第27話 はっちゃけろ! 前哨戦

食品加工部が作って販売したものをまるで獣のような目で目標に定めてカゴを肘に掛けて全速力でおばさんとおばさんたちが走る。

 これなんかお父さんやお母さんの話で聞いた毎年二回開催される大衆文化の文芸作品や漫画やそれ以外にも様々な芸術作品を販売する祭りの映像を見せてもらったけど、それとほぼ同じ光景なんだけど。


 「……この人の波いつ終わるのかな」


 「——先輩の話じゃ一時間で収まるみたいだよ」


 私の隣に立つアサノさんが答えてくれた。するとアサノさんは私が着ている割烹着を優しくつまむ。


 「別にこれ拒否しても良かったんだよ? これ大きさはウズメと同じだけど嫌でしょ?」


 「ううん。着てみたら慣れたの」


 「ふ〜ん。ならツボミにも着せるべきだったか」


 アサノさんは小さな声でそう言った。

 一応今私たち四組が出している店の場所は高校の正門から入って一直線にずっと進んで自転車置き場の場所に天幕を設置して構えている。


 そして自慢の出し物は一つ目はお菓子釣りで、二つ目はゲーム形式で条件を達成したら景品をあげる形。内容としては輪投げで使う小さな輪っかを動くおもちゃの列車の上に置いて、指定の数以上置けたら景品を渡すという感じ。


 「えーと、他の組はどんなものを出してるの?」


 「ん? 確か五組は近くのお店で買ったえびせんで、それ以外は豚汁やゲームかな。農業関連の部はウズメが詳しいんじゃないの?」


 「えーと、私のいる生物工学科はマンネンタケのお茶に黒ニンニクと化粧水だよ。それ以外は野菜とかお花、小道具とか蕎麦と発酵食品とかかな。保護者会は串焼きを売ってるみたいだし」


 「まぁーこの高校の記念祭は食品加工のものが主流だからね」


 アサノさんは気軽に笑った。

 そういえば最初はアサノさんと喋るのは怖かったけど今ではだいぶ慣れてきた。


 「あの、ウズメさん。少し回ります?」


 え?


 後ろを振り向くとチヒロさんがいつにも増して穏やかな顔をしていた。

 記念祭楽しみだったのかな?


 「うん。良いけど店番は? ここ出し物多いから難しそうだけど」


 「いえ……」


 チヒロさんは私の両肩の上に手を乗せる。


 「お忍びです!」


 チヒロさんは元気よく大きな声を出した。

 お忍びなら大きな声だめ!


 「え、け、けどぉ……」


 私はアサノさんを見る。委員長ならぬ組長なら何か言うだろうし……・

 アサノさんは顎に手を当てて何か考えていた。


 「ウズメ、ちょっと店から離れて」


 「え、どうして?」


 アサノさんは目を鋭くして私を見る。


 「少し、妖怪の香りみたいのが感じる」


 アサノさんは小声で私にだけ聞こえる声で伝える。


 「——あ」


 そういえばアサノさんは狐族の血が少しながら入っているから妖怪の匂いがわかるんだ。アサノさんがそう言うのなら離れた方がいいよね。

 


 「うん。少し行く——」


 ピロン♪


 懐に入れている携帯から着信音が聞こえてきた。

 携帯を取り出して開くとツボミちゃんからメールで20分後に始まる軽音部の演奏会に今すぐ着てとあった。


 いい時に来た!


 私はアサノさんと見て「分かった、少し行ってくるね!」と言ってチヒロさんの手を握った。


 「チヒロさん。少しツボミちゃんに呼ばれたんだけど一緒に来る?」


 「え、はい。私は全然構いませんよ」


 「じゃ、行こう!」


 私はチヒロさんの手を握って一旦店から離れた。

 

 道中私はメールで書かれたいわゆるツボミちゃんが所属している軽音部の演奏会の会場に向かっており、その場所は体育館。

 けど少し気になる点があって、その演奏会の貼り紙が貼られていない。


 「えーと、不思議ですね。普通記念祭で演奏会すると言ったら張り紙貼ると思うのですが」


 チヒロさんもどうやら私と同じ考えだったみたい。


 「う〜ん。もしかして忘れてたのかな?」


 「けど忘れないはずじゃ……ん?」


 「チヒロさんどうしたの?」


 「いえ、前から大量の紙の束を持った方が」


 チヒロさんが指を刺した方向を見ると二人の女子生徒が大急ぎで壁や柱に張り紙を貼っていた。

 二人は鬼の形相でガサツに張り紙を柱につけていく。


 「早く早く! もうっ! どうして前に貼らなかったのよ!」


 「先輩違うんですよ! 先輩が張り紙を作り直せって言うから今日寝てないんすよ!」


 「もうっ!」


 二人の生徒は文句を垂れながら私とチヒロさんを横切っていった。

 私はチヒロさんと顔を合わせた後張り紙をみるとそこには『軽音部演奏会!!』と書かれていた。


 「ど、どうやら本当に忘れていたようですね……」


 「あ、あはは……」


 私とチヒロさんは体育館へと足を運んだ。


 体育館に入るとそこは椅子が並べられており、まさに演奏会といった感じがするけど不思議なことにどこか格式を感じる。

 例えば屏風や竹などそういった伝統音楽会を始めるといった感じに見える。


 「あ、ウズメちゃん! それとチヒロちゃんも来てくれたの!」


 舞台の隅を見るとチヒロちゃんが私とチヒロさんに笑顔で手を振っていた。


 「こっちきてよ!」


 「うん!」


 私は手を振って答えるとチヒロさんと一緒に舞台に登る。チヒロさんのいた場所を見ると楽器が置いてあり、そしておそらく軽音部の部員であろう男女がいた。

 チヒロさんは少し緊張しているようで目が泳いでいた。


 「みんな! この子が私の友達よ! 本番前の演奏確認はこの子達にお願いで良いよね?」


 「問題ないな」


 「え〜と少し恥ずかしい……」


 「全く。学年ごとに会場変えるって先輩たち良い加減すぎるでしょ……」


 ——一応同意はしてくれたみたい。


 部員の数はツボミちゃんを入れて五人程度。二人の女子生徒はツボミちゃんの取り巻きで比率は女子三人の男子二人だ。

 私は周りと見ると楽器は三味線と尺八、それから胡弓の三つだった。


 「え?」とチヒロさんは何か気になった声を出した。それを聞いたツボミちゃんは「どうしたのチヒロちゃん?」と聞く。


 「いえ、軽音部と言うのですから電子楽器を使うものかと……」


 「「「あ〜」」」とツボミちゃん含め軽音部の方々は諦めの目で私とチヒロさんから視線をずらした。


 「ほらっ! よく漫画やアニメでは電子楽器を扱っているので、どうだと思っただけですので気にしないでください!」


 優しいチヒロさんは別に驚いただけと言う。私もずっと気になってた。


 「いや、大丈夫。私も軽音部がこうだって知った時絶望だったからね」


 「そうなの?」


 ツボミちゃんはゆらゆらと床に座る。


 「この部活五十年の歴史あるんだけどね。当時の先輩が伝統音楽を演奏する一族で、継ぐのが嫌で軽音部を作って我が道に行こうとしたの。だけど部員はみんな電子楽器の使い方を知らなくて、結局手軽に弾ける伝統楽器を使った部活動になったみたいなの」


 「——でしゃばったの?」と私が言うと。


 「うん。でしゃばったの」とツボミちゃんは返した。


  ツボミちゃんは三味線を持つ。


 「でもこれで良いの。他校からは軽音部と名ばかりの雅楽部と呼ばれてるけど、電気がなくても楽しく手軽に演奏できて音楽を楽しめるのなら軽音なのよ!」


 「あ、ウズメちゃん」


 すると取り巻きの一人が私に近づき、耳に口を近づけた。


 「——実はツボミはね、彼氏のツノムさんとのお出かけで久しぶりにいっぱいイチャイチャできたからご機嫌なの」


 「そーこっ! 言わない! 禁句! てかみんな楽器持つ!」


 ツボミちゃんが大きな声を出すとみんなは一斉に楽器を持つ。そしてツボミちゃんはバチを私に向けた。

 

 「よーしお前たち、聞いて行きな!」


 「楽しみです!」


 隣ではチヒロさんが純粋に目を輝かせて喜んでいる。なら、今ぐらいは白鬼を忘れよう。



 この軽音部の演奏はとても綺麗でかっこよく、現代に通用するものだった。多分原曲はあるだろうけど純粋に楽しんでいるのが伝わってきて聞いている方もじっくり楽しめた。

 そして演奏が終わった後もたくさん会話した。


 これその時に知ったけど、取り巻きの人の名前は髪が短くてもみあげが長い方がサユさんで髪が腰まであるさっき私に話しかけてきた人がミリユと言うみたい。

 本当に知らなかった。


 店に戻ろうとしている時、たまたまワラが前からやってきた。それもたくさん美味しいものを抱えて。


 「あ、ワラ。その、大丈夫?」


 「——ヒビワラさん。食べ過ぎでは?」


 「——大丈夫。俺の金で買った金券で買い物しているササ先生より」


 「——あ」


 そういえばササ先生かなり困窮した生活してるんだった。チヒロさんもそのことは知っているからため息を吐くだけだった。


 するとチヒロさんは何か察したのかワラに指を差した。


 「——もしかしてこれ白鬼のことを話す感じですか?」


 「うん。ワラ、今白鬼に乗っ取られている人どこにいるの?」


 「分からない。それが不気味」


 「え、乗っ取られてるって?」


 チヒロさんは少し気になったのかワラに近づいた。


 「ちょっと待ってください。これもしかしてウズメさんを囮にしてますか?」


 「——」


 「——どうなんですか?」


 チヒロさんは目つきが怖くなる。


 「別にしていない」


 「その証拠は?」


 ワラは私に助けを求めている目を向ける。確かに正直これは囮じゃないし、どっちかというとワラは見張りみたいなもの。

 で、チヒロさんは割と合理的な理由を言わないと怒るから今ワラは困っているのが分かる。


 私はチヒロさんの脇に手を入れてこちょこちょする。


 「ひゃっ! ウズメさん! やめてくださいよ!」


 「だってチヒロさんワラばっかり見てるもん。喧嘩しないで私を見て欲しいなーって」


 「し、しませんから! しませんって!」


 「約束する?」


 チヒロさんは口を押さえながら頷く。ならよし。


 私はチヒロさんを離した。


 するとチヒロさんは一度私を見た後ワラの腕を掴むとキリッと鋭い視線をワラに向ける。


 「と・り・あ・え・ず! ちょっと組の店まで戻ってじっくり話しましょう」


 「——まだ食べ終わってな——」


 ワラはチヒロさんにそのまま連れて行かれていった。

 どうしよう、私一人になったよ。


 周囲は知らない人だらけで何をすればいいのかが全くもって見当がつかない。これくみのお店に帰るべきか、それとも少し色々なお店いに寄って楽しむべきか。

 どっちにすればいいのかが分からない。


 「う〜ん。どうしよう……」


 「ちょっと良いですか?」


 「え?」


 気がつけば私は知らない男の人に腕を握られていた。

 その人は至って普通の人のように見えず、どう見ても不良だった。私は振り解こうとしたけど一向に離れない。


 「あの、なんですか? ——うっ!」


 すると突然に胸が一瞬苦しくなる。すると私の体から感覚が消えた。しかし、私の体はたったままだった。


 男の人は私に顔を近づける。


 「ちょっと行こうか?」


 「うん」


 私は思っていないことを勝手に出した。

 ——ありえない、私はここにいるのに!


 私の体はそのまま勝手に動き男の人に連れて行かれるように校門に向かって歩き出した。

 男の人からかなり嫌な匂いがする。

 それもかなり不愉快で気分が落ち込みそうになるほどの。もしかしてこの男の人白鬼に取り憑かれている!?


 「ねぇ、この後林の中で良いことしてあげるよ……」


 「うん。嬉しい」


 良いわけないよ! 早く誰か助けて!


 私は体を取り戻そうと念じるけど全然上手く行かない。

 ヤダヤダヤダ。助けてよ、誰か助けて!


 「ちょっと、何してんの?」


 すると男の人の前に知事長のチカさんが来た。なんだろう、かなり久々に見た気がする。

 チカさんは私を見る。


 「ウズメさん?」


 「何もしてません。されてません」


 ——いや、されてるよ。絶賛操られて貞操を奪われそうになってるよ。


 「でしょう? 何もしてませんよぉ」


 男の人はねっとりとした声でチカさんに返す。


 「ふ〜ん。何もされてないね……」


 するとチカさんは私の顔に手のひらを近づけた。そして目を瞑った。

 そして数十秒ほど経った時、何か私の中に何かが流れ込むような、テレビの砂嵐に近い音が聞こえ始めた。


 『ウズメさん、聞こえる?』


 ——え、チカさん!?


 チカさんの声が響くように私の中に伝わってくる。


 『なるほど、この声が聞こえていると言うことは操られてるのね?』


 ——はい。あの、助けてください。


 『分かった。少し待ってね』


 チカさんの声がやむと砂嵐の音も止んだ。

 


 やがてチカさんはゆっくり目を開けると男の人に近づき、腹を思いっきり殴った。

 男の人は私の腕を離してよろめき、黒色の液体を吐き出しながら地面にパタリと倒れた。


 「——あー、あー。良かった! 元に戻った!」


 「うん。なら良かった」


 私の体がようやく自由自在に動かすことができた。

 チカさんは優しく微笑んでいた。


 「あの、この人は……」


 「これ、白鬼に操られていたわね。一応ササとチトセからは聞いていたけど」


 「——もしかして知ってました?」


 するとチカさんはため息を吐く。


 「そもそも入学した段階でチトセがあなたを見て驚いたらしくて私に全容を一から十まで話したわよ」


 「あ、結構前からなんですか」


 「なんでも、チトセが藍姫の霊力なら白鬼は自然消滅すると思っていたみたいだけどむしろ強くなってしまったとか、それがウズメさんまで引き継がれてるなんて〜とか」


 チカさんは私を見ると手をギュッと握った。


 「とにかく。チトセはよくあなたに痴漢してたけど、あれは白鬼の動向を見ていただけだから多少は見逃してね?」


 「でも公然での痴漢……」


 「それはもう殺しても大丈夫よ」


 チカさんはそういうと嬉しそうに笑った。

 思えばチカさんと校長先生との接点て学校以外にあるのかな? あと一応このぐらい強かったらなぜササ先生の嘘を見破れなかったのかが疑問なんだけど……。


 「う、う〜」


 すると不良の男が呻き声を上げながらゆっくりと体を起こした。

 私は咄嗟にチカさんの後ろに隠れる。


 不良はあたりをキョロキョロ見るとポカーンとした顔をした。


 「え? 俺何してた? マロちゃんとマコちゃんどこいった?」


 「え、マロちゃんとマコちゃん?」


 私はその名前を記憶の奥で検索する。


 「——知ってるの?」


 「えーと……。今住んでる家に引っ越す前にいたところの幼馴染の同性の友達に私が使ってたあだ名にそっくりですけど……」


「って、ウズメちゃん! 久しぶりだね!」


「は?」


 不良の男が私の名前を突然言い出した。つい咄嗟にきつく言い放ってしまったけど良かったのかな?

 不良の男は私の言葉に少し意気消沈してしまったけど、覚悟の決めたように立ち上がった。



 「ほら! 俺だよ! 下狛村で一緒に遊んだじゃん!」


 「え〜と……。う〜ん名前は?」


 今の不良の男の顔には嘘はない感じなんでけど本当に思い出せない。


 「ウズメさんこの人知ってるの?」


 「さぁ〜……記憶にないんですけど……」


 すると不良の男は懐から名刺ほどの大きさの紙を私の前に持ってきた。


 「ほら! 俺だよ! 不知火博多津シラヌイハカタツだよ!」


 「——多津……。あ、もしかしてたっちゃん?」


 「そうだよ! ようやく思い出してくれたよ!」


 不良の男——たっちゃんは喜びの舞を始めた。


 ——あぁ思い出した。よく村で一緒に遊んでた子だ。何か困ったり縫お姉ちゃんのおもちゃを壊したときに直すのを手伝ってもらったっけ。

 だけどたっちゃんは私の知っている限りガリガリでメガネをかけていたはず。こんなに筋肉質で不良になるような子じゃなかったはずだけど。


 「ねぇ、あなた本当にたっちゃんよね?」


 「そうだよ! 見た目変えたのは……まぁ、都会じゃこの風貌じゃいけないってマロちゃんとマコちゃんが……」


 「あぁ〜あの二人か……」


 するとチカさんはたっちゃんに顔を近づけた。


 「けど君、確認だけどウズメちゃんを——」


 「あっ! そうだった! ウズメちゃん。ここにアイツらが来てるんだ! それを伝えに来たんだよ!」


 「え、アイツらって……」


 たっちゃんは頷く。

 

 「中学校でウズメちゃんをいじめた子らだよ。それで俺はマロちゃんとマコちゃんと一緒にウズメちゃんが通ってる高校に来たんだよ!」


 「——」


 うっそでしょ。アイツらが来てるなんて……。


 いや、気にしたらだめだ。目を合わせずに合っても顔をにらめつけながらゆっくり後ろに下がって行けば良いし、なんなら大きな音を出しながら歩いたらアイツらも近づかないはず。

 で、近づいてきたらはたき落とす。


 うん、そうしよう。


 私はたっちゃんの肩に手を乗せる。


 「大丈夫。教えてくれてありがとう」


 「えっと、本当に大丈夫?」


 「うん。私の友達にはとっても強い人がたくさんいるから大丈夫だよ」


 たっちゃんはそれに納得したのか「ウズメちゃんがそう言うのなら……」と小さく口に出した。

 

 「けど、ウズメちゃんが笑顔に戻って良かったよ。あの頃みたいな空気は嫌だからさ……。あ、今更だけどなんで俺ここにいるん?」


 「「あ」」


 ——その後私とチカさんがたっぷり説明した後、たっちゃんはものすごく頭を下げてそのままチカさんに連行されていった。


 私は行き交う人たちを見る。

 今校内に私をいじめた人が紛れている可能性はかなり高い。そして発揮に操られている人物も混ざっている。


 「これは……また純粋に楽しめるか不安だよ……」


 私はトボトボとした足取りで組の店に戻った。

 時間はすでに昼前、今日一日なんとか平和で満喫したいな——。



 ————。

 ——————。

 ————————。


 ウズメが白鬼に取り憑かれた旧友と揉めていたその頃ウズメが所属している四組の店では小さな子供たちを組全員で接待していた。

 それを見ながらアサノは金券を後日生徒会に提出をすることを求められている集計表に張り付けていった。


 ——ウズメ大丈夫かな? 結構妖怪がここに紛れてるけど。いや、ヒビワラを向かわしたから大丈夫なはず——。


 「全く。私にだけ秘密ですか? そう言うことはしっかりと言ってくれないと困ります」


 「別に秘密にしてない」


 「どうしてですか?」


 「絶賛結構前に白鬼に取り憑かれて今回発揮に操られてしまう人間候補第一位に言われたくないから」


 「——っ! 言い返せないじゃないですか!?」


 チヒロとヒビワラが口喧嘩しながら戻ってくるのをアサノは見てため息を吐いた。


 「ちょっと二人。今お客がいるから騒がない」


 「——すいません」


 「——土産」


 ヒビワラは反省の色を見せながらお土産をアサノに渡す。それは明らか誰かのカツラだった。アサノはヒビワラに返す。


 「いや、ウズメは? 連れて帰ってこいって言ったよね?」


 「——」


 ヒビワラは静かに見せを後にした。

 アサノは呆れて息を吐く。


 「全く。この組みんな弾けすぎでしょ……」


 すると後ろから紙がちぎれる音がした。

 アサノは振り返るとそこには明らか金券をちぎる量を間違えたチヒロの絶望した顔が見えた。


 「あ〜あ」


 アサノはチヒロの助太刀に入った。


 ——今日はとりあえず平和に終わって欲しいものだよ。と珍しく穏やかなことを心の中で思った。

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