第14話 博覧会騒動

 博覧会の当日。

 私は一昨日チヒロさんが言っていた通りに天下原駅の西改札前に待機した。

 時間的にみんなはもう集合しているものだと思っていたけど、やはり三十分前は早過ぎたのかもしれない。

 やっぱりお父さんに言われた通り五分前でも良かったのかな?

 それからだいぶ時間が過ぎて集合時間の五分前になってようやくチヒロさん、ワラ、それからカマタくんにスズカ先輩とツキヤ先生の順にやってきた。

 ツキヤ先生は来ている人数を数える。

 「よし、人数は揃ってるな。じゃ、早速移動するぞー」

 ツキヤ先生はそういうと私たちは移動した。


 道中チヒロさんはカマタくんに話しかける。

 「カマタさんはいつほど入られたのですか? 私が聞いた時はわからないと、言っていたと思いますが」


 するとカマタくんは少しカッコつけて人差し指を立てる。

 「あーそれはキク先輩に気に入られたみたいで、この間『無理矢理来て!』と目を輝かせながら言われたから断れなかったんよー」

 と、カマタくんは物真似してその時の状況を伝えた。

 すると隣にいたスズカ先輩は大袈裟に笑った。

 「確かに! あの先輩の目は反則よ。断りたくても首を縦に動かしてしまうもん」

 スズカ先輩はそう言いながらケラケラ笑う。


 するとワラはカマタの方にゆっくり顔を向けた。

 「カマタ、正直に言った方がいい。真実は最初から入っていたけど、キク先輩が連絡を忘れていつ部活が分からなかったことを」

 え、そうだったの? 

 私はカマタくんを見る。

 まさかの真実を暴露されたカマタくんは真顔でワラを見る。

 「お前.……天才か?」

 「……団子食べる?」

 カマタくんはそれを笑いながら受け取った。ていうかワラはどうして団子を持っているのか.というより、なぜカマタくんは何も気にしないで食べれるのかが不思議。



 それから少し歩いてツキヤ先生は「ここだ」と一点を指さして私たちに声をかけた。

 それは天原塔と言う、四階建ての小さな高層塔(ビル)だった。

 私たちはその天原塔の中に、一般の人が入る大衆昇降機(エレベーター)ではなく、職員達が利用する従業員用昇降機(エレベータ)に乗って上の階に行った。

 三階につき私たちは先生についていきながら一つの会議室の中に入った。

 「俺たちは今回はここの場所を使って小中学生に色々な細菌やらを見てもらう。何人かはプレパラートを作って設置と顕微級。それからこの菌についての説明が書かれた紙はあそこの板に貼り付けてくれ」

 スズカ先輩含め私たちは「はい」と返事をして作業に取り掛かり、顕微鏡の調整やらプレパラートの作成。紙を貼り付けた。

 ちなみに私は顕微鏡の調整をしているわけだけどただいま絶賛苦戦中。

 今私が探しているのは納豆菌なわけだけどそれが見つけづらい。どんな形だっけ?

 その時肩を叩かれた。

 「どうしたの?」

 「あ、スズカ先輩。納豆菌が見つからなくて……」

 「納豆菌かー。ちょっと変わってくれる?」

 「わ、分かりました」

 私は顕微鏡から退いて,スズカ先輩にやってもらった。スズカ先輩は一瞬で見つけたのか顔を上げた。

 「よし、見つけたよー。ウズメちゃん見てみ、これが納豆菌」

 私は顕微鏡を覗いて見てみる。

 私が苦戦した納豆菌の姿は細長い長方形をしていた。

 私はゆっくり顔をあげる。

 「これが納豆菌ですか……」

 「そうだよ。この子が私たちが大好きな納豆になって腸を守ってくれてるんだよ。——そして友達にもなるよ」

 スズカ先輩は遠い目で見る。

 最後何を言っているのか分からなかったけど、こうしてみると私たちは小さな生き物や道具に助けられているのを実感する。

 「ようやく終わりました」

 私の隣でずっと顕微鏡を除いてプレパラートをじっと見ていたチヒロさんの頭がようやく上がる。

 「チヒロさんは何を探して——あ、麹カビか」

 「綺麗なものを探すのに苦労してしまって……」

 「ふふふ。まぁーこれはとにかく慣れだからね。最初はみんな苦戦するもの」

 スズカ先輩はこれぞ先輩っ! と言わんばかりにいい顔をした。

 そしてスズカ先輩はワラとカマタくんを見る。

 カマタくんと一緒に壁に解説書を貼り付けていたツキヤ先生が声を出す代わりに手を叩く。

 「よし、みんなできたな。開始まで時間があるから各自トイレやら万全な体制にするように。それと昼ごはんは交代で取る。貴重品は肌身離さず持つことだ」

 と、こうして一旦休憩が入った。とは言っても五分しかないから——。

 「て、ワラは……あー」

 ワラはいつも通り先にお茶休憩していた。これを見ると最近ワラがのんびりしていないのを見る方が心配になってきてしまう。


 さて、私はさっさとトイレに行こうかな。

 なんだかあの日以降とても気分がいい。私は部屋を出てそのまままっすぐ歩いて突き当たりを右に曲がったところにあるトイレに入った。

 そしてせっせと花を摘んでトイレから出た。

 

 「ほら、ミコミさん。お兄ちゃんのところ行きましょうよ〜」

 「ん?」

 トイレから出てすぐ右を見ると二人の女子中学生がワイワイ楽しそうに騒いでいた。

 「い、良いんだよ!? その、今日貴女がせっかく会えるから誘ってくれたのなら私に気を遣わなくても……」

 「ムー。せっかくミコミさんが来てくれるからそのお礼にって頑張って調べたのにー」

 「えっと。これ貴女が中学校で公欠もらって行ってるのよね!? だったら私がいない方が——」

 「だってミコミさんと一緒が良いですもん!!」

 よく見ると子供みたいに騒いでるのってこの間喫茶店にいたイズミさんだよね。

 さーて。遠回りしよう。もしここで絡まれると慣れない空気に私が押しつぶされそう。

 あれ? 

 私は一度足を止めてイズミさんの隣にいる子を見る。

 「あの子すっごくワラにそっくり……。あ、いけない。早く戻らないと」

 それから私は遠回りして部屋に戻り、博覧会は難なく開始。小中学生に色々紹介などをした。


 それから数分後、イズミさんとワラに妹かもしれない子がはしゃいで入って来た。妹さんの方はとても迷惑そうな顔をしているけど内心楽しそう。


 だがイズミさんが真っ先に目をつけたのは私だった。

 私を見たイズミさんは嬉しそうに尻尾を振った。

 「あ、ウズメさん!」と、大きな声を出すと私の元に来た。

 「あの、今何しているんですか?」

 今横でチヒロさんとスズカ先輩が私を見てる。この子には悪いけどさっさと退場してもらおう。

 「この菌は納豆菌と言って、納豆を作る菌なんですよ。では顕微鏡を除いて見てください」

 「はい!」

 イズミさんは言われた通り顕微鏡を除き、満足そうに顔を上げた。

 「ねぇ、ミコミさんも見てみて!」

 「え、え〜と……」

 ミコミさんは少しオドオドしながら上目遣いで私を見る。

 「大丈夫ですよ」

 「あ、ありがとうございます」

 そしてミコミさんは言われるがまま顕微鏡を除き、顔を上げた。

 そしてイズミさんはどんどん熱が上がりぴょんぴょん飛ぶ。

 「ね、すごいよね!」

 「う、うん。そうだね。ほら、ここで騒ぐと迷惑だから……」

 「はーい! あ、失礼しましたー」

 イズミさんはミコミさんに引っ張られ部屋から出て行った。

 「あ、あの〜ウズメさん?」

 「どうしたのチヒロさん。困った顔して」

 「あの方とは知り合いなんですか?」

 「いや、さっきの人狼の子とはこの間の喫茶店で会って少し喋った子だけど……」

 すると隣でスズカ先輩は笑い始めた。

 「意外。ウズメちゃんと性格違うのにあまり嫌そうじゃなかったの見てて良かったよ」

 「そ、そうですかね……」

 確かにイズミさんは良い子だと思うし。悪い子ではないと思う。


 あれからしばらくして少し昼休憩が入った。

 二人が対応し、もう二人が昼ごはんという感じで、私はチヒロさんと下の階の食堂に向かった。

 今部屋ではワラとカマタくんとスズカ先輩が対応してくれているわけだからさっさと済ませよう。


 チヒロさんは歩きながら体を伸ばす。

 「いやー。対応とても大変でしたね」

 「うん……。あの後きた小学生の集団絶対私より賢い」

 「流石に菌の種類や形状などを菌の名前だけで当てたのは凄すぎますよねー」

と、チヒロさんは楽しそうにいうけどどこか悩んでいるような感じに見える。


 「チヒロさん。何かあったの?」

 「え、どうしてですか?」

 「だっていつものチヒロさんは顔に出ないのに、今はとても出てるよ」

 私が指摘するとチヒロさんは頬を赤く染めて慌てふためく。

 「え、その、いいえ、本当に大丈夫なんです。……ただ少し気掛かりな事が」

 「気掛かりって?」

 そういうとチヒロさんは一度考えた後、カバンから手紙を取り出した。

 「——まずはこちらを見てください」

 私はチヒロさんから手紙を受け取って開けた。

 書かれていたものはただの直線で意味がわからない。

 「なんだろ、これ?」

 「やっぱり意味がわかりませんよね。それに周りを見てください。高層塔(ビル)内、一階の飲食店区域だけでも警備員がこんなにたくさんいる時点で怪しくないですか?」

 確かにチヒロさんの言った通りこの場所だけでも警備員の数が多すぎる。まるで何かに警戒している?

 「この手紙は今朝郵便受けに入っていたんです」

 「でもどうしてそれを持ってきたの?」

 「普通に間違えて持ってきてしまっただけです。気づいたのも駅に着いた時だったので」

 チヒロさんはどこか恥ずかしそうに言った後、ゴホン、と咳をする。


 「ウズメさん。とりあえず早いところ戻りましょう」

 私はチヒロさんに手を引っ張られながら会議室に戻った。

 

 私はこの後も同じように来た人に対応していき、博識すぎる小学生や幼稚園児に怯えながらただ時間が過ぎていった。ちなみに、中学生だけは普通にただ純粋に楽しんでた。

 今ここにいるのは私とチヒロさんとツキヤ先生だけで、ワラとカマタくんとチヒロさんは昼ごはんを食べに行っているからだ。

 「おーい。帰ってきたよー」

 ようやくスズカ先輩たちがようやく戻ってきた。

 「ツキヤ先生は昼ごはんはいいのですか?」

 チヒロさんはツキヤ先生に声をかける。

 「あーそうだな。では先生は食べにいくからスズカさん。あとは頼んだぞ」

 「はーい。あ、先生! 牛丼屋さっき見たら割引してましたよ!」

 「そうか。余裕があったら寄ってみるよ」

 ツキヤ先生はそうかえして昼ごはんを食べに行った。

 それを確認するとスズカ先輩は部屋中を見る。

 「やっぱりだけど昼過ぎたらこことっても暇なんだよね。去年も昼が過ぎたあたりで人が落ち着いてきたし」

 スズカ先輩はのんびりと水を飲む。

 とは言ってもなんだかんだちらほらここに来ているから暇でもないしね。

 「少し用事」

 「ワラ?」

 ワラは立ち上がって外に向かった。

 「どうしてって……。あの子は」

 よく見るとドアの近くにワラの妹かもしれない子がいた。

 ワラとその子は少し話した後、一緒にどこかに行った。

 「ありゃ。あの二人どっか行っちゃったね」

 「あ、スズカ先輩。俺の目が間違ってなかったら多分ミコトの妹やと思います」

 「へぇー。あの子がミコトくんの妹ね。結構可愛いじゃない。もしかしてミコトくん割と妹ちゃんの事が好きなのかな〜」

 スズカ先輩はニヤニヤ笑う。

 「よし。ウズメちゃん。悪いけどミコトくんを呼んできてくれる? あれツキヤ先生に見られたらまずいでしょ」

 「分かりました。呼びに行ってきます」

 私はワラを探しに行った。



 気のせいか会場内が緊迫してる?

 部屋の外を出てしばらく歩くと緑色の髪をした人狼の男の人が他校の先生や生徒に話しかけていた。

 男の人は私を見ると「ちょっと待ってくれ」と声をかけた。

 「どうかしましたか?」

 「ここで黄緑色の髪の人狼の中学生の女の子を見なかったかい?」

 ——黄緑色の人狼だったらイズミさんにしか当てはまらないような。

 「あ、えーと午前中になら一度見ましたよ」

 「そうか。ありがとう」

 そう言って男の人はそのまま歩いて行った。

 イズミさんに何かあったのかな?

 私は階段を降りながら少し試行錯誤する。

 私が一度でも通った道はこの会場内はちょっとというか食堂周辺とそこまでの道のりの中で……。


 「もしかして妹さんがワラを呼びに行ったのってイズミさんがいなくなったから!?」

 少なくとも私がいた階にはワラはいなかった。

 それにこんな人混みの中で誘拐なんてできるのかな?

  

 私は他校が展示をしている階を散策した。それから地図を見ながら死角になっている空間やトイレなどの限られた空間だし、したらしたですぐバレそうなものだけど。


 すると塔内に放送が入った。

 『塔内来場者の方にお知らせします。ただいま塔内部に危険物を所持した男数名が侵入したとの連絡を受けました。男は現在三階東側にて目撃との警備員から報告があります。来場者の皆さまは警備員または係員の指示に従って避難してください』

 放送はその後三回繰り返した。


 すると廊下中が騒がしくなり、「皆さまこちらから非難を!!」と言う係員の声が聞こえてきた。

 それに三階ってこの階でしょ!?

  その時誰かが後ろから肩を叩いた。


 「ちょーといいですか?」

 振り返るとそこにいたのはどんぐりみたいな頭をして出っ歯のそばかす男だった。

 その男は私を舐めるようにみる。

 「あ、あの。なんですか?」

 「やっぱりそうだ!! あの時の人狼だ!! ついに見つけた。見つけたぞぉ!」

 男は急に叫び始めた。周りの人はそれに驚いて野次馬が集まる。

 「僕ちゃんの名前は富士草ふじくさ。忘れてねぇよな?」

 「えっと、知らないです」

 私は後ろに下がる。

 フジクサって確か中学校の時私を壊そうとした一人じゃ。けどあの中学校は安雲の学校のはず。なんでこんな所にいるの?

 「ひゃっ、ひゃっ。相変わらずいい尻してやがる。それどころか全身が美しい黄金比だ。これは汚さねぇわけないよなぁ?」

フジクサは肩を揺らしながら私に近づく。どうしよう、足が動かない……。


 「おぉい。聞いてん——」

 「うちの生徒に何している」

 「ツキヤ先生!」

 ちょうどこの階にいたのかツキヤ先生が私たちの間に入ってきた。

 ツキヤ先生はフジクサを睨む。

 「もう一度言う。うちの生徒に何をしようとした」

 「くへ、くへへへ。ひゃーははは!!」

 「待て!」

 フジクサは突然大声で笑い出して走って逃走を始めた。

 ツキヤ先生はフジクサを追って走っていった。

 「なにかここで良くないことが……」

 ワラとあの子は大丈夫かな。けどもしイズミさんがこれに巻き込まれて、いやどう見ても巻き込まれてる。

 私はチヒロさんに念のためにメールを送る。


 『中学生がこの会場内で行方不明? になっているみたいだからすぐにワラを見つけて呼び戻してくる。もしそこにワラが戻ってきたらメールを返してください』

 

 これでいいか。 

 私は送信を押してワラを探しに向かった。


 ——————。

 ————。

 ——。


 あの後私は周りが避難している中、屋上に出る。そして広場に回ろうとした時大きな声が聞こえた。

 私は建物を影にして声の方をゆっくり覗いた。

 そこにはワラとまた別の男が対峙していた。

 ワラの後ろにはイズミさんと、そのイズミさんを優しく抱いているワラの妹さん二人がいた。

 

 ワラの前にいる男は完全なるハゲで、細身で餓死寸前みたいな見窄らしいほどボロボロの黒ずんだ着物を着ていた。

 多分今この場に乱入でもしたら巻き込まれそうだからここに隠れていよう。

 私は後ろの状況をバレない程度に見た。

 細身の男の手には包丁を握り、叫びながら振り回していた。

 「なんだよなんだよぉ! どーしてこう邪魔が入るんだ毎回!! 俺が何をした!」

 「呼吸をした」

 「黙れぇーよ!」

 細身の男はその場で激しくジタバタ足踏みをした。

 ワラはどうしてこう火に油を注ぐの!?

 ワラは虚な視線を細身の男に突き刺す。

 「少なくともお前は中学生に対しての暴行未遂、誘拐未遂、監禁未遂をしている。この三つだけでもお前は生命に対しての侮辱的行為をしている」

 「生命に対しての侮辱ぅ? 法律はただの紙切れだぜぇい。法律は格差を作る、法は権力者の都合が良いように作られているんだ——」

 「それが法律。少なくともこの国は周辺諸国と比べてかなり自由な国だ。文句があるのなら奉行所に直訴に行くか、連邦議員または皇国会議員になれば良いだろう」

 ワラは淡々と返答する。

 その対応にイライラした細身の男は頭から湯気を放出するほど激昂し始めた。

 「そぉーれが無理なんだよぉー!」

 細身の男は叫び声をあげて包丁を持ってワラ目掛けてに突っ込んだ。

 「あぶない! ——しまった!」

 ワラは私に気がつくと少し目を合わした後、すぐに視線を細身の男に戻し、男の手を掴んで全身を地面い押さえつけた後手を踏み、包丁を遠くに投げた。

 「何事だ! 」

 その時鬼人と鳥人の二人の警備員が細身の男を見るとすぐさま地面に転がっている包丁を回収した。

 「君たちは離れておきなさい」

 私とワラ、そしてイズミさんと妹さんはその場から離れた。

 警備員さんは細身の男を縛り、無線で会話を始めた。

 そして鬼人の警備員さんが私たちに近づいた。

 「君たち。少し事情を話してくれないか?」


 私たちは警備員さんに事情を話し、その後警察官が来たりして博覧会は中止となった。


 しばらくして私たちは警察の人に「とりあえずあと一名がまだこの塔にいるかもしれないから外に出てくれ」トイレわ、警備員さんが外まで避難させてくれた。

 外に出ると駐車場にチヒロさんたちがたくさんの荷物を足元に置いて不安そうに塔を見て、私に気づくと駆け寄った。

 「ウズメさん! 大丈夫ですか?」

 「う、うん。大丈夫だよ」と私がいうとチヒロさんは胸を撫で下ろす。

 「で、ミコト。お前相変わらず事件が起きたらササ先生みたいに自然に巻き込まれるよな」

 カマタくんの言葉にワラはただ首を傾げるだけで、カマタくんはやれやれと息を吐くように言った。


「まーでも君たちが無事で良かったよ。とにかく、ヒビワラ君は勝手に行動しないで一言ぐらい話すこと。良い?」

「善処します」と、さらにワラはスズカ先輩のお叱りを受ける。

「ん? なんか聞いた話と違うが——」

 ツキヤ先生はスズカ先輩に質問した。スズカ先輩はやらかしたと顔に書いてあった。

「いや、あのーですね——」

「ま、それは良いとして」と、ツキヤ先生はその件はお咎めなしにした。

 「一応話は聞いてある。ともかく今後は危ないことはしないように。良いか?」

 私とワラはツキヤ先生に頭を下げた。

 

 その時イズミさんは私の腕に抱きついた。

 「イズミさんはその、怪我はない?」

 「——はい、とても怖かったです」


 あの時の騒動の詳細はまず私たちの学校が設営した部屋から出た後、トイレに向かったらしい。その時不審な女性に捕まり、非常階段から屋上に連れていかれたみたい。

 それから数分ほどで妹さんが戻ってきた時にはイズミさんがいないことに気づいてワラの元に向かったという流れ。

 先生にはワラと捜索しているときに伝えよう。


 「けど妹さんのお名前は?」

 すると妹さんは頬を赤く染めて目を逸らす。

 「ひ、日火和羅美呼見です……。こ、今回はとんだ迷惑を……」

 ミコミさんはとても覚えながら頭を下げる。

 「いや、大丈夫だよ。そんなに怯えなくても……」

 「はぅ〜」

 ミコミさんはとても恥ずかしがり屋さんなのかワラの背中に抱きついて顔を隠した。

 それを見たイズミさんは少し気分が明るくなったのかクスッと笑う。

 「キャハハ。本当にミコミさんは恥ずかしがり屋さん〜」

 「だ、だって目上の人には礼儀良くにって……」

 ミコミさんは茹でたこの様に真っ赤になりながらイズミさんに反論する。

 見ればワラより感情豊かな気がする。

 「二人はどうしてここに?」

 ワラは目の前でわちゃわちゃしている二人に聞く。そしてイズミさんが代表して話し始めた。

 「えっと、ヒビお兄さんとミコミさんは知っていると思うけど私は生物部にいてね、先生が私にここに行ってみたらって紹介してくれたの。幸いにも金曜日は学校休みだったしね。で、一昨日天河さんとあったんだよね〜!」

 「そう?」

 ワラは私をみて頭を傾げる。

 「うん本当だよ。一昨日の喫茶店で会ったもん」

 そういうとワラは納得したのかミコミさんを見る。

 ミコミさんは心配そうにワラを見る。

 「にぃ。怪我ない?」

 「問題ない」

 ワラはそう言ってミコミさんの頭を撫でた。

 

 それから私とワラは部屋の前に来ると二人はその場に止まった。

 「あの、今日は本当にご迷惑をおかけしました。そ、その。何を詫びれば良いのか——」

 ミコミさんはツキヤ先生に頭を下げる。ツキヤ先生はあまりにも重い発言だったのだか少し苦笑いする。

 「いや、こちらは気にしていない。それとイズミさん。先生が探していたんだが——」

 「先生ですか?」

 イズミさんは困惑しながら「私は一人で来たのですが」と言った。

 

 「違うのか?」

 「はい……。だって私一人だけで来たので。泊まっているのはヒビお兄ちゃんの家ですので——ん? もしかしてその人緑色の髪の人狼でしたか?」

 「え、うん」と、私がいうとイズミさんは何か思い出したのか手を叩いた。

 「それ私のお兄ちゃんです! 来てくれたんだ!!」

 イズミさんは嬉しそうに鼻歌を歌い始めた。


 あれ? そういえばフジクサはどうなったんだろ。

 「あ、そういえばあの男の人はどうなったんですか?」

 「あぁ、その人は入り口で警備員さんが捕まえてくれた」

 「そうですか……」

 なんとか捕まってくれて良かった。もしあれで逃走されたままだったらとても怖くて外に出れない。

 「で、その子たちはヒビさんが家に送るのかい?」

 「そのつもり」

 「分かった」

 ツキヤ先生はそう言った後、イズミさんたちの元に向かい、少し話した後戻ってきた。

 「ま、せっかくの博覧会は中止になったが良い経験になっただろ?」

 「——はい」

 私は軽く頷く。

 すると隣にいたチヒロさんがため息をつく。

 「ウズメさんもウズメさんでどうして一人でで突っ走ったのですか」

 「へ、へへへ」

 「もう……」

 チヒロさんは頬を膨らませて不満げな顔をする。

 スズカ先輩は「しょうがないなー」と言うと私とウズメさんの前に来た。

 「ま、これもこれだし。しょうがないよ。また来年もあるし、それに今年は発表もあるからまだまだ楽しめるでしょ!」

 「そう、ですね」とチヒロさんは流される様に言った。

 ツキヤ先生は全員を見る。

 「……一応もう帰宅しても良いから早いところ帰るぞ」と言った。


 それから先輩や先生と別れ、ワラはイズミさんの兄に駅で合流と言って先に降り、今ここにいる部活の人はカマタくんとチヒロさんと私の三人のみ。


 チヒロさんは何か思い詰めた顔をしながらカバンから昼に見せてくれたあの奇妙な紙を取り出した。

「やっぱり、これと関連しているんでしょうか……」

「ん? なんやそれ?」

カマタくんと手紙を見る。

「はい。今朝家に届いたものなんですけど、見た通りただ縦に線が描かれているだけで何もないんです」

「へぇー。不思議やなー。ちょっとじっくり見ても良いかな?」

「はい、どうぞ」

 カマタくんは紙を受け取ってじっと見る。

 「うーん。ほんまに気味悪いな。——ん?」

 「どうかしましたか?」

カマタくんは突然真剣な顔つきになる。

 「えっと、ちょっと子供みたいなことを言うが最近変なものに接触してないか? 怪奇的なものでも幽霊みたいなのでもええわ」

 「えーと、ちょっとそう経験はしたかも」

 これ多分カマタくんの言い方的に邪神も入りそう。そもそもどうしてこうまたせっかく戻ってきた日常にそんなのが来るのかがよく分からない。


 するとカマタくんは手紙をチヒロさんに返し、真面目な顔をしながら小さな声でこう言った。

 「白い鬼に気をつけた方がいい」

  

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