充句 漁火花




 別名の漁火花は反り返った花弁の形がかがり火の炎のように見えるからだそうだ。

(【花言葉花贈り 池田書店】)




「私も花を創る」


 居心地がいいこの世界で、このままひびなと一緒にいるのも悪くもない。

 時々過る思考がこの微睡みの世界を打ち破る。


 このままでは呑み込まれる。


「花を創るって。女神を目指しているわけじゃ、ないよな?」

「違う」

「おまえは俺の補佐なんだが」

「補佐だから、私も創る。一緒に考えたい。でも、ひびなはひびなの花を創ってほしいから、私は私の花を創る」

「……俺が。待たせ過ぎたか」

「違う。そうじゃない。私は、」



 駆け走って、駆け走って、手に入れ続けた。

 自分一人でも成し得ただろう。

 きっと、ひびながいなくても。

 けれど、ひびながいたから、すごくもっと自由に動けた。

 待っていてくれたのだ。ずっと。

 前だけを見て進めと、背中をずっと見守っていてくれた。


 自分もそうすればいいのだ。

 ひびなが寿命が許す限り、待っていてくれたように、自分も。

 ひびなの花の創生を見守り続ければいい。

 そうしようと思っていたのに、


 痺れを切らしてしまった。

 急かすつもりなどないのに、


 本当に?

 尋ねる声に否と断言できない。


 怖くなってきたから。



「一緒に考えたいの」

「…舞子。どうした?」

「どうもしない」

「俺と一緒にいるのが嫌か?やはり、怒っているのか?勝手にここに連れて来た事を」

「なんで?」

「…今、何故怒っているか、理由を聞かせろ」

「……ごめん。違う。ひびなに対してじゃない。自分に怒っているだけ。ひびなみたいになれないから」

「?俺みたいになる」

「待っていたかった。花に関して口を出したくなかった。できなかった。だから怒ってる」

「別に俺は構わんぞ」

「……」

「今は俺に対して怒っているな?」

「…そうだよ」

「悔しいか?」

「悔しいよ」

「俺は嬉しいぞ」

「顔を見ればわかる」

「相思相愛だな」

「…違う」

「本当の共同作業の開始だな」


 赤いシクラメン。

 ひびなに似合うのか、ひびなを表わす花なのか。  

 表現としては近いが、どうも違う。

 

(もどかしい)

(ずるい)

(ずるい)


 ずるい。

 ひびなばっかりどうしてこうも、居心地をよくさせる。


「な?舞子はどんな花を創るんだろうなあ」

「…ひびなはずるい」

「おまえより経験を積んでいるからな」

「…考えるから、当分話さない」

「好きにしろ」


 敵わない事が悔しいのに。


 


(よーやく、眠り姫のお目覚めか)


 気分がいい。

 ずっと、気分はよかったが、順列をあえてつけるのならば、いまこの刻が一番。


(俺もそろそろ目覚めるか) 


 ひびなは目を細めて、舞子を見つめた。












漁火花(かがりびばな)=シクラメン:花言葉 内気 はにかみ 嫉妬

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