第28話 決戦、記念祭!!

 記念祭はあの後もなんとか平和的に進行しつつも私は理事長のチカさんともに何故かお店を回っていた。

 チカさんはあたりを警戒しつつ割と人気が少ない場所を歩く。


 けどこの高校は広い分たくさんの人が入ることができてしまうためどこに行っても人混みがある。

 例えば味噌の販売所や野菜販売所。観葉植物や盆栽などを売っているところなんて長蛇の列だ。


 「う〜ん。こんなに人が多いと流石に白鬼の場所は分からないわね」


 「え〜と。チカさん。ずっとツッコミを入れたかったんですけど……チカさんて何者ですか?」


 「え? ウズメさんのクラスの担任のササの姉」


 「いや、そうじゃなくてササ先生の姉ならどうしてササ先生の数々の悪戯に気づかなかったのかなって。例えばえ〜と。あまり覚えていないんですけどお札で騙されたとか人の気持ちがわかる道具に騙されるとか……」


 「あーそれは本当にわからなかったの」


 チカさんはそう口にすると体を伸ばした。

 

 「本当は私とササの家のしきたりでね、本当なら修行をするのは私だったんだけど、私はどうしても教師になりたくってあの子に投げたみたいな感じなの。だけど、基礎だけはしたから少しはできる。ただそれだけだよ」


 「そうなんですか……」


 だとすればチカさんは本当に教師になりたくてここにいて——だとしたらササ先生の無免許教師よりも下手なあの教え方、納得できてしまう。一応理系関連は文章にしたら一番わかりやすいんだけどね。


 「じゃ、ササ先生はどうして先生に?」


 「——聞きたい?」


 チカさんは私でも分かるぐらい気まずい顔をする。ササ先生は本当に何をしたんだろう。


 「簡単にいうと昔はあの子かなりの引きこもりだったけどなんだかんだ言いながら縫さんと一緒に修行して社会を経験したとはいえ不安だから無理やり働かせてるの」


 

 「——そうなんですか」


 チカさんの顔はどこか嬉しそうだった。多分妹の成長を目の当たりにして喜んでいるのだろう。

 いや、そんなことはいいの。この後どうするか。私は白鬼についてどうにかしないといけない。

 これはとりあえず戻った方が良いよね。


 「ではチカさん。私は戻っても大丈夫ですか?」


 「え、うーん」


 チカさんは腕時計を見て少し考えた後私に視線を戻す。


 「うん、良いよ。だけど変な人に話しかけられてもついて行かないこと」


 「あ、はい」


 私は軽く返事をするとその場を後にした。


 そして私は組の天幕に戻るとすごいことに小さな子供達が群れをなしていた。そこではアサノさんが必死に接客と集計をしてチヒロさんは後ろで裏方として受け取った金券を集計表にのりで貼り付けている。


 私はスゥーと静かに子供達の後ろを通ると子供の一人が私を見た。


 「あ! 狼さん!」


 そういうと一斉に子供達の目が獲物を見る視線になった。


 「え」


 私はアサノさんを見る。


 「——」


 「——」


 「——頑張って」


 アサノさんは今までに見せたことがないであろう鮮やかな笑みと言葉を私に向けた。

 私はそのまま子供達のおもちゃにされた。

 その後割烹着の中に入られたりしっぽをもふもふされたり抱きつかれたりしたけどなんとか耐え切った。

 私は畦を拭うと天幕の中に入った。


 「もう、アサノさん助けてくれても良かったのに」


 「いや、あの顔はもう無理。少しは子供と触れ合って様々な年代と触れ合うことに慣れた方が良いでしょ? この高校の記念祭は青春を楽しむんじゃなくて商いを競い合って飽きられない面白い商いを実践する実業高校ならではのものだし」


 「それを言われたら反論できないんだけど」


 「まぁ、いいけどさ。そうだチヒロを読んできてくれない? 教室に補充する分のお菓子持ってくるって言って戻ってきてないから」


 「え、チヒロさんが? うん。分かった」


 あのチヒロさんが戻らないなんて。チヒロさんもやっぱりこの高校で結構変わるんだ……。

 私は反ば失礼なことを考えつつ、心の中でチヒロさんに謝罪しながら教室に向かって歩いた。

 校舎内はあまり人がおらずいると言っても私たちの組と同じように教室にものを取りに来ていたりした。


 とりあえず教室の扉を開けると中にはチヒロさんがいた。チヒロさんは窓から外を眺めていたのを中断してゆっくりと振り返る私を見た。

 チヒロさんはゆっくり私に近づくと突然抱きついた。

 

 「え、えどうしたの!?」


 「ヒビワラさんは見てませんか?」

 

 「見てないよ?」


 「そうですか……」


 するとチヒロさんの手が私にお尻にくる。そしてどこか変な手触りで撫で始めた。


 「何してるの?」


 「分からないんです……ウズメさんを見るとどこか胸が苦しい感じが……」


 なんだろう。気のせいかチヒロさんの息遣いが荒くなっている気がする。

 そしてチヒロさんは急に私の首筋に口を近づけると何故か咥えた。私は自分の手で声を押さえる。


 「——はぁ、はぁ。ウズメさん。私、どうしたんですか?」


 「私が聞きたいかな?」


 「——もう我慢できません」


 「え、ちょっと!」


 チヒロさんは私を抱き抱えると机の上に乗せる。


 「私と、一つになってくれませんか?」


 「——」


 チヒロさんは頬を染めながらそう言った。なんだろう。これは本当にチヒロさんなのかが疑わしくなってきた。

 だって現に今チヒロさんは息を荒くして私を見ている。

 チヒロさんならするにしてもかなり遠回しで難しいことをしてくるはず。

 そこから考えるとチヒロさんはこんなに頭が悪くないからこれはチヒロさんの偽物!


 「ウズメー。——なにしてるの?」


 「ウズメちゃん! ——ふぇ?」


 「ウズメ——ひゃん! 破廉恥!」


 「ふぇ?」


 横を見るとおかっぱ頭の前髪を綺麗に切りそろえた双子の私と同い年であろう二人と、真顔のアサノさんがこちらを見ていた。

 で、現在こちらは私は着物を捲られないように胸を両手で押さえて、チヒロさんは頬を染めながら私の脇に手を挟んでいた。


 「あ、助けて……」


 「——あんたらやっぱそういう関係——」


 「違うから!」


 「だよね」


 アサノさんはそういうと片手を上げる。すると後ろから忍びのような黒い着物と雑巾で顔を隠したキュッと体が引き締まった人が現れると懐からお札を取り出した。

 

 「——ウズメさん!」


 チヒロさんがそう口にして私の胸元に顔を近づけようとすると——。


 女の子の顔から一番してはいけないかなり大きい乾いた音がチヒロさんの顔から聞こえる。

 チヒロさんの顔にはお札が貼られ、無言のまま後ろにえびぞりになり、そのまま倒れるところをその忍びの人が助けた。


 「——アサノ考案。仕事人作戦」


 忍びの人はワラによく似た声を出しながらよく分からないことを口にする。

 ワラに似た?


 私は忍びの人が顔につけているものを取る。その顔はまさにワラだった。


 「ワラ!? 何してるの?」


 「——」


 私は着物を直しながらを起こしてワラと視線を合わせる。ワラはまるで困惑したかのように私を見る。


 「え〜と。なにしてんの?」


 「助けに」


 「いや、その服装。どうしたの?」


 「カマタに着せられた」


 「——う〜ん。分かったそう言うことにするけど……」


 チヒロさんを見るとチヒロさんは気持ちよさそうに眠っていた。

 するとアサノさんとおかっぱ頭の二人組がやってきた。


 「いや、ウズメ? これどう言う状況?」


 「混沌とした状況。もしくはなにかしらに憑依されて発情した友人に貞操を奪われそうになった状況」


 「なにその春画みたいな本の題名にありそうな言葉は。ほら立って」


 私はアサノさんの手を借りてゆっくり席から降りる。


 「ウズメちゃん!」


 「きゃっ!」


 すると突然あかっぱ頭の二人組に抱きつかれた。その子達は私を涙目で見ていた。


 「久しぶりだね、ウズメちゃん」


 そのうちの一人は私を見てそう言った。

 

 えっと、誰だっけ?


 「ほらっ! たっちゃんに会ったよね! マロだよ!」


 「あたしはマコ!」


 「あ」


 私は二人をよく見るとそれぞれどこかしら面影が残っていた。


 マロちゃんは目の下にホクロが。そしてマコちゃんは化粧もしていなく、着物もどこか少し汚れているズボラさがある。

 私の知り合いでその特徴を持つのは記憶で二人しかいない。


 そう、彼女たちは私が前に住んでいた安雲の幼馴染だ。


 「あ、マコちゃんとマロちゃんだね。覚えてるよ?」


 「だよね! 良かった!」


 マロちゃんは嬉しそうに飛び跳ねる。

 多分マロちゃんもたっちゃんと同じくいじめっ子を探しに来たんだろうね。


 「この子らウズメを待ってたんだよ。ウズメを一旦店から離れさしてから数分後ぐらいに来たんだよ」


 「あ、そうなんだ」


 アサノさんが言うならあながち間違いではないだろう。


 「ねぇ、もしかしていじめっ子たちを探しに来てるんだよね? だったらどこら辺にいたとか知ってる?」


 「あ、うん! でもその子はいなかったの。たっちゃんはいるはずだって言っていたけど……」


 「あ? そうなの?」


 「——」


 「ワラどうしたの?」


 ワラは突然私とまこちゃんたちの間に入る。


 「いじめっ子は来てない。収監されて四十年は出れないから。ウズメの前に現れたのは白鬼が化けたものか、もしくはいじめに介入していないと嘘をついて収監されていない人物かの可能性がある」


 「——なるほど……」


 「けど、ウズメを探している人物がいた。『藍色の人狼はいるか?』って。俺も聞かれたけど嘘をついた」


 「あ、そうなんだ……。一応確認だけど。ちなみにどんな嘘ついたの?」


 「風俗の勧誘はお断りって答えた」

 

 「——いや流石にそれだったらもう追い出されてるわよ」


 私が黙っていると真っ先にアサノさんがツッコンだ。いや、ワラもワラでなにを言っているのだろう?

 ワラのことだから何か考えがあるはず、そう信じよう。


 「まぁ、取り敢えずウズメは店の手伝いしてくれる? 君たちは悪いけど邪魔になっちゃうから離れてね」


 「はーい! あ、ウズメちゃん! 冬休みになったら絶対に帰ってくるんでしょ!」


 マロちゃんとマコちゃんはそういうとこの場を後にした。

 さて、そろそろ行かないと。


 私はそう決心して店に戻った。


 ——————。

 ————。

 ——。


 記念祭は夕方の四時まで。そして現在の時刻は昼の一時。

 入場者もそろそろ帰り始めて私の組の店にやってくるのは組の友達の知り合いだけとなっている。

 ツボミちゃんも公演が終わったのか店の手伝いをしていた。

 さて、では私はなにをしているのかというと金券を切って収益表に貼り付ける仕事だ。

 金券は受付で買ってそれを使うことで記念祭で買い物をすることができる。


 「えーとゲームが金券三枚——」


 余談だけど私がこれをしている理由は接客が嫌だからである。


 「はぁ……あ、生物工学部の手伝いも忘れてたし絶対先輩に怒られそう……」


 「大丈夫です。私が説明してましたから」


 すると隣で集計をしているチヒロさんが私の重い腰を上げてくれた。


 「その代わりカマタさんが頑張ってくれていますからお礼をするんですよ。あと、キク先輩が閉場する三十分前に生物芸術展に来てくれって言ってましたよ。ほら、生物工学科関連部が出し物を売ったりしてる倉庫ですよ」


 「あーこの一本道の先にあるおっきな倉庫だよね?」


 「はい。それです」


 私は天幕の目の前にある大きな道を指差しながらそう言った。

 

 「あの、ウズメさんですか?」


 「はい?」


 上から声が聞こえる。

 顔を上げるとそこには背丈の高い髪を短く切り揃えた柄の悪そうな男の取り巻きに見える三人の小物そうな男が立っていた。


 ——えっと。誰? 営業妨害?


 「あの、ウズメさんですよね?」


 男はもう一度そう言った。

 チヒロさんを見るとチヒロさんも困った顔をする。


 「あの、困るんですけど。要があるのなら私が対応します」


 「あ、チヒロさん——」


 「こう言う人は怖くてもしょうがないので。——で、なんですか?」


 「えっと、ウズメさんと話したいことが……」


 「ダメです。彼女は仕事中です。お客様なら対応しますけど迷惑な客なら対応しません。お客様は神様ではなく契約の関係。買わないのならその方は購買契約見込み者で購入してから正式に購買契約受理者となってお客様です」


 「えっと——」


 男は困った顔をする。


 「じゃ、ゲームします。お前らもしろよ」


 「へ、へい……」


 チヒロさんの圧に負けてか四人は私に金券を渡す。えっと、千切ればいいんだよね。

 そう考えながら私は金券をそれぞれ十枚ちぎった。


 「え、ウズメさん! ゲームはどちらも二枚ですよ!?」


 「あ、間違えた! すみません!」


 「もうっ! なにをしてるんですか!」


 「あ、良いですって! 五回しますから!」


 男と取り巻きたちも争いたくないのか穏便に対応してくれた。えっと、この人たちもしかして優しい?

 するとゲームをしている取り巻きらを差し置いて大柄の男が私に近づくと急に頭を下げた。


 「あの時はすいませんでした!」


 「はい?」


 「俺の兄が中学でした蛮行。そのせいで先輩が引っ越して謝りたくても謝れずずっと後悔してました! 先輩がここにいるのもたっちゃんが教えてくれて、それで来たんです!」


 「あ、うん」


 なんだろう? もしかしていじめた人の弟? よく見れば取り巻きたちも見覚えが。だけどこの人たち私がいじめられても何も——。え、いや確か——。


 私は少し過去を振り返った。


 中学で教室で私は着物を無理やり脱がされ、殴られている時確かこんな声が聞こえていた。


 『もう流石に看過できない! やめろって!』


 『この恥知らず!』


 『この子をいじめるんだったら俺らをいじめろ!』


 そう言って止めた三人の男子が確か吹き飛ばされた。

 そのおかげか私の助けの声が保健の先生に聞こえ、助けに来るまで私は純潔のままことなきを得た。

 あれがなかったら私は自殺してたと思う。


 だけど止めた男子はここまでガラ悪かったっけ?


 「う〜ん。あの取り巻きの人らって?」


 「——あの方達はウズメさんを裏で助けようとしたけど、そのせいでいじめからきちんと助けれずにその謝罪をしたいって……」


 「——そうなんだ。けど、私はあなたを知らないけど。何か接点あった?」


 「——貴女は覚えてないと思いますけど、俺が小学校の時家の猫が行方不明になった時、家まで届けて——」


 あ、待ってどこかでそれした覚えがある。

 確か溝に猫又が挟まってそれを助けて、声を聞きながらその子の家まで送ったんだった。


 男は涙を流しながら説明を続ける。


 「俺はその猫が帰ってきのを玄関で見て、外を見ると藍色の髪をした人狼の中学生ほどの人がいて。お礼を言おうとすると声をかけると走って逃げてしまったんですけど、それを兄に話すとウズメさんだって……」


 「あぁ〜あった。うん確かにあった。だってその子私の体操服に変な液体つけるし体を触ってきたり悪口を言ったり殴ったりしてきたから怖かったもん」


 「え……」


 隣でチヒロさんはかなり引いていた。


 「あ、兄なんですけどウズメさんにその——色々と猥褻行為をあの日したので五十年は収容所から出れないみたいです」


 「なら良かった」


 私は安堵の息をする。

 あれ? 何かおかしい。


 「え、じゃ今日は純粋に謝りに? そこの取り巻き衆も?」


 「よっしゃ羊羹! あ、うん」


 取り巻きははしゃぐのをやめるとそう答える。私はチヒロさんを見る。チヒロさんのはだな少し青白く。今までと違って不健康的だった。

 これはかつて見たミコミさんの偽物みたいだった。


 「わ、私はもう怒ってないから気にしないで。だけど、あなただけでも謝ってくれてありがとう」


 「——っ! 本当に迷惑かけました! あ、それとこれを」


 男はそういうといくらがいっぱい入った袋を私に渡した。


 「あの後家族は離婚して俺をお父さんのとこに行って漁の手伝いをしてるんです! それで取れたいいやつなんで良ければ」


 「あ、ありがとね。じゃ、私は少し用事が——チヒロさんちょっとトイレに行こっか〜」


 「あ、ちょ、ちょっと!?」


 私はそう言い残すと学内で一番人気の少ないトイレにチヒロさんを連れ込むと個室に入れた。

 チヒロさんは戸惑っているけど多分演技。


 「チヒロさん。——いや、白鬼だよね?」


 「——あら? バレましたか」


 「だって肌白すぎだもん」


 「ふふふ。ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 「本物のチヒロさんを操ってワラをそっちの対応に回らせてさりげなく私の近くにチヒロさんに扮してやってきた。違う?」


 「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 「で、私と一つになろうと接触するにあたって私が男性に抵抗があることを察して一番なかのいいチヒロさんに扮した。そうでしょ?」


 「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 先程から白鬼は真顔でこちらをじっと見て笑い続ける。そろそろ怖くなってきた。


 「で、なにが目的なの?」


 「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 「答えて!」


 「ふふふふふふふふふふふふふふふ」

 白鬼は私に手を伸ばす。すると私の胸に触れる。

 私は白鬼の腕を掴む。


 「な、なにをするの?」


 「ふふふふふふふふふふふふ」


 「ひっ!」


 白鬼の目が落ちた。まっ頃の穴の奥にはなにも見えない。白鬼は私の首筋を笑いながら舐める。


 「ふふふふ。ふふふふふふふふふ」


 そして白鬼は私の胸に顔を当てると私の胸が光った。白鬼の青が私の胸に入っていく。


 「な、なに? やだ、怖い、怖い!」


 「はい、来ましたよー」


 私は耳元に懐かしの声が聞こえる。振り向くと個室のドアの空いた先にはササ先生と、顔を真っ赤にしたチヒロさん。目隠しされたワラがいた。

 

 ササ先生は白鬼を見る。


 「やはり。白鬼はチヒロさんに化けてましたか」


 ササ先生はそういうと白鬼の髪の毛を引っ張りw足しから無理やり話す。するとチヒロさんが悲鳴をあげてその場に蹲った。


 「え、あ! もしかして痛みも全て連結させてます!?」


 「ふふふふふふふ!」


 「——ダメです。痛みを伴うことをしたら警察が来て教員免許不所持で多額の賠償金がします。なんとかしないと」


 「ササなんかいった?」


 「いいえ、なんでも?」


 白鬼は笑いながらササ先生に飛びつく。ササ先生はトイレで避けながら策を講じる。


 「痛みがダメならどうするか。あ、そうです! ミコトくん! もしかしたら白鬼はチヒロさんと心が今繋がってます! 多分ウズメさんに対して何か思っていた、知らない間に白鬼とくっついているのかもしれません! 口付けしてください!」


 「不純恋愛」


 「もうっ! 私がやります! チヒロさん!」


 「え?」


 ササ先生の声に我に帰ったチヒロさんの首筋にササ先生は口をくっつけた。チヒロさんは徐々に顔を赤くする。


 「——っ!」


 それから少ししてチヒロさんは顔を真っ赤にしてその場に倒れ、偽物の方は悲鳴を上げながらそのまま大量の煙を全身から放出して蒸発した。


 「よし」


 ササ先生はどこか嬉しそうだった。

 ワラはゆっくりと目隠しを外す。ワラはなにが起こっていない顔をしながら耳栓を外した。


 「なにが起きてた?」


 「あ、なんかチヒロさんに白鬼が化けててササ先生が締めた」


 「——ということは後はウズメの中にいる個体だけ」


 「ですね」


 ワラがそういうとササ先生と一度顔を合わせた後私を見る。そうだった。私の中にもいるんだった。

 とりあえずササ先生に抱かれているチヒロさんを起そう。


 「——チヒロさーん」


 そう呼ぶとチヒロさんは微かに震えながら私と視線を合わせた。


 「は、初めてをササ先生に——」


 「いや、一応首筋なんで大丈夫です」


 ササ先生は呆れながらそういった。ワラは少し疲れたような顔で早く店に戻りたそうな顔に一瞬見えるけど、あれは多分なんとかなって安堵しているのかな?


 「あ」


 私は時計を見る。すると時刻はもう少しで記念祭が終わる時間帯になっていた。

 キク先輩との約束!


 「すみません! 約束事があるんで白鬼のことは帰りでいいですか?」


 「えぇ、大丈夫ですよ〜」


 私はそう言い残すとキク先輩が待っている倉庫に向かって走った。

 倉庫に着くとそこは大きな貼り紙に、私とカマタくん、オホウエ先輩と協力して作った作品が置いてあった。


 「あ、来たねウズメちゃん」


 中に入るとキク先輩が笑顔で腕を組んで私に向かって手を振っていた。

 

 「キク先輩」


 「ウズメちゃん。これ私の思っていた以上にいい出来だよ」


 キク先輩はそういうとシャーレに描かれた絵を見てそう言った。


 「菌は生きてるからね。絵を描いても思い通りに繁殖してくれるものはないからね。本当なら発光する菌を使いたかったけど分離が大変でね? けど、こんな感じに糸状に繁殖するのも綺麗でしょ?」


 「——ですね」


 私はキク先輩の隣に立つ。

 確かに菌はずべて綺麗に繁殖している。キク先輩の考案した模様も菌の繁殖する特徴とかなりあっていて綺麗だ。


 「これさ。ウズメちゃんが見学会で高校に来たときじっと見てたやつなんだけど気づいた?」


 「え、そうなんですか?」


 「気づかなかったかー」


 キク先輩は少し落ち込む。


 「けどさ、ウズメちゃんがこれを見てた時純粋に私は嬉しかったんだ。生物で芸術作品を作ろうにも情報がなくって、なおかつ菌で絵を描くなんて情報が本当になくって大変だったんだよ」


 「これいつから始めたんですか?」


 「二年生の時かな〜。二年生になると本格的に好きな研究ができるしでやり始めたんだけど大変だったよ。見学会の時なんて二年生の夏休みに先生が展示しようって言って初っ端本番だから満足できないものを作った。けど、こいつだけはお気に入りだったよ。だからウズメちゃんが見て気に入ってくれてここに入学してくれたのはとっても嬉しかった」


 キク先輩は言い終えると私の頭を撫でた。


 「ウズメちゃん。私は中学の時ずっと友達いなくてっさ。この高校で変わろうとしたらここまで変われた。もちろん好きなことを見つけてだよ。だからウズメちゃんも好きなことを見つければいい。やりたいことをいっぱいしてみ」


 「——好きなことですか……。私は絵を描くことぐらいですかね……」


 「ならいいじゃん。だったら野菜や菌。実験器具などを観察するからある意味絵がより上達して面白い絵が描けるんじゃない」


 「——そうですかね」


 「そうだよ。芸術は情報を持っていた方が作っていて楽しいからね。なにを作りたいかはっきりするし」


 キク先輩はそう自信満々に話す。


 「——分かりました。一年生は残り少ないですけど精一杯好きなことを見つけます」


 「うん。待ってるよ」


 この高校はなにがしたいかって少し思っていたけど、私がわかるのは好きなことをして夢を見つけるのがこの高校だろう。

 農業高校だけどそれ以外の分野にも活かせるものを学ばせる。


 「あ、そうだウズメちゃん」


 「どうしました」


 「大学受かったよ」


 「——おめでとうございます」


 この三年間。一年は色々と無駄にした気がするけどもっと楽しもうかな。



 ——二日後、いろいろよ片付けを終えて学校に向かって教室に入るとワラとササ先生が全身筋肉痛になってました。

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