第26話 記念祭に向けて。藍姫の想い
「つ、疲れたよ〜」
私は机の上に伏せる。
看板を作り始めて三日ほどたってようやく完了した。全ての放課後を使って制作してなんとか三枚は完成した。二枚はお店の宣伝で持ち歩くもの、最後の一枚は店の前に飾るもの。
私は絵の具まみれになった割烹着に汗で変な方向に髪が向いているけどそれを意識したくないほど疲れてる。
時計を見てみる時間は十九時。とっくに夜だ。
もうそろそろ帰る時間か。隣ではチヒロさんが本を読んで私を待っていた。
「はぁ……、早く帰って漫画読みたい」
「——もう頑張りすぎですよ。ウズメさん。疲れた時はこれですよ」
すると目の前に筒がついている水筒をチヒロさんが持ってきた。かすかに梅の香りがする。
私は机に付したまま頭を少し上げて筒を口に加えて吸った。
うん、すっぱい。
「ぷは〜。これ梅味?」
「はい。美味しいでしょ?」
「——うん」
私は再び管に吸い付き、一気に全部飲み干した。顔を見上げてチヒロさんをみると少し引いていた。
「む、どうしてそんな顔するの?」
「い、いえ。少し作法を厳しめに教えようと……」
どうやらというかやはりこの飲み方はチヒロさんの作法ではダメだったらしい。
私は席から立つと割烹着を脱いで袋に入れ、それから絵の具を片付けた。
「ウズメさん。大変でしたら別に手伝いますのに……」
「ううん。大丈夫」
すると何故かチヒロさんは不満げな顔で眉間に皺を寄せて前のめりになって顔を近づけた。
「なんですか? あの美術の時間の時のこと根に持ってます?」
「いえ、別に持ってないけど……」
するとチヒロさんは胸に手を当てた。
一応チヒロさんが美術でやらかしたのは私が絵を描いているときにうっかり転けてバケツの水で作品を台無しにしちゃったぐらいだけど別に怒ってもない。
むしろあれのおかげで色の広がりが幻想的で良かったからある意味感謝しかない。
「私は親友としてウズメさんが困っているのを見過ごせないだけで——」
「——えっと。今から胸に手を当ててどのぐらいの枚数の厚紙を折り曲げたか数えて?」
「本当にすいません」
チヒロさんは深く頭を下げた。
それから翌日の六限目の授業の終わり、いつも通りに記念祭の準備をしていると私は一も通りツボミちゃんとその取り巻きに囲まれた。しかも女子トイレの中で。
えっと、なんか怖い。
「ど、どうしたの?」
私はツボミちゃんとその取り巻きを交互に見ながら質問した。
「ウズメちゃん」
ツボミちゃんは普段と違って一段と低い声で話しかけてきた。その取り巻きの目も少し怖い。
「昨日ね、見ちゃったの」
「えっと、何? つ、ツノム君のこと?」
「いいえ、違う。みんな、ウズメちゃんを捕らえて!」
「「「はい!」」」
私はツボミちゃんの取り巻きに捕らわれた。
「えぇ〜!」
私が情けない声を上げるとツボミちゃんは嬉しそうに笑い始めた。
今から一体何始めるの?
「よし、今からウズメちゃんを着せ替えるわよ! 更衣室に連行だ!」
「待って説明してよ!」
すると取り巻きの一人が私に何やら様々な呉服が乗っている雑誌を見せてきた。それがどうしたの?
するとツボミちゃんはその雑誌で一番子供っぽい感じの着物に指を差した。それは可愛い動物の顔が描かれた割烹着でいくら妥協しても低学年の小学生幼稚園児が来そうな感じだった。
もしかして見たのって……。
「昨日ツノムのいる野球部の練習を手伝っている時にね、教室の窓から割烹着姿のウズメちゃんを見てピコーンて来たの。絶対こういう可愛いのきたら似合うってね! それで記念祭に出て可愛い口調でたくさん買ってくださいって言ったらお庇護欲でいっぱい買ってくれるはずよ!」
顔が徐々に熱くなる。
「恥ずかしいからやめて!」
「ツボミ。何してんの?」
私が声を上げた瞬間に組をまとめる組長または委員長ことアサノさんがトイレに来てくれた。
ツボミちゃんはゆっくりを振り返ってアサノさんを見ると冷や汗を流しているのが見て分かる。
——————。
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その後私たちは教室に連れ戻され、ツボミちゃんとその取り巻きはアサノさんに正座させられた。みんながワイワイと教室の机を全て後ろに下げて作業に勤しんでいる中での正座はとても目立つ。
それにしてもアサノさんがきてくれたて何事もなくて済んで良かった。もし来ていなかったら私は何か大事なものを失われてたと思うし。
で、その被害者である私はその光景を現在ゲーム作りの手伝いながら見ている訳だけど少し気になるから耳を傾けよう。
アサノさんは呆れた目でツボミちゃんをみる。
「いや、君たち何したかったの?」
「ウズメちゃんの可愛い姿を見たかっただけです。はい。本当にすいません」
「もう……。で、どんな割烹着だったの?」
「これです」
ツボミちゃんは雑誌をアサノさんに見せる。するとアサノさんはしばらく何やら考えていた。そして三十秒ぐらいが経ったかツボミちゃんに雑誌を返した。
少し嬉しそうな顔で。
「まぁ、良いんじゃない?」
「——でしょ!?」
アサノさんの言葉にツボミちゃんが嬉しそうに目を輝かせた。
どうやら私は記念祭当日子供っぽい割烹着を着る羽目になりそうだ。
「可愛いです……」
チヒロさんが小さな声で何か言った気がするけど聞かなかったことにしよう。
私はトボトボと言う悲しい足取りで教室から出てトイレに向かった。すると目の前に珍しく黒の着物を着ているワラが歩いてきた。
「あ、ワラ」
私が声をかけるとワラは足を止めて私を見た。
えーとついうっかり呼び止めたけど何を聞こうか? あ、白鬼関連にしよう。
「えっと、昨日のことなんだけど。どうやって白鬼を討伐するか決めたの?」
「決まってる」
「——そう、良かった。なら聞かせてくれる?」
「構わない」
ワラは頷いた。
「とりあえず当日白鬼の影響下に入った経験のある人物がウズメに接近するはず。その時一度何かしらの手段でウズメの魂に入ろうと心に穴を開けようとするはずだから開けた瞬間に白鬼の元に行く。だけど、その方法は問題点がある」
「問題点?」
「相手が藍姫だったら気付くのが難しい。だから今日中に藍姫を本来いるべき世界に戻さないといけない」
「あー。校長先生が話してたことか」
私は校長先生の言葉を思い出す。
「彼女はウズメの心を出入りしている。だがウズメの魂には硬い壁があるから白鬼には会えない。だからこそ彼女をウズメの心で待ち構える」
「えーと。今夜? それか今この時?」
「——今藍姫がどこにいるかは把握できない。けどウズメの胸を触れば今心の中にいるかどうかは分かる」
「——胸……」
え?
私は両手で胸を守る。顔が徐々に赤くなるのが嫌でも伝わってくる……!
「わ、ワラのスケベ! 触って良い訳ないでしょ!」
「まだ何も触ってない。だけど二回触っても何もしなかった証明がある」
「そうだけど! そうだけどあれは事故だから! 事故なの! てか二回目は縫お姉ちゃんが勝手にしただけだもん!」
私は頬を膨らませてワラを見る。ワラは少し戸惑っているけど女の子の気持ちぐらいはわかってよ。
けど今この状況で頼めるのはワラしかいないし……あ。
「ササ先生がいる!」
「教師が生徒の胸を触るのは第三者から見て問題ないと思う?」
「確かにそうだった! ササ先生クビになっちゃう! ——無免許だけど」
私は頭を抱える。
えーと言うことはワラしかいないの?
「縫さんはいないの?」
ワラは着眼点がいい場所を突く。だけど残念。今日縫お姉ちゃんは帰ってこないんです。
つまり本当にワラしかこの場で見れないし。
ササ先生に突然説明なしにやってほしいと言われても仕事があるから絶対に無理。
しょ、しょうがないか。
私はワラの腕を胸にくっ付ける。
「ちょ、直接じゃないとダメなんだよね?」
「そうだけど。嫌なら縫さんに……」
「お、お姉ちゃんは今日帰ってこないの。だからえーと……と、とりあえず人がいないところに行こ!」
「アサノにバレない?」
「いいから早く!」
私はワラの腕を掴んで生物工学棟の一番人が少ないことで有名な場所に来た。そこは今までの高校の実験記録がまとめられた教室で私は笑と一緒に中に入ると入り口から死角の場所に連れていきその場に座らせるとワラの足の間に私は座る。
「春画みたい……」
「——っ! それ言わないで!」
私はゆっくり手を少しあげて脇を広げた。
「その、女の子の着物の脇って空いているでしょ? そ、そこから手を入れたら胸に触れるでしょ?」
「——分かった」
ワラは返事を素直にすると私の傍に手を入れてゆっくりとサラシをずらして直接私の胸に触れた。
「ごめん」
「良いから。私の方こそお願いね?」
「分かった」
ワラはそういうと私の胸を優しく弄る。いや、別に変な気分にはならないけどどこか変な感覚になる。
「——不思議」
「どうしたの?」
「縫お姉ちゃんから聞いてると思うけど、私いじめられてから異性のことが大っ嫌いになったの。なのにこの高校に来てから別に異性のことが別に嫌いじゃなくなったの。けど、体触られるのは今でも無理だけど」
「もしかしてこれも辛い? だったらすぐに——」
私は首を振った。
「だから不思議なの。ワラにだけはなんとも感じない。気持ちいとか、嫌いだからとかじゃなくて。安心するみたいな、そんな気持ちになるの」
「——そう?」
「うん。だから続けても平気だよ?」
「分かった」
ワラは少し間を作った後、納得してくれた。
それから数分ほどワラは私の胸を触った後手を止めた。
「見つけた」
するとワラは私の胸を強く握った。
「いたっ! ワラ、強く握らないで!」
私は目から少し涙を流してワラを見る。
「——ごめん」
ワラは素直に謝ると空いている片手で私の頭を優しく撫でた。気のせいか少しか少しいい意味で気分が良くなってくる。
やがてワラは私の顔が沸騰する直前に手を止めた。
「ウズメ、藍姫を見つけた。俺たちを待ってる。行く?」
「——」
藍姫は私の心にいる。とにかく今は藍姫をどうにか説得して元いた世界に返さないといけない。
「い、一応確認だけど藍姫がいた元の世界って黄泉の事だよね?」
「うん——」
そういうと私の意識がじわじわと失ってくる。視界の外側から暗闇が湧き出て視界を狭くしていく。
「えーと。私も行きそうだけど?」
「意識を失っているときに見る世界は心の中。だから来てしまうのもしょうがない……。だけど——」
——え、だけどって?
「心の世界に行く道を作るのが下手くそだから、お互いバラバラになるけど安心して」
「——え、下手なの!? ——あっ」
私は大きな声を上げた瞬間意識が朦朧としてそのまま意識が飛んだ。
——————。
————。
——。
私はゆっくりを瞬きをして目を擦る。私はいつも通りにまたあの中学時代の教室かと思えば高校の私がいる組の普段通りの教室だ。机と椅子が均等に少しのズレもなく並んで、机の正面には綺麗な黒板。
そしてこんな教室を夕日が照らしているから本当にここは放課後のうちの高校というのが伝わる。
「ここって心の世界かな? 一応だけど」
あたりを見渡しても本当にワラがいない。
下手くそって同じ場所に到着できないって言うこと?
「えーと……まぁこの時間で人がいないってことはまず無いから本当に私の心なんだろうね。えーととりあえず教室から出よっと」
私は扉を開けて教室から出る。教室の外はどこかのお城の天守閣の上なのか外は大空が広がり、木製の手すりが落下しないように設置してある。それから下を見ると昔の城下町が広がっていた。
「歴史の授業の絵巻とかでは見たけどこれって数百年ぐらい前の源オオヤの時代の建築物に似てる……」
「よく気づいたわね」
後ろから声!?
「——!」
後ろに振り返ると私に似た見た目だけどとても大人びた印象を受ける女性——藍姫がいた。
藍姫はとても豪華な着物を着て私を優しそうな顔を見るけどどこかそこ知れぬ怖さを感じる。
「ここは私が昔いたお城。とは言ってもこんなに豪華じゃなかった」
——え、じゃこの情景は捏造——。
私は少し目つきを鋭くして藍姫に疑いの視線を送る。
「——思い出を盛ったんですか?」
「はっ倒しますよ?」
藍姫は私の頬に優しく触れた。背筋が凍りそう……。
「その行動に生意気さ。本当に昔の私に似ています」
すると藍姫は突然自分を抱きしめると上半身を激しく動かした。
「あぁ! 羨ましい! 白鬼がいなければ私が持ち続けた嫉妬の欲望が蘇りそうです! けど白鬼のせいで私は本当の気持ちを吐露出来なかった! あぁ! 憎い! 憎いです!」
——え、どうしたんだろう……。
私は藍姫から距離を取る。柵が私のお尻に当たる。これ以上下がったら落ちる。
——ん? そういえばここは心の世界だから別に落ちても死なないんじゃ?
「私がぁ! 私が白鬼を殺す! そして私の愛しき人をあなたから引き離す! あの人の魂を受け継いだのなら私の愛しき人そのもの! ——あなたの体、貰います」
藍姫はまるで狼のように獲物を見る目で私を見る。
「あげない! この体は私のものなの!」
私は勢いよく手すりから飛び降りた。
「きゃー!」
私は大きな声を上げた。私の体が切る風の音がうるさい。
私は体を回して後ろを見る。すると藍姫も同じように落ちてきた。しかも私より早い。
「早いって! 早すぎますよ!」
「——」
藍姫は悍ましい形相で尚且つ半笑いなのが一番怖い。私は地面を見ると一軒家の屋根がすぐ目の前に見えたそのとき私の体は屋根を突き破って屋内に転がり込んだ。
私の体に木の板や瓦の破片が落ちる。
「いった……くない! ——逃げないとっ!」
私は家から飛び出すと畦道を全速力でかけた。私は城下町を駆け抜けながら撒ける場所を探したけどどこにもない!?
それに後ろは見ないでもわかる。藍姫がものすごい速度で追ってきている!
「早く私に体を頂戴! あの人の生まれ変わった姿は弱い! だから私が教えるのよ!」
「確かにワラは弱いけどとっても頼りになるもん! あのままでも良いの!」
「だめよ! 邪神が蘇って世界が滅んだら。誰がこの世界を救うのよ!」
「もう邪神は滅んだの! もうのんびりと過ごさせようよ!」
「いやよ! そう言って源氏の勇者は何度も戦ったのよ!」
すると藍姫の冷たい手の感触が首筋で少し感じた。すると私は後ろに引っ張られると固定された。
私は藍姫の腕を掴む。
「あ、あなたが代わりに邪神と戦えば良いんじゃ無いですか?」
「馬鹿言わないで。私は武器なんて使えませんし」
「あの〜ずっと気になってたんですけど藍姫はどうして姫と? 何処かのお姫様だったのですか?」
すると何故か藍姫から感じる殺気がなんとなく弱くなった……?
「——私のいた時代はあなたの時代で言うところの戦国時代。あなたの時代から六百年ほど前に始まった戦国の世です」
藍姫はおっとりとした口調に突然変わって説明を始めた。
確か戦国時代は二百年前に終了してそこから百年前が源オオヤの時代なんだよね? だとすれば時系列は間違ってないか。
「この時代では安雲は安雲にいた源氏の一族は日比和羅と名乗り統治していたの。私は村娘でしたが当時の領主の次男であったのが源オオヤと結婚して姫と呼ばれるようになりましたの。あの人は本当に優しかったです。あなたには理解できないと思いますが」
「——」
すると藍姫は私から腕を離した。
「あの人はずっと私を見てくれたんです! いつも嫉妬に溺れるようなこんな女に! だからこそ私はあの神様、チトセ様にお願いして嫉妬をした時の苦しみを教えてくれましたが、あれはあんまりですよ!」
え、チトセ? いや、人違い——じゃないか。多分本人だろう。
「——もしかして魂にくっつけられたのが白鬼だと気づいていなかったんですか?」
「気づくはずないですよ! チトセ様を信じていたのですからそんな悍ましいものを私の魂に触れさせるなどとは思いませんよ!」
すると藍姫はその場に膝をついて泣き始める。
「早く、早く私を楽にして……黄泉にオオヤ様に合わせてください……」
——ワラは藍姫が黄泉に帰れない理由に嫉妬とワラ自身が弱く怒っていると言ってたけど、藍姫の言葉を聞いている限りそうとは思えない。
藍姫はもしかしたら幸せな時間を潰した白鬼を殺して楽になりたいんじゃ……。
「——藍姫様。大丈夫です。近いうちに白鬼を倒すので安心してください」
「——白鬼を? どうやって?」
「それは——」
それから私は藍姫に白鬼を倒す手段を話した。
それはワラが話した通りに白鬼が私の心を潰すために少しの間でも白鬼に影響を受けた人を操って来るため、その人を使って白鬼が潜んでいるところまでの道を繋げると言うもの。
藍姫は最初は心配そうに聞いていたのに対して、説明が終わると泣き止んでほんの少し笑みを見せた。
「——本当にうまくいくのですか?」
「えーと。分かりませんが行くと思います」
「——やっと辿り着いた」
後ろから声が聞こえる。
振り返るとワラが小走りでこちらにやってきた。
ワラは藍姫を見る。
「——」
「——」
そしてワラは私を見た。
「ウズメ。藍姫と何か話した?」
「いや、せめて藍姫に一声かけてあげて!」
「——分かった。少し良い?」
「——はい」
藍姫はワラから目を逸らしたけどワラは藍姫をずっと見続けた。
「——満足したの?」
「ボチボチですが。本当に倒せるのですか?」
「出来る」
藍姫はワラに視線を合わせた。これ喧嘩起きないよね?
藍姫はしばらくわらを見た後ホッと息を吐いた。
「分かりました、信じますね。それが聞けて少し満足です」
藍姫はゆっくりと立ち上がる。
「どうやらあなたは弱いなりに作戦をしっかり考えているみたいで良いですね。では、白鬼の最後を見届けるまではこの世に残りま——」
「最後に良い?」
ワラは藍姫を止める。
「——どうしてウズメと早く付き合わせようとしたの?」
「——そんなの、お分かりでしょう?」
藍姫は私に近づくとクスリと笑った。
「この子は私の魂を継いでいる。そしてあなたはこの子に一目惚れしたのに口に出そうとしない。だからですよ」
「——そう」
ワラは表情こそ変えなかったけど私には恥ずかしかっているようにも見えた。藍姫は深呼吸する。
「では、お願いしますね」
愛姫がそう告げると私の目の前は真っ黒になった。
——————。
————。
——。
「う〜ん……」
目をゆっくりと開けると本がたくさん。ぼやけた視界が徐々に正確に風景を描写し始めた。
そうだ、私は資料室でワラと心の世界に行ったんだ。
私はゆっくりと立ち上がると途中滑って柔らかいものにお尻が当たった。
それに何か脇に挟まれ——。
「——っ!」
あ、ワラに胸触らせてるんだった!
私はワラの手を取るとワラから距離をとってワラを見た。ワラは目を開けてこちらを見ると首を傾げた。
「目覚めた?」
どうやら起きていたみたいだ。
「う、うん。——えっと、これで藍姫は良かったのかな?」
「分からない」
ワラはゆっくりと立ち上がると私に近づいて手を差し伸べた。私はワラの手を借りて立ち上がる。すると資料室の扉が開けられ足音が近づいてきた。
「あ」
私は机の視界に隠れようとした時、本棚の裏にまさかの生徒指導の先生でもある特徴的な髭に怖い顔の先生、その名はヤバイ先生が鬼のような笑みを浮かべて私とワラを見た。
ヤバイ先生は私をワラを交互に見る。
「——全く。そう言うのは家でしなさい。ここですると悪い先生がそれを脅しに使うから。良いね?」
「す、すいません」
私とワラはとりあえず頭を下げるとそのまま資料室から出て行った。そして安堵の息を吐いたその瞬間ヤバい先生が戻ってきた。
「そうそうウズメさんとミコトさん。アサノさんが探してるから早く戻るんだよ」
それを言い終えるとヤバい先生は資料室から出た。
私はワラと目を合わせる。
「え、へへへ……」
つい私は今後起きるであろうアサノさんに出頭した後に怒るであろう恐怖・絶望・懺悔の連続の説教を受けることを想像して間抜けな笑い声を出してしまった。
そんなこんなで教室に戻りアサノさんにかなり説教された後は記念祭に向けた最後の仕上げを完全に済ませそれから三日が経過した。
記念祭当日の空はとても青く綺麗で、秋の息吹を感じてか秋の虫が飛び交う。
校舎も記念祭にピッタリはほど素敵な装飾が学内に施されている。
高校の出し物は全て大通りで行うため教室とかでは出さないけどこれも良いと思う。
私はつぼみちゃんから受け取った幼稚園児が着てそうな私と同じ大きさの割烹着を着る。
その横ではチヒロさんが冷や汗を流してた。
「ウズメさん。怒っても良かったんですよ?」
「ううん。アサノさん命令だから無理なの」
チヒロさんは私を慰める。
私は両頬を叩いた。
「よし、がんばろっと!」
私が張り切った声と共に記念祭の開始が告げられ、校門を潜ってやってきた大きなカゴを持ったおばさん達は私の組の出し物を無視して食品加工が売っている味噌を買いに行った。
——いや、せめて振り向いてよ。
私は悲しい視線をただただおばさん達に向けた。
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