第35話 ウズメの新たなる始まり
ワラについ流れで告白して早くも数日が経って大晦日を前日に控える日にも関わらずチヒロさんとワラ、カマタくんと一緒に徳田神社の外れにある畑で朝一から作業をしていた。
今日は雪が積もっており畑も大丈夫かわからないけど、寒いと理由で昼ごろになって鬼のチヒロさんに駆り出された。
私自身大晦日は普通に家の中でまったりしているものだと思っていた。こたつに温まりながらみかんを食べ、今年はご苦労様と自分自身に伝える日だと思ってはいたんだけど。
私は汗を拭いながら野菜を収穫し計測するチヒロさんを見る。
もちろん計測しているのは私もなんだけど、目的はもちろんだけどある。
それは微生物由来の農薬で特定の植物にしか効かないものがあるのかを調べるためだ。そのため徳田神社の徳田サトミさんが趣味でしていた場所で部活動に使っている農薬を使って育てていたみたいだった。そのため収穫を手伝うという建前で調査をしている。
例えば水菜、春菊、人参、大根だ。
けど正直やるのなら一言ぐらい相談して欲しかったな。
もう収穫を終えて計測をしているわけだけど、今年はどうやら豊作みたいだ。それでそれぞれ分担して作業を進めている。
私は大根を計測しているけど、数値をまとめている表を見る限り全体的に平均より大きい。
「ねぇ、チヒロさん。生物由来の農薬って他に効果あるの?」
「そうですね。私たちがしているのは農薬というより、アブラナ科成長促進剤疑惑なのかもしれませんがね。そこで詳しく野菜に何か影響を与えているのかを今この畑で調べている感じです」
「ふーん。で、チヒロさんは水菜をしているわけだけどどう?」
「そうですね……正直キリがないです」
「だよね」
だってチヒロさんの持っている水菜、すごい密度だし一応直径と高さで野菜の数値はまとめているわけだけど水菜と春菊は計測しにくそう。
「お、ミコト見てみ」
「——」
隣を見るとカマタ君がワラに大きな人参を真顔で見せていた。
「これ、お前のより大きないか?」
「——ツノムがおかしいだけ」
「ふむ……こいつ動きづらくないのか」
カマタ君は何やら納得した。多分とんでもない卑猥な会話だったけど、私はお母さんにこういう会話は男子高校生ではよくあるって小さい時に教えてもらった。うん、お母さんが中学生の時に描いた春画で教えられた……うん。
「ウズメさん。あれなんの会話をしているんですか?」
「気にしなくていいよ」
「え、まぁそうならいいんですが。ニンジンの大きさを競うのって子供みたいでおかしいですね」
チヒロさんは純粋な笑みを浮かべた。
それから30分ほど計測した後、野菜を紐で慎重に括り台車三つに分けて乗せると私、ワラ、カマタ君とで運びチヒロさんはその隣を歩いた。
そして神社に運び終えた後サトミさんの他見慣れない同い年ぐらいの女の子がいた。
「あ、ありがとうございます〜。サトミ様から伺いましたよ〜」
「あなたは——」
その子はチヒロさんが何かを言おうとしたものの、台車に近づくと乗っていた野菜を持つ。
「白菜とかそれ以外にも言えるのですが、ヨトウガの幼虫はかなり面倒くさいのですよね」
「そうなの?」
その女の子は突然そう口にした。確かヨトウガの幼虫は白菜とかを食べてダメにするって先生が実習の時に話していたよね。
女の子はそういうと積み荷を下ろし、私たちを見る。
「あ、私は徳田サカキと申します。そちらのチヒロさんとは従姉妹で同い年なんです」
「え、そうなの?」と私はチヒロさんを見る。
チヒロさんは耳を赤くして顔を逸らしていた。
「ハァ〜初耳やな。ミコトははとこなんやし知ってたか?」
「——知ってた」
「だそうや」とカマタくんはあたかも知っていたかのようにドヤ顔をする。
「ワラ、それ本当?」
「一度挨拶に来ていた頃があった」
「そうなんだ」
「——てっ、君ミコトくんてもしやあのミコトくん!?」
サカキさんはワラを見ると嬉しそうに駆け寄ろうししたけど咄嗟に出てきたチヒロさんが止めた。
「あの、サカキさん。一応ヒビワラさんとウズメさん付き合っているので……」
「え?」
「それと今部活動中なんで」
「あ、うん……」
サカキさんはどこか悲しい顔を浮かべた後野菜を持って徳田神社に戻っていった。
これからどうするんだろう? チヒロさんは測定した後もやるとは言っていたけど詳しくは教えられていない。
「明日大晦日なんで今日はもう帰っても良さそうですけど……。皆さん正月はのんびりしたいですよね?」
「何かあるんか?」
「はい。一応測定の情報をまとめておきたくて。けど今サカキさんがいるので迷惑かなと」
「あぁ〜。ミコトの家は大丈夫か? なんならわいの家でもええで」
「問題ない」
「行けるみたいやわ」
カマタくんはそう言った。またワラの家に行くんだ。
チヒロさんは「ではヒビワラさんの家にしましょう」とみんなで移動を始めた。
道中ワラはカマタくんと喋っている中私とチヒロさんの間では無言だった。そんな時前でワイワイ喋っていたカマタくんが振り向いた。
「あーせや思い出したわ。サカキちゃんあの時の子や」
「あの時のですか?」
「そうそう。ミコトとわいが七歳の時、ツノムと三人で川で遊んでいたらミコトが海まで行くって言って勝手に船を出したんや——」
カマタくんの話はようやくすると七歳の時にワラとツノムくん、カマタくんの三人は川で遊んでいる時にワラが船で海に行きたいと言って川辺に置いてあった小舟を勝手に出して川を降った。
その時に溺れそうになっている女の子を助け、その女の子が水を吐いて息を吹き返した後再び小舟に乗って川を降ったことがあるそうだ。
で、サカキさんはどうやらその女の子と一緒に遊んでいたようで女の子がうっかり川の奥に行ってしまったのが原因らしい。
「まぁ、そんな感じや」
「——」
カマタくんが思い出しながら歩く中チヒロさんの表情が暗かった。
それからワラの家に着くと縁側にミコミさんとワラのお母さんのハナさんだ。ハナさんはミコミさんと将棋を指し、ミコミさんは眉間に皺を寄せていた。
「あら?」
するとハナさんが私たちに気づく。
「お友達?」
「うん」
「そう。お菓子とお茶どっちがいい?」
「部活動中。両方」
「そう。分かったわ」
「——兄さんおかえりなさい」
ミコミさんは挨拶すると部屋の奥に逃げた。
すっごく分かる。
ハナさんとワラは未気質なやりとりをした後。ワラは入っても大丈夫と言いたげな顔で私たちを見た。
私はなんとなくそれがあの家族の普通の会話だと思っており、カマタくんは慣れた表情だった。
「え〜と、今のはお母さん?」とチヒロさんが言う。
「うん」
ワラは淡白な返事をするとカマタくんは少し笑った。
「せやで。すっごく良い人でお菓子をたくさんくれるような人や。けど、今日はめっちゃ嬉しそうやったな〜」
え、あれかなり喜んでいたの!?
そんなやりとりをした後、ワラに案内され家の中に入るとワラの部屋に入った。ワラの部屋は予想通り質素であるのは縫お姉ちゃんに貰ったらしい犬の抱き枕と、難しそうな小説が詰められた本棚にガサツに置かれた書類だ。
チヒロさんは今日の研究資料を台の上に載せる。
「とりあえず今日は分担して野菜の種類別に葉の大きさと全長の平均値をまとめてください。はい始め」
この作業ではまず葉の大きさと全長の平均を求め、その後生育の差を見極める必要がある。今回この野菜には無農薬と農薬ありの2種類があり、農薬は世間一般で使われている微生物で作られたものだ。
「えっと大根はどれも同じぐらいかな? 収穫量はやっぱり農薬ありのほうがあるかな」
「ニンジンは少ないかな。他の野菜の方が多いいわ」
「——春菊はどれも美味しそう」
「水菜も……はい」
チヒロさんはあからさまに気分を暗くする。
「やっぱりどれも一緒です。けど、生物由来のであれば少しは多いのですよね。大根ですけど」
「うん。大根は農薬ありのほうが多かったよ」
するとワラは思い出したかのようにガサツな書類を漁った。
「急にどうしたんです?」
「これ」
ワラは一つの紙を置く。するとそこには放線菌による病害と書かれたものがあった。見た感じどこかの大学の論文を印刷したものだろう。
チヒロさんはその紙を手に取るとじっと見る。
「ねぇ、ワラ。これいつ見つけたの?」
「今日の朝。気になって調べたら出てきた」
「へぇ」
ワラって部活動とか言われた通りのことしかしてなさそうだけど、キッチリとやるんだ。
「——顔に何かついてる?」
「え、い、いや別に」
「なんやイチャイチャして〜」
カマタくんがここぞとばかりに茶化してくる。いや、別に変な気持ちで見たわけじゃないもん。
ワラは表情を変えずに私の顔を見て頭を撫でた。
「な、何?」
「子犬みたいな顔」
「——っ!」
いや、狼だし! と突っ込みたかったけど耐えよう。うん。それにチヒロさん何も言わないけど眉間を震わせているあたり怒っているだろう。
「なるほど。分かりました」
チヒロさんは読み終えたのか紙を置く。
「これも視野に入れるべきですね。だけど、ダイコンに害を与えた放線菌、今回使ったやつと同じですけどもう一度大根を調べましょう」
「え、うん——」
「お菓子持ってきたけど、食べる?」
振り返るとお盆にお菓子の煎餅を乗せたハナさんがやってきた。
「あ、皆さんこちらにお住まいだったんですか?」
それと同時にササ先生がやって来た——。
それからササ先生がどうやら農業をしていたことが分かり、というか確かにワラの家の近くに畑があったからしていない方がおかしいのかも知れない。
で、この後ササ先生は私たちが調べる予定であった大根や水菜を見て病気かそうではないかを今まさに見てもらっている。
おまけにハナさんも協力してくれて見てくれている。
「うーん。どれも病気は大丈夫そうですね。むしろ健康的で良い大きさですよ」
ササ先生を大根を凝視しながらそう言う。
「けどチヒロさん。こういう他の方に協力をお願いする際はきちんと先生に話してくださいね」
「す、すみません……」
チヒロさんは少し縮こまる。
「とりあえず協力してもらったことはきちんと発表の際に報告することです。私としては立場上これ以上言えませんので」
「はい……」
ササ先生はそう言うとワラを見るとさっきまでしていた真面目そうな顔を崩し抱きしめた。
「いやーこんな真面目な研究しているなんて皆さん真面目ですね〜。カマタくんもミコトくんのこといつもありがようございますね」
「いやーわいの方こそいつも面倒見てもらってるんでおあいこです」
カマタくんは照れながら頭を描き、私の隣ではチヒロさんが少し引いためでササ先生を見ていた。
「き、教師と生徒がこんなに密着……。え?」とチヒロさんはかなり困惑していた。
えっと部活動はもう終わりかな?
「チヒロさん。部活動まだ続ける?」
「いや、もう資料まとまったんで帰っても良いです——帰りますかはい」
「え、もう帰るんですか?」
ササ先生は今まさに帰る支度をしている私とチヒロさんを見る。するとカマタくんは「わいらあんま部活動でもじっくり喋らんのやからのんびりしようや」よ言った。
まぁ、確かにしゃべっているけど普段のんびりしながら話していることはなかったと思う。
「では、少しだけ……」
私は帰る支度を一度中断し、ハナさんが持って来てくれた煎餅を食べた。
あれ? 今気づいたけどハナさんいつの間にか部屋からいなくなっているし。
「では、私は少し手伝いがあるんで台所に行きますね」
あ、お節料理か。
ササ先生はそう言うと部屋から出て行った。それから暫くしてワラが私を見て、立ち上がると部屋から出た。
なんだろう?
「ごめん、ちょっとトイレ」
「よう気づいたな。あれ、ついてきての合図やで」
「え、そうなんだ——」
カマタくんはそう言った。これ普通に知らなかった。私は部屋から出るとそこにワラがおり。私はそのままワラについていき一度家から出た。
「ねぇ、どうしたの?」
「チヒロが暗いかをしていたの気づいていた?」
「え、まぁどこか暗い感じは」
「そう」
ワラはそういうと池の前に立ち、泳ぐ鯉を見る。
「もしかして暗い理由知っているの?」
「多少」
「なら、教えて?」
私がそれを言ってから、ワラは言葉を選んでいるのか少し黙る。そして、ゆっくりと話し始めた。
「実はサカキさんに突き飛ばされて川に落ちたって勘違いしている」
「——え?」
「俺もあまり昔のことは覚えない。けど、知っているのは足を滑らせていたチヒロ」
「もしかして落ちるところ見ていたの? いや、確かあの時ワラ——。意味不明に川を降ってたから偶然遭遇した感じ?」
ワラは頷く。
なるほど、こっちはミコミさん関連の問題の他に、チヒロさんの人間関係に関した問題があった訳か。
なるほど、正直面倒になりそう。
「で、ワラはどうしたいの? 知っていたらワラの口から言えば良いはずだし。言わないと言うことは何か理由あるの?」
「言ってもいい?」
「うん。言わないとわからないし。教えて?」
「——中学生の時サカキさんに告白されて振った。それからここに来て徳田神社に言った際にチヒロに会って、告白された後にはとこなのを伝えた」
ふむふむ。言葉足らずのわらの言葉を整理する感じ、告白されて振った後だから自分から話すのは恥ずかしいと。
けど、チヒロさん私とワラが付き合っているの知った素振りしていたはずなのになんだろう? いや、付き合ったのは最近だから多分告白したのは私が帰省する前のはず。
だけど、いやまさか……。
「ウズメ?」
ワラは首を傾げなら私を見る。
「あの、もしかしてだけど……二人ワラを取り合っている疑惑とかない? ワラが私と付き合っているのを知らなくて」
「正解」
「いやいや正解なってほしくなかったんだけど今の!?」
どうやら、一年生の時は霊的な何かとの戦いから、二年生は恋愛や人間関係になりそうな予感が漂った。
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