協力者は涼しい顔でチート行為をする②
絶対に不可能ではないが、数百人は居るであろう利用者の中から、顔どころか性別すら不明な相手を探すのは、骨が折れるどころの面倒臭さではなかった。
一般的なRPG(Role-playing game)の攻略であれば、一人一人に声をかけて話を聞いていくのが鉄板となるが、リーリアの話によると、この世界のNPC(Non Player Character)はまるで一人の人間であるかのように振舞うそうではないか。
ボタン一つで、必要な情報を過不足なく話してくれるNPCではないのだ。
そう考えると、向こうが俺の顔を知っている可能性が高かった。
つまり、遭難した時と同じで、無闇に動かず、どこか適当な場所で待機しているのが賢明な選択ではなかろうか。
「ま、ここで待つか」
俺が選んだのは一階出入り口付近の右側、観葉植物に挟まれるように置かれた長椅子だった。
書物を読んで、暇を潰そうなどとは微塵も考えなかった。路上市場と違い、全く興味をそそられなかったからだ。
元来の俺は本を読むような性質ではないみたいだ。
待つとはいったが、ただぼーっと待っているのも暇だったので、俺は長椅子に腰掛けたまま、図書館内にそれらしい人物が居ないか観察を始めた。
まず目に留まったのが、長いブロンドの髪に長い睫毛、長い耳を持ったエルフの司書だった。
一つ一つの動作が繊細で、どのシーンを切り取っても穏やかな水彩画のようで、いつまでも眺めていることができた。
(おっと、いけないいけない)
俺は本来の目的を思い出して、次の観察に移った。
丸眼鏡を掛けた狐顔の二十歳前後の男、艶やかな黒髪が目を引く幽霊のような少女、何をする訳でもなく呆けている中年男性、読書が様になっている小奇麗な老婆、ひそひそ話で盛り上がる女子学生たち、勉学に励む秀才を絵に描いたような男子学生、などなど。
ざっと見渡した感じ、中年男性を除いて皆一様に図書館に用事があるように見受けられた。
しかし、何となくあの中年男性が協力者ではないような気がした。
いや、あの覇気の欠片もない中年男性が協力者であって欲しくないという俺の願望だろうか。
もう一つ気掛かりというか不可解に感じたのは、この世界の住人が魔王討伐を第一に動いているのではなく、普通に生活を営んでいる点だった。
ここが始まりの町だから、みんなこの世界を
それとも、ここで暮らしているのは、全てNPCなのだろうか。
前線の町はもっと殺伐としているのだろうか。
とにかく、結論を出すには、もっとたくさんの町や人々に、実際この目で見て肌で触れる必要がありそうだった。
「ふああ~」
早々に人間観察にも飽きてしまい、物思いに耽っていると、いつしか図書館独特の静けさに俺は
「――当館の閉館時間は
「んぁ……?」
図書館内に流れる人を急かすような不愉快な音楽とアナウンスの声で、俺は目を覚ました。
出口に流れ込む雑踏、館内に差し込む光はすっかり橙色に染まっており、舞い上がった砂埃が火の粉のようにも見えてきた。
「涎、出てる」
不意にそう声をかけられて、俺は反射的に口元を拭った。
(……誰だ?)
まだ少々寝ぼけているようで、遅れて数瞬、俺は長椅子の隣、声の主の方へと視線をやった。
そこに腰掛けていたのは、艶やか黒髪に幽霊のように白い肌をした少女だった。
俺は他人のファッションにとやかく口出しするつもりはないが、全体的に窮屈な印象を受ける服装だった。
ぱっと見は魔法使いで、黒を基調とした色使いで統一されていた。
ちょうど今、分厚いハードカバー本の最後の一ページを読んでいるところだが、黒い手袋をしたままではページを捲りにくくはないのだろうか。
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