一階層に出現するモンスターは三種類。私たちはそれら全てと戦闘し、勝利を収めている。最早ダンジョンを攻略したも同然」
少々回りくどいが、栞なりに天音を励まそうとしているのだろう。
「もうダンジョンをクリアしたのです~?」
「そうだよ、天音ちゃんのおかげでここまで来られたんだよ!」
「あたしのおかげ……、何だかやる気が湧いてきました! でも、その前に、おなかが減ったです~」
天音は急にしゃんと立ち上がったかと思うと、再びへなへなと座り込んでしまった。
「この辺りは安全そうだし、
先程まで肌に纏わり付いていたモンスターの殺気が、今はほとんど感じられなかった。
ま、何となくだが。
「そうだね!」
「賛成」
俺はアイテムバックからギュウの串焼き[3]とおにぎり[2]を選択して取り出した。
これだけ激しく動き回ったにも拘わらず、ギュウの串焼きは崩れておらず、おにぎりは綺麗の三角形のままだった。
アイテムバックの中身は、物理法則とは隔離されているようだ。
「……」
しまった。飲み物を持ってくるのを忘れた。
「私のお茶で良ければ飲む?」
穂波はお茶を差し出した。
「……どうして俺が飲み物を欲しがっているってわかったんだ?」
「だって、終生君って何考えてるかわかりやすいんだもん」
穂波はくすくす笑った。
「とりあえず、お茶はもらっておくぞ」
気恥ずかしかったので、俺はいつも通りに振る舞った。
お茶は淹れ立てのような熱々ではなく、すっかり温くなっていた。どうやら熱は逃げる仕様になっているらしい。
つまり、たとえば町で鉄棒を熔解寸前まで高温に熱しても、狩り場に着く頃には冷めてしまうということだ。
夕食にしては少々早いので、おやつだろうか。
ま、どっちでもいいか。
俺はギュウの串焼きを頬張りながら、ステータス画面を開いた。
相変わらずランク:1のままだが、ベースパラメータに変化があった。
生命力:4
体力:2
筋力:3
敏捷力:8
精神力:2
魔力:3
知力:0
全体的に数値が倍増したので、物凄く強くなった気がしてくる。
元の数値が低すぎるともいえるが。
当然、メインパラメータの方の数値も倍増していた。
物理攻撃力:106
魔法攻撃力:0
物理防御力:44
魔法防御力:36
マナ:30
素早さ:90
状態異常耐性:40
重量制限:35
「嬉しそう」
「そりゃ、自分が強くなったら嬉しいだろ?」
「いい成長」
栞は俺のパラメータを覗きながらいった。
「真の勇者としての才能を感じるか?」
「そこまではいってない」
俺たちはここがダンジョン内だということも忘れて、和気藹々と束の間の休息を満喫した。
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