第31話 先輩の助言

 学生生活で一番嫌な季節は冬。

 寒い中校庭をぐるぐる走らされ、ただでさえ悴んで感覚が鈍くなった手で鉛筆を握って試験の問題を解かないといけない。正直まともに文字を書けるはずがない。

 まぁ、いろいろ言った後に言うのはおかしいけど冬ほど幸福という嫌からかけ離れた時間が来ることがある。

 そう、冬休みだ。

 冬休みは合法的に家の中でのんびりと温まることができるという幸せな時。


 だけど今の私はそんな暖かい場所にいるはずもなく釣り堀にいた。

 釣り堀は家がある華鳥ケウから北西にある若命高校からさらに西に三十分のところにある。

 そこで私はキク先輩の隣に座って釣り糸を垂らしていた。キク先輩は大学に合格しても今までのように研究に勤しみ、生物芸術の制作も継続していた。

  キク先輩は長い黒髪を風に靡かせながら釣りに集中している。


 「あの、今日はありがとうございます……。相談に乗ってくれて」


 「ううん。気にしてないよ。それにウズメちゃんが相談って珍しいね! 何かあったの?」


 「えっと、相談というか……少し悩み事というか……」


 「なるほどね——よし、釣れた」


 キク先輩は竿を持ち上げると大きな魚が見事に針に引っかかっていた。キク先輩は魚を桶に入れるとまた池に糸を垂らした。


 「この時期だったら進路関連かな?」


 「——まぁ、そうですね。キク先輩ってどうして後輩のためにこんなに優しくしてくれるんですか? 私としてはありがたいんですけど……何というか私だけそれ以上に優しいという感じがして」


 「あーね。まぁ、ウズメちゃんはまるで私みたいだからさ。ちょっと見ていてほっとけなかったんだよ」


 「そうなんですか?」


 「そうだよ。私は高校に入った当初はもうただの勉強バカで対人関係の築き方なんて知らなかったよ。もっぱら規則通りにしか動けないみたいな感じだね。だけど私はシャーレで一度授業中ふざけて絵を描いちゃってそれでできた模様がすっごく綺麗だった——」


 「え、ふざけたんですか? 真面目だったのに?」


 「いや、私もあの時なんでしたのか分からないよ。多分この頃には高校の空気に飲まれていたね。——あれをした時はとってもビクビクしてたけど正直楽しかった。あの経験で私は生物工学部に入って生物芸術をしたんだよ。——もちろん、放線菌を引き継いだからそれもしながら」


 「——そうだったんですね。けど、あれはスズカ先輩に押し付けてませんでした?」

 

 すると私の竿が引っ張られた。私は立ち上がると必死に持ち上げる。そして大きな魚を釣り上げた——ナマズだ。

 

 「おぉ、大きなナマズだね」


 それから昼まで釣り堀でのんびりと時間を過ぎし昼になった。


 「そろそろ昼だね。相談はこれだけだったの?」


 「え、あぁっ! まだあります!」


 キク先輩は少し困った顔をする。


 「えっと私この後高校で用事なんだけど……なんなら一緒に来る? むしろ行った方がためになりそうだよ」


 「あ、えっとすいません……」


 「謝らなくてもいいからさ! ほら行こ!」

 

 私はキク先輩に腕を掴まれてそのまま若命高校に向かって引っ張られた。もちろん釣具を返してから。

 高校に着くと校門前にタコに良く似た校長先生が立っていて、キク先輩に気がつくと職種を全力で振った。キク先輩はそれに応えるようにして笑顔で手を振った。


 「チトセ先生こんにちわ〜。遅れました?」


 「遅れてないよ〜。おや? どうしてウズメさんが?」


 校長は私を見るとキョトンと頭を横に傾けて困惑しているということを表現する。校長先生自体少しというか当たり前かのように宙に浮いている。

 キク先輩は「私が連れて来たんですよ」ととりあえずの説明をしてくれた。

 その説明を受けてか校長先生は納得したかのように頷いた。


 「なるほどね。ウズメさんはこれ何かわかる?」


 「……嘘だと信じたいんですけど援交ですか?」


 「いや違うよ!?」


 校長先生はどこか衝撃を受けた顔をする。だって校長先生、毎朝駅前でやらしい触手で脚を撫でてくるから少し警戒されてもおかしくないですよ。

 けど理由はもちろん危ない取引や何かされていないかの確認で男女共にしているみたいだけど白昼堂々とするのはいただけないということだけは知ってもらいたい。それかせめて校内でして欲しい。

 そんな私の言葉を聞いたキク先輩は今日で一番面白そうに笑った。


 「あははは!」


 「あの〜笑わないで〜」


 「——校長先生の自業自得じゃないですか」


 「もう!」


 校長先生は不機嫌そうな顔をして頬を膨らませる。どうやら早く何か話そうにしているからそろそろやめてあげよう。

 校長先生は少し咳をする。


 「とりあえずウズメさんが来るなんて珍しいね。連れて来たということはキクさんなりに考えがあったから?」


 「まぁそうですね。私もう卒業なんで高校の看板娘を誰かに譲らないとダメじゃないですか。そこでウズメちゃんを推薦しようかと!」


 「え、看板娘?」


 「あぁ、そうだね。そろそろ選ばないとダメだし人って可愛い子には性別関係なく寄ってくるものだからウズメさんが適任かも。けど前はスズカさんに譲るんじゃ無かった?」


 私の疑問に校長先生は気にせずキク先輩に話題を振った。キク先輩はというとどこか楽しそうに話す。


 「あ〜スズカは一応聞いたら嫌がったんですよね〜。可愛いのに。——まぁ、受験生になるということもあって忙しいからしょうがないです」


 「なるほどね。で、ウズメさんはどうする?」

 

 「えと、どうするって……言われましても……」


 「ウズメちゃん。なった方がオススメだよ。最初は恥ずかしいけど慣れたら人前に出るのも怖くなくなるし、人と話す機会が増えて楽しいよ」


 キク先輩は普段見る破天荒な先輩とは打って変わってしおらしくてまるで私が中学二年生の時に見たキク先輩そのものだった。

 キク先輩は確かに静かにしていればとても美人で女性が見ても惚れるのは分からなくもない。確かキク先輩は私みたいって言っていたけどもしかしたらしおらしい所がその計画の名残りだったのかも。

 だけど看板娘か。少し悩む。

 別に私は可愛いっていつも言われてるけどそういうのは疎くてよく分からない。


 「だって人と話すのは重要だよ。心開いたらその人に悩みが聞けるしそれを解決したら絆が生まれてくる。まぁ、そんな漫画みたいなことは滅多に起きないけど情報ぐらいは手に入れられるよ。そして悩みを聞く習慣を掴むだけでもウズメちゃんにとってはいい経験だよ」


 「そうですか……。看板娘って基本的に何をするんですか? 学校の広報のためだけならいいですけど」


 すると目の前で浮いていた校長先生が急に私の顔に近づいた。


 「ふっふっふ。それ以外にも体育祭や記念祭の時に歌って踊ってをしたり生徒会と一緒に生徒の質問答えたりするんだよ。あとは保護者会で配る書類の写真撮影やホームページに載せる写真とかだね」


 「……ん?」


 私は校長先生の口から語られた看板娘の仕事内容を頭に入れる。

 少し多くないですか?

 てっきり私は仕事量はさほど多くないだろうと思っていたけどここまで多いいと少し悩んでしまう。

 だけど聞いた限り色々と話しをする感じには聞こえないけど、多分キク先輩が言っていたことは看板娘っていう肩書を手に入れるだけでも話題になって話しかけてくる人が増えるということなのだろうきっと。


 私としては今みたいに友達と部活動して笑い合ってと言った生活だけでだいぶ満足。だけど確かに極端に他人と話す機会が少ないというのも分かる。

 現に一部の人としか話していない。実際に社会に出ると嫌というほど他人と話す機会が生まれるだろうしここはただでさえ実業高校だから社会に出るための術を学ばされる。先日の記念祭だってそう。あれは総合実習と言われる授業の一環なのだ。


 「さぁ? どうする? いや、どうせ嫌がりそうだしキクさん! 農場に連れて行くよ!」


 「はーい! カメラも呼んでおきますね〜」


 校長先生はそういうと私の腕を掴むと農場に向かって引っ張った。私は必死に抵抗しようとしたけど力で敵わない! 校長先生ってこんなに力あったの!?

 私は抵抗虚しく、農場に連れて行かれた。

 

 ——————。

 ————。

 ——。


 「さぁ! ウズメちゃん慎重に畝を削って! 雑草をしっかり叩く!」

 

 私はキク先輩の指示に従って畝間を慎重に歩き畝の側面の鍬の刃で雑草を抉るとしっかりと叩き生えないようにする。

 とりあえず冬場だから雑草はあまり生えていなかったのが幸い。

 現在私は校内にある農場の外れにいる。そこには聞く先輩曰く学校が広報に使う用の農地があり、そこで畝を整えている。


 ちなみに高校の農場は新年度になって学生が実習で使う畑は野菜を全て抜き終えたら機械で一から耕し直すみたいです。

 いや、そんなことよりどうして冬休みにわざわざ高校に来て作業しているんだろう。


 私はキク先輩を見る。キク先輩は拡声器を持って必死に私に向かって指示を出している。校長先生はいつの間にかいないし何故かキク先輩の横にカメラを持ったワラがいる。いや、なんでいるんだろう。


 私は雑草を刈り終えた後、崩れた畝を直していく。畝は崩れないようにしっかり形を整えないと。

 それから二十分ほど作業をして昼前になんとか終わる。そして畑から出てキク先輩とワラを交互に見た。


 「あの、終わったんですけど」


 「うん。お疲れ様。ミコトくん映像とれた?」


 キク先輩はそういうとワラは頷く。


 「よし! これで完璧ね!」


 「あの、これなんですか? あとワラはなんでここにいるの?」


 するとキク先輩は「あー!」と思い出したかのように大きな声を出すと申し訳なさそうな顔に変わる。


 「えーとウズメちゃん聞いてなかったんだ。ミコトくんもしかしてみんなに話してないの?」


 「親友二人と従兄弟一人は知ってます」


 「ふむ。まぁ、言ってもよかったんだけどね〜。ウズメちゃん。なんというかわかりやすくいうとね——」


 それからキク先輩は詳しく話してくれた。

 まず最初に推薦したのがどうやらササ先生みたいで、これまでササ先生が縫お姉ちゃんが仕事で自身の活動宣伝に使う映像制作にワラを撮影手にしたようで編集なども教えさせていたらかららしい。

 そこで最近まで校長先生が編集撮影していたのを笑に任せるようになったと言う。

 要するにワラは駆り出されていたと言うわけか。


 「そ、そうなんですか。ワラは嫌じゃないの?」


 「別に嫌いじゃない」

 

 「確かお兄ちゃんが映画監督でよくカメラ借りて撮影していたって話してたね」

 

 「——」


 ワラはどこか嬉しそうに頷く。え、ワラお兄ちゃんいたの!? そっちが驚きなんだけど。てかそう言うことキク先輩に話してどうして私には……あ、これが対人関係を作るのが上手い人と下手な人の差……。


 「いや何暗くなってるの!?」


 するとキク先輩は私の背中を摩った。多分無意識で背中を丸くしてしまっていたのだろう。

 

 「——大丈夫です。あの、キク先輩。私、広報を——看板娘やってみます」


 「——! そう、それは良かったよ!」


 キク先輩は今日いちばんの笑みを浮かべた。

 私はそれに釣られるように笑みを浮かべる。私は少しでも人との会話を怖がらないようにしないと——。


 それから私はキク先輩に看板娘の志とやらを一時間ほど叩き込まれ、気づけば昼を回った。その後キク先輩から校長室に行かないとと言われたためそのまま別れて笑と一緒に帰った。

 電車に揺られながら続く無言の間。最初はすごく緊張して話を盛り上げないといけないのかって緊張したけど今なら大丈夫。ワラは黄昏れるのが好きが人だからあまり気にしてない。間違っていたら申し訳ないけどそう言う気がする。


 けど、今私はキク先輩に憧れていたことに気づけた。だからミコミさんが困っているのはほっといたらいけないんだ。


 「あの、ワラ。今日ミコミさん——ミコミちゃんに会っても大丈夫かな?」


 「なぜ? 流石にミコミはまだ縫さんの嫁に出せない。」


 「それ縫お姉ちゃんが聞いたら泣くからやめて。違うの、あの、ミコミちゃんはさ、この間困っていたでしょ? その相談に乗ってあげたくて」


 「——そう」


 「ねぇ、だめ……かな?」


 「——大丈夫。ミコミも喜ぶ」


 ワラは承諾してくれた。——よし!


 「けどミコミは部活動でまだ帰らないからこの駅で降りて改札で待てば……」


 「ありがとね」


 「——」


 ワラは少し顔を逸らした。そういえばササ先生ワラのこと可愛いって言っていたけど少し分かるかもしれない。

 すると急にワラは腕を私の腰に回した。


 「——あの、恥ずかしいんだけど」


 ワラは私をでき寄せる。

 右頬にワラの着ている着物の感触が直接伝わってくる。徐々に顔が暑くなってくるのが分かる。なんだろう、変な気持ちに。


 「流石に春画みたいな展開は肌に合わない」


 「まさかの春画のやり方は現実にしたらどうなるのかの実験!?」


 「ウズメがどう言うのが好きか気になっただけ」


 「——っ! もう!」


 私は一人顔を真っ赤にしてワラから顔を逸らした。

 それから私はワラに先導されて駅を降りてミコミさんがいる高校を目指す。

 ミコミさんがいる中学校は蒼穹中学校と言い住宅街のど真ん中にあるらしく、生徒が悪さができないようになっているらしい。ただ、見通しが悪い場所がいくつもあるため不審者が度々出ているみたいだ。

 その説明を私はワラから聞き、正直言って苦笑いしかできない。


 「——絶対建てる場所間違えたよね」


 「歴史が古いから仕方がない。千年前からあったから移そうにも移せなかった」


 「えぇ……」


 予想以上に長かった。

 それから蒼穹中学の校門前に来る。ワラはミコミちゃんが緊張しないようにというか言いづらいことを言えないだろうからと物陰に潜んだ。

 そして十分ほど経って肛門からミコミちゃんが出てきた。ミコミちゃんは荷物を背中に背負って歩いてどこか足が重そうだった。

 私はゆっくりミコミちゃんの隣に向かって歩く。するとミコミちゃんは私に気づいた。


 「ウズメさん!?」


 ミコミさんは驚きのあまりその場にとまる。

 うん、これ間違えた。もしもキク先輩が横にいたら私も同じ反応をする。よし、ちょうどいい嘘で誤魔化そう。


 「ワラからミコミちゃんと一緒に帰ってあげてって言われたの」 


 「——ちゃんで呼んでくれるんですか?」


 「えっと、嫌だった?」


 「嫌じゃないです」


 「そう、なら良かった」


 会話はそれで終わり無言のまま歩く。

 何度か話しかけたりしたけど簡単な返しで済んでしまいなかなか発展しない。なんというか昔の私みたいに他人を怖がって会話を即刻打ち切る姿勢に見える。

 これは私も陥ったから分かるけど他人が怖くなったら治るまでかなり時間が掛かる。だから早くなんとかしてあげないと。


 「そう言えばミコミちゃんこないだ誰かが付き纏ってくるって言っていたよね? 犯人は捕まったの?」


 「——まだです」


 「犯人に何かされた? 言いずらいことだったら言わなくても大丈夫。その場合は犯人の特徴を教えて」


 「——その……湿った紙を渡そうとして来たり電車の中で揺れる度にお尻や胸にぶつかってきたり階段を登る際も私の裾の内を覗こうとしてきて……この間は——息を荒くして私の後ろを息を荒くしながら歩いていて……怖くなって走って逃げて」


 「あ、もう言わなくてもいいから」


 ミコミちゃんは自身を抱き抱えて体をプルプル振るわせる。顔は真っ青で本当に怯えているのが分かる。震えるのも寒いからじゃなくて人が本能的に警戒している合図の方だ。

 私はミコミちゃんの背中を撫でる。


 「犯人の特徴はわかる?」


 「わ、分からないです。複数人いるのか、単独なのかも分からなくて……」


 「——大丈夫、怖くないよ」


 キク先輩なら今こうして涙を流している子がいたらどうするんだろう? 私かチヒロさんのお姉さんが勘違いで私にひどいことを言った時はキク先輩は自らと言うか私が知る前にとっくに行動に移していた。

 多分あれは知り合いも協力していたのだろうがあの行動力は私も持ったほうが良いのかもしれない。


 私が足を止めるとミコミちゃんも足を止めた。私はゆっくりとミコミさんを抱き寄せる。

 私は夢も目標も何も持てなかった。今までの人生はただ絶望していただけで何も見つけられなかった。

 私の場合はいじめだったけどミコミさんとは異なる。だけど、心を傷つけられていることを言えば同じなはずだ。


 「犯人は絶対見つけてあげるから」


 「ウズメ」


 顔を上げると物陰に隠れて見守っていたはずのワラが出てきた。それに釣られてミコミちゃんは顔を上げると顔を真っ赤にして私の後ろに隠れた。


 「いつからいたの?」


 ミコミちゃんは声を震わせながらワラを少し睨む。


 「最初から」


 「——兄さんに言いたくなかった。聞かれたくなかった」


 「——?」


 ミコミちゃんはワラに聞こえない声でそう口にした。

 もしかしてミコミちゃんはワラに言うと迷惑がかかると思っているのかな? だけどワラはきっと言ってほしいと思ってる。


 「ミコミちゃん。ごめん。許してくれる?」


 「——別に怒ってないです。だけどどうして私のために……」


 「——え〜と……。私に似てるからかな?」


 「え?」


 ミコミちゃんは首を傾げる。


 「私に似てるから助けたいだけかも。ワラは純粋にずっと兄として心配しているから一人で悩まなくても良いよ。ね、ワラ」


 「——」


 ワラはゆっくり頷いた。

 

 それから三日が過ぎた。あれから自分なりに探したりしたけど結局犯人の手がかりは掴めず。ミコミちゃんももう冬休みのため滅多に外に出ない性格なのと実家に帰省しているため進展しなさそう。だけど頑張って見つけよう。


 さて、今私は家の中でこたつに潜ってのんびり縫お姉ちゃんと一緒にテレビを見ている。

 もちろんミコミちゃんのことは縫お姉ちゃんに話して今調べてもらっている最中。


 「ねぇ、縫お姉ちゃん」


 「ん? どうしたの?」


 「ミコミちゃんに付き纏ってた人見つかった?」


 「う〜ん。候補はいるけどまだかな」


 「候補?」


 「そう候補。とりあえず警察にも相談したけどまだ分からないみたい」


 「そうなんだ……」


 私はお茶を飲む。


 「けど、ウズメが自分から誰かのために動くなんて、成長したね。やっぱりキク先輩だっけ? ウズメが良く話す先輩」


 「う、うん」


 「ウズメは将来何になりたいか決めてる? ボクは学校の先輩じゃないけど、先に生まれた人生の先輩としてなら相談に乗れるよ? 確か三者面談ではまだ決めてなかったんだよね?」


 縫お姉ちゃんは私の頭を撫でる。

 正直私はいつになったら子供扱いされないのだろう。いや、それよりも——。


 「私はキク先輩や、縫お姉ちゃんみたいに誰かの為になりたい。心の癒しを作りたいというかそんな感じかな?」


 「ふむ。良いと思うよ。だってウズメ中学の時引きこもってたけどなんだかんだお母さんとお父さんの創作活動に一緒に参加してたでしょ? そこで絵本とか書いてたんだしボクは良いと思う。あとはお母さんやお父さんに相談だね」


 「……うん!」


 すると縫お姉ちゃんはゆっくりこたつから出ると私の頬を摘んだ。


 「けど正しい男女交際しようね? ミコトくんと電車でイチャイチャしてるの見えてたししかも体弄りあってたのも見えてたよ」


 「の、乗ってたの!?」


 縫お姉ちゃんの顔はどこか怖かった。これからは屋内でやれと言うことだろう。

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