Stage.3
理想のパーティーでさくさくダンジョン攻略①
シティブレスからクレイドルの洞窟まで、見晴らしのいい平原の絵が続いた。
しかし、馬車はお世辞にも乗り心地のいいものではなかった。
馬車の上で特にやることもなかったので、俺はメニューにあった初心者ガイドから、ダンジョンについての基礎知識を入れておいた。
ダンジョンとフィールドの決定的な違いは、ダンジョン内のモンスターはどれだけ討伐しても死滅することはない点である。
一定時間経過後、どこからともなくモンスターが復活するようになっていた。
この時復活するモンスターは、前のモンスターとは完全な別個体だそうだ。別個体だからどうしたのだというのが、素直な感想である。
重要なのは、ダンジョン内のモンスターからは無限に近い資材を得ることができ、プレイヤーたちが狩りをすればするほど、この世界は豊かになり続ける仕組みとなっている点だ。
やはり、ファンタジー・イン・リアリティは、時間が経てばクリアできるように設計されている気がした。
「クレイドルの洞窟は全部で五階層から成る。一階層は入門ダンジョンとして有名。しかし、五階層は現在進行形で攻略中。そのため、初心者からベテランまで幅広いプレイヤーが訪れる場所となっている」
栞はウォー爺から購入したマップの端書に目を通しながら説明した。
「ちなみに、ダンジョン攻略の予定とかあるのか?」
「クレイドルの洞窟一階層を二日に分けて攻略。一日目は半分まで進んでから引き返す。ダンジョンというものに慣れる。二日目に反対側の出入り口まで一気に抜ける」
「ま、妥当だな」
いい感じに小腹も空いてきたところで、ちょっとした人里のようなものが見えてきた。
クレイドルの洞窟前で商売している露店だ。
「やっと着いたか」
四時間の道のりで、お尻が半分に割れそうなくらい痛かった。
馬車から降りると、長時間の移動で凝り固まった体を解すように、俺は大きく伸びをした。
「お昼、食べる?」
栞は長旅の疲れを微塵も感じさせない調子でいった。
元々テンションが低いので、疲れているかどうかわかりにくかった。
「そうだな。昼飯でも食べて英気を養うか」
露店には様々な料理が並んでいたが、少々割高となっていた。
露店だからといって、味が落ちる心配はなかった。
町で作られた料理をそのままの状態で持ってきているからだ。
完成した料理は一つのアイテムとして所持品に入れることができ、重量の許す限り持ち運べるからだ。
俺も栞も重量制限に関わる体力と筋力の数値が脆弱で、必要最低限のアイテムだけでぎりぎりだった。
俺は濃厚トン骨ラーメンを、栞はクリームスープスパゲティを食べた。
そして、一食分ずつを所持品に加えて、ダンジョンへ潜ることにした。
普通に攻略すれば半日もかからない難易度で、しかもマップまで持っているので、誤って深層へ迷い込むことはないはずだ。
クレイドルの洞窟前ではテントの貸し出しを行っている露店まであるので、攻略に手こずっても野宿になる心配はなかった。
「一つ、聞き忘れていたことがあるんだが」
「この世界での死について?」
「よくわかったな、エスパーか?」
「このタイミングで、終生が言い出しそうなことくらい容易に推測できる」
「左様で」
悲しいことに、それだけ俺の思考は単純ということだろう。
ちなみに、初心者ガイドには、死亡時におけるデスペナルティの記載はなかった。
「私たち以外のプレイヤーは、この世界をゲームの中だと認識していない」
「……それで答えたつもりか!?」
いつまで経っても栞は言葉を続けなかった。
「プレイヤーはこの世界で生きている。命は一度きりのものだと受け入れている。たとえチュートリアル的なダンジョンでも、命を落とすことはある」
「この世界で死んだらどうなるんだ?」
「意識の消滅」
この点、俺は外部装置に記憶を保存しているので、傍から見れば死によって失うものがないように映るかも知れないが、今この瞬間ここに居る自分が消滅することに関して、恐怖を感じていないといえば嘘になってしまう。
「つまらないことを聞いたな。それじゃあ、そろそろ行くか」
今からダンジョンへ潜ろうという時に聞くようなことではなかった。
「緊張している?」
「いや、そんなにだな。この胸の高鳴りは、高揚かな」
「そう」
緊張していないならそれでいいというような、興味のない相槌を打った。
「栞はいつも通りだな。緊張とかしない
「これでも気が気じゃない」
「ほお。ま、初心者ダンジョンだし、気楽に行ってもいいんだろ?」
「終生が初心者ダンジョンで死んだら、ある意味で伝説になってしまう」
「はは……。そっちの心配かよ」
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