情の渦

第13話 平安の日

邪神騒動でわいわい騒いだ弥生と卯月を超えて皐月に入った。放課後、私はいつものように部室へと足を運んだ。

それにしてもあの日からワラのことが頭から離れない。どうして自分はあんなことしてしまったんだろうと少しばかり後悔している。

もしあの時の私が目の前にいたら説教みたいなことをしたい。

だってあれから何週間が過ぎてもワラのことが忘れられないしワラも気を使ってかあの時のことを話題にしない……。私もあの話題をされたら絶対に頭が沸騰して倒れる自信がある。


「思い出すと顔が真っ赤になるだけだし、今は思い出さないでおこう」そう私は決心した。

部室の戸を開けると中には誰もいない。チヒロさんとワラは掃除で遅れると聞いている。

今日は前回できなかった分の農場での実験を始動する日。一応実験の監督者としてツキヤ先生がそうなのだけど……。会議だったの忘れていた。


多分この瞬間絶対キク先輩とかが『やっほー! ウーズ―メーちゃん!!』 とか言って抱きしめてきそう。

もうそうなった場合は諦めるのが先決だよね。それに先週と言い先々週キク先輩からのメール雑に返してしまったから怒られそう。


すると扉の先からキク先輩を感知した。

「ふははは! やはりここにいた!!」

案の定キク先輩が大声を出しながら扉を勢いよく開けて入ってきた。そしてズカズカと私に近寄ると「本当にごめんね、ウズメちゃん!!」と抱きしめてきた。とても苦しい。

「せ、先輩ぃ……。苦しいですよぉ……」


キク先輩はそのまま私の全身をもみ倒す。

「ふぅ~。ウズメちゃん成分補給できたよ~」

キク先輩はどことなく満足げに汗を拭い、ようやく手を離した。


「そうそう。ウズメちゃん。先々週のことなんだけどチヒロちゃんから何か聞かなかった?」

「え、え~と確か……」

私は簡潔に説明した。もちろん邪神の話題を伏せて。

それを聞いたキク先輩は頷く。

「まーそれぐらいでも良いかな。それとごめんね。あの時本当に維持でもウズメちゃんを止めてあげないとだめだったのに……」

そうか、それもそのはずだよね。だってキク先輩にきちんと感謝の気持ちが伝えられてないから。こんな暗い顔をしてしまうんだ。

「……大丈夫です。それに立ち直れたのは先輩が学校公開の時、私に言ってくれたことを思い出したからですから」

 私がそう言うとキク先輩は笑顔で「ウズメちゃんが良いならそれでいっか」と納得してくれた。


「あの、どうしてチヒロさんのことを……」

 そう言うと先輩は「だって私が直接言いに行ったからね」と言った。いやいや、想像はなんとなくできていたけど行動に移すのは完全に予想外何ですけど。


「あの、もしかして帰り道別れた後そのままですか?」

「うん。あの後チヒロちゃんに電話してあの人がチヒロちゃんのお母さんじゃないって聞いた後、おうちどこって聞いたの。そんでなんやかんやあってお姉さんと直接対話したってこと」

「先輩、よく教えてもらいましたよね」

「うーん。理由は分からないけどチヒロさんとは別の声がしたからお母さんが良いよって言ったのかも。多分それからその二人が帰宅してお姉さんと事実確認してウズメちゃんに電話したと思うよ」

先輩はそうクスクス笑った。

なるほど。そうだとしたら矛盾点もないか。

「あ、いけない!」

すると突然キク先輩は大きな声を上げる。

「どうしたんですか?」

「今日春季合格発表だ。早く帰らないと!! ごめん帰るね!」

「は、はい。お疲れさまでした~」


先輩はそのまま嵐のように去っていった。

 それにしても本当にキク先輩が受験してる大学はどこ何だろう?

 するとドアからひょこっとチヒロさん頭が見えた。

 「ととと、ウズメさん今キク先輩が全速力で走っていたのですが何か知ってますか?」

 「あ、チヒロさん。それと……ワ、ワラ」

 ようやく二人が部室に来た。二人は同時に部室に入り、カバンを机の上に置いた。

「うん。なんか大学の合格発表が今日みたいで」

「へー。そういえばキク先輩が受けた大学はどこ何でしょうね」

「大山戸大学」

私が言おうとした瞬間ワラが答えた。

「ワラ知ってたの?」

「この間オホウエ先輩から聞いた」


あー確か二人は中学から付き合いがあるんだった。

チヒロさんは顎に手を当てて何か考える。

「なるほど……。確か大山戸大学って国内で一番出願数が多い大学じゃないですか」

「そうなの?」

「はい。大山戸大学の受験は学科によるのですが、もし受けたのが農学部微生物科だと春季に実験器具等の実技、夏季に農業技能実技試験、最後は秋の座学で決まるのです」

「へ、へぇ~」

聞いた感じすごく大変そう。むしろキク先輩はそんなに偉大な先輩だったなんて知らなかった。

「と言っても入試方法は色々あるんで違うかもしれませんが。……あ、すみません。そろそろ始めちゃいましょうか」

するとチヒロさんはカバンから小包を取り出す。小包にはそれぞれカブ、萵苣(レタス)の種と親切に書かれていた。

「先生はいなくても大丈夫なの?」

「大丈夫です。今日は種を植えるだけですので」

そう言うとチヒロさんは小包から種を取り出した。


 「これをかなり前に手入れした畑に植え付けて終わりです。分かりましたか? ヒビワラさん」

私とチヒロさんは隣に立っているワラを見る。いや、正しくは立ちながらのんびりお茶を楽しみながら当たり前のように読書をしていた。

「―――?」

ワラは頭を傾げる。

 チヒロさんは突っ込みに困りながらワラを苦笑いで見ていた。


 ―――――――。

 ――――。

 ――。


 それから私たち三人は部室の戸締りをして農場に向かい、それからは雑草抜き、畑の整備などの作業を一通り終え、種を植え付けの作業を始めた。


 それにしても今日は本当に暑い。今日実習の日だったら暑くて倒れる自信がある。それから私はようやく種の植え付けを完了させ、ずっと曲げていた腰を伸ばした。

 「ねぇ、チヒロさん。種は一種ごとに十個植えれば良かったのよね?」

 私はワラとじょうろの用意をして居るチヒロさんに向けて手を振る。そしてチヒロさんはそれに気づいて手を振って返した。

 「あ、撒き終わりましたか?」

 「うん!」

 「分かりました。では今から水を撒くのでちょっと離れてください」

 「分かった!」

 

私はそういってその場から少し離れた。それからチヒロさんはじょうろを畑まで持っていき、水やりをやる。

季節はまだ春だけど水やりをしているととても涼しい気持ちになる。

「これで良しと」

チヒロさんは腰を上げる。

「それにしてもせっかくうねを二つお借りしたのに少ししか使えないのはもったいないですよね。けど野菜も学校でしたことがあるやつでもよさそうですがそれだと……。流石に種類が少ないので考えてしまいますよね?」

チヒロさんは声に出して笑う。

「んー。確かに今皐月だから……ん~。私そんなに野菜に詳しくないしなー」

「やっぱりそこに悩みますよね~。徳田家本家は農家ですが私の家は分家で農業ではなくどちらかというと商人の家なので……。ではまた今度農業実習の先生に聞いてみます」

「うん。分かった」

そしてチヒロさんは回れ右をする。


「で、ヒビワラさんは何をしているのですか?」

「ゴミ捨て場にあった野菜」

ワラはそう言うと袋に詰めてある野菜を私たちに見せる。

それ見たチヒロさんは「もう農業高校の特権を有効活用しているのですね」と困った顔ながらも内心嬉しそうな声でそういった。

 

「それではそろそろ帰りましょうか」

 私たちは帰る用意をする。それから畑のカギを学科の職員室に返還し三人で下駄箱に向かう。その最中チヒロさんは私とワラを見た。

「あの、もしよろしければ三人で少し寄り道しませんか?」

「寄り道?」

「はい。今更ながら三人でゆっくりお話しできなかった気がするのと……。あの時のことを話したいことがあって」

なんだろう。また暗い話なのかな? 私は良いけど。

私とワラ、チヒロさんはのんびり駅までの道を遠回りして歩いた。

 

チヒロさんはワラをちらちら見ながら気まずそうに口を開いた。

「その、ヒビワラさんはいつから私が術を使ったのを知ったのですか?」

「―――言の葉について話してるときに大体」

「え、あれで気づいたの?」

やっぱり源氏の勇者は違う。この時点で誰が何者かを理解していたと言うことだよね。ワラは話を続ける。

 「田舎に住んでいた人狼なら学んでいるから知っているのは当然で、それ以外に知っているのは学者か神職。または中二病か怪奇物が好きな人」

 「――――」

 するとチヒロさんは目をそらし、汗をだらだらと流す。

 一体どうしたんだろう? 私的にはチヒロさんは探求心が高い感じだから調べていそうだけど。

 「まぁ……。私はそういうのに興味があっただけで――――」

 「ウズメ」

 「どうしたの?」

 「チヒロは呪文を言うとき最初楽しそうに呪文を大きな声で言った後、罪悪感で曇った顔をしてた。分かりやすく言うのなら快楽を得た後の虚無」

 するとチヒロさんはまさかのワラに腕を掴んだ。

 


 「いやなんでそこまで知っているんです!?」

 「後ろで敷物引いてお茶の間として見ていた」

 「いや……見ていたのならせめてっ! ……ウズメさん、少し二人で話したいのでそこのお店で少し待っていてくれませんか?」

 チヒロさんは私の真横にある喫茶店に指を差す。私もその喫茶店に指を差し、チヒロさんを見た。

 「ここで?」

 「はい、すみませんがここで引いては徳田家の恥なので。数分で戻るので終わりしだいここでのんびりしましょう」

 そういうとチヒロさんはワラを連れてどこかに行った。

 「まぁ…‥。ワラのことだから絶対言葉足らずに変なことになったよね」

私はため息をつきながら喫茶店の扉を開ける。

鈴の音と主に一人の女の店員さんこちらに来た。私は後から二人が来ることを伝えて席まで案内され座った。


この喫茶店は初めてだけど中はとても質素でながらも配色がとても綺麗。窓からは木と橋があり、さらに歴史ある商店街と風景が合わさっているから見ていてくつろげる空気だ。

すると後ろの席から声が騒がしい声が聞こえてきた。

「なぁなぁ今の人狼の子みた? めっさ可愛くね?」

「あー見た見た。そういえば中学の時一度人狼の同い年の女をクラスの男子と一緒に抱こうとしたけど保険のくそ教師に止められたんだよな~」

「お前それはやばいだろ」


後ろからどこか聞いたことがある嫌な声が聞こえてきた。そして取り巻きであろう男子たちの笑い声が私の耳に入ってきた。何故かあの時の記憶が蘇る。

 それにしてもあの人たち声が大きいこと自覚してないのかな?

 

 その時机の上に水が置かれた。

 「あの……。水どうぞ」

 「ありがとうございます」

 どうやら席まで案内してくれた店員さんが水を持ってきてくれたみたいだ。

 店員さんは困った顔で私の後ろの後ろの席に座る迷惑な客を片目で見る。

 「その、別の席にご案内しましょうか?遠い席であのお客様が眼に入らない場所ならすぐにご用意できますが」

「あ、えっと」

ここでもし下手に動いたら絡まれそうで嫌だし……。多分声の数的に大人数だから見られる危険性が高くて逆に怒られても面倒くさい。

「だ、大丈夫です」

「わ、分かりました。何かあればすぐに駆け付けますので」


店員さんはそう言うと仕事に戻った。とにかく騒ぎになる前にワラとチヒロさん来てくれないかな。

が、後ろの人たちの会話は続く。

「でもやっぱりあの人狼似てるんだよな~」

「いや、気のせいだろー」

うーチヒロさんとワラ早く来てよ~。

「あ、ならさり気に顔よく見ようぜ?」

「あー良いね良いね!」


いや、非常識にもほどがあるでしょ。


私はそのまま移動してトイレに行こうかな? だけど今の状況だと不自然にー。すると右肩が急に重くなった。

「すみませ~ん」

そう、突如中学生ぐらいの人狼の女の子が私の上に倒れたのだ。女の子は黄緑色の髪に人狼族特有の耳と尻尾を持った可愛らしい女の子だった。

「ど、どうしたんですか!?」

「昨日飲んだ牛乳がお腹に当たって~。トイレまで連れて行ってくれませんか~」

「ト、トイレ!?」

それは早く連れて行ってあげないと……。

私は女の子に肩を貸して立ち上がり、周りを見る。

 

「あ、目の前か」

私はゆっくり女の子をトイレに連れて行った。

 

それからしばらく時間が経ち個室からスッキリして満足そうな女の子が出てきた。

「いやーありがとうございました!」

「いえ、大丈夫そうだったら良かったです」

「――――」

すると女の子は前のめりに私の顔を前のめりになって覗き込み、嬉しそうに笑う。


「やっぱり天河ちゃんは変わらないですね」

「――え、どうして私の名前を」

「あ、ご、ごめんなさい! いきなり失礼でしたよね」

女の子はあたふたする。

「わ、私は安雲の津山中学一年の野田山下川泉と言います」

女の子、イズミさんは丁寧にお辞儀した。


安雲の津山中学校?確か私が前に住んで通っていた津田中学の反対側のところにも同じようなところあったよね。

「えーと私は――――」

「天河ウズメさんですよね?」

……どうしてこの子は私のことを知って……。

「えーと。私たちどこかで知り合いました?」

「憶えてませんか?」


えーと中学の時は嫌な思いでしかないし小学校の時と幼稚園の時も同じ。なら普段の生活で接触した?

だけど私が一番関わってたのは小さい時村でよく遊んでくれたメグミお姉さんとカタリヒコお兄さんとかその他もろもろとしか接触してないし、むしろその人たち以外誰とも関わっていないよ……?


「あ、覚えてないのなら良いんです。ですが……」

イズミさんは恥ずかしそうに―――。

「これからもしどこかでお会いすることがあれば、天河先輩と呼んでも良いですか?」

 顔を赤くしながら私に言った。

「わ、私はどんな呼び方でも良いですよ」

私がそう言うとイズミさんはまるで子供みたいにピョンピョン飛んで喜ぶ。


「ありがとうございます!」


女の子はそう言うと腕時計を見て、冷や汗をかいた。

「お時間少し頂いてすみません。ではちょっと時間がないので!」

イズミさんはトイレから出るや否や全速力で会計まで向かい、すぐに終えて店から出ていった。

「あ、連絡先聞いたほうが良かったかな?」

とりあえず席に戻ろう。

でもなんだか静か―――。


後ろの席を見てみると誰もいなくなっていた。

「帰ったのか」

自分の席に戻るとそこにいたのはのんびりしてるワラと、耳を赤くしながら机に伏せているチヒロさんがとっくに座っていた。

「ごめん、待った?」

「問題ない。今入ってきたところ」

「そうなんだ」

私はチヒロさんの隣に座った。

「で、チヒロさんは何かあったの?」

「あの……。本当に恥ずかしいことで」

「それ言われるととても気になるんだけど」

が、チヒロさんは相当恥ずかしいことをされたかもしくは暴露されたのだろう。けどワラのことだからどうせまたおかしなことを言ったに違いない。

さて、とりあえず喫茶店に入ったんだから何か食べよう。私は献立一覧表を見る。

「ワラと、チヒロさんはどうするの?」

「なれずし」

ワラは水を飲みながら言う。それにしてもワラはどうして異性に囲まれても平気なんだろう? これに関しては私も見習った方がいのかもしれない。

「なれずしって。あの魚をドロドロにしたやつでしょ?置いてあるとは思えないけど」

私がそう言うとチヒロさんは無言でワラを見る。

「冗談」とワラはそう言いカバンから本を取り出し読み始めた。

「もうワラったら。―――あ」

今自然と笑いが出た。


やっぱりワラと二人でしゃべった日から何か変。まるで昔の自分に帰ったかのように素直になれてしまう。

 その時チヒロさんはゆっくりため息をつきながら起き上がった。

「私はお饅頭でお願いします」

「分かった。ワラもそれにする?」

ワラは首を縦に動かす。


「あの、店員さん!」

「はい、ご注文は何でしょうか?」

「あの、お饅頭三つで」

「分かりました。すぐにお持ちしますね~」

店員さんは駆け足で調理場に向かった。


「はう~」とチヒロさんはため息をつく。

「その、チヒロさんは本当に何があったの?」

「説明する」

 ワラは本を置いて真っすぐな目で私を見る。

「簡単に言えば全てチヒロが俺とササの手のひらの上だったと言うこと」

「……え?」

「最初言の葉の時に疑問に思ってササに聞いて調査していた。その時は分からなかったが、あの術を使う前日チヒロは倉庫裏で怪しげな本を読んでいるのを見た」

「けど、言霊自体ならスズカ先輩も知っていたし――――――あ」

確かワラの口ぶりから怪奇物が好きな人間は実際に使えないものの知識が入る。

「スズカ先輩は使えないのは確実なのにチヒロさんが扱えたこと、何かおかしい感じ……」

「そう。恐らくチヒロが受け取った本にはこちらが把握していない術があった。その術は使えない人でも一回だけ使えるものと考えると辻褄があう」

確かに言われてみればどうしてチヒロさんが使えたのかを無視してた。

「だから先ほど言及したことはなぜ扱えたか。それを問いただした」

「で、どうなのチヒロさん」


するとチヒロさんはゆっくり頭を上げる。

「その~。ササ先生の家でお泊りしている時小さな女の子と一時期一緒にいたと言ったじゃないですか。実はその子がヒビワラさんとウズメさんとで言の葉について話した帰りに会って……。教えてもらったんです。そこでその子から本に書いてある呪文を唱えたら出来ると言われて……。ごめんなさい」

「ふむふむ。そういうことか」

だとしたら辻褄があう。そうじゃないとチヒロさんが突然力に目覚めたとかよく中二病の人たちが使いたがる設定みたいだし。

チヒロさんは少しおどおどしながら上目遣いで私を見る。

「……怒っても、良いんですよ」

「怒らないよ? だってもうその話は済んだことだし気にしてないもん。でも気になるのはどうして一時期みんな私を見るとき顔を赤くして目をそらしていたの?」

「え、あーそれは―――――」

するとワラは少し間を開けて口を開いた。

「倒れたとき盛大に袴がめくれて見えていたから」

「――は?」

「ちょっ、ヒビワラさん! ウズメさんこれには訳が!」

顔がどんどん熱くなっていく。ということは下校時人が多い時に倒れて下着丸見えだったの……!?


私は机に伏せる。

「うわぁ~。もう学校に行きたくないよ~」

「ほ、ほらヒビワラさん!」


「え、これもしかして―――――」

「下が見えていた。そのことは俺とチヒロはササから聞いた」

さ、ササ先生なんで言うんですか~。

「ん? そういえばウズメさんはあれどのようにして治したのですか?」

「俺とササ、そして縫と一緒に心の中に入って」

すると店員さんがお饅頭を持ってきた。

「はい、ご注文の物です」

「ありがとうございまーす」

私は店員さんからお饅頭を受け取り、チヒロさんとワラの前に置いた。

「とにかく。この話はこれでおしまいです。あ、それと言い忘れていました。明後日の小中科学博覧会なんですがツキヤ先生より天下原駅西改札前九時集合です」

「科学博覧会……あぁーあれね」

「――――饅頭美味しい……」

「ヒビワラさん……は大丈夫みたいですね」

チヒロさんはまるで母親のようにワラを見る。確かにワラは何にしても大丈夫かもしれないけどさ。

「ん? そういえば博覧会はどうするのかチヒロさんは聞いたの?」

「はい。確か顕微鏡で菌を見せるんです」

「菌は確か部活で最初の頃にしたやつであっているよね? けど結果見てないから分からないけど」


「問題ないですよ。少し見せてもらったんですがきちんと採取出来ていましたよ」

「そうなの!? 出来たら私も見たかった……」

「なら火曜日とか時間が空いていましたら少しお邪魔しましょう」

チヒロさんはクスクス嬉しそうに笑う。

「ではとりあえず今日はこれでお開きにしましょう」

そういって私たち三人は店から出て駅で別れた。

今日もまたワラの顔をしっかり見れなかったな。


――再び訪れた平穏の中、私は小中科学博覧会に挑むのであった。


                 *


実習が多い月曜の授業を経て私はワラを農場のベンチに呼んだ。理由としてはやはり邪神の世界に行った時ワラを巻き込んでしまったことを謝罪したいからだ。

本来だったら先週の金曜日にしたかったけどその日は来なかった。だから今日呼び出したのだ。

その時ワラが坂を歩いて登ってきているのが見えた。

「私はもう成長したんだから。だからもう大丈夫よね」

私は大きく深呼吸をした。


その後私とワラはベンチに座った。

「その、この間はごめんなさい……」

「――――?」

「ほら、あの邪神の世界に行った時、ワラを巻き込んじゃったから……」

「別に気にしていない」

「でもっ!」

私はワラの袖を掴む。


「ササ先生からミコに会ったことを聞いた」とワラは淡々と無表情で話す。

「ミコって……。確か青色の髪の神の使いって言っていた人だった気がする」

「それで合っている。そしてチヒロが結界を破壊したさい邪神がどこに行ったのかを推定して一週間以上かけて討伐した」

「……本当にごめんなさい」

私は深く頭を下げた。けど、ワラの声色はやはり変わらなかった。

「謝らなくてもいい。他に聞きたいことある?」

「じゃ……。神器、勾玉、邪神ってどういう意味なの?」

「……神器を取るには勾玉が必要だからそれを回収し、邪神を討伐していたと言う意味」

「――――絶対無理してたよね? その、こういうのもあれなんだけど」

なぜか胸がムズムズする。ワラが苦労したのは私の責任、少しは償わないと。

「今何かしてほしいことある? なんでもするよ?」

「なんでも? ―――――そう」


するとワラは魂が抜けたように私の胸に倒れた。

「ふぇ?」

いや、何してるのこれぇ~?

私はワラをゆする。

 「ちょっと、何してるの!? は、離れて……。もしかしてー寝てる?」

 私はベンチにゆっくり寝ころんだ。何してるんだろう、私。

 私の耳にワラの寝息が入ってくる。

 「おかしいな。ムズムズするのって罪悪感からって思ってなのにもう感じなくなっちゃった」

 私はワラの頭を優しくなでた。

あ、そういえばここ思いっきり外だったの忘れてた。これ見られたら完全に終わりだよねー。


私は空を見上げる。

「けど何だろう。これ悪い気がしないや」

その時暖かい風が私を包んだ。


 すると上から鳥の歌声が聞こえた―――――。

 もう、どうしてこんなことしているのか分からなくなる。確かに何をしても良いと言ったけどここまでとは……。

するとワラはゆっくり顔をあげる。

「あ、起き―――!」

「……あと十分」

小さな声でワラはそういってまた私の胸に埋まった。顔がどんどん熱くなる。

「―――! ……アホ」

私もまたゆっくり目を閉じ、ワラが起きるまで昼寝に付き合った。


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