協力者は涼しい顔でチート行為をする⑤

 レストランでの食事を終え、俺たちは一番路にある旅人の宿へと戻ってきた。

 朝方は気にしていなかったが、この辺り一帯は宿屋と酒場が密集しており、すっかり日の沈んだ今頃から賑わいを見せるようだ。

 二番路に比べて、武具を装備した冒険者の比率が多く見受けられた。

 一日の狩りを終え、自分へのご褒美、あるいは明日への英気を養うために酒をあおりにきているのだろう。

 ここでいくら酒を飲んでも、現実の肉体は一切アルコールを摂取しているわけではないが、お酒は二十歳からとなっていた。

 ちなみに、お酒を飲むときちんと酔っ払って、飲み過ぎると二日酔いも起こすようになっているそうだ。

「明日の朝七時、ここに集合」

「了解」

 当面の食費を考えると、今夜は野宿確定かと思いきや、今晩のところは旅人の宿のベッドで眠ることが叶いそうだった。

 その絡繰からくりは、栞に教えてもらったのだが、最初に目を覚ました旅人の宿の一室は、あらかじめ三日間借りている設定になっているのだ。

 一応メニュー画面のガイドにも記されているのだが、教えてもらわなければ気付かなかっただろう。

(それにしても、ギュウの霜降り肉のステーキ、美味かったなあ)

 食べ物の記憶を失っているせいか、俺の脳裏で先程の食事で味わった衝撃的な美味さの余韻があった。

「ずっとニヤニヤしてる」

 栞にいわれて、俺は表情を引き締め直した。

 いけないいけない、また表情に出ていたか。

 どうやら、俺は感情が表に出やすい人間らしい。気を付けなければ。

「栞と一緒に居るのが楽しいからな」

 本当はギュウの霜降りステーキの味を思い出していただけだが、俺は恥ずかしさを誤魔化すために更なる恥ずかしい台詞を吐いてしまい、顔が熱くなった。

「凉城って変な人? さっきのお肉も変な食べ方だった」

「ナイフとフォークの使い方はあれで間違ってないだろ?」

 味の記憶はなくとも、道具の使い方の記憶は残っていた。

「そこじゃない。お肉を右から時計回りに徐々に小さく切って食べてた」

「いや、あれは……、癖?」

 特に考えもなく、無意識でやっていたので、そうとしか答えようがなかった。

「それじゃあ、変な癖を持った人。寝る、おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 ぎこちない挨拶を交わして、俺たちはそれぞれの部屋に入った。


 翌朝、俺は支度を済ませて、待ち合わせ時間ぎりぎりに宿を出た。

 待ち合わせ場所には、既に栞の姿があった。

 けれども、少し様子がおかしかった。

 風に吹かれてもいないのに、ふらふらとしていた。

「よお、大丈夫か?」

「朝苦手、そういう風にできている」

「左様で」

 それなら待ち合わせ時間をもう少し遅くすれば良かったのでは、と助言しようかと思ったが、今の栞は見るからにご機嫌斜めだったので、無駄な刺激は与えないことにした。

「行こう」

 栞はよろよろと歩き出した。

「行き先は?」

「武具屋。武器がないと、戦えない」

 初期装備としてダガーは持っていたが、これで魔王を討伐することなどできるはずがないということだ。

「でも、俺一文無しだぞ?」

「問題ない」

 栞は大通りから裏路地へと入っていった。

 俺はその後に付いていった。

「こんなところに何の用だ?」

「金策」

 栞は不親切に答えると、建物の壁に手の平をそっと置いた。

「ここは確か銀行か。銀行強盗でもするつもりか?」

「そう」

「え? 冗談、だよな?」

 何をしでかすのかと見ていると、栞は銀行の外壁に穴を開けた。

 物理的に穴を開けたわけではなく、まるで銀行の外壁のテクスチャを剥がしたような穴だった。

 穴からはエメラルドグリーンの格子が入った漆黒の空間が覗いていた。

 そんな得体の知れない穴に、栞は一切の躊躇もなく腕を突っ込んだ。

 栞はしばしその穴の中をまさぐると、腕を引き抜いた。

 穴から出てきた栞の手には、手垢で汚れたような渋い色の布袋が握り締められていた。

「中身、金貨」

 俺が目を丸くしてきょとんとしていたので、栞は補足説明を加えた。

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