第16話 徳田と白鬼

  私はミコミ(偽)さんから逃げ、その後ワラと合流して私含めミコミさんとササ先生、縫お姉ちゃんとワラの五人は縫お姉ちゃんの車に乗ってどこかに移動していた。

 現在私はどこに向かっているのかが気になっているのもそうだけど、まず一番気になっているのは縫お姉ちゃんがどうして車を運転しているのかということ。

 私は真剣な顔で運転している縫お姉ちゃんに勇気を振り絞って「そう言えばこの車誰の?」と質問。


 縫お姉ちゃんの中ではあまりにも予想外だったのか少しだけ間が開く。

 「えっと、この車ね。これはおばあちゃんの。免許取った時に電話したら譲ってくれたの。そう言えば車を譲ってもらったのは今年の四月だったかな」

 それから縫お姉ちゃんは車の話をずっと続け、ワラはいつもの虚ろな目より虚ろにし、ミコミさんは読書を開始。

 ササ先生は銀色の髪を振り子のように揺らしながら楽しそうに縫お姉ちゃんと楽しそうに会話をする。

 そんなこんなで大きな屋敷が見えたあたり縫お姉ちゃんは車を近くの駐車場に止めた。

 「よし、着いたよ」


 私たちは車から降りた。

 屋敷のある場所は住宅街のど真ん中で、周りの家も大変立派な作りだけど一見だけどう考えても広いというか、異質な風をまとっていた。

 「ここは?」

 「ウズメは初めてか」

 縫お姉ちゃんは異質な大きな屋敷に指を指す。

 「ウズメさんのお友達。徳田チヒロさんのお自宅です」

 ササ先生は縫お姉ちゃんより先に話した。縫お姉ちゃんは『ササがいうの!?』と言った驚いた顔に一瞬なったがすぐに戻る。

 「と、ともかく。いつかはここにウズメを連れてくよてだったからちょうど良かった。ほら、早く降りて」

 私は縫お姉ちゃんたちと門の前まで歩いた。

 相変わらずワラの眼は虚ろなままだが。


 「もう着いた?」

 するとワラの目に光が戻った。

 「兄さんようやく起きた」

 ミコミさんは呆れた声をワラに向けて飛ばす。

 いや、寝てたの? 普通に車から降りて門まで歩いていたよね。

 そう考えているうちに門が音を立てて開いた。

 門の先には見知った綺麗で若い女の人が立っていた。

 「あら、本当に来たのね」

 女の人は綺麗な柄が描かれた絹の着物を身にまとい、透き通るような綺麗な肌と調和し、見た人全てを魅了するかのような容姿をしている。

 そんな綺麗な人は1人しかいない。

 私は女の人に向かって走り、胸に飛びついた。

 「メグミお姉さん!」

 そう、彼女こそが私が小さい時よく遊んでくれた大好きな人。

 メグミお姉さんは私だと気づくと優しく頭を撫でてくれた。

 「久しぶり。ウズメちゃん」と、昔と変わらない猫なで声を発した。

 


           *


 それから私たちは何故かその場にいたイズミお姉さんに流される形で客室まで案内された。

 客室の壁には歴代の偉人の写真が飾られ、床畳の上には菊が描かれた壺に掛け軸は年季がありそうな絵が描いてあった。


 メグミお姉さんは一度部屋から出た後、お菓子を持って戻ってきた。

 「あ、縫ちゃんもしかしてここに来たの仕事?」

 「言ってなかったっけ?」

 縫お姉ちゃんはお茶を飲みながら呆れたように答えた。そもそもメグミお姉さんんがどうしてここにいるのかも問題なんだけど、それよりもどうしてここに来たのかが分からない。

 「それよりも徳田さんもしかしていない感じ? 宇納山でチヒロさんに憑いてた白鬼を追い払った後にお母さんが迎えに来ていたけど。そこで『あとで家でお話ししましょう』言ってたよ?」

メグミお姉さんは何か思い出したのか「あ、それでなの」と声をこぼす。


 「それなら入れ違いで上狛村かみこまむらから来た本家の徳田神社の徳田里美とくださとみ様を迎えに行ってましたよ。お姉さんの方は——」

 メグミお姉さんは後ろの押し入れの襖を勢いよく開ける。

 「会うのが気まずいからとここに潜んでますよー」

 「ちょっ!?」

 押し入れの中には何処かで見た綺麗な黒い髪に、鷹の様なカッコいい鋭い目をしている綺麗で若いお姉さんがいた。

 あの時私のところに来たのは本当にお姉さんだったのか。

 名前は聞いた覚えはないけどあの時のままで、最初は怖くてよく見れなかったけどぱっと見抜いお姉ちゃんの髪を黒色にして腰まで伸ばした感じだ。

 違う点といえば服装はチヒロさんとは違って服装は作業服で、結構使用したのか少し黒ずんでいる。


 メグミお姉さんは前のめりになってチヒロさんのお姉さん顔に近づく。

 「んーもしかして、少し前にウズメちゃんにうっかり酷いこと言っちゃったことで会うのが嫌だった?」

 「え、えーとまぁ……」

 「全く。貴女は妹さんが好きでまたいじめられてると焦って言ったのは理解しますが、相変わらず先走りすぎです」

 「え、チヒロさん?」

 あ、しまった。

 メグミお姉さんはゆっくりと説明してくれた。


 ————————。

 —————。

 ——。


 「と、そんな感じです」

メグミお姉さんは説明が終わると腰に手を当て、全身を伸ばした。

 そんなチヒロさんのお姉さんは骨抜きにされたかのように虚無の世界に堕落してしまっている。

 まとめるとこうだ。

 チヒロさんは小学生の時いじめられていることに気付かないでおかしいことをされて笑い者になっていた。

 チヒロさんは楽しんでくれていると勘違いしていたようで、お姉さんはそれを見てムカつき、いじめている人に暴力を振るい、チヒロさんを習い事に通わせることで他者との交流を強制的に減らしたらしい。

 で、そのいじめの主犯が人狼族で、私にきついこと言った理由はあれより少し前にチヒロさんと私を見た時、たまたまあのいじめの現場と似ていたらしい。


 「えっと、ということはお姉さんはチヒロさんのことを思っていたんですね」

 「——え、えーとまぁ……そうですね」

すると縫お姉ちゃんはゆっくり立ち上がる。

 「それじゃササとミコトくんはチヒロさんのとこ行こっか。チヨとウズメは二人でゆっくり話し合って」

 「あ、私も行きますー」

 「メグミも!?」

 「だってどこにいるのか知らないでしょ?」

 「いや、でもメグミだって」

 「大丈夫ですよ。チヨちゃんに許可もらってチヒロちゃんと部屋を探検したので」


 四人はそんな会話をしながら部屋から出た。

 私と……チヨってこの人の名前なのかな? どこかで聞いた覚えあるけど。

 すると先に口を開いたのはお姉さんの方だった。

 「待って、やっぱりあなたあの天河さんとこのウズメちゃん!?」

 お姉さんは驚いた口調で言った。

 「は、はい。天河ウズメです」と自己紹介をするとお姉さんはその場で土下座した。

 「本当にごめんなさい。つい私が先走ったせいで——」

 「え、気にしてないのでやめてください!!」

 私はお姉さんを揺する。

 「私ったら、小さい時よくチヨ姉ちゃんて読んでくれた妹分の子だって気づかないなんて。不覚……」

 「チヨ姉ちゃん?」

 「あ、やっぱり覚えてないか?」

 チヨさんは悲しそうな顔をする。

 それを言ったら覚えてない私も同罪だから謝れると困る。という意見は黙っておこう。

 「改めて。私は徳田チヨ。愚妹チヒロの姉です。覚えてないみたいでけど貴女が二歳から三歳ちょっとまでよく遊んでたのよ」

 「は、はぁ……」

 「縫とメグミとは幼い頃に遊んでそれからよく文通してたけど、ここに引っ越してからはあまり遊んでないわ。とは言ってもメグミは毎回泊まりに来ていたけど」

 チヨさんは懐かしい話をして思い出し笑いをした。

 「けど、ウズメちゃんは私のこと嫌いになったでしょ? あんなひどい事を言ったのだから」

 「いや、そうでもないです」

 それから私は本音を吐露した。

 「最初確かに嫌だったです。だけどチヒロさんの話を聞いたり、どうして私にひどい事を言ったのかを冷静に考えたら勘違いだったんじゃ? てな感じ行き着いたんです。それに拍車をかけたのがメグミ姉さんの話で、やっぱりチヨさんには悪気はなく、純粋にチヒロさんを心配してくれたんだって思いました」

 「——そう」と、チヨさんはその一言だけ発した。

 

 すると後ろの襖から話し声が聞こえ、襖がゆっくりと開いた。

 そしてチヨさんは口を耳に近づけ「また今度たくさん話しましょうね」と小さな声で言った。

 振り返ると少し怖そうなおばあさんと、威厳を感じる目と着物をお召しになった四十代ほどの女の人が入ってきた。多分あの威厳ある人がお母さんだろう。

 「あ、お邪魔してます……」

 「あら、確かウズメさんだったかな?」

 「あ、はい」

 すると威厳がありそうな女の人は優しく微笑む。

 「初めまして。チヒロの母です。話は娘から聞いてますよ」

 「——」

 チヒロさんのお母さんはどこか優しそうだけど年配の方はどこか怖い。さっきから無言だし。

 その時ちょうどチヨさんがイズミさんたちを連れて戻ってきた。

 「あ、お邪魔してます」と縫お姉ちゃんがお辞儀するのに合わせてワラやササ先生は同時に頭を下げた。


 「いえいえ、大丈夫ですよ。どうぞおすわりになって下さい」と、チヒロのお母さんが言った後、チヨさんとメグミお姉さんはその場を後にした。

座ったあとすぐに縫お姉ちゃんは口を開いた。

「早速ですが、サトミ様。白鬼について詳しく教えてくれませんか?」

「——うむ」


 ————。


 それから縫お姉ちゃんとサトミさんの長い話が始まった。


 まず白鬼と言うのはミコミ(偽)が話していたこととほとんど同じで、遠い昔に源大夜が封じ込めた妖術を多用する妖怪で、封じていた場所は諸事情で源大夜が救った姫の魂に封じ込めたらしい。

 白鬼自体は私が小さい頃から魂にへばりついていて、古の勇者の源大夜がヒスメとともに藍姫の魂に封じ込めたのが始り。

 けどそれだとなぜ私の魂にいるのかが疑問だけど。サトミさんは私を藍姫が転生した姿と今さっき話したから今はその解釈でいいだろう。

 で、白鬼自体はヒスメの力でボロボロになっていたようで、復活せずに眠っていた。

 そこでチヒロさんが心の扉を開いてしまったのが原因で飛び出したものの、同時に復活を果たしたヒスメの追撃で瀕死になり、ワラが飛び出した邪神を討伐中に白鬼を見かけ、追い討ちをかけるように問答無用に切り捨てたとの事らしい。


 ちなみにサトミさんと縫お姉ちゃんで一致した推測はチヒロさんに憑いていたのは傀儡で本物ではなかったということ。

 理由は単純に妖術を一つも使わなかったからということとそうじゃないとミコミ(偽)がいた意味がわからないからだ。


 とにかく聞いて私は思った。とりあえずヒスメ様本当にありがとう。


 それからしばらくして話し合いが終わり、私と縫お姉ちゃんたちは帰路に着くことにした。

 最初はみんなで帰る感じだったけど、ササ先生とワラとミコミさんは歩いてササ先生の家で食事をするらしく、私は縫お姉ちゃんと一緒に帰宅した。

 鞍馬の中には咲くほどの真面目な空気はなく、自然と優しい空気だった。

 「そういえば縫お姉ちゃん」

 「どうしたの?」

 「縫お姉ちゃんたちはチヒロさんに憑いていた白鬼を討伐しに行ってたけどそれは傀儡で、本物はミコミさんを騙ったナニかで間違い無いんだよね」

 「そうだね。けどウズメの魂のことは実は割と昔にサトミさんが教えてくれて、それで勾玉を渡したの。だけど邪神までいたの知らなかったよ」

 「うん。だから私もとても不思議な感じ」

 車内は笑い声で一杯になる。

 「とりあえずウズメは周りを少し疑って欲しいのと。なるべく犬系の種族と接触していてね」

 「鼻が良くて妖怪に気付くのが早いから?」

 「うん。ウズメも鼻とても良いけど多い方が安心でしょ?」


 そう縫お姉ちゃんは鏡越しに少し悪そうな顔で笑った。


 その後帰路についた私は眠りについた。



 夢の世界はどこかで見たかのような黄金の草原が広がり、果てはあるのかと疑いたくなるような風景だ。

 辺りを見渡していると遠くから顔に靄がかかった一人の男性が歩いてきた。

 「〇〇? ——今覚えばどうして名前が言えないんだろ」

 こちらの近づいている男の顔自体もモヤがかかって見えないし、わかるのは神話に出てきそうな服を身に纏っているところだけ。

 『あー名前か。それは普通に君の知覚が反応できていないだけ。俺の耳にはきっちり名前を発しているのが分かる』

 なるほど、分からない。

 『そうそう。一応言っとくとこれで君と会えるのは今回を含めて残り三回。おや、何か不満げだね』

 男は疑問を投げかける。

それもそうだ。だっていきなりここに現れてあと三回と言われてもいまいちピンとこない。

むしろこの男の人と初めて会ったのか自体あまり覚えていない。

 ——確か小学校に入ってしばらくかそのぐらいだったかな?

 だとしても現れたのはそんなの多くはなかった。

 出てきても話したのは多分下らないことだったはずだし、そこまで私の心の奥に触れるような話でも無かったはずだ。

 思えば宇納山の時に出てきていたはずだけど記憶も曖昧になりすぎてどんな会話なのかも思い出せない。


 『んー今回話に来たのは割と重要なんだが』

 「重要?」

 男は興味をそそるようにねっとりしたような喋り方をする。

 『そう、重要。君は白鬼に取り憑かれていたのを一時期俺とヒスメが封じ込めていたのが心の扉が空いた時に逃げ出してしまってね。さらにヒスメも出て行ってしまったから君をここに誘う手段も貴重な俺の霊力を割いてでもしないと不可能になった。だからあと三回なんだ。三回になれば俺がここに留まれる時間も短くなり——』

 「そう、だったら早く教えて」

 『言いたいことだね。これから気をつけて欲しいのはまず白鬼だ。こいつは負の力が大好きでそれに取り込んで憑依する。博覧会の時も同じく、増大な負の力がある人に憑依したんだろう。だから今後は負の力はが溜まりようなことを避けてほしい』


 なるほど、要するに嫌なことばかりじゃなく、楽しく過ごせということで間違い無いのかな。

 「どうして白鬼は私にちょっかいかけたいの?」

 『簡単さ。——君の魂は他の魂と融合しやすい性質がある。それは要するに巨大な霊力を手に入れるには数多くの魂だが魂は簡単にはまとまらない。だが君の魂さえあれば無限にできる。かの大邪神もその魂を欲したのさ』

 「……頭大丈夫ですか?」

 『んー怒るよ?』

 男は笑いながら私の髪の毛をくしゃくしゃにする。

 『とにかく。白鬼が御昇天遊ばれるまで人生楽しく生きろ!』

 男は最後投げやり気味に言い、再び私は深い眠りについた。



 あ、しまった。私の魂について聞くの忘れてた。


 ——————————。

 ——————。

—————。


 そして待ちに待った月曜日の放課後。

 実習で汚れた作業服を袋に詰め、私はある人物の元に向かった。

 そう、狐族の血を引くアサノさんだ。

 アサノさんは放課後一人になっても教室で勉強し、帰宅する。理由はアキヤちゃん曰く家が遠いから少しは学校でしておきたいらしい。

 そんな私はもちろん自分から話しかけれる訳がなく、自分の席で読書中だ。

 するとアサノさんはやりたいことが終わったのか、もしくは私の視線で不愉快になったのか教科書とノートをカバンに入れて立ち上がった。

 怒っているかな?

 そんな不安を抱えながらもそれに合わせて立ち上がるとアサノさんは私の方を向き「やっぱり一緒に帰りたかったの?」と言った。


 普段無愛想で怖いと言う印象を私は浅野さんに抱いていうるけど、夕日に照らされ、金髪が橙色に輝き、いつもは見せないぎこちない笑顔を私に向けた。

 「うん」

 私はそう答えて頷く。

 やっぱり私みたいなのが組の人気者に関わろうとするのダメだったのかな〜。

 「いいよ。帰ろっか」

 アサノさんは見た目に反して不器用な笑顔を私に向けた。


 アサノさんと歩く道には夕陽が放つ橙が貼られている。

 アサノさんは学校ではとても無口で、かという私もチヒロさんやアキヤちゃんとはしゃべるけど、それ以外の人というか、普段話さない人とは話すのがとても苦手だ。

 そして今まさにその状況だ。

 アサノさんはなにが好きなのか知らないよ——。

 「ウズメは普段家ではなにしてるの?」

 「ふぇ?」

 「普段家ではなにしてるの?」

 「あ、ごめん聞こえてる。——えーと読書とかゲーム?」

 「へぇー。意外だね。学校では読書しかしないからゲームしないと思ってたよ」

 「そ、そうかな」

  私はもみあげを弄る。

  なんだろう、とても楽しい。


 「そういえばどうして私なんかと帰りたいなんて思ったの?」

 私の顔を覗き込むアサノさんの顔は普段の無愛想な顔ではなく、不器用な笑みだった。

 もしかしてアサノさんも楽しいと思っているのかな。

 だとすると『白鬼と言う妖怪から身を守るため』だなんて言えるはずが無い。


 「えっと、一緒に帰りたかったのと。お友達になりたかったから」

 「……そう、だったら萎縮しなくても良いよ。友達になりたかったら堂々と話しかけてもいいし怖がらなくてもいい」

 「そ、そうだよね——」

 「まー大体ウズメがどんな状況なのかは最初からわかってはいたんだけどね」

 アサノさんは私の手を握る。

 「ウズメは知ってるでしょ。狐族は妖怪に近い人種。それに私は妖怪がたくさん住む山に遊びに行っていたから知ってるよ。匂いがね」

 そしてアサノさんは後ろをチラッと見る。

 「妖怪は安全な奴は匂いは甘ったるい感じだけど、本当に危険なものは腐った卵の匂いがするから。後ろからね。よし、ちょっと早く歩こう。このままだよ捕まっちゃう」

 アサノさんはそういうと早く歩き始め、私も足の回転を合わせた。

 私自体妖怪の匂いは知らない。ていうか縫お姉ちゃんの会話からできそうな感じだったけどアサノさんの口ぶりだと狐だけなんだけど。


 それは後で聞くとしてアサノさんは私を守ろうとしているのかな?

 「——逃げ切れたかな?」

 アサノさんは足を止めた。

 今いる場所はまさに人っ子いないカラスの鳴き声が響き渡る神社のまえだ。

 「その、妖怪の匂いって」

 「ウズメはさっきの妖怪に捕まりそうだったよ」

 「あ、そのごめん」

 「謝らないで。ていうかさっきまで缶飲料を飲んでたおじさんがいきなり私たちの後ろを歩くから匂いを嗅いでみたら妖怪か。まるで映画みたい」

 「アサノさんは今までに同じ経験があったの?」

 「まー少しね。とは言ってもイタズラ程度だってけど」

 アサノさんは体を伸ばした。

 「それに、学級委員長が組友を見捨てるなんてしたらダメでしょ?」

 「……それもそっか」

 私は安堵の息を吐く。

 その後二人で笑いながら駅まで一緒に歩いた。


 

  ——————。


 「えーと、誰も見てませんよね?」

 私、徳田チヒロはウズメさんに先に帰ると言い、全速力で帰宅しました。

 部屋の中は一見優等生の部屋かのように、研究資料かのような紙の束があり机の上には日頃書いていそうな日記が高貴な感じを漂わせています。

 私は日記を持ち上げる。

 「ウ、ウズメさんにはバレていませんよね、私の趣味」

 今からおよそ二日前にウズメさんとお祓い師とササ先生とヒビワラさんが来たらしく、イナメさんはそれはもう楽しそうに話してくれたのは良いのですが——。

 「あんな醜態を晒すなんて……」

 これから趣味に励むのは親、それから客人が一人もいないことを確認してからしようと心に誓いました。

 まさか帰宅後目を覚まして、静かだから家族がいないものと判断したら当たり前のように襖から覗いているなんて。

 私は棚を開けてそこに入っている眼帯を見た後、そっと閉めた。

 「けど——」

 一応白鬼については昨日の夜に電話でヒビワラさんが教えてくださいました。

 私に憑いていたのは白鬼の傀儡らしく、本体はウズメさんを襲おうとしたことも。

 そこで私に何かできることはと聞くととにかく普通に接して、遊ぶとの事らしいです。

 「だとしたら……」

そして最後に言われたのは白鬼が好むのが最も幸せな時に一気に絶望に落として喰らうこと。

だったら白鬼が本気を出してくる日は大体絞れました。

ウズメさんは性格に反して運動が割と好きで持久走なんかは誰よりも速い。

「先週もウズメさんに体育祭のことを聞いたら障害物競走が大の楽しみとか言っていたので、くるとしたら体育祭でしょうね」


 私は来るべき日に備え、準備を進めるのであった。

 


 一応メグミさんには内緒にしてもらうよう交渉しておきましょう。

 



 

 

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