第24話 たまにはほのぼのと
いい加減慣れてきた高校生の朝。春の朝は鳥の鳴き声だけど夏となればシャンシャンとなく蝉の鳴き声が夏の象徴だ。
私は中学の不登校の時と比べて朝は早く起きれている自信がある。
不登校の時はずっと昼起きだったのが高校になってからは深夜二時に目が覚めるのが普通になってきた。原因は定期試験の勉強を当日にしている私にあるけど、そんなバカなことをしていたせいで私の体はどうやら深夜二時が朝の判定になってしまったようだ。
まぁ、とにかく。お父さん。お母さん。私は高校生として充実した生活を送っています。
さて、今日は一限目からほぼ使われることのない音楽室で研究基礎の夏休みの自由研究の発表がされている。みんな色々と個性のあることをしているから見ていて楽しい。
そういえばチヒロさんはどんな研究をしているんだろう。私はチヒロさんの研究成果が貼られた場所まで行った。
その隣にはチヒロさんが顔を赤くして立っていた。
「チヒロさん! チヒロさんはどんな研究したの?」
「あ、ウズメさん。け、研究は……その、見ないでくださいぃ……」
チヒロさんは顔を隠す。いや、一体どんな研究をしたのか気になる。
チヒロさんの張り紙を見てみるとそこには『特撮研究』と題名があり、内容はざらっとチヒロさんが映像の特撮技法などを実践した成果が書いてありさらに縁がある映像会社と最新の特撮を実践して試しに作ったりしたというのが書かれていた。
正直言って恥ずかしがる理由にもならないし、純粋に一日だけでここまでしたチヒロさんが凄いと思うほど。
「いや、とても凄いよ? 別に恥ずかしがる理由なんてないと思うけど」
「——違うんです。私って特撮好きに見えませんよね? だから変な噂が立てられて本家に迷惑をかけないかが心配で……。わ、私はこう見えて弱いところはウズメさんにしか見せてないんですよ?」
「あー……」
私は記憶の中のチヒロさんを思い出す。
百貨店でチヒロさんとお買い物をしている時、自転車を試し乗りできるところでチヒロさんは試しに乗って一秒で転けたり、水泳でチヒロさんは見様見真似で適当に泳いだほうが早かったり、プログラミングの授業で記憶を保存する外部機器を安全に取り外さないで記憶を破損させたりと。
「む、今失礼なこと考えましたね?」
チヒロさんは私が考えていたことに気づいたのか私に顔を近づける。
「か、考えてないよ! とりあえず私は特撮とかの研究とかしているの好きだよ?」
「まぁ、それなら許してあげましょう」
チヒロさんはむすっとしながらも許してくれたようだ。
では次に行こう。
これからしばらく回ってみてみるとみんなは予想以上に高度な研究をしていた。それと比べて私の幽霊の行動を書いたやつは本当に良く通ったと思う。あれ普通の先生なら笑顔で破り捨てると思うもん。
そして大体面白そうなのを見た後、最後ワラのところ行く。
ワラはあの幽霊、藍姫に脅されている可能性がある。だけどワラは今まで私にひどいことをした事がない。本当に大丈夫よね?
——私のアホ。ワラを少しは信用しなさいって——!
「——?」
ワラは首を傾げて私を見下ろしている。とりあえず自然に話そう。
「あ、わ、ワラは夏休みどんな研究したの?」
「これ」
ワラは張り紙に指を差す。そこに書かれていたのは『水切りで一番飛ぶためのコツを全力で計算してみた』と書かれていた。
なんだろう、この大人が真剣にアホみたいな研究してみた感。内心これ大好き。
「この研究一人でしたの?」
「最初は一人。途中でササが乱入した」
「何してんのササ先生……」
私は水切りではしゃぐササ先生を一瞬だけ想像したけど怖いことに全く違和感がなかった。違和感よ、仕事して。
「で、どの石がいちばん跳ねたの? それとコツは?」
「石は円形で重力と水面に沈む角度。最後は回転数などを調整すればかなり飛ぶのが分かった」
「本当にそこは真面目にしたんだ……」
「これの文章化は最初ササに話してもらったら擬音語で意味が分からなかった。それがこの時の音声」
「なんで録音してるのよ……」
私はワラから音声再生機を借りて回す。するとササ先生の声が聞こえてきた。
『もう何度も言わせないでください! 水切りで大事なのは石は円形で——』
え、普通じゃない?
『物理的に必要なのはグルグルーパシュン、ババーンでクイッと整えてピシャンが必須なんです!』と、ササ先生が言った後に『意味が分からない……』とワラの声が入った直後に何か殴る音がして録音機が落ちたであろう音がした瞬間に——。
再生は止まった。
「意味分かんない! 初見だと尚更分かんないよ!」
ワラは相変わらずの無表情だけど多分心の奥深くでは解読に疲れたというのがなんとなくみて取れる。
——ごめんなさいササ先生。流石にこれは酷い。それとワラが今頭に包帯つけてる理由ってもしかしてこれ?
————————。
————。
——。
まぁ、これは先日の学校での話だ。
それから翌日。なんだかんだあって私は今お父さんと百貨店にいる。本当はお母さんと縫お姉ちゃんがいたけどお母さんはサボりまくった原稿の消化をお父さんに言われ、縫お姉ちゃんはあとで合流。
まず私がお父さんといるのは今日が私の誕生日だからだ。
私は隣を歩くお父さんを見る。
「お父さん! 誕生日はなんでもいいんだよね!?」
「あぁ良いぞ。けど一万未満だ」
「はい!」
「あの〜良いですか?」
するとお父さんの後ろに警察が現れた。警察はポケットから警察手帳をお父さんに見せる。
「確認ですが未成年誘拐じゃないですよね?」
「いえ娘です」
お父さんは真顔で手慣れた対応をする。
「本当に? 君、この人の言っていること本当?」
警察は私に質問する。
「私のお父さんです。目を見てください。よく目に圧を出すとお父さんに似てるって言われるんです」
私は少し目つきを鋭くした。
警察は私とお父さんの目元を交互に見た後大慌てで頭を下げた。
「こ、これは失礼しましたぁ!」
警察はそういうとこの場からそそくさに立ち去っていった。
お父さんはため息をつく。
「まぁ、これはもう慣れたものだな」
「もう、お父さん髪の毛生やせばいいのになんで今も剃ってるの?」
そう、お父さんは娘と買い物に行く時毎回補導されている。聞けばお母さんとまだ結婚する前にも補導されたらしい。一応言うけどお父さんは武道家のように筋肉質で、坊主頭。現職は同人作家の元芸術大学の警備員だ。
お父さんは自分の頭を触る。
「こっちも生やしたいが一度生やしても補導されたからもう諦めているんだ。ははは……」
「ふ、不憫すぎる……」
「まぁ、とりあえずお前が買いたいものを買いにくか」
「うん!」
まぁ、そんなことより今を楽しもう!
私はしばらくお父さんに誕生日で必死に買って欲しいものを探した。ゲームもいいけどこないだみたいなちょっとダメなゲームを買いそうで怖いな……。
だけど聞いたらカマタくんが部活の時に『あのゲームは続報がないうちに売ろうとした偽物のゲーム』って言っていたけど、本当のゲームは確か天童(あまのわらべ)っていう会社が十年前に発表した格闘ゲームだったらしいけど延期に延期を重ねているみたい。
そのゲームは私が知らないうちに発表されていた。聞けば今日発売日みたいだけどこの人混みだとみんなの目当てはこれなのかな?
私はゲーム屋さんの前で並べられているソフトをじっと見た。
本当に無い。確かツボミちゃんはもう買ってすごくよかったって言っていたけどどうなのかな?
「ウズメ、見つからないのか?」
お父さんは心配そうに聞いてきた。
「うん。最近発売した格闘ゲームなんだけどもう売り切れみたい」
「格闘ゲーム……。あぁ、あれか」
「お父さん知っているの?」
「そうだな。お母さんがこれお前が欲しがるから予約してくれって言っていたから今日届いているはずだぞ」
「え!?」
あのお母さんが指示したの!? ネットで買い物できるのにわざわざ現地に言って買いに行くあのお母さんが!?
「ということはもう届いてるの!?」
「多分な」
お父さんは携帯を少し操作した後画面を見せてくれた。確かに画面に映っているのは私が書いたかったゲームだ。
「お父さんありがとう!」
「はいはい」
私は頭をお父さんに撫でられる。それなら私がわざわざ百貨店まで行った理由が潰えたんたけど。
「けど、もう一本欲しいのあったら買うぞ?」
「良いの!?」
「あぁ。あとここで尻尾を振るのは抑えろよ?」
「あ」
後ろを見るとおばあさんが申し訳なさそうな顔でこちらをみていた。私はすぐに頭を下げて尻尾を押さえた。
それから私は次に欲しかったゲームで、会社運営体験というゲームを買った。値段は千二百程度。私って前からこういうのびのびと楽しむゲームをよく買っている気がする。
それから会計を済ませて持ってきた袋にゲームを入れた後、柱に立てかけられた時計を見るとちょうど昼前だった。。
「じゃ、もう昼だしご飯食って帰るか?」
お父さんがそう口に出した瞬間私のお腹の虫がなる。
私はお腹を押さえる。
「う……。い、今のは虫の声だから!」
「分かったわかった。それにもうお前がまだ子供みたいなところが見えて安心したぞ」
「うぐっ」
「昼ごはんは適当でいいか?」
「そば」
「よし分かった。じゃ行こうか」
私はお父さんと一緒に蕎麦屋に入り、注文してそばを待った。しばらく無言の間が続いた後お父さんが口を開いた。
「そういえば学校はどうだ? 嫌なことはされてないか?」
「うん。楽しくやってるよ」
「それは安心した。またお前がいじめられていたらと不安でな。けど、こないだだって遊びに行っていたからちょっとづつだが、人と話すのは楽しいだろ?」
「——今までだったら人と話すのも嫌で、特に家族以外の異性が近づくと過呼吸になってたから。だけど高校に行ってからだけどみんなと話すのが楽しいなーって」
私はお茶を飲んで喉を潤す。
私は高校に入るまではずっと家にいた。ゲームもしないで本も読まないで。それもそうだ。私は中学の時教室で一人寝ている時に複数の男女に襲われて着物を全て剥ぎ取られた後触られたく無いところを含め、全身を触ってきたのだ。
この時感じた私の気持ちは嫌悪感と恐怖だ。
今思えば拒絶できたと思うけど、当時は体が動かなかった。
その後の私は何も考えられなかったけど、今ぐらいになるまで回復できたのは縫お姉ちゃんとお父さんとお母さんのおかげ。
特に縫お姉ちゃんは私を無理やり外に出して、外が怖く無いというのを教えてくれた。異性は怖く無い人もいるというのを教えてくれた。
お父さんは私を見て嬉しそうに微笑んだ。
「そうか。本当に、成長したんだな」
「む、私だって成長するもん」
「はい。ご注文の品をお持ちしました〜」
ちょうど店員さんが二人分のそばを運んできた。私とお父さんはそれを受け取って食べ始めた。
食感はなんと凄い! 麺が伸びていておかゆみたいな食感!
お父さんは口に含んだのを飲んだ後私を笑顔で見た。
多分言いたいことはw足しと同じはず。
——二度と来るかこんな店。だと思う。
「それにしてもお前はよく大きくなってくれたな。一応言っておくが好きな人ができたときはお母さんには最後の方がいいぞ?」
「え、いきなりどうしたのお父さん?」
私は冷や汗を流しならお父さんに質問した。
「まぁ、気になるのはしょうがない。簡単にいうとお母さんが昨日二人に彼氏ができたらどうするか聞いたらちゃぶ台返しを決めると宣言したんだ。あはは……。まぁ、あの家は前科もあるから否定はできないが」
「あ、そういえばお父さんは婿入りなんだっけ? おばあちゃんが何かしたの?」
「お母さんの方がダントツでマシだぞ? おばあさんは薙刀を振りかざしたからな?」
それを聞いた私はちょうどドン引きしていただろう。だっておばあちゃんはおもちゃ作ってくれたり遊んでくれたりと小さい頃から世話してくれるほど優しいのに。むしろお父さんその修羅場生き残ったよね。
「じゃ、そろそろ帰ろうか。まだ見たいところはあるか?」
お父さんは懐から財布を取り出す。
えーと行きたいところかぁ……。着物をチヒロさんと遊んだ時に買ったし、画集も時折買ってるし今は特に漫画と小説も欲しいのは無いし。
私は悩みながらも立ち上がる。
「特に無かった……」
「ん? そうか」
私とお父さんは会計を済ませて店から出て帰路についた。百貨店から出た街並みは昼を過ぎたからか人は少ない。多分後小一時間ほどで第二波の人並みがやってくるだろう。
私はお父さんの隣を歩く。
百貨店から家までの道のりは三十分ほど。
「——そういえばお父さんってお母さんと付き合う前はどうだったの?」
「急にどうした?」
いや、本当に私何聞いてるの?
「まぁ、初めて会ったのが芸術大の構内に単車で突っ込んでくるお母さんを捕まえた時だな。そこからはそれの繰り返しだな」
「じゃ付き合うきっかけは?」
「きっかけか……。きっかけは夜に終業の時に構内を巡回中している時にだな。母さんが作業中に寝てしまって帰りのバスを全て乗り過ごし、挙句に見つかったら怒られるからと暗い中ビクビクして教室の中にいるのを俺が発見した時だな。それから母さんが猛烈に話しかけてきて気づいたら付き合っていた感じだ」
「へ、へぇ〜」
私から見てお父さんとお母さんの恋愛って犯罪者が警察に恋した感じかするのは気のせいかな? だけどお父さんとお母さんって見た目ではお父さんが年上に見えるけど実際には同い年なんだよね。
「それにしてもウズメが恋愛に聞いてくるのは珍しいな。何か恋でもしたのか?」
「え、うん。——あ」
うっかり流されて馬鹿正直に答えちゃった!
お父さんはニヤニヤしながら私を見る。
「へぇ〜。ウズメに男がな……」
「違うから! 告白されてついうっかりはいって返事した訳じゃないから!」
「したんだな?」
「はいぃ……」
もういっそ堂々と言おう。お父さんならお母さんには内緒にしてくれるはずだし。あれだけそば屋で豪語したからには信頼してもいいよね。
お父さんは「はぇ〜」と何やら嬉しそうに声を漏らす。
「ウズメに告白するということはその男の子は見る目はあるな。異性に話すのが苦手なウズメのそばにいる子だろ? 恐らく。それも趣味が近くて部活も同じなはずだが間違っているか?」
「いや、当てすぎて逆に怖い。え、どうしてそこまで分かったの!?」
「単純にウズメと話せる男の子の条件が狭いからな。まず第一前提がその子を信頼できる友人と見ているか。それに信頼できるというのなら相手と一番交流できる部活動しかないからな。実習はその時つながりになってしまう可能性がウズメの場合は高い。ちなみにお母さんもそうだったぞ」
やっぱりお父さんって警備員していたからか相手を見抜く力が恐ろしい。これが洞察力の神と称される存在なのかな。
だけどとりあえずこれならなんとか相談もしやすいだろう。
「そ、それで相談があるんだけど……。良い?」
「おう。どんとこい」
お父さんは私を気を遣ってか公園に歩き、ベンチに座った。
「えっと。異性の子とは侍っているんだけどね、どう接していけば良いのかがわからなくて……」
「あぁ、それか。どう接するかは自分に正直でいけば良いと思うぞ」
「正直に?」
「確認だがもし俺がウズメに遠慮していたらどう感じる?」
——もしお父さんが遠慮していたらか。そうなった場合は多分気まずいかも。
「もちろんそうなったら気まずいだろ? 確かに多少の遠慮は大事だが、時には遠慮をなくして接した方が嬉しい時もある」
お父さんは言いたいことを言えたのか腕を混んで満足そうに首を上下に動かした。なる帆d、遠慮しすぎもダメなんだ。
確かにお父さんの良い通りだ。私は異性に対してはどう向き合えば良いのかがわからない。特にワラに対してはどう向き合えば良いのかが見当もつかなくなっている。
ワラは本当に優しい。夏休みだってゲーム大会で楽しませてくれたし、邪神との問題も解決してくれた。
ワラは命の恩人だし、友達……だし。
だけどどうして私はワラと今接するのが怖がっているのだろう?
入学式の時に不思議な子って感じて拒絶しちゃったから? その罪悪感が私を蝕んでるの?
「ま、恋愛初心者は大体俺も同じように悩んだからな。ちなみにお母さんも最初はウズメみたいだったぞ? どう接すれば良いのか分からないからって最初は映像と漫画の研究とか言って喫茶店で好きな漫画を語ったり、映画を見たりさ」
「——そう、なんだ。あ、じゃ最初はお互いの好きなものを見つけるのがいいの?」
「もちろんだ」
お父さんはそう答えると私の頭を撫でた。私は乱れた髪の毛を整える。
「分かった。聞いてみる!」
少しはどう接するかは考えつつ、試しにメール送ってみよう。
私はベンチから重い腰を上げて、お父さんと一緒に帰路についた。
後日、組の誰かが私とお父さんとの買い物を見ていたらしく、その子が言うには私が男の人に性的関係を強制されてると勘違いしたみたいで教室ですっごく心配されました。
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