第39話 完璧にこだわりすぎた結果
準備を重ね、何度も部活で打ち合わせに行ったり生徒会などと調整を繰り返し続けていたら気づけば明日学校公開を迎えることとなった。
この日は休日だったため、私はこの日くらいは休もうと思っていたけど、ミコミさんのことが気になって昼頃ついワラの家に来てしまった。
ワラの家は相変わらず格が高そうな家で入るのに躊躇してしまう。ていうか笑に来るって伝えてなかったんだけど良かったのかな?
「うーん。悩む」
まぁ、多分ミコミさんは大丈夫だろう。
帰ることを決心して振り返るとちょうど真後ろでミコミさんがタジタジしながら言葉を選んでいる顔で私を見ていた。
「あ、み、ミコミさん。どうしたの?」
「ウズメさんこそどうしてですか?」
「あーえーと。ミコミさんが大丈夫かなって」
私がそう聞くとミコミさんはどんよりとした顔になって顔を横に振った。
「——まだ、怖くて」
「そう。じゃ、今日は何していたの?」
するとミコミさんは鞄から教科書を取り出して私に見せる。
「と、友達の家で休んでい多分の学校のお勉強を」
私より真面目だ。私はずっと部屋に引きこもってしまっていた。分からないけどミコミさんはミコミさんなりに頑張っているのだろう。
「朝なら一人で歩けるの?」
「は、はい。行きは友達が迎えに来てくれて。帰りは友達が塾で向こうの突き当たりで別れたんです」
ミコミさんは指で突き当たりを教えてくれる。なるほど。多分別れた後に私がいるのに気づいて私の後ろに来たのか。
ミコミさんは話し終えた後も何か話題を見つけたいのかモジモジしている。
そう言えば縫お姉ちゃんは私を家の外に出す時話題が無くても歩いていて気分は悪くなかった。よし、ミコミさんとお散歩しよう。
「あ、そうだ。良かったら散歩に——」
「に、兄さん今買い物に行っているんで家に人がいません。——その、良かったらお茶出します」
「あ、お邪魔します」
私はミコミさんに流されるようにして家の中に案内され居間に入り座布団の上に座るとちゃぶ台の上にお茶を出され正面にミコミさんが座りき間づい顔でお茶を飲むと頭を下げた。
「あ、相変わらず空気を読めずにごめんなさい……」
「良いから気にしないで!」
あーどうしよう。こういう時縫お姉ちゃんはなんて……よし、勢いでいこう。
「ミコミさん。明日私の高校の学校公開に来る?」
「え?」
ミコミさんは驚愕の顔になった。
「はい。け、けどどうしてですか?」
「ミコミさんは将来の夢とかある?」
私がそう聞くと足を抱え、私から目線を逸らした。
「そう言われても別に……無いです。ただ良い会社に入ってゆったり過ごせば良いだけとしか。もちろん高校に行きますけど高校は正直どこでも」
「——あーなるほど」
さて、どうすれば良いか。私も正直引きこもっている時は学校に行かずお母さんとお父さんと同じように作品を作って生きていきたいと思っていた。だけど縫お姉ちゃんから人生いろいろないと作品を作ろうにも経験が大事と言われた。
その事があって私は農業高校を進むきっかけとなった。無論生物が好きで学校公開で面白そうだと感じたのもあるけど。
実際のところ私は好きなことには積極的に挑戦していくのが好きなんだ。好きなことを極めて罪はないからね。
「じゃ、逆に好きなことはないの?」
「え? えーと。植物の……観察です。形も色々あって野草の図鑑と見比べるのが好きです。誰も邪魔してこない静かな私だけの時間の瞬間なので」
「そう、なら学校公開に行こうと思ったきっかけはそれかな?」
「は、はい。兄さんがたくさん植物と触れ合えて、それから同じような人が多いから会話して楽しいって言われたので。それに二年生になったら植物を瓶に装飾すると聞いて楽しみで……!」
ミコミさんは先ほどと言って変わって嬉しそうな顔を見せてくれた。よし、なら大丈夫か。
「うん、本当だよ。じゃ、明日楽しみにしててね」
「は、はい」
ミコミさんは嬉しそうに笑った。その時後ろから音がした。
「ウズメ?」
「あ、ワラ」
ちょうどワラが帰ってきた。
その後私はワラの優しい計らいで昼ごはんをご馳走してもらった後、帰宅した。
それから一日が過ぎて私は朝七時に学校に向かうとキク先輩が相変わらず寒がりなのかものすごい厚着で校門で待ってくれていた。
「キク先輩。待たせてしまいましたか?」
「え、ううん。私も今来たところだよ。それじゃ行こっか」
私はキク先輩の隣に歩いて生徒会室に向かった。
今日の予定は生徒会室で簡単な最終確認をした後、八時から来校する中学生たちを迎えて、九時から十時まで体育館で学校説明会をするため私とキク先輩はその間に部室に入り体験授業の用意に入る感じだ。
ミコミさんもそれを分かった上だから大丈夫だろう。
「そう言えばキク先輩。二年生になったら瓶に植物を入れるのって本当ですか?」
するとキク先輩はしばらく考え「あ、あれか」と言葉を溢した。
「うん。するけどそれは植物を培養するやつだね。確か菊の細胞を取って培地に移すんだよ。これすっごく大変で失敗すると枯れちゃうし。失敗したら次はないから留年確実だよ〜」
「え、えぇ! そんなに厳しいんですか!?」
「そ〜だよ。クニイサ先生のキノコの培養の方がまだ可愛いんだから。マンネンタケを培養したり試験官にキノコを培養するぐらいなんだよ。それからね——」
キク先輩は二年性で行い実験について事細かに教えてくれた。
なるほど、ようやくするとワラはミコミさんに楽しく実験や研究をすると伝えたんだろう。それをミコミさんが解釈を間違えて簡単な実験と思い込んだに違いない。聞いているだけで耳が痛くなりそうだ。
キク先輩は長い話を終えた後、表情が固まっている私を見てか笑い始めた。
「はははは! 緊張することないって。クニイサ先生に事前に教えてもらいに行ってごらんよ。一から十まで教えてくれるよ」
「じゃ、明日にでも聞いてきます」
「うん。その心意気だよ!」
その後生徒会室につき、キク先輩は生徒会長のカツラギ先輩と話し、私は静かに正座して待った。すると先程から一人で将棋をしていたツツジ先輩が突然将棋の手を止めて私の隣に何も言わずに座った、
え、えーどうすれば良いんだろう。
その後ツツジ先輩とは何一つ会話は無く、八時前になって校門前に移動して中学生とその保護者たちを挨拶して迎えた。
基本的に偏差値が低い農業高校に来るのは基本的にガラが悪い人が来ると偏見を持っている人がいるけど現実はそうではない。意外と天然で陽気かもしくは内気で話しやすい人が多い。たまにやばい人がいるけど。
そのため今私の前を歩き体育館に向かって歩いている。そしてその列は1時間ほどでだいぶ人が減っていき、そろそろキク先輩と生物工学部に向かおうとした時、ようやくミコミさんが歩いてきた。
ミコミさんは一人だけのせいかぎこちなく歩いている。
あ、一瞬だけ目があった。
しかしミコミさんは私を無視して顔を赤くして早歩きで体育館に向かっていった。振り返ると後ろでキク先輩が私の肩に手を乗せた。
「なるほど〜。あの子がウズメちゃん一押しの子ね」
「あ、そ、そうなります」
「ああいう子こそ。うちに来て欲しいよね。反応が可愛いし心が癒されるよ」
キク先輩はケラケラと楽しそうに笑いながら私の脇腹を触り笑わそうとしてくる。
我慢だ我慢っ……!
それから私はキク先輩と共に生物工学第一実験室に行き、中に入った。そこにはちひろさんとワラの他にスズカさんたち二年生が体験授業に参加する生徒たちが座る机に顕微鏡を起き、プレパラートを設置などをした。
チヒロさんは私に気づくと「あ、荷物は準備室です」と教えてくれた。
私は控え室に荷物を置きに行き、準備を手伝う。
するとその後、まさかのツツジ先輩が用意が終わってから入ってきた。
ついツツジ先輩を見ると睨みながら「何見てるのよ」と嫌そうな声を出した。そのままツツジさんは準備室に入っていった。
私が固まっているとチヒロさんが気を遣ったような顔で私の隣に立つ。
「別に気にしないで良いですよ。先輩は気を使われすぎるのが嫌いなので親しくした方が喜ぶんです」
「あ、そうなんだ。え、チヒロさんは怖くなかったの?」
「逆に怖くないと?」
チヒロさんは澄んだ目で私を見た。なるほど。最初は怖いけど話したら怖くない感じか。そんな私に気を遣ってかキク先輩は軽く笑う。
「そうだよ。怖いと思うから話したく無くなるの。話すのが怖くなると余計に話したく無くなるから話すときはどっと行かないと」
そんな会話をしていると準備室からツツジ先輩が顔を出すと私を見た。
「ウズメさん。早くこっち来る」
「え、ひゃい!」
私はぎこちない早歩きで準備室に入っていった。
準備室に入ると机の上には本来出す必要のない顕微鏡が机の上に6台並べられており、ツツジ先輩は顕微鏡に指を差す。
「——体験授業ここ人が多くなるからあまりはここで待機」
ツツジ先輩がそう口にした時準備室にスズカ先輩が入ってきた。先輩は私を見ると驚いた顔をした。
「あ、ウズメちゃんごめん! 言い忘れていたけど今回前回の反省で二人に顕微鏡の管理をお願いしているの」
スズカ先輩は中に入るとツツジ先輩の頭をゴシゴシ撫でた。
「まぁ、この子すっごく怖そうで口下手だけど言いたいのはそれだよ。ほら、ツツジはっきり伝える!」
ツツジ先輩は面倒くさそうにため息をつくとゆっくり教えてくれた。
「去年古い顕微鏡がほとんど故障してレンズが汚れていたり倍率を変えようにも歯車が動かなかったりしていたからウズメはその管理役。一応昨日私が見て動くやつは並べてあるから万が一体験授業で使われているレンズが汚れていたらすぐに交換して」
「あ、はい!」
私は腹から声を出して返事をするとスズカ先輩は安堵の息を漏らすとツツジ先輩から離れた。
「まぁツツジ。この子らが二年に進級したらウズメちゃんたちの研究を補佐してあげることになっているんだから少しは優しくね?」
「——分かったから」
スズカ先輩はその言葉を聞くと「じゃ、頑張って」と口に出して準備室から出てき、準備室に私とツツジ先輩の二人が放置された。
気まずい空気が流れたまま1時間が経過し、続々と実験室に中学生たちと思われる声がゾロゾロと聞こえてくる。
まずい、緊張してきた。
するとツツジ先輩に背中を撫でられた。
「緊張しなくて良いから。私が見たから取り替えがないと思うから安心して」
「あ、ありがとうございます」
なんだろう。ツツジ先輩は相変わらず顔が怖いけど……意外と優しいかも。
それから実験室で先生が授業の概要を話しているのが控えの準備室にも聞こえる。そして中を少しだけ覗く。
授業の内容は顕微鏡で菌を観察するだけだから大丈夫なはずだ。順番は酵母を見てその後は麹菌、納豆菌の三つ。どれも安全なのだから生物災害は確実に起きないし……。
「ウズメ。多分何人かレンズ汚すからこれが終わったら一つ一つしっかり見て」
「あ、はい」
被害を受けるのはどちらかというと私たち部員のようだ。
さらに教室の中を見ると隅っこの方でミコミさんが顕微鏡の筒を覗いて観察していた。なんとか大丈夫だと良いけど。
それから観察対象は酵母、麹菌、納豆菌へと移っていき、授業が終わった。体験した中学生は満足そうに帰っている中、ミコミさんだけがどこか不燃焼気味な顔で教室から出ていった。
「ほら、早く。片付ける」
私はツツジ先輩に言われるがまま教室の中に入る、顕微鏡を片付ける。そしてミコミさんが使っていた顕微鏡を片付け良いとした時自然と手が止まった。
——そういえばどうしてミコミさんなんか不満げだったんだろう。
私が手を止めたのが目についたのかチヒロさんが「どうかしましたか?」と声をかけてきた。
「ううん。これを使っている子がちょっと満足してくれていなかったから気になって」
「たまにいますよ。けど、最初は菌を見て何が面白いのかなって思いますけど菌の構造を知ると見ていて楽しくなってきません?」
「まぁ、一理あるけど……」
チヒロさんには悪いけどミコミさんの場合は何か違う。
私は顕微鏡を電気をつけて覗くと先が真っ黒だった。いや、かなり汚れて見えなかった。
レンズを変えてみると倍率が小さいのが見えて大きいのが見えない。
もしかしてミコミさん、菌見えていなかった!?
「う、ウズメさん?」
「チヒロさん。試しに見てくれる?」
「え、はい」
チヒロさんも顕微鏡を見ると顔を真っ青にした。
「わ、私見ましたけど最初こんなに汚れてませんでしたよ!?」
チヒロさんは顕微鏡を覗いたままそう口にすると早歩きでツツジ先輩が来た。
「待って今汚れてるって言った?」
ツツジ先輩は優しくチヒロさんを押しのけると顕微鏡を覗き込んだ。ツツジさんはしばらく無言になった後ゆっくり顔を上げた。
「気にしなくて良い。いつもみたいに中学生がうっかり汚しちゃっただけだから」
ツツジ先輩はそういうと顕微鏡を箱に戻した。
「ほら、手を動かす。確かに備品を汚すのはダメだけどみんながみんな完璧じゃない。完璧を求めすぎたら損するだけだから」
ツツジ先輩はそう口にした後顕微鏡を準備室に片付けにいった。私とチヒロさんはお互いの顔を見合わせた後、顕微鏡を一つ一つ確認し汚れているやつは後日綺麗にするため分けて片付けた。
その後は特に何も無いため、帰ることとなった。チヒロさんは習い事があるらしくワラと帰ることとなった。
ワラは相変わらず無口だったけど試しに体をくっつけたら少し驚いたのか私を見た。
「ウズメ?」
「あ、嫌だった?」
「別に」
ワラはそう口にすると本当に嫌がらず逆に私の手を握った。
えっと、この後どうすれば良いんだろう。
「ウズメ、止まって」
「え?」
ワラに言われるがまま足を止め商店街を見ると改札前でミコミさんはあたふたしていた。ワラとしばらく見合った後ミコミさんの元に向かうとミコミさんは私の顔を見て暗い顔で俯いた。
ワラはその反応で気づいたのか優しい声色とミコミさんに声をかけた。
「ミコミどうした?」
「あの、兄さんとウズメさん……」
それからミコミさんと一緒に改札を通り電車に乗る過程でミコミさんは話してくれた。ミコミさんはつい操作を誤って顕微鏡を汚してしまったが、怒られるのが怖くそしてなおさら人がいる場所で一人怒られるのが怖かったようだ。
そこで何も言えず一人であたふたしてしまったらしい。
ワラはそれを聞いても怒っている様子はなく、むしろ話してくれて嬉しかったのが満足げな顔をしているように思えた。
「ミコミ。それは怖くても早く言うべき。確かに完璧で無いと怖いのはわかる。だけど完璧にこだわると失敗に対して恐怖を抱いて手が負えない大きな失敗に繋がる。今回は不注意が原因だけど」
ワラは静かにミコミさんに話す。ミコミさんは萎縮してしまっているのが小さく見えた。よし、ここは私がなんとか補助しないと。
「ミコミさん。不注意だったらこれからはしっかり気をつけることだけを覚えれば良いから。報告、連絡、相談は大事だからもし何か失敗してしまったら必ず先生に話して謝る。確かにワラに恥を欠かせたく無いのはわかるけどワラも驚くから——ね?」
試しにワラを見るとワラは首を傾げた。
あ、そう言えばワラはカバーガラスを割ったりシャーレ割ったり顕微鏡をたまに汚す常習犯だった。とは言っても部活ないだけで組で見れば一番少ないけど。
だけどミコミさんの表情はずっと変わらずそのまま何も話せないまま分かれた。
家に帰った後私はちゃぶ台の上に置かれた昼ごはんを温めなおして口にしながら考える。
よし、どうすればミコミさんは学校は怖くないって思うのか考え直さないと。
そんな時、家の扉が開く音がして居間に仕事終わりなのか縫お姉ちゃんが入ってきた。
「あ、ウズメ帰ってきていたの?」
「うん。縫お姉ちゃんは仕事だった?」
「違うよ。ほら、ミコミちゃんに関しての用事」
「へぇー。あ、もしかして保健の先生について分かった?」
保健の先生。私が中学の時に助けてくれた恩人。だけどミコミさんを尾行していた犯人でもある。あの先生がどうしてそんなことを……。
縫お姉ちゃんは私の隣に座ると少し自慢げな様子でカバンの中に手を入れてガサガサ音を立てた後水筒を取り出し一気に飲み干した。
「とりあえずあの先生は無罪。聞いてみたらミコミちゃんに嫌がらせをしていた人が捕まったって報告に行っただけだったよ」
「え、そうなの?」
「そうだよ。それで逃げられて不登校になってしまった居間どうしようか悩んでいるの」
縫お姉ちゃんはそう口にした後私の方に手を乗せた。
「再来週、ミコミちゃんと一緒にウズメも私ときてくれる? その先生が話したいって」
「先生が……か。うん。話す」
私はあの保健の先生と話すことを決心した。そしてもし良ければ聞きたい。私みたいな子はどうすれば救われるのかを。
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