理想のパーティーでさくさくダンジョン攻略③
「ところで、そっちも二人でダンジョンを攻略する予定だったのか?」
「いや~、実は昨日ダンジョン案内所で知り合った子たちと潜る予定だったんだけど、ついさっき急用が入ったって連絡があってね。でも、私たちもせっかく準備してここまで来たわけだし、そのまま帰るのもどうかなーって天音ちゃんと話していたところに、二人の姿が目に留まったんだよ。これはきっと運命だね!」
「神様が巡り合わせてくれたんです~」
「なるほど、これも何かの縁か。よし、それじゃあ、さくっとクレイドルの洞窟一階層を攻略するぞ」
「おー!」
「おーです~」
そんなこんなで、俺たちはクレイドルの洞窟へ足を踏み入れた。
入り口付近は頻繁に人が出入りするので、モンスターのモの字もなかった。
そうなると、警戒の対象は洞窟そのものとなった。
「あのつららみたいなやつ、落ちてこないだろうな」
洞窟の天井や地面からは剣山のように、無数の岩が突き出していた。
「あれは鍾乳石」
栞は無知な俺に知識を与えた。
「んー、思ったよりも暗いねー」
穂波はそう不安げな声を出した。
別に暗いのが怖いわけではなく、もっと根本的な問題を懸念していた。
「弓は使えそうか?」
「戦えると思うけど、遠くのモンスターに先制攻撃はできないね。間違って人に撃っちゃうかも知れないし」
クレイドルの洞窟内には一切の光源が存在しておらず、本来であれば肉眼では全く何も捉えられないはずだが、俺たちの目は完全な暗闇でもある程度物体が視認できるように設定されていた。
一応そのままの状態で進めなくもないのだが、弓で戦う穂波の戦力が大幅に低下してしまうので、手の空いていた栞がランタンを持って進むことにした。
これで視界はある程度広がるが、それでも穂波の戦力は半減してしまう。
「はわわわわわ、はわわわわわ~」
洞窟内は少し肌寒かったけれど、天音がガタガタと震えているのは、不安と恐怖によるものである。
大盾を持つ天音がパーティの先頭を歩くのは定石の陣形だが、自分で蹴飛ばした小石の転がる音に悲鳴を上げたり、自分の影に驚いて飛び跳ねたり、首筋に落ちた水滴に腰を抜かしたりと、あまりにも進みが遅かった。
このままのペースでは、当初予定していた半日を大幅に超えてしまいそうだった。
「天音ちゃん大丈夫? 辛いなら休憩してもいいよ?」
まだ一体のモンスターとも遭遇していないが、天音の様子を見兼ねた穂波がそう声をかけた。
尤も、そんな優しい言葉も、今の天音には届いていないようだったが。
「はわわわわわ~」
「終生が先頭を歩く」
唐突に、栞はいった。
「いきなりだな」
一言くらい相談してくれてもいいのではないだろうか。
「ま、そうした方が良さそうか」
どの道、話し合ったところで、俺が先頭を歩く結論に至っていただろうと素直に受け入れた。
マップによると、そろそろ大きな分岐路に差し掛かるはずだ。
入り口から分岐路までは、ダンジョンの深層で狩りをする者も通るので、モンスターは出現した傍から狩り尽くされてしまう。
分岐路は下層へ下りる道と洞窟一階層を抜ける道の二手に分かれており、人が分散するようになっていた。
ここから先はいよいよモンスターと遭遇することになるはずだ。
現状、天音を先頭に立たせて先に進むのは、誰がどう見ても得策ではなかった。
「あ、うん、やっぱり男の子は頼りになるね! 天音ちゃん、そういうわけだから、一旦落ち着こうね」
「ふぇぇ~、怖かったです~」
天音は盾をほっぽり出して、穂波に抱き付いた。
「お~よしよし、がんばったね~」
二人とも俺たちと同い年のはずなのだが、そのやり取りはまるで母と子のようだった。
「次、左の道」
マップは栞が持っているので、道案内は栞が指示を出していた。
「らしいな」
分岐路には駆け出し冒険者が深層へ迷い込まないよう、先人たちにより看板が設置されていた。
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