第22話 夏休み最後のクソゲー大会

 太陽は冬と春は生命の温もりを感じさせ、どこかお出かけに行きたがらせるが夏はどうなんだろう。

 農業高校の夏休みというのは少なくとも普通科とは違う。

 まず、よく連想されるのは漫画や小説では恋人か友人と出かけて宿題をやって行く感じだと思う。こんな感じの青春を送るのが普通……なのかな?


 だけど私たちの場合はそれに出した感じに農作業がある。


 暑いなか母校に向かい畑の整備。喉が乾けば取立ての胡瓜をかじって潤わせて。さらに研究があれば部活のみんなと集まって作業。この辺りは変わらないと思う。

 念を押していうけど夏場の水やりは朝早くか夕方が良い。美味しい野菜を食べたいのなら日差しが強い時間帯は厳禁だということを言っておく。


とは言いつつもほぼどの高校と同じだ。


 そういえば自由研究ってどうすれば良いのか考えたことはあるのだろうか? 一応言っておくけど私はもう終わっている。

 この本題に入る前に、三日前のことを思い出してみた。


 三日前、私はチヒロさんと着物を買いに来ていた。理由と言っても私がゲームを買いに行っていた時にたまたま会ったからついて行ったというだけだ。

 この時チヒロさんが「そういえば宿題、終わりましたか?」と聞かれたから、私は「うん。夏休み前に終わらしたよ」と答えた。


 それを聞いたチヒロさんは嬉しそうに「ウズメさんは仕事が早いです」と言ったから。

 私は「チヒロさんほどでもないよ」と返した。


 そして買い物も大詰め、その時前から歩いてきた小学生の集団がこんな会話をしていた。

 「あ、ボク自由研究今してるんだけど君は何をしたの?」と、こんな会話を大きな声で。


 その声を耳に入れたチヒロさんの顔は真っ青になっていた。

 「どうしたの? ポンポン痛いの?」

 「い、いえ。う、ウズメさんは自由研究、何をしたんですか?」と震えた口調で言った。

 それを聞いた私は正直に「幽霊観察だよ?」と言った。


 ちなみに嘘じゃない。だって母が降ろした幽霊は全然昇天する気配も見せないし。逆に家に馴染みすぎたせいで家で見かけなくなったら大きな声を出して探してしまうぐらいだ。

 私はそんな幽霊の許可をもらって自由研究をしたわけだけど、チヒロさんは「そそ、そうですか」

 と、言ったきり一言も話さなくなった。


 私としてはこの後のチヒロさんについて割と心配だ。だって夏休み終了直前と言っても過言ではないし、自由研究なら一日で済ませてはいけないはずだ。

 まぁ、チヒロさんのことだから実はやっていたけど、紙に書いていなかったとそう信じていたい。


 まぁ、正直言ってこれはどうでも良い。とりあえず今暇つぶしに何かやりたい。

 運動? いや、こんな暑い時に運動はどうかと思うし、水泳かと言われたらなんか違う。

 遊園地も図書館も私的には秋谷春に行くものと断定しているから行く気にもならない。

 さっき心の中で思った本題は普通に短い期間でチヒロさんは何をするのかなっというオチのない話。

 

 話を戻すと暇な時はテレビゲームも良いけどそれだと問題があるし、携帯ゲームでも問題がある。なぜなら私が持っているのはもうやり尽くしたゲームだけ。中学の時なんかは色々あり過ぎてゲーム買ってないし、私個人で持っているゲームは実は四本しかない。家には合計二十個あるけど十六個は実は縫お姉ちゃんのだ。

 改めて話しておくと割と縫お姉ちゃんはゲーム好きだし、お母さんやお父さんも大好きだ。

 


 それから三日が過ぎて、夏休みが残り一日と来た。本当に暇だ。

 「ワラとゲームでも……。いやいや! ワラってどんなゲームしてるのか全く把握してない!」

 すると携帯が震えた。開くとツボミちゃんからメールが届いていた。

 「えっと『今日突然だけどミコトの家でカマタとツノムとアキヤやアサノと残り一人いるけど今は秘密ね。とりあえずこんな感じで格闘ゲームするんだけど一緒にどう?』」

 私は飛び起きる。

 「と、友達とゲーム……」


 私は引っ越す前に村の幼馴染や年上の人としたゲームを思い出す。あれから何十年ぶりか。

 「よし!」

 私は『行く』と返信して家から飛び出した。


 私は電車に乗ってワラが降りる駅で降りた。だけどここからが問題だ。

 「ワラの家ってどこ?」

 「う、ウズメさ……ん?」

 「ふぇ? あ、ミコミさんだ」

 隣から声が聞こえたと思って振り向いたら電柱の後ろにミコミさんが隠れていた。


 「どうしたのミコミさん?」

 「うっ……」


 するとミコミさんは少し苦しそうな顔でその場に座り込んだ。


 「——どうしたの?」

 「お、お腹——」

 「お腹? お手洗い?」

 ミコミさんは頭を前後に振った。

 「あ、全然行っても大丈夫だよ!」 

 「す、すみません……」


 ミコミさんは少し頭を下げたあとお手洗いに向かった。


 「どうしたんだろ?」


 それから数分近く待ってミコミさんが戻ってきた。ミコミさんがしょぼんと暗い表情で私に近づいて頭を下げた。

 「……ごめんなさい」

 「大丈夫だから気にしないで! ね?」

 

 私は全力を出して励まし、ミコミさんにワラの家まで案内してもらいことになった。聞けばワラが迎えに行くところをミコミさんが自分がすると言って来たらしい。

 だけど人と話すのが苦手な手前、頭を考えさせ過ぎて腹痛という流れらしい。私って話すのに緊張される人なのかな……。


 「う、ウズメさんは悪くないです! わ、私が気弱だから、人と話すと滑舌が悪くなって——」

 「あ、気にしないでいいよ! 私も人と話す時緊張しちゃうから」

 「は、はい……」


 ミコミさんは再び縮こまる。

 なんだろう、この既視感は……と思いを胸に抱きながら私は一度深呼吸した。

 「ほらっ! 私が隣だから大丈夫だよ? 怖くないよ?」

 「えっと、いや——。わ、私、友達いなくて、どう話して良いのか分からなくて……」

 「う〜ん。ん? だけどイズミさんとは話せるでしょ?」

 「い、妹、みたいな感じだから……です」

 イズミさんは妹みたいな感じ……なんとなく分かる。

 でも……だとしても年下となら話せて、私を迎えにきたってことは年上とも話せるはずだよね……。

 まぁ、本人なりの事情があるのだろう。

 「だったら失礼だけど同じ感じというか、気軽に話せるというのは年齢問わず趣味趣向が概ね同じわけだからそういう人と話していったら良いんじゃないかな」

 「そ、そういう人とですか? だけど、私の趣味はそのっ……」

 「大丈夫。別に嫌なら——」

 「は、はいぃ〜」


 か、可愛い……!


 私はミコミさんの手を握った。


 「じゃ、案内お願いできる?」

 ミコミさんは口元を震わせながら頭を縦に振った。今更だけど私ミコミさんより背が低いんだね。む、虚しい。

 

 私はミコミさんと歩いてワラの家に案内された。そして家に着くと最初に戸から飛び出してきたのはアキヤちゃんだった。

 「ウズメちゃーん〜。早かったね〜」

 「う、うん。編た時に行くって言ってごめんね?」

 「別にい〜よ〜。あ、ミコミちゃん!」

 「——あ」

 アキヤちゃんはミコミさんに抱きついた。


 「迎えに行ってくれてありがとね〜」

 「——!」

 ミコミさんは最初は困ったようにアキヤちゃんの腕を掴んでいたのが次第と甘えるようにされるがままになった。

 アキヤちゃんはトロントした幸せな表情を浮かべる。

 「みんなはもう来てるよね?」

 「うん。来てるよ〜。早くゲームしよ?」

 「うん」


 私はアキヤちゃんに案内され、みんながいる部屋に入った。

 部屋の中にはテレビがあり、そのテレビに繋げられたゲーム機とワラ、ツボミちゃん、ツノムくん。カマタくんと無愛想に正座しているアサノさんが一斉に私を見た。

 ツボミちゃんは私を見ると嬉しそうに立ち上がった。


 「あ、ウズメちゃん! 突然ごめんね〜」

 「大丈夫だよ。私、もし冗談で迷惑だったらどうしよって少しね……」

 「迷惑なわけないよ! ね! みんな!」

 ツボミちゃんの言葉に応えるようにみんなは頷いた。


 「そうだぜ。ゲームは多い方がいいんだ。な? ミコト?」

 ツノムくんの問いにワラは頷く。ツノムくんは蛇の尻尾を生やした蛇族の高校生。ワラはツノムくんの尻尾を掴むと地面に押し付けた。


 カマタくんはその光景を見て笑う。

 「じゃ、ゲームやろか。で、主催者のツボミは何を持ってきたんだい?」

 「ふふふ、持ってきたのはこれ!」

 ツボミちゃんはカバンから一つのゲームカセットを出した。


 「これ巷で流行ってるって聞いて買ったのよ! 確かツノムとミコトは格闘ゲー……、あ、ミコトは育成ゲームだったっけ?」

 「——問題ない」

 ワラは素朴に返す。

 「なら良かった!」

 対してツボミちゃんは嬉しそうに腕を掲げる。

 「ん?」

 アサノさんはツボミちゃんが持っているゲームカセットをじっと見る。

 「どうしたのアサノっち?」

 「いや、これ弟が持ってやってるなって」

 「あ、アサノっちしてるの?」

 

 「うん。だけどこのゲーム格闘よりもおまけゲームの方が楽しいよ。格闘ゲームなのにたまに不具合で体力が負の数になったりするし」

 「——評価は十点中ゼロ」

 ワラがボソッととんでもないことを呟く。

 「なぬ! クソゲーだったのかお前!?」


 ツボミちゃんはゲームのパッケージを驚愕した表情で見つめながらで立ったまま白くなっていくのがわかる。確かにツボミちゃんが持っているの——あ、これ私つい最近買ったゲームだ。パッケージが良かったから買ってみたけど確かに格闘は——うん。

 おまけゲームの方がやりがいがあったりとよく分からなかったな。


 私が甘露に浸っているとカマタくんが笑う。

 「あははは! 大丈夫だよ。運営が手早く対応の乗り出したから楽しめるよ!」

 「よし! 私は無罪!!」

 「けど負の数になる不具合は残ってるで」

 「なぜ残っているのだろうか……」

 ツノムくんが真顔であさったの方向を見た。


 そしてツボミちゃんはパッケージからカセットを取り出す。


 「もう! 面白いかつまらないかはゲームしてから!」


 そしてカセットをゲーム機に挿入した。


 ————。

 ——————。


 ゲームの画面は至ってシンプルで、設定画面での音量調節はクソゲーと呼ばれるものとは違ってかなり細かく設定できる。

 それ以外にもゲームの動きの滑らかさを調整するコマ数や画質など普通いらないだろうという部分にも気を使われていた。


 「えっと、画質は……」

 「画質はこれもしクソゲーだったらゲーム機壊れそうだから下げた方がいい気がするな」

 「あーやっぱりねー」

 ツボミちゃんはカマタくんの助言を元に設定をしていき、二分ほどで終わらすとようやく格闘ゲームを始めることになった。


 「えっと、選手はみんなで作ろう! 初期値弱いけどその方が平等でしょ?」

 「えー俺はそのままがいいんだがー」

 ツノムくんが難色を示す。

 「別にいいでしょ? あんたゲーム強すぎだし。良いでしょ? 勝ったら久々にお出かけ——」

 「よし、作ろうか」

 ツノムくんは心なしか嬉しそうな声色を出す。


 「——♪」

 アキヤちゃんはコントローラーを弄っていた。そしてそれが思いっきり選手を制作するのを邪魔しているのを知らずに。


 そしてさらに五分。ようやく八人分の選手が作成できた。

 「よし! 戦うわよ!」

 ゲームが開始した。


 この格闘ゲームは一つの場所で複数人が戦う個人戦。勝利条件を自分以外の選手の残機をゼロにすることで、残機を減らす方法は体力をゼロにするか吹っ飛ばして画面外に追いやって減らすのふた通りだ。


 まず私は画面の端っこで操作を確認していた。中央ではツノムくんとツボミちゃんが激闘し、カマタくんは女子二人組(アサノさんとアキヤちゃん)と戦い、ワラは漁夫の利を狙っているのか、たびたびさりげなく横槍して自身は無傷を貫く。


 「よし、操作覚え——」

 「ふふふ! ウズメちゃんぼーっとしたらダメだよ!」

 「あ!」

 私の操作している選手がツボミちゃんの選手によって地面に叩きつけられる。そして私の選手は地面に埋まった。


 「あ、埋まった!」

 私が声を出して驚くのも束の間、選手は起き上がったのだが選手は地面の中のままだった。

 「——?」

 「え、あれ?」ツボミちゃんは動揺した声を出す。


 私は選手を飛ぶボタンを押して出ようとしたけど飛ぶ動作すらしない。スティックを左右に動かしても反応しない。

 「あ、あれ〜? ウズメちゃんコントローラ貸し——」


 「ミ、ミコトー!」

 「こ、今度はな——、わ、ワラの選手の頭が消えてるー!」

 今度起きた現象はワラの操作している選手の頭が消失したのだ。さらに体からは飛び道具が大量に溢れ出ている。


 「——」ワラはじっと画面を見つめた。

 「こ、この飛び道具当たり判定あるやんけ! それにめっさ体力削れる!」

 カマタくんはワラから離れるが、ワラはわざとカマタくんを追いかける。


 「ちょ、死ぬは!」

 「道連れ」 

 ワラは必殺技を出すボタンを押してカマタくんの選手を掴むとそのまま飛び上がり、地面に道連れにしようとしたけど、落ちたのはワラだけでカマタくんは地面で掴まれた時の体勢で宮中で固まった。


 「……あー」カマタくんは唖然とその光景を眺めた。

 「あ、ウズメちゃん。変な体勢になった」

 「——いや、なんで両腕を水平に両足はまっすぐにくっつけてるの?」

 私の使っていた選手はもうダメそうだ。うん。これクソゲーだ。私が触った時はこんな不具合なかったはずなのに。


 「あ、私の選手が〜」とアキヤちゃんが力が抜けるような声を出した。

 「あ、アキヤの選手の服が消えてるし……」

 アキヤちゃんの扱っていた選手の服が消えていた。さらに体力が負の数になっていた。


 それから数秒もしないでゲームは固まりソフトは強制終了しゲーム機本体の画面に『不具合発生。強制終了セリ』と書かれた窓が表示される。

 最も、現在ゲーム機はとんでもない冷却の音がここまで聞こえているから相当まずい状況だったのだろう。

 ツボミちゃんは手を震わせる。


 「お、おまけゲームにしましょか?」と弱々しい声で言った。

 

 それからなんだかんだそのおまけゲームを操作して遊んだ。

 特に格闘ゲームとしては最低だったけど選手が多いのと、試合の掟をかなり自由に細かく決めれるのが良かった点だ。例えば重力を変えたり体力制か残規制かなのや、掟以外では選手を自作できるのがすごかった。

 ちなみに選手を自作すると体力が負の数になった。


 絶対この機能が不具合の原因だと思う。


 しばらく数時間ほどおまけゲームで遊び休憩に入った。

 ツボミちゃんとツノムくん、カマタくんとワラはお菓子と飲み物を買いに行った。この場にいるのはアキヤちゃんとアサノさんだ。

 私は畳に寝転んだ。


 「つ、疲れた——」

 「お疲れウズメ。ウズメって以外にもゲーム強いんだね」

 アサノさんが私に果汁が詰まった水筒を渡してきた。私をそれを受け取ると一口飲んだ。

 ——スイカ味か……。


 するとアサノさんが私の顔を覗き見る。

 「ねぇ、どうしたの?」

 「え、あ……うん。おかしいかな?」

 「ううん。むしろ好きなことがあるっていいと思う」

 アサノさんはそういうと私の隣に座った。

 あとアキヤちゃんさっきから動かないけど寝てるのかな?

 私は立ち上がってアキヤちゃんに近づく。そしてツノを突くと迷惑そうに寝返りを打った。


 「あ、寝てるんだ」

 「——」

 ミコミさんはこのゲームをぽちぽちと触って練習をしている。

 そういえばミコミさんさっきの格闘ゲーム結構操作上手だったね。


 私はミコミさんの隣に座った。するとアサノさんが「ねぇ」とミコミさんに声をかけた。


 「——ねぇ、ミコミちゃんだっけ? 今何年生?」

 「え?」

 ミコミさんはアサノさんの顔を見ると怖いのかゲームを一時停止すると座布団で顔を隠した。

 「ちゅ、中学2年——でち……です」

 「——ならミコトが中三の頃は中一か。部活は? 剣道の試合に出たことある?」

 「え、アサノさん?」


 アサノさんはミコミさんに詰め寄った。ミコミさんはその場で背中から転び、パッと見てアサノさんに押し倒されているようにしか見えない?

 私はアサノさんの肩を掴む。


 「ちょっとアサノさん? どうしたの?」

 

 「う、うぅ……」とミコミさんは目から涙を流した。


 「——ほらぁ」と私がいうと「いや、泣かせるつもりは……」とアサノさんが焦りながらミコミさんを慰めた。

 そしてミコミさんが泣き止んだ頃、数分ぐらいかな? 目元はまだ赤いけどジト目でアサノさんを見る。


 「えっと、確認したいのは剣道の試合に出たことある?」

 「——剣道?」

 ミコミさんは少し機嫌が悪そうに声を発する。

 アサノさんはしばらくミコミさんの目を見て「いや、見間違えかな。ごめん、気にしないで」と言った。


 襖の奥からドタバタと激しい音が近づいてくる。そして襖が勢いよく開いた。

 「フハハハハ! ついに発見したわ!」

  そう、ツボミちゃんが入って来たのだ。ツボミちゃんの手には写真集と書かれた箱を持っていた。


 「あ、ツボミちゃん?」

 「ウズメちゃん。今から明かされるミコトの人生。見てみたい? いいでしょミコト?」

 「——構わない」

 ワラの後ろではカマタくんとツノムくんがくすくすと笑っていた。いったい何をしていたんだろう。


 「おやつ買ってきたで〜」

 ちょうどいいタイミングでカマタくんとツノムくんがちゃんが帰ってきた。もしかしたら帰ってきた後セコセコこの箱を探してたのかな。


 アキヤちゃんはこの空気に気づいて目を開けると『写真集』と書かれた箱をじっと見て、

 「この箱は? ツボミちゃんのツノムくんとの惚気写真集?」

 「ち、違うわよ! だったらワラの家にあるのがおかしいでしょうが!」

 「——後であげる」とワラは携帯を取り出すとアキヤちゃんは嬉しそうに携帯を取り出す。

 「わーい! ミコトくんメアド交換しよ〜」

 「送るな! てかなんで持っているのよ!」


 ツボミちゃんは箱を畳の上に置く。するとミコミさんの顔が真っ青になった。

 「こ、これダメ!」

 「ふん! ということはこれはミコミちゃんのもあるのね!」

 「兄さん……、これ、違う」

 ミコミさんの声を聞いたワラは箱を見ると思い出したかのように満足げな顔になった。いったい中に何か入ってるの?

 「とりゃ! ——ミコト、切腹」

 ツボミちゃんの顔から感情が消える。恐る恐る箱の中身を見てみると——春画だった。それも過激なもの。

 流石の私でもかなり引くぐらいのもの。


 アサノさんはちょっと引き気味な顔で、カマタくんとツノムくんは気まずいのかお互い目を合わせ。ワラは明後日の方向を見ていた。

 アキヤちゃんは顔を真っ赤にして春画に背を向けていた。


 「ねぇ、春画を持ってるのは否定しないけど、この内容はちょっと……」と私がいうとワラの目に光が戻った。

 「俺のじゃない」

 「ミコト、切腹」

 「に、兄さんのじゃない……」

 ミコミさんは詰まらせながら話す。


 「じゃ、誰のなの?」

 そうツボミさんは前のめりにミコミさんに顔を近づけた。


 「ま、ツノムのよりマシだし良いか」

 ツボミちゃんは悔しそうに言いながら箱を閉じた。

 「いや、さらっと俺の暴露いる?」

 ツノムくんは困惑した顔をツボミちゃんに向けた。

 

 その後夕方の五時まで遊んだあと解散した。

 

 「じゃ、今日一日ありがとね。友達とのゲームは久々だから楽しかった」

 「——なら、良かった」

 私は立ち上がってそろそろお暇させてもらおう。するとワラが私の腕を掴んだ。


 「少しだけ、話したいことがある」

 「——話したいこと?」

 黄昏の橙の輝きはワラの赤い目をより強調させ、感情がこもって何かを伝えようとしているのが伝わった。

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