番外1話 退屈なひと時

 ミコミさんとの一件が終わり、ほっと一息を吐く。

 私、天河ウズメはあの後人生で一番行動したと思う。まずミコミさんを高校に招待して顕微鏡を汚してしまったことをクニイサ先生に謝った。

 先生はとても心が広く怒らないで許してくれた。むしろ稀にカバーガラスを壊す私を軽く叱った。たまにこっそり捨てていたのはバレていたようだ。


 そしてワラもミコミさんがなんとかなって安心したのか表情がいつもより明るく見えた。明るくと言っても無表情には変わりないけど。

 そして一ヶ月後の学校公開。


 その日は二月のほぼ入試直前、自由参加型の学校公開。

 この日も私は朝早くから聴く先輩と共に登校し、生徒会室に顔を出してその後やって来た農業役員と打ち合わせを行う。


 この日の私の役割は部活の展示の管理では無く、不審者がいないか迷子の人がいないかの見回りだ。

 キク先輩は作品の紹介や説明があると言ってしまい生徒会長は問題が発生した時の対応でいない。要するに今私は校門前にツツジ先輩とたち、中学生やその保護者、それから野菜を買いに来た近所のおばちゃんに挨拶をしていた。


 しばらく長蛇の頭から胴体、尾にかけて手を抜かず挨拶をしようやく肛門を潜る人が減った辺りで私はほっと一息をついた。

 するとツツジ先輩が肘で私の脇腹を小突いた。


 「ねぇ、そういえばヒビワラさんの妹だっけ。あの子は来るの?」


 「は、はい。お友達と来るみたいです」


 「そう。そういえばその妹さんのいる中学校てこの辺り?」


 「えーと詳しくは聞いていないんですけど、私学に通っているとしか」


 私の言葉を聞くとツツジさんは苦虫を噛み締めた顔になる。


 「あーヒビワラさんって多分安雲の名家でしょ名前から。その家柄の人が通わせる私学一つだけなんだけど」


 「え、そうなんですか?」


 「だけどそうするとヒビワラさんみたいに農業高校に来る可能性をみると一般の私学の可能性が——」


 ツツジさんが一人で悩んでいるその時、ミコミさんがやって来た。ミコミさんは嬉しそうな顔を浮かべると後ろに一風変わって品の良さそうなミコミさんと同い年ほどの少女が現れた。その少女は高そうな着物を着て髪も昔ながらの王族の結い方だ。

 少女は私とツツジさんを見ると上品にお辞儀した。


 「お初にお目にかかりまして光栄です。先日は私の親友であるミコミが迷惑をお掛けして申し訳ございません」


 その少女がそういうとミコミさんは恥ずかしそうに頬を膨らませる。

 えーとその子は……。


 私が口に出すその時ツツジさんが「その着物、大源(オホミナ)中学の指定の? 紋章が大源のものだけど」と口にした。


 「え、ツツジ先輩。その中学ってなんですか?」


 私がツツジ先輩にそう聞いた瞬間、その少女は口を押さえて「あら、自己紹介まだでしたね」と言い微笑むと——。


 「大源秋雨(オホミナノアキサメ)と申します。源氏の一門としてヒビワラの——」


 ————。

 それからは頭の中が真っ白になりながらミコミさんとアキサメさんを案内した。

 こうなったのはツツジさんが「あ、せっかくだし後輩が案内するから」と面倒ごとを私に押し付けたからだ。ミコミさんは一度来ただけでも常連のような顔でアキサメさんにいろいろ説明していた。


 えーとそう言えばアキサメさんはここに来たのは「ヒビワラ家の不祥事を謝罪しにと言いたいですけど、本音は純粋にミコトさんに会いに来まして」が本音らしい。

 てかどうしてだろうか。

 私はそんなことを考えながら農場、果樹園、それから蜂蜜を買ったりしてようやく生物工学部の展示に来た。

 展示の部屋は使えないと言われていた倉庫の一部だけどまだ広い方だった。

 壁には展示の作品がありそこには中学生たちに自慢しているキク先輩やマンネンタケ茶を注いでおじいさんやおばあさんに飲ませているチヒロさん。

 

 カマタくんとアキサメさんお目当てのワラが化粧水を裏で作っていた。アキサメさんはワラを見ると嬉しそうな足取りでかけていくのを見届けた後、気づけばミコミさんは聞くs年配に腕を掴まれ作品を強制的に見せられていた。


 よし、仕事終わった……。


 「ウズメさんお疲れ様です。如何ですか?」


 私は隣に近づいて来たチヒロさんを見る。チヒロさんは普段通りながらも今日は寒いのにも関わらず少し軽装だった。


 「あぁ、ありがとうチヒロさん。けど大丈夫」


 「そうですか。私は好きな味なんですけど」


 ミコミさんはマンネンタケ茶が入った急須を机の上に置くと生物工学部の展示に満足した中学生たちが出ていくのを見届ける。


 「そう言えばウズメさんアキサメさんと知り合いですか?」


 「え、ううん。それがどうしたの?」


 チヒロさんは私の言葉に以外そうな顔をすると優越感に浸っているつもりか仔猫のような構って欲しそうな目で私を見る。


 「そうですね。アキサメさんのいる中学って結構名門なんですよ。中高大一貫で源氏の一族が代々通うことにしているほどの」


 「ということはみんな源氏で親戚みたいなものか。あれ? だとするとワラはどうして? あとその理論だとミコミさんは転入していることになるけど」


 「ヒビワラは源氏の中でも一番頭おかしいので。弓で的を入るのに機関銃を使いだすぐぐらい」


 「あ、うん」


 ワラの実家どうなっているのか無性に気になるんだけど。

 それからミコミさんとアキサメさんはしばらくキク先輩やスズカ先輩やワラとチヒロさんと会話しようやく帰った。

 私は校門でワラと二人が帰るのを見届けた後、試しにワラに聞いてみることにした。


 「ねぇワラ。アキサメさんと知り合い?」


 「去年転校した直後のミコミとすぐに打ち解けてできた友人。知ったのは入学式から帰った後」


 「——ん? 知り合ってすぐに家に招待したの?」


 「かなり驚いた」


 ワラも大変なんだなぁ……。それにしてもあの二人仲良さそうだったしまあ良いか。

 しかし、その安心したのと同時にワラが「けどアキサメはミコミより一つ上だから三年生が見込みにとっての勝負」と口にしたのは冗談としておこう。

 本当だとするとミコミさん友人いないことになるから——うん。


 今日は特に何も起こらなかった退屈な一日。去年は逆に充実していたから二年生からはのんびりと過ごしていきたいな。

 

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