仁重 昼咲き月見草
【夕方~夜咲きの多いツキミソウの仲間だが、明るい間に花を開く。花弁は4枚、形は少し角ばった広釣鐘型で、ピンクと白の混じったような花を、初夏から長期間咲かせる。葉は比較的小さく、枝は直立しているが、それほど背丈は伸びない。いつの間にか増えるほど丈夫な花で、駐車場の脇のような荒れた場所でも育つ。野生化して空き地などに咲いている姿もよく見かける。性質は強健で野性的な印象があるが、花色や草姿は優しげ】
「日照時間、温度、乾燥、湿度、土の栄養分と性質、咲く期間。名前」
「名前はともかく、色や形ばかりで環境はまるで考えてなかったが、そもそもそこまで考える必要があるのか?」
群生する昼咲き月見草の前に座っていた舞子は植物図鑑を閉じて、隣に座るひびなに顔を向けた。
「今まで色とか形とか匂いとかの説明文しか目を通さなかったんだけど。歩いてたら、昼咲き月見草に目を引かれたの。それから植物図鑑を読んで、考える必要。ううん。考えたいかなって。でも、私は、だから。ひびなは考える必要がないと思うんなら、そうした方がいい」
ひびなは腕を組んで、唸った。
「一応念頭に置いておくが。目を引いたって事は、昼咲き月見草を参考にして、花を創生するわけか?」
舞子は昼咲き月見草に視線を戻した。
昔の貴族階級の婦人がはくふんわりとしたスカートのような、お椀形をした淡い桃色の花。
無風ならば優しく行儀正しいが、風で揺れるたびに、ふわり、ふわりと、無邪気に笑うという違う一面も見せる。
「花びらは少ない方がいいとは考えてた。花は小さすぎず大きすぎず。背丈もそれほど高くなく低すぎず。葉も小さい方がいい。でも、色は黒を考えてた。稀少で黒バラしかないと思ってたから。でも、結構黒色の花があるって知ったし。別に意外性を狙わなくてもいいかなとも考えちゃって。ただ今のところ決定しているのは、あと三つ。厳しい環境下でも咲く花。期間は限定。木じゃなくて草」
「おまえ。俺より進んでないか?」
ひびなは頬をひきつらせた。
考えに耽っている舞子はひびなの言葉を素通りさせて、あっと声を上げた。
「ほら。日光で発光している。花びらが薄い方がいいかも。太陽じゃなくて、月光を浴びると光るのもいいかも。あと、単色じゃなくて、二色がいいかな。昼咲き月見草みたいに縁と花脈だけ違う色にするの」
ひびなの頬がけいれんし出した。
あれ、やばくないか。これ。
舞子の方が早く花の創生を叶えるんじゃないか。
いやいや。補佐が先にやり遂げるって。
(もしかして、満足して、俺が創生するのを待たずに、天国に行くかもしれないな)
テン、テン、ヤーン。
隣に座っているのに、まるで手の届かない場所に向かっているみたいだ現在進行形。
(まあ、楽しそうなのは喜ばしいのだが)
「でも、ひびなみたいに匂いは全然思いつかない」
「ふふん。花の創生がそう容易く叶うわけがないだろ」
「うん………あの、この前はごめんなさい。拗ねちゃって、話さないって言ったりして」
「ああ。気にするな、好きにしろ」
「そーゆーとこが気に入らないけど」
「嫌いじゃないんだろ?」
「嫌いって言ったって応えないくせに」
「そーかもしれんし、そーじゃないかもしれんぞ」
「はいはい」
舞子は昼咲き月見草に頭を向けて仰向けになり、日光が透ける花びらを見て、目を瞑った。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ひびなは目を細めて顔の輪郭が淡く光る舞子を見つめながら、どんな花を創生しようか、考えを巡らせるのであった。
壮大な桜のように成長したユキヤナギ。
刃よりも持ち手の方が遥かに大きなハサミで以て。
バッサバッサと。
乱舞するように空と共に切り裂く。
小さい刃が舞わせられるのは、ほんの数輪。
だからこそ何時間もかけて。
動きは豪快に。楽しげに。無邪気に。
成長しては踊りまわる。
ユキヤナギも舞子も。
クルクル。
ハラハラ。
己の背の丈ほどの大きさに整えて。
地面に白の絨毯を作り出し。
その繰り返し。
だったはずが。
今は舞子の背ほどの大きさで、凛と佇んでいた。
舞子は雪柳を愛おしそうに黙って見つめていた。
地面はどうなっていたのか。
白の絨毯のままなのか。
残念ながら覚えてはいなかった。
昼咲き月見草:花言葉 無言の愛 自由な心 固く結ばれた愛 奥深い愛情
参考文献:http://garden-vision.net/flower/hagyo/o_speciosa.html
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