協力者は涼しい顔でチート行為をする④
「終生、私のこと、どこまで聞いてる?」
「協力者としか。協力っていうのは、ゲームの攻略を手助けしてくれるって認識で合ってるよな?」
「合ってる」
「ほお、良かった。涼しい顔で断られるかとひやひやしたぞ」
「それはない。私、この世界のエンディングを望んでいる」
栞から初めて感情というものを感じたような気がした。
「そうか。ところで、栞も記憶がないのか?」
「ある。どうして残念そうな顔をする?」
「ああ、何でもないよ」
しまった、顔に出ていたか。
記憶を持たない空虚な気持ちを慰め合える相手に出会えたと思い込んで、勝手に裏切られてちょっぴり落ち込んだというだけのつまらない話だ。
「それなら、どうしてここがゲームの世界だと認識できているんだ? リーリアから聞いたのか?」
「私、仮想世界に居ながら現実世界を認識できる特殊能力を有している。リーリアに会ったのはその後」
「なるほどな」
既に現実世界を認識しており、その現実世界から送り込まれてきたリーリアと接触したのであれば、こちら側に協力してくれるのも納得できる話だ。
「ああ、そうだ。ゲームの攻略にはあまり関係ない話なんだが、プレイヤーはこの世界で生まれ育ったと認識しているなら、親の存在はどういう風に捉えているんだ? 架空の両親でもあてがわれているのか?」
俺はリーリアに訊きそびれたことを訊いた。
「プレイヤーはアイランドホームという島から、海を渡って、この大陸に出てきている設定。プレイヤーはいかなる手段でも、アイランドホームに行けない」
「つまり、そこが故郷で、生まれ育った記憶も両親もそこにあるってわけか」
「そう」
「ぅん?」
ふと、栞の頭上に彩り鮮やかなサラダが浮かび上がった。
「ここレストラン」
不親切な答えだが、栞の頭上に浮かんでいるサラダは、彼女が注文しようとしている品目ということだろうか。
「そうだな。俺も何か注文するか」
確認したところ、俺の所持金は2000ゴールド。
ざっと品書きを見た感じ、水は無料、パンは二個で100ゴールド、好きな飲み物一杯につき100ゴールド、アルコール類は300ゴールド。
料理の品数はファミリーレストランくらいあり、値段は200ゴールドから500ゴールドと非常にリーズナブルだった。
「難しい顔してる」
「ああ、料理の味が思い出せなくて。リーリアから聞いていると思うけど、俺記憶がないんだ」
「それは初耳。でも、さっき自分のこと話してた」
「記憶喪失っていっても、思い出がないだけで知識はあるんだ」
「叩けば治る?」
栞は徐にテーブルの上においてあった花瓶に手を伸ばした。
「いや、これは意図的にそうなっているらしいから、ショック療法は効果がないぞ!?」
「残念」
「というわけだから、栞のお勧めのメニューを教えてくれないか?」
もう栞に決めてもらおう、そんな乗りで聞いてみる。
「全部」
「そうか、全部か。じゃあ、全部注文しようかな」
「食べられる?」
「いや、冗談だから……」
「知ってる」
「はは……」
帰りたい。帰る場所はないけど。
「ギュウの霜降り肉のステーキ」
「ん?」
「レストランの一番人気」
「おお、じゃあそれにするか。飲み物はこれでいいか」
ギュウの霜降り肉のステーキ(500ゴールド)と炭酸蜂蜜(100ゴールド)を注文した。
調理予定時間に二分と表示されていたが、本当に二分で料理が運ばれてきた。
そうなると、ステーキは冷凍の物を解凍しただけかと思いきや、焼き加減はミディアムレアだった。
一体どんな手品を使ったのだろうか。
そんな疑問は、ステーキの香ばしい匂いを嗅いだ瞬間、どうでもよくなった。
このギュウの霜降り肉のステーキがどういった味なのかまったくわからなかったが、俺の食欲メーターは振り切っていた。
「ところで、食事中も手袋は外さないのか?」
「これは……、アイデンティティー」
「左様で」
栞が手袋のことに触れられるのを嫌がっているような気がしたので、俺はそれ以上聞くような真似はしなかった。
恐らく、人に見られたくない傷でも隠しているのだろう。
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