第19話 楽しめ! 体育祭!!
「——まもなく次の種目が始まります。出場する生徒は入場門で待機してください」
アナウンスが私の中に響き渡る。
私は麦わら帽子を身につけ、目には眼帯、腰には刀、腕には包帯を巻いて待機する。
「えっと、結構身につけてるけど大丈夫?」
目の前にいる可愛い子犬。いいえ、私の親友ことウズメさんが心配そうに私を見る。
ウズメさんは相変わらず尻尾を横に降り、耳をぴょこぴょこと動かす。そのせいか童顔なだけあって母性本能をくすぐられる。
私はウズメさんの頭を撫でた。
ウズメさんは最初は嫌がりながらもしばらくすると満更でもない表情を浮かべる。
「相変わらずですね、ウズメさん」と私がそういうとウズメさんは頬を膨らませ、心外だと言いたげな目を私に向ける。
それから程なくして放送が鳴り響いた。
「それではまもなく一発芸競争を始めるー。参加者は入場してくだされ〜」
その方を鵜を聞いたウズメさんは少し後ろに下がる。
「それじゃチヒロさん気をつけてね」
「はい。ウズメさんこそ。本番に力を振り絞れるように温存してくださいね」
私はそう言って参加者と同じように校庭の真ん中に向かった。
校庭の真ん中に着くと周りには私と同じように奇怪な服装の人が多くいた——と思いたかった。
誰もが帽子を被ったり、上に着物を羽織ったりと単純なもので、悪く言えば変に衣装に拘って奇怪さを沸き立てていたのは私だけでした。
私は顔を真っ赤にして地面を見る。
「えーと、これ一発芸競争ですよね? いえ、確かに一発芸競争です。間違いありません」
あまり自慢したく無いですが私は記憶能力に自信があります。だからこそ間違いなんてあるはずがありません!
「えーと。みんな準備はいいかな〜?」
前から声が聞こえてくる。
振り返ると前で校長先生が拡声器を持って楽しそうな表情で宙に浮いている。
校長先生はタコの見た目を悪用してたまに生徒に破廉恥まがいなことをしますが、あれ悪意がないのが悪質だと私は思います。
校長先生は紙を見る。
「えっと。この競技の掟はご存知だと思いますが改めて説明すると一発芸をする前に最初に二周にやっていただき、その後一発芸によって結果であと何周かが変わります。
めっさ面白ければあと1周。ふ〜んであればあと2周。ぺっ! であればあと5周です。異論は認めません。要するに面白ければその名の通り一回一発芸して終了ですね。では皆さん、開始地点に並んで!」
私は校長先生の指示に従って開始地点に書かれた線に合わせて横に並ぶ。
校長先生は私たち参加者の前に始まりを伝える拳銃を職種でしっかり持ち、そして引金を引いた。
「開始!」
私は音がなったと同時に走り出す。
私はそこそこ走るのには自信があったものの、みんな思っていた以上に足が早く、2周した頃には真ん中あたりだった。
私はゆっくり体を動かし列に並ぶ。
内心私はこの時点で競争とはと高著す遠征に聞きたい。
一人の生徒が朝礼台に乗る。
その生徒は鉢巻を頭に巻き、眼鏡をかけていた。
「三年三組!
イチシゲ、先輩ですかね。その人は大きく息を吸う。
「結婚! おめでとうございます! お幸せに!」と純粋な瞳でイチシゲ先輩は言った。しかし、校長先生の目は少し黒かった。
「これ一発芸ちゃうからあと五周」と、辛辣に言った。
そして次はまさかのスズカ先輩。
スズカ先輩は短い髪を後ろにまとめ、木刀を両手に握っていた。
「二年四組スズカ! お題は昨日二十一時四十五分に登場した時代劇の悪役が言った言葉!」
スズカ先輩は両手の刀を持ち上げる。
「我が名は安雲を治めし
ちなみにあの劇はもしかしてですが姉様が担当した『安雲王〜終局〜』という映画をもとにしたアニメだった気がします。
そこはウズメさんが知っていそうなので後でに聞きましょう。
あのあと私の番までは変なお題がたくさんでした。
「俺のお題は下着の色!」
「私のお題は国民的青狸のモノマネ!」
「オラのお題は高速で動く雲に乗る猿妖怪のモノマネ!」
「僕のお題は……。なんかおもろいこと? は?」
などよく分からないものがあったものの、ようやく私の番です。
私は朝礼台に登る。
まだ走っていない参加者、それから疲れて先に芸をして終着点について休憩している参加者たちが私を見る。
もちろん他の観客は見ていますがやっぱりやろうとすると緊張しますね。
「ほら〜早く〜」
四組の天幕からツボミさんでしょうか? 声援と思わしきものが聞こえてきた。
私は羞恥心を心の奥に封じた。
「わ、私のお題は中二病です!」
そう言って私は袖から包帯を周りの人たちに見せびらかす。
「我こそは徳田チヒロ! 邪を祓いし邪王なり! この包帯をとけばこの世界の邪が私の元に集うだろう!」
私がそう言い終えると辺りの温度が三度ぐらい下がった感覚がする。
そして終わったらすぐに評価する校長先生は何も言わない。
校長先生は言いたいことをまとめ終えたのか拡声器を口元に持ってきた。
「えーと。心から楽しんでいるのと達成感満載の顔。よし、あと一周走れ!」
私は校長先生がそう言ったのと同時に走り出した。
組の天幕からは「お疲れー!」や「ゆっくり走っても良いよー」などのねぎらいの言葉が聞こえた。
良かった、終わ——。
「はい! 君面白いね! 合格!」
「え?」
「あーとチヒロ選手! 終わって安心したのか、うっかりしてしまったのか順位を繰り下げられた!」
「はぁ!?」
その時私は思い出した。
確かこれ面白ければ終着点に到達した扱いになるって——。
「良いね! 合格!」
「なんと! チヒロ選手また順位が下落!」
「もう! なんですかこれ!」
私は全速力を出して校庭を一周回った。
それからグダグダとこの徒競走は進行していき十五分経ってようやく終了した。
私は衣装を脱いで普段体育の時に着ている、動きやすい股が分かれている馬上袴に着替えて組の天幕に戻った。
——これは怒られてもしょうがないですよね。まさか五人連続で合格者が出るなんて。
私が戻ると真っ先に来てくれたのはアサノさんだった。
「お疲れチヒロ。食塩水飲む?」
「あ、ありがとうございます。頂きますね。——その、すみません」
「いいよ。うん。て言うか次の競争終わったら模擬合戦出るでしょ? 大丈夫?」
「——怒らないのですか?」
「なんで怒るのさ。別に組のみんなは怒ってないし。逆にチヒロさんがやる気を出してくれたおかげで士気が爆上がりだよ」
「そうですか。なら良かったです」
私は天幕を見渡す。
天幕にはウズメさんの姿はなく、あるのは朝ここに持ってきたウズメさんのカバンだけ。
ヒビワラさんはのんびりお茶を飲み、カマタさんとトカゲのような耳をして蛇の尻尾を生やす蛇族のツノムさんと話している。
アサノさんも私と同じように天幕を見る。
「もしかいてウズメ? ならチヒロの競技終わった時トイレに行ったよ。だけどちょっと遅いね」
アサノさんの言葉を聞いて少し悪寒が走る。
もしかしたら白鬼に襲われたんじゃ無いかと。
「ごめん遅くなった〜」
走行していると汗を拭いながらウズメさんが小走りで戻ってきました。
————————。
——————。
————。
さて、一つ質問したい。
私はチヒロさんが一発芸をして完走するのを見届けた後、お花を摘みにトイレに行った。
それから用を足し、いざ組のみんなが待っている天幕に戻ろうと立ち上がるぞの時に目の前に人が立っていたらどう思うか?
その人とは男女も関係なく立っていたら怖いし、しかもドアは一度も開いていない。まるで幽霊のようにニョキっと入ってきた。
ちなみに私が幽霊と称したその人は綺麗な青い髪に古い時代の巫女服に身を入れ、無心の笑みを私に向けている女だ。
その人は無言で笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
これ突っ込んだ方がいいのか? それとも今からワラに電話をかけて助けを呼んだ方がいいのか?
いや、ワラの電話……番号は持ってる。
メアドは交換してないけど電話番号は知ってる。
すると女の霊は膝を曲げて視線を私に合わせた。
————どうしよう。漏れそう。
「ウズメさん。お久しぶりですね〜」
「あの、本当にごめんなさい! もし気に触ることをしてしまったら本当にごめんなさい!」
女の人はコオロギのように美しい声を出す。
その声は身震いするほど感動する音色で、ずっと聴いていたら寝てしまいそうなもの。
「いえ、何もされてませんし。どうして怯えるんですか?」
「本当にごめんなさい!」
「私ですよ。ミコです! ミコ!」
「それ服見れば分かります!」
「だから巫女じゃなくてミコ! ミコ、それ私の名前!」
「巫女は名詞以外なんですか! 巫女以外の読み方あります!? ——あれ? もしかしたらだいぶ前にササ先生とわちゃわちゃしてた時のあの人ですか?」
確かかなり前というか四月入学してまだまもないときにササ先生と帰り、サソリに襲われた時に一緒にいた人。
そう、あの場にいたのがまさに今目の前にいるミコさんだ!
「それは……。お久しぶりです?」
「えぇ、お久しぶりです。と言っても二ヶ月のはずが、半年以上な感じがしますよね」
ミコさんはそういうと私の頭を優しく撫でた。
「ナビィ様からの命令であなたの魂に取り憑いている白鬼と呼ば——」
「白鬼なら飛び出していきました」
「ですねー。で、それに合わせてお渡ししたいものがあるのですが——。あ、必要ないじゃないですか」
「——なるほど。ではちょっと質問いいですか?」
ミコさんは私の声を聞くとどこが面白かったのか知らないが、ニマニマとした何やらあくどいことを考えていそうな笑みに表情を切り替えた。
「ミコさんはどうしてここにいるんですか? ここにはササ先生がいるので大丈夫そうですが」
「大丈夫じゃないからです〜。ていうか。そもそも別にここから解放してもいいんですが。朝方、チト——。ここの校長先生に全身触られませんでした?」
私は朝方校長にされたことを思い出した。
確か道中チヒロさんと合流して、駅から降りてきたところを校長先生に抱きしめられたのだ。
この行為自体もう日常と化したから無視していたけど、この行為自体もしや何か意味あったの?
ミコさんは私が考えていることはお見通しなのか私を見下ろしながら会釈した。
「今回に限ってはウズメさんにだけ自身の力を分けているみたいですね。ここの校長はよにも珍しい膨大な妖力と霊力を持った存在です。
それに白鬼が一番恐れる存在ですので今のウズメさんを見つけても近づけないですね。本来なら私がその力を分けようと思っていましたが」
「へ、へぇ〜」
ミコさんは私の反応を見るとしてやったの言わんばかりのドヤ顔に今度は表情を変えた。
ではもうこの話は終了か。
それでは私はミコさんに伝えよう。私はもう早くふんどしを履き直して、ここから出たいの。
「あとウズメさん。トイレ長いですね」
「誰のせいですか誰の!」
私は珍しく声を上げた。
あのあと私はトイレから出て、その際ミコさんから「とりあえず白鬼はいずれ消滅するので耐えてくださいね」とだけ言われた。
後ろを振り返ってみるとミコさんはなかった。
本当にただ話に来た感覚だったのだろう。
運動場に戻ると競技はまだ続いており、体育祭の競技の順番が書かれた紙で確認したところ今の競技は恐らくというか確実に玉入れだ。
良かった。一発芸競争から二つ目だからまだ私が出走する競技じゃなかった。
運動場の中央で、必死に球を入れる先輩と同級生たちを見ながら私は自分の組の天幕に戻っていった。
入った瞬間チヒロさんとアサノさんは私を見た。
「ごめん〜。遅くなった」
「ウズメさん。どこ行っていたんですか」
「トイレだよ?」と返すとチヒロさんがずしずしと私に近づく。
「本当ですか? 確認ですけど不審者に連れ込まれたとかはないですよね?」
「えーあーうん」
神様の使いにはトイレで襲われそうでした。
チヒロさんはまだ疑いの目を私に向けるが、これで良かったのか頬の膨れは収まり、チヒロさんは私の髪を流作業のように後ろで総髪にまとめてくれた。
「どうかしましたか?」
チヒロさんは不思議そうな顔で私を見る。
「ううん。なんでも。今部活の実験で目が出てから一週間おいた植物に培養液をかけているでしょ? その培養液ってほぼ原液でかけてるけど、希釈したやつとしてないやつで分けたらどうだったのかなって」
しかし、それは今言わないほうがよかったのかチヒロさんは少しの間固まる。
「チヒロさん?」
「どうしてそれを今話すんですか!」
思っていた以上にチヒロさんに怒られた。
チヒロさん、実験は失敗の繰り返しだから別に良いんだよ。
私はチヒロさんと一緒に天幕に戻って競技を観戦した。
最初は生物工学科が優勢だったものの、徐々に劣勢になる。
そして十一時、とうとう私の出番がやって来た。
私は入場門に向かって歩いた。
入場門に到達するとまず最初に高騰した気分を抑えられない大先輩ことキク先輩が他学科の人と元気に喋っていた。
が、キク先輩の真後ろに私はいた。そのはずなのだがキク先輩はすぐに振り返ると私に飛びついてきた。
「お! ウズメちゃん! 筋肉痛大丈夫かーい?」
キク先輩は私の脇に手を入れて、そのまま持ち上げた。
「え、え〜と。一応マシです。ですが離してください!」
「いーや。こんなに可愛い後輩を下ろすはずが無いよ〜」
——まもなく、個人障害物競走を開始します。参加者は入場門より入場してください。
放送が流れ、キク先輩は私を降ろした。
「よし、ウズメちゃん。行こっか」
私はキク先輩と共に入場門を超えて開始地点に向かう。まぜ最初に走るのは三年生のため、聞く先輩が最初に並んで一年生である私は最後に走る。
そして放送部がこの競技の決まり事を言ったあと、開始と知らせる先生が前に出て、三年生は開始地点に並び走る構えを取った。
あれ?
私は今この競技に参加している生徒を見る。
よく見ると普通の人は聞く先輩のみで、残りは人狼族とツノが生えている鬼人、そして髪の毛が橙色に近い狐族などの獣人しかいなかった。
確か生物学的にも獣人族は人よりも運動神経が高いというのが常識だ。
「えっと、もしかしてキク先輩この修羅場を乗り越えて一位取ったの?」
走行私が考えているうちに競技が始まった。
そこで一番驚いたことが起きる。
キク先輩は最初のネタである飴を取るとまるで特殊部隊出身の軍人かと言いたいほどの運動神経が発揮された。
跳び箱はまるで坂を上がるように超え、的あてと輪投げは忍者のように手早く終わらせた。
一番驚いたのは網を潜るのをキク先輩は顔から滑ってすぐに越えたのだ。
そんなこともあってキク先輩は誰よりも早く終着点について一位を獲得した。
キク先輩は私を見ると親指を立てて目で私に「あとは任せた!」と伝えて来ているのがわかった。
「いや、キク先輩?」
先程のは普通の人でも獣人でも無理ですって!
ちなみに、そのまま競技は続行し、私はなんとか一位を獲得できた。
それからの体育祭は激戦を極めた。
アサノさんとワラが参加した模擬合戦はなんと史上初の生物工学科の勝利となり、そのまま勢いでどの競技でも好成績を残し、午前の部はなんと生物工学科が一位という結果となった。
が、午後からはとても悲惨で、戦闘民族園芸科が本気を出して生物工学科がボロボロになり、かなり差をつけられた。
だけど私は悔しいという思いより楽しいと言うのがほとんどだ。
そんな感情がいつの間にか私の心を満たしていた。
これまでは体験したことがない運動会。ずっと苦痛でしかなく逆らったら痛いことされるというものは、この高校の体育祭では無かった。
私が一位を取ったときは組のみんなが労ってくれて、昼休憩の時でも私が大好きなものを食べさせたりもしてくれた。
これほどまでに楽しかった日は多分なかったし、学校の行事は自分の心を傷つける競技でもないんだ。
そして、体育祭は終わった。
体育祭が終わったあと、四組は教室で打ち上げをしていた。
みんなは教室でお菓子を食べてのんびりみんなと楽しそうに話す。
ちなみに珍しく私はチヒロさんだけではなく、アサノさんやアキヤちゃんと話していた。
アサノさんは私の目をじっと見る。
「アサノさんどうしたの?」
「んー。やっぱりウズメどこかで見たことあるのよね」
「そう?」
「いや、私の見間違いかも」
アサノさんはそういうと干し芋を口に入れた。
「ですが、ウズメさん障害物凄く早かったですね。本当に狼だと思いましたよ」
チヒロさんは笑みを浮かべながら言う。
「だよね〜。練習の時から徐々に慣れてきて速くなってたよね! だけどそのせいで中間試験が……」
アキヤちゃんは私を褒めたあと、中間試験のことを思い出して涙を流す。
一応確認だけど先月五月中旬にあった中間試験のことだ。
確かに練習——え?
「あれ? アキヤさん。中間試験は遠足の前にしたじゃないですから。それにウズメさんは平均以上でしたし赤点はなかったですよ」
チヒロさんは私の成績をアキヤちゃんに語る。
アキヤちゃんは「お〜!」と嬉しそうな顔を浮かべた。
そもそもなぜチヒロさんはそのことを知っているのかには触れないでおこう。
「そうでした。ウズメさん、部活動についてですが良いですか?」
「え、うん。良いけど」
チヒロさんはそう言ってアキヤちゃんとアサノさんに二人で部活のことをと言って、教室から出て階段裏に連れてこられた。そして、思い出したかのように話し始めた。
「ツキヤ先生より発表会は初月上旬にあるみたいです。その発表は貼り紙発表というものですが、私たちがしている研究ではどうにもまだ資料が足らないみたいなんです」
私は相槌を取る。
「まー、それ自体私の責任なんですが。——で、その資料と研究方法の見直しとして一応私たちが使用している放線菌について先に調べようと思います!」
「畑はどうするの?」
「うっ! そ、それはのちに決めます。ですので、明日は学校は祝日で休みなんで明後日絶対に遅刻しないで放課後来てください! カマタさんとヒビワラさんには私から伝えておきますので」
チヒロさんは、相変わらずの楽しそうな顔を私に向けた。
————————。
————。
——。
あれ? ここは……。
気がついたらどこかで見た光景が目に焼き付いた。
その私がいる場所はヒスメが作り出した嫌な思い出が充満している小学校の光景だった。
まぁ、慣れたよ。
正直に言ってネタ切れでももっと面白いのを出してほしい。
私は窓に近づき、自分の体を見る。
するとなんと言うことでしょう。小学校の時の小さな姿に変身していた。
私はこの後に起こることを考える。
多分いじめっ子が入ってくるだろうとだけはわかるけど、まずこうなった経緯を考えよう。
私は家に帰った後、ご飯を食べて風呂に入って寝て、一度トイレに行ったけど戻るのが面倒くさくて縫お姉ちゃんの布団に潜った。
そこまでは覚えている。
「え〜……」
全然意味が分からない。
すると教室の外からガヤガヤ声が聞こえると中にどこか見たことがある、あのいじめて来た人たちの姿が教室に入ってきた。
この人たちは私を見るとキモい表情を作り、肩を揺らしながら近づいてきた。
ハァ〜またこの流れか。
「お——」
「うるさい——。あれ?」私の声が重なって聞こえる?
すると私は身長が高くなっていくのが分かった。
私の前に立っていたいじめっ子たちは怯えた表情を私に向けていた。
「どう言う状況?」
私は窓を見る。
窓に映っていたのは私じゃなかった。
私によく似た、誰かだった。
————————。
————。
——。
「訳わからない〜」
私はゆっくり目を開けた。
目の前には縫お姉ちゃんが、何かおぞましいものを見る目をしていた。
「どうしたの縫お姉ちゃん」
すると縫お姉ちゃんは私を抱きしめた。
「声出しちゃダメ! 今藍色の髪をした女の幽霊がウズメの真後ろで反復横跳びしてる! 反復横跳びしてる!」
「どう言うこと!? 逆にそれ言われたら気になる!」
「あ、ちょっ!」
私は縫お姉ちゃんから離れて後ろを見た。
そこにいたのは私に限りなく似た女の人だった。その人は人狼族で衣は袴を履いて厳しそうな顔付きだった。
縫お姉ちゃんは懐からお札を出す。
「——! あなた何者!」
『——』
幽霊は口をパクパクさせるだけで何も言わない。
すると縫お姉ちゃんの部屋の襖が開けられ、お母さんがやって来た。
「ごめーん。縫、昨日興味本位で心霊雑誌に書かれてたご先祖さまがやって来る降霊術しちゃったんだけど大丈夫かしら〜? ——あらあら〜!」
お母さんは霊感があったのか女の幽霊を面白そうに見る。
そして女の幽霊もお母さんを見る。
「あ、見覚えあると思ったら私のおばあちゃんのおばあちゃんのさらにおばあちゃんの若い頃だ〜。知らないけど」
「お母さんさらっとなんてことしてんの!? あとやっぱりお母さんも霊感あるの?」
朝からの縫お姉ちゃんのツッコミは限りなく怒声に近かった。
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