協力者は涼しい顔でチート行為をする③

「協力者……なのか?」

 俺は無警戒に訊いた。

「…………」

 白い少女は何も答えず、パタンッと本を閉じて、おもむろに立ち上がった。

「ちょっと――」

「本、返す」

 白い少女はぶっきらぼうに返すと、人波に逆らってとことこと本棚の前まで歩いていった。

 そのままジャンプせんばかりの勢いで分厚いハードカバーの本を差し込むと、爪先立ちでぐいぐいと本棚に押し込んでいった。

(踏み台を使うか、俺に頼ってくれてもいいのに)

 本を仕舞い終えた白い少女は、とことことこちらに戻ってきた。

「行こう」

 白い少女は何の脈絡もなくいった。

「どこへ?」

「夕食」

「確かに、お腹は減っているけど」

 そうして、俺はこの白い少女が協力者かどうかもわからないまま、のこのこと二番路にある煉瓦れんが作りの小洒落こじゃれたレストランへとやって来た。

 夕食時ということもあって、レストランは大勢の人々でにぎわっていた。

 五、六歳の女の子とその両親が和気藹々わきあいあいと食事を楽しむ隣の席では、大剣を背負った泥臭いおっさんが一人で黙々とシチューを啜っていた。

 実にシュールな光景だ。

「いらっしゃいませ、二名様ですか?」

「はい」

 白い少女は対応する気がなさそうだったので、俺がいった。

「奥のテーブルへどうぞ」

 愛嬌のあるウエイトレスに案内されたのは、少し大きめの丸テーブルだった。

 俺は窓側に座り、白い少女は対面に腰かけた。

 すると、メニュー画面が勝手に開き、この店のアイコンが表示されていた。

「なるほど」

 俺は店のシステムを理解した。

 店のアイコンを選択すると、鍵盤の上に品書きが表示された。

 品書きを眺めていると、料理の完成像や値段、調理時間が視界上に表示された。

 ただ、味や匂いといった情報までは流石に与えられなかった。

 だが、それでいい。

 そこまでわかってしまったら、料理を注文する楽しさが半減してしまうからだ。

 しかし、今はレストランのシステムに感心している場合でも、料理の品目を吟味している場合でもなく、この白い少女の正体を確認するのが先決だ。

「さっきも訊いたけど、君が協力者だよな? でなければ、見ず知らずの相手をいきなりこんなところへ連れてきて、御馳走してくれるわけないし」

「私、御馳走するといった?」

「いってない」

「ちなみに、初期の所持金だと、この店では満足のいく食事はできない」

「じゃあ、何で連れてきたんだよ!?」

「冗談」

「はは……」

 そんな抑揚のない無表情でいわれても、乾いた笑いしか出てこなかった。

「私は静川栞、栞でいい」

 気まずい空気の中で、唐突に行われる自己紹介。

「俺は凉城終生だ」

 俺は反射的にそう返していた。

「結婚、出産経験なし」

「俺もないな。ってか、その情報は必要か?」

「必要ない。冗談」

「はは……」

 栞は意外と冗談好きなのかも知れなかった。

「私、十四歳」

「同い年か」

 栞が自分から年齢を公開してくれたのはありがたかった。

 年齢を聞かれていたら、十二歳と答えてしまうくらいには、栞の容姿は幼かったからだ。

「同い年? 年下かと思った」

「いやいや、それはこっちの台詞、って、これも冗談か?」

「どっちだと思う?」

「どっちだろうな」

 どう答えるのが正解なのかわからなかったので、俺は愛想笑いで誤魔化した。

 気まずくなる前に、俺は透かさず別の話題を振った。

「それより、朝からずっと図書館に居たよな? 俺の存在には気付かなかったのか?」

「『子豚王子と無数のお姫様』を読み終えておきたかったから」

 栞はあっけからんと答えた。

 別に待ち合わせ時間があったわけではないが、人を散々待たせておいた罪悪感というものはないようだ。

 ついでに、この世界に囚われた人々を一刻も早く救出する気概もないみたいだ。

左様さようで。って、その本面白いのか?」

 そんな栞の様子に、何をいっても無駄だと悟った俺は適当に流した。

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