原作無視の押しキャラは孤独にならないらしい

仲仁へび(旧:離久)

01



 なぜ、彼が犠牲にならなければならなかったのだろう。

 なぜ、彼を手助けしてくれる人がいなかったのだろう。


 なぜ、彼を孤独にしてしまったのだろう。

 なぜ、彼が悪人ではないと誰も気づいてくれなかったのだろう。







 この世界には、様々な不条理が満ちている。

 世界の真実に気づいたものは、排除され。誰にも知られることなく闇に葬りさられている。


 追手から逃げ続ける日々。

 果てのない、逃走劇の中で私達は、特殊スキルのファンクラブシステムで協力者になってもらった女性の家をかりて、羽を休めている最中のことだった。


 私は、かねてから思っていた事をウォルド様に尋ねた。


「ウォルド様は、どこまで把握してるんですか」


 私はある日突然、有名なゲームの世界に転移してしまった。

 そして、色々あった後、元の世界で好きだったキャラと行動を共にすることになった。


 その流れて、異世界に来たばかりの頃にした脱獄の影響で、ウォルド様と共に追ってから追われる日々をすごしているのだが、改まった事を聞いた事は今までそんなになかった。


「どこまでって言われてもな」


 私の疑問に答える男性の名前は、ウォルド。


 彼は、この世界の命運を握る、はずの人間だ。


 けれど、過酷な戦いのせいで、友人を助け出した後に死んでしまう運命にある。


「悪魔が裏で糸を引いてる。だから俺達は悪魔を倒す必要がある。そんくらいだな」

「天使を助けて、協力してもらう事はできないんですか?」

「難しいな」


 この世界では、悪魔がすべてを牛耳っている。

 人々をだまし、欺き、無用な争いを強制しているのだ。


 その例の一つが迫害。

 邪悪な種族という情報を流して、人間たちにエルフを迫害させている。


 世の中の人たちは、その迫害が仕組まれたものだという事に気がついていない。


 気が付くのは、ウォルド様のように直接エルフと触れ合った人間だけだ。


 ウォルド様は小さい頃からエルフの友人としたしくしていた。

 だからこの世界のおかしいところに気がついたのだろう。


 私は、この世界に転移した事が分かった時、そんなウォルド様に出会えた後、決めたのだ。


 前世で押しキャラとして応援していた彼を、不器用な優しさを秘めていつも孤独に戦っていた彼を助けようと。


 けれど、


「ウォルド様一人が、戦うなんて私は反対です」


 この世界での彼は一人ではない。


 まず私がいる。

 それにファンクラブシステムを介して協力してくれるファン達もいる。


 けれどウォルド様は、悪魔を倒すのは一人でやるつもりらしい。


 その時が来たら、私を置いていくというのだ。


 確かに私には戦う力はない。

 けれど、原作の知識があるので、彼の役に立てるはずだ。


「一人にならないでください」


 たった一人で戦ったウォルド様は死んでしまった。

 私は、彼に死んでほしくない。


「誰かがやらなきゃいけねぇなら、それは俺がやる。俺がそういう人間だってことは、いい加減わかってるだろ」

「それでも私は、ウォルド様に死んでほしくないです」


 優しい彼ならそういうと分かっていた。

 けれども、だからといってその意見をのみこむわけにはいかない。


 私の意見はウォルド様と真向からぶつかって平行線だった。






 逃走を続ける旅の中、ウォルド様の目撃情報を聞いてとある人物が話しかけてきた。


 悪魔に恨みがある人間。

 それでいて。


 ウォルド様が、一人で悪魔打倒を目指すきっかけをつくった人間だ。


「まだ、うだうだやってるのか。甘っちょろいことだな」


 私は、その人物をきっと睨みつける。


 アズリーレ。


 この人は、目的を果たすためなら、他のすべてのことは切り捨てる、というタイプだ。


「何かを得るためには、何かを犠牲にしなくちゃならない」


 それで、ウォルド様にもその考えを強要してくる。


「悪魔を殺すんだ。生半可な気持ちでなせると思うな。そんな足手まといはさっさと捨てるんだ。何の役に立つ。それにファンクラブ? 女をはべらせて良い気になってるんじゃねぇだろうな。民間人を巻き込むのはお前の甘えだ」


 私はその言葉に反論する。


「甘えちゃいけないんですか! 人間は一人で何でもかんでもでいるようには、なってないんです。ウォルド様には私達が必要なんです。孤独な英雄になんてさせません」

「生意気言う小娘だな。俺は無駄な殺人はしない。だが目的のためなら、手段を選ばない。ここで、くし刺しになってみるか」


 アズリーレが剣を向けると、ウォルド様が割って入ります。


「やめろ」

「はっ、一生その女と共に腑抜けてろ」






 私は原作の最後を知っている。


 悪魔を倒し、世界を変えるために頑張ったウォルド様。

 大勢の人の未来を変えた英雄、異人。


 けれど、彼の功績は誰も知る事が無い。


 彼は、短い命を燃やし尽くして、最後はたった一人で死んでしまうのだ。


 そんな事には絶対させたくなかった。


 夜、眠っている間に出ていこうとするウォルド様をつける。


 隠れ家から離れて少し。


「起こしちまったか」


 ウォルド様は私がつけていることを気付いていたようだ。


「このまま、どこかに行ったりしませんよね?」


 ウォルド様は何も返事をしなかった。


「俺の行動のせいで他の人間に迷惑がかかっていることは事実だ。お前だってそうだろ」

「私達は望んで手を貸してるんです。危険なのは百も承知ですよ」

「けれど、俺が助けを求めなかったら、違っていたはずだ」

「違いません。忘れたんですか。私は勝手にウォルド様についていったんですし、ファンクラブを作ったのも、私が勝手にやった事です。だって、ウォルド様に聞いたら反対されるってわかってましたし」

「そうだな。お前はそういうやつだったな。最初に会った時は、何だこいつって思ったけど。いっつも強引に距離詰めてきて、でもそれが俺は」


 正直に言うとウォルド様は甘えていない。

 最初の頃は、私が勝手に、お世話を焼いていただけ。


 でも、今は?

 ウォルド様は、少しだけ私達に甘えてくれるようになったと思う。

 本音をこぼしてくれることもある。

 一人で手ていく事をためらっているのもそうだ。


 原作だったらウォルド様はそんなことをしない。

 アズリーレにも気に入られていた。


 けれど、その世界のウォルド様はいつも辛そうで、悲しそうでいっぱいいっぱいだった気がする。


 私は、私の大好きなウォルド様をそんな目にはあわせたくない。


 私の押しだったウォルド様は、孤高の存在でも自分の意思を最後までつら抜きとおしていた。

 そんなところが大好きで魅力的だった。


 けれど、押しへの愛から始まった出会い。

 その出会いを経て、改めて知った目の前の、弱いところのある一人の人間ウォルド様。


 私が今好きなのは、きっとこっちのウォルド様だから。


「私達を危険な目にあわせたくないというウォルド様のわがままは分かりますけど、ウォルド様と一緒にいたい私達だって、そうとうなわがままなんです」

「わがままって言うなよ」

「連れてってくれなかったら、勝手に探して勝手に危険な目にあって、勝手に命を落としちゃうかもしれません、だからそばに置いてください」


 ウォルド様は、空を見上げて話した。


「すげぇ勝手な奴だなお前。俺は、俺もわがままでもいいのか?」

「はい。もちろんです」


 ウォルド様の答えは出たようです。







「悪いな、俺はお前とは一緒にいかねぇ」

「くっ、血迷ったのかウォルド!」

「俺はあんたみたいに強くなれなかったみたいだ。そこは素直に尊敬するよ。じゃあ、達者でなアズリーレ」

「その決断、後悔するなよ」


 歩き出したウォルドは、目の前に立ちふさがった幻影を見て、笑う。

 寂しげなのに、誰も寄せ付けない拒絶をまとわせたその人物を見て。


 自分の姿そっくりのその幻影よりも先へ歩きながら


「じゃあな。俺は、お前のようにはならねぇよ」


 過去の、ありえたかもしれない世界の自分を背中に置き去りにして、前へ進みだした。



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