第25話 攻め時 

 「じゃ、早速記念祭の出し物で自分はどれを担当するか決めようか」


 黒板の前の教卓でアサノさんと今日ようやく名前と顔が一致した背中に翼が生えている天狗と同系統の鳥人のカツラくんの二人が黒板に文字を書いていた。

 今現在記念祭での出し物を考えている最中で、隣ではササ先生が必死に記録を書いていた。

 

 今は出し物自体は決まっていてお菓子釣りと子供が楽しめるゲームの二つだ。

 私はどれをしよっかな……。ゲームも感上げるのは面白そうだしお菓子釣りもだいぶ面白そう。

 けど担当しても多い方が良いよね。調べてみたら男女の関係は記念祭で深まるとか聞くし。少なあったら仕事がたくさんあって誰とも回れないし。


 「あ、ウズメはゲーム行くよね?」


 アサノさんは急に私に言葉を投げかけてくる。 

 

 「え、うん」


 「よし決まり。じゃみんな! 担当はこれで良いよね?」


 「あ」


 私は黒板に目を向ける。見てみると私は聞き逃していたらしく、すでに人を決めていたようだ。

 そして私が担当することになったゲームの人数は少ない。それに——。


 「え、チヒロさんいない? え、アキヤちゃんも」


 「あ、えーと——」


 隣でチヒロさんは黒板と交互するかのように私をみていた。するとチヒロさんは手を挙げた。


 「あ、私ゲームに移ってもも良いですか?」


 「うん。全然良いよ」


 アサノさんはそう返した。

 チヒロさんは席に着いた後ほっと息を吐いた。


 「ウズメさん。話は聞いていないとダメですよ?」


 「ありがとうございます……」


 私は今正直チヒロさんのやさしさに涙を流しそうだった。


 ————————。

 ————。 

 ——。


 それから放課後。私は記念祭のことを少し後悔しつつも部活に向かった。今日の部活で作業作業するのはチヒロさんとの研究ではなくキク先輩が私に託した生物芸術だ。

 その生物芸術に使う研究室は私やチヒロさんが普段使っている微生物利用第一実験室とは違い、生物工学室と呼ばれる部屋だ。

 私はその教室の扉を見て圧倒される。


 それは普段の実験室の扉とは違ってサビも一切ないかなり清潔な扉だった。中に入るとカマタくんとオホウエ先輩の二人がいた。その人たち以外にも植物を培地に植え付けたりしている人も何人かいる。

 私はカマタくんとオホウエ先輩に近づいた。


 「こ、こんにちわ」


 「ウズメさんか。これで全員だな」


 「よ、ようやく過労から解放や——」


 カマタくんは何故か安堵の息を漏らした。いったい何をしていたんだろう。


 「ウズメさんは培地に菌を塗ったことあるか? 白金鍵という先が釣り針にように曲がっている道具を使って培地に絵を描くんだ」


 「なるほど……。使い慣れてないですけど頑張ります」


 「で、次が悲しいお知らせだ」


 「はい?」


 カマタくんは私に日程表を渡してくれた。そこには制作が三週間の培養一週間という予定になっている。


 「まーウズメちゃん。この日程やと三週間が制作やけど作品が大規模やから今日で終わらせないとあかんのや。無理やったら来週の二つ作って培養で記念祭に使えるかを調べる感じやな」


 「そうだ。だから今日で完成させるぞ」


 オホウエ先輩とカマタくんは少し怖い笑顔を私に向ける。


 「え、え〜と。規模はどれぐらいなんですか? 作品のですけど」


 私がそういうとオホウエ先輩は実験室の棚からガラスでできた長方形の薄い箱を取り出した。


 「作品自体はこのガラスの箱で展示をするんだ。培地は今はまだ溶かしている途中で使う金は主にイカに付着している発光する細菌だ」


 「これはほんま疲れるで。失敗したらイカの腐敗臭でこの実験室を戦慄させて先生に本気で怒られるし——」


 「ウズメさん。この研究はつねしばかれる覚悟だ。良いな?」


 オホウエ先輩とカマタはまるで徹夜をされ続けた会社員のように年季の入ったありがたい言葉を私にくれた。


 「あ、カマタくん。話変わるんですけど良いですか?」


 そういえばこの二人ってワラと知り合って長いんだよね。だったら聞いてみよう。

 実験室にはグツグツと水が沸騰する音がやけに大きく響く。


 「ん? どうしたんや?」


 「カマタくんってワラと幼馴染だったら色々と知っているんだよね?」


 「あーミコトのことか。そら俺らは小さい頃からの関係やから知ってるで!」


 カマタくんは嬉しそうに親指を立てる。


 「あーそういえば二人付き合ってるんだったな」とオホウエ先輩が知っている様に口に出した。その時私の顔が急に熱くなった。そしてぎこちなく首を動かしてオホウエ先輩を見る。


 「あ、オホウエ先輩も聞いてました? あいつよ異性に対しては恥ずかしがりなんでね出来るとは思ってませんでしたよ」


 カマタくんも知っていなのか号泣した。


 いや、どうしてワラはつい口を滑らせてるの!?


 「あ、オホウエ先輩。これ広めたらダメっすからね?」


 「広めてないがお前こそ——」


 「わー! わー!」


 私は二人の会話を無理やし止めた。


 「な、なななな! なんで知っているんですか!?」


 「ミコトが嬉しそうに電話したからな」


 「もう! 何で電話したの!?」


 私は顔を手で覆った。

 なんでワラは——いや、あのワラが何かを伝えるってことはあれって本当に本心ってこと? そ、そんなはずが無い。

 だってワラは無口で無愛想で尚且つ優しい。そんな反応なんてするのかが不安。


 「あ、培地できたみたいだな。早速するぞ〜」


 私はオホウエ先輩に流されるがまま作品の制作に取り掛かった。

 まず培地とガラスの箱をクリーンベンチに入れ、培地をガラスの箱に流し込んだ後塊まで待機。その間に既に希釈していた菌が培養されているシャーレを用意した。


 この作業は私とオホウエ先輩の二人で行っている。

 私は培地が固まったのを私は白金鍵を菌が繁殖している場所につけて培地に渡された紙に書かれている絵を正確に培地に模写した。

 

 それから三分かかってようやく完成した。


 そこから同じ作業を何度も繰り返して、十分ほどの作業でようやく全ての工程が終了した。時計を見ると五時を回っていた。


 「つ、疲れた〜」


 私はクリーンベンチを片付けた後体を伸ばした。するとほっぺに冷たい感触がした。

 

 「はい」


 「あ、ありがとうございま……。——!」


 振り返るとワラが私にお茶を持ってきてくれた。

 奥ではオホウエ先輩とカマタくんがクスクス笑っていた。さーて。どうすれば良いんだろう。


 「あ、えーと……。あ、ありがとうね……」


 「下駄箱でチヒロが待ってる。記念祭のことで話したいことがあると伝える様に言われた」


 「そ、そうなんだ。ありがとう」


 しばらく無言の間が続く。これどうすれば良いのか誰か説明もしくは助言をしてほしい。奥からオホウエ先輩が察して河原に近づいて肩に手を乗せた。


 「おい、ミコト。こういう時はもっとガツッと行かないと」


 「——?」ワラはオホウエ先輩を見ながら首をかしげた。


 「えーと……。もう帰っても良いですか?」


 「あ、ちょっと待って」とオホウエ先輩に止められる。

 今日観たい番組があったのに。お父さんが録画してくれていることを祈ろう。

 それからオホウエ先輩とカマタくんがワラにこそこそと何か喋る。そして少ししてワラは解放されてワラはもう一度私に近づいた。


 ワラは少し深呼吸する。


 「ウズメ……」


 「は、はい?」


 ワラはいつにまして真剣そうな顔を私に向ける。自然と私の心臓がバクバクした。


 「もし記念祭までにウズメの彼氏に相応しくなかったら別れて欲しい。けど、もしふさわしかったら彼氏としてもらって欲しい」


 「あ、わ、分かった……」


 「あと……」


 ワラはカバンから風呂敷を出して広げる。出てきたのは渋い道具でもなく、花でもなくゲームソフトだった。

 それもいつの日かワラと部活の時偶然二人の時に話題に出たゲームだった。


 「誕生日を縫さんから聞いた」


 「え、良いの?」


 「構わない」


 「じゃ、帰ったらするね」


 私がそう返すとワラは満足そうに頷いて教室から出て行った。それをオホウエ先輩とカマタくんはじっと見送った後私の方を振り向いた。


 「まぁ、あいつは根はほんまに良いやつやから。話したらだいぶ印象変わると思うで」


 カマタくんは困ったかの様な顔でそういった。


 ——————。

 ————。

 ——。


 翌日、私は目に隈ができそうになるぐらいゲームをしたせいで疲れた。

 ワラが買ってくれたゲームとは冒険を続けてうちょくなっていくゲームで、映像と音楽の評価が一番で尚且つ冒険の舞台が縦も広くて探索しきれないほどだ。

 それを昨日の寝る前から翌日の朝四時までしたせいで寝不足。教室に入るとチヒロさんは相変わらず朝から勉強をしていた。


 「おはようチヒロさん」


 「おはようございますウズメさん。見た感じとても疲れている様ですがどうかしましたか?」


 「ん〜。ゲームのしすぎ……」

 

 「もう、体は大切にですよ。ウズメさんは試験の時もそうですが寝ないとダメですよ。なので今回の記念祭の看板も早めにするんですよ」

 

 「うん。そうする〜」


 私は日課となっているチヒロさんとの会話をする。するとチヒロさんは立ち上がって私の顔を覗き込む。


 「そういえば今白鬼はどうなってるのですか?」


 「あ」


 思いっきり存在忘れてた。確かに今どうなっているんだろう?

 すると急にチヒロさんが私の腕を掴んだ。


 「朝礼まで時間があるのでヒビワラさんに聞きましょう!」


 「え、え〜!」


 私はチヒロさんにありのままに引きずられワラの前まで運ばれチヒロさんはボーと席に座って本を読むワラの腕を掴んだ。


 「ヒビワラさん! 少し来てください!」


 「——?」


 チヒロさんはワラの回答を待たずに人目が少な生物工学棟の三階まで連れて行かれた。確かに朝礼まであと二十分だけどよく引きずれたよね。

 そんな他愛もないことを考えているとチヒロさんは私とワラを離した。


 「で、ヒビワラさん。今白鬼はどうなってます?」


 「ウズメの魂にへばりついてる」


 「どうしてそれを私に言ってくれないんですか?」


 チヒロさんはワラの襟を掴む。


 「チヒロさん落ち着いて……」


 チヒロさんの顔を見るからに怒ってる。


 「もう一度言います。どうして————」


 「実況中継して欲しかった?」


 ワラは首を傾げて何か言う。もちろんチヒロさんは不満げだった。

 チヒロさんは襟を掴んでいた手を離す。


 「とりあえず。現況を教えてください」


 ワラはチヒロさんに現況を伝えた。そこには私も知らなかったことも入っていた。

 まず白鬼は私の魂にへばりついているままで、少し大きくなっているかららしい。

 その原因は藁も把握しており、その対処はしていると言っていたけど一体なんだろう? 確か縫お姉ちゃんは寝る前私の体をよく触るようになってるし、幽霊は現れなくなっている。一体どう言うことなんだろう?

 チヒロさんはワラの言葉を聞いて少しは納得したのか諦めたように息を吐いた。


 「まぁヒビワラさんが良いのでしたらいいですけど。一応夏休みに一緒に映画を観てどう言う人物かは理解しましたけど……」


 「え——?」


 一緒に映画?


 「ウズメさんどうかしましたか?」


 チヒロさんは首を傾げて私を見る。


 「ううん。なんでもないよ! ——なんでも」


 「そうですか。何か言いたいことがあれば言ってもいいのですよ」


 するとあたりに予鈴が響いた。


 「予鈴ですね。そろそろ戻りましょうか」


 ——————。

 ————。

 ——。


 放課後。今日は部活はない。

 私は帰り道は普段ならウキウキと足が回るのに今はなぜか回らなかった。どうしてだろう?

 もしかしてチヒロさんが私以外と映画に行ったから? いや、そんなはずがない。だってチヒロさんにはチヒロさんの人間関係があるはずだし。


 「私、ワラと遊んでないの後悔してるの?」


 夏休み確かに誰かと遊ぶ機会はあった。だけど私は誰とも遊んでおらず、よくてゲーム大会とチヒロさんとの買い物だ。

 そんな生活を自分で受け入れて今更孤独感を感じてる?


 「お嬢ちゃん。悲しい時はこれをお食べ」


 「あ、ありがとうございま——はい?」


 私はうっかり伸ばした手を引っ込める。声をしたのは足元。

 地面を見るとそこにはチトセ校長がいた。


 「校長先生?」


 「おっす! 悲しい少年少女の元に駆けつけるチトセくんだぞ!」


 校長先生は相変わらず賑やかな声を出す。

 校長先生は一見タコの姿をしているからいつも突然現れた時は驚いてしまう。


 「えっと、今日はなんですか?」


 「ん? 今日は普通に相談屋だよ。ほれ、受け取って」


 校長先生は私に湯気が出るほどあったかい緑茶を渡してくれた。私はそれをありがたく受け取ると校長先生は私の頭に乗る。


 「見た感じ人間関係かな?」


 「まぁ、そうですね」


 「白鬼に囚われる人は大抵人間関係に難ありな子ばっかだから慣れた仕事なんだよね」


 「あ、そういえば——」


 私は校長先生の言葉を思い出す。確か校長先生は発揮のことを知っていた。


 「そういえば校長先生はどうして白鬼のことを?」


 「——ま、君にならいいか」


 校長先生は観念したみたいに息を吐き、鼻歌を歌った。


 「とは言ってもボクは少なからず白鬼のいた時代には既に存在していたから知っているだけなんだけどね」


 「——! ということはオオヤと藍姫についてご存知なんですか!?」


 「そうだよ? むしろ藍姫は今でもボクの前に現れては恨言を言ってるね」


 「恨言って——。もしや校長が白鬼とかじゃ……」


 「大丈夫だい!」


 校長は私の頭の上で暴れる。


 「少なくともボクは神様なんだよ! 君たちは扱いひどいかどボクは神様なんだよ!」


 「え、神様?」


 校長先生は私の頭を勢いよく叩いて飛び上がると私の顔の高さに合わせるように降下して静止した。


 「農業の神様。それがボクなんだけど。とは言っても実質学問の神様だから農業ですらないけど。とにかく学問なら大半知ってるし白鬼が君の魂にいる原因もあるんだよ」


 「じゃ神様なら原因言ってください」


 「えー……。藍姫のお願いでボクが貼り付けちゃいましたごめんちゃい。てへっ」


 「は?」


 私は校長先生の顔を両手で包む。


 「もう一度言ってください。あとそのお願いってなんですか?」


 校長先生は真剣に聞いている私とは裏腹にニマニマとバカにしたかのように笑う。


 「藍姫は嫉妬しやすい子でね、どうやったら嫉妬を抑えるかをボクに聞いたんだ。で、ボクは負の感情で力を付ける白鬼の存在に気付いて、弱いからどうせいけるやろと思ったらね」


 「は、はい」


 「藍姫がまず負の感情がやばくてさらに白鬼が強くなってりしてオオヤが全力で封印しないといけなくなりました!」


 あ、なるほど。そういうことか。


 私は校長先生を優しく上下に振り、徐々に勢いよく振った。



 「とういうことは校長先生が戦犯ですか?」


 「そうなるよ〜」


 「で、私はどうすれば?」


 「とりあえず藍姫の心を覗いてみなよ。君と藍姫。割と似ているから分かち合ってみたら白鬼は君の体から消滅するはず」


 私は腕を止める。校長先生から手を離した。


 「本当に消滅するんですか?」


 「うん。するよ。正確には記念祭までにどうにかしないといけないかな——。あとは……」


 「校長先生?」


 校長先生は私の耳元に口を近づけた。


 「いっそ彼氏くんの明日の放課後にでも馬乗りになって本音を吐かせたら?」


 「ふぇっ!?」


 自分の顔が暑くなっていくのが分かる。校長先生は愉快そうに笑いながらスゥーと姿を消した。

 私は顔を隠す。


 「ワラ、怒らないかなぁ〜」


 私は早足で帰宅した。


 ————————。

 ————。

 ——。


 それから三日がすぎて、決心がついた。もういっそやらかそうと。

 私は放課後誰もいなくなった教室にワラを呼んだ。

 夕日が教室に入り私を照らす。

 作戦としては昨日発表された映画の青春のお話見たいに幻想的な感じで相手を魅了させたあといい感じに打ち解けさせるという寸法。だけど私は可愛くないからいいのかな?


 それから十分ほどたってワラが入ってきた。ワラはしばらく私をじっと見た。


 「ど、どうしたのワラ?」


 私が声をかけるとワラは一瞬ピクッと動く。

 

 「昨日見た映画の予告と同じで驚いた」


 「——!」


 ワラ知ってたの?


 「それからテレビの番組で子犬の広告映像と同じ感じ」


 「こ、子犬!?」 


 いや、私は狼!


 「顔を赤くするところと、尻尾をそらして全力で振ったり頬を膨らませているところも似てる」


 ワラは恥ずかしげもなく言う。いやいや、恥ずかしいから!


 気づけば私はワラに突進して地面に押し倒していた。私は勢いに負けてワラの上に乗る。ワラは困惑した顔を私に向けた。

 えーと。すごく気まずい。


 「ウズメ?」


 「わ、ワラは私のことどう思ってるの? 白鬼がいるから仕方なく私の相手をしてるの? 縫お姉ちゃんから私はいじめられていたから仲良くしてあげてと言われたからしてるの?」


 「——違う」


 ワラは私を抱きしめた。


 「だって電車の時もそうだったじゃない! あのあからさまさは気にするの! 今思ったらとっても!」


 「ウズメ」


 「——」


 私は発言をやめる。


 「あの状況は俺はどう話せばいいからそうなっただけ。縫さんからは後から聞いて知った。別に白鬼のことは関係ない。純粋にウズメに興味を持ったから。そして話してみて楽しかったから声また声をかけた。それを繰り返しているうちに君のそばにいたくなった。ただそれだけ」


 「——」


 多分ワラが白鬼や邪神関連でこれほど長く話してくれたのは初めてかもしれない。

 ワラは私のことを最初からなんとも思っていなかった。至って普通に友人となれるから話していたんだ。

 ワラはもしかしたら私と同じなのかな? ワラは無口なだけで私とだけじゃなくて話すのが好き。その中でも私が良かったってこと?


 「俺はウズメの心を軽んじていた。だから最初は考えていたけど取りやめた白鬼の討伐をしたい」


 「白鬼の討伐?」


 ワラは私の手を握った。


 「決行は記念祭当日。その日に行う」


  私はワラからその作戦を聞いた。

 ワラのことを何一つ知らなかった。ワラはずっと悩んでいたんだ私とどうすれば仲良くなれるかについて。

 それは私も同じでワラとどう接すればいいのかが分からなかった。

 ワラは……は本当に、私のことが好きだったんだ。だったら私も頑張らないと。


 ——————。

 ————。

 ——。


 それから三日が過ぎて私は組とみんなと必死に文化祭に向けて動いていた。私は組みの出し物の看板を作る。

 私は机を退かしてもらって厚紙を床に敷く。私は絵の具を混ぜながらアサノさんに言われた絵を描く。


 「ウズメさん休憩しませんか?」


 そうこう描いているときにチヒロさんが私に視線を合わせる。チヒロさんは先程から絵の具やら飲み物を持ってきてくれている。


 「ううん。もっと頑張ってみんなの役に立たないと」

 

 「ダメですよ。そうやってふざけている時に限って漫画などでは絵の具が完成した看板にバシャッてかかるんですよ」


 「もう、そんなことないって」


 私は笑いながら返す。チヒロさんってお金持ちだけどこういう娯楽について詳しいから話していて本当に楽しい。

 するとチヒロさんはとある方向に指を差す。その方向を見るとツボミちゃんが重そうにバケツを持っていた。


 「どうしてバケツ持ってるの?」


 「なんでもゲームで水風船を実験でして見るみたいです」


 「確か列車のおもちゃに小さな円盤乗せるんじゃなかったっけ?」


 「そうなんですが二つ目もすると皆様が……」


 チヒロさんは困った顔をする。よく見るとツボミさんの隣には私が作った歩いて宣伝できるぐらいの大きさの看板があった。

 そしてヨロヨロ歩くツボミちゃん。するとチヒロさんは何故か目を輝かせる。


 「ウズメさん! 多分あれかかっちゃいます。どうしますか?」


 「むっ、どうして嬉しそうなのかな?」


 すると次の瞬間チヒロさんが足を滑らせ絶賛絵の具を乾かしている最中の厚紙の上に転けた。


 「ふぐっ! ——っいたたた」


 厚紙からチヒロさんが立ち上がると髪と背中に絵の具がべっとりと付いている。けど本人は気づいていたいのか厚紙を見て頭を下げた。


 「ウズメさんごめんなさい!」


 正直私は怒る気力よりもこれチヒロさん着替え持ってきてないよね? 私は一応絵の具使うからで持ってきてるけど。

 私はチヒロさんに駆け寄る。


 「チヒロさん。とにかくトイレに行こ? 髪や着物に絵の具ついちゃってるから」


 「え、本当ですか!?」


 「うん。ほら早く行こ!」


 私は背中を押してチヒロさんをトイレに連れて行く。その時一瞬だけワラを見る。ワラは水風船を作っていた。そして見事に破裂させる。


 「——」


 ワラのびしょ濡れ姿を見た周りの男子たちは笑い始め、タオルを持ってきてくれたりと優しい。

 ワラは意外にも人望あるんだ。


 「おいミコト。今度は絶対にわざと割るなよ?」と、ツノムくんはお尻から生やしている爬虫類の様な尻尾で地面を叩きながらツッコミをしたように聞こえた気がするけど気にしないでおこう。


 記念祭まであと二週間。全力を尽くそう。

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