第7話 言霊

これは私がキク先輩に隠した過去の話……。




 私は祖母に言霊についてたくさん叩き込まれてきた。


 これは全て人狼族の古来からの教えやら家訓やらと言われたけどそのほとんどはもう覚えていない。


 この時覚えた言霊は動物と言葉を交えれるもの。


 これは従来の言霊と違い口で念じなくても使える言霊で、これは人狼族でしか扱えない代物。


 しかし例外に私は途中でやめたため白色の動物にしか扱えない。


 それに私はこの言霊を恨んでいた。




 今ではだいぶその言霊はそこまでは嫌ってはいないけど、小さいころは本当にとても嫌いだった。




 その原因となったのは幼稚園に入りたてのころだった。




 私は幼稚園の先生からメダカのお世話係に任命された。


 この時から私には友達はいなかった。


 だからこそメダカのお世話はとても楽しいもので唯一の私の居場所だった。




 最初メダカに餌をあげる際。


 「はい、餌だよ」


 と言う日々が何日も何日も繰り返されていた。


 メダカたちはとても可愛く、私を見るなり嬉しそうな顔で寄ってきてくれていた。


 多分そのほとんどが餌目当てだけど友達がいなかった私からすればとても嬉しかった


 メダカたちは裏切らない。私の傍に入れくれる。




 そう信じ続けていた。




 ある時私は何を思ったのかメダカたちに話しかけていた。


 「おはよう」


 そして私は胸にかけていた勾玉を使いそのメダカの声を試しに聞いてみた。


 するとメダカは。


 「(おはよう。毎日ご飯食べさせてくれてありがとね)」


 可愛い声で私にそう言った。




 とても嬉しかった私は椅子をメダカのいる水槽前まで持ってきてたくさんお話をした。


 「メダカさんたちは私たちがいない間どう過ごしてたの?」


 「メダカさんは好きな人とかいるの?」


 「メダカさんたちは何かしてほしいこととかある?」


 あれから何日も何日も一緒に喋って、いつの間にかメダカさんたちが私の大切な……大切な友人になっていた。






 会話を始めてから一か月後メダカさんたちは誰かに水槽を破壊されみんな死んでしまった。




 どうして?




 どうして?






 どうして?




 そして犯人は何故か私になった。


 意味が分からない。




 私が何をしたの?




 私はメダカに餌を与えてただけなんだよ?




 私はずっとお話していただけなのに……どうして?




 私は何度も先生に自分の潔白さを話したけどだれも見向きしてくれなかった。


 私が何度言っても。


 「動物の声を聴いて嫌われて腹を立ててやったんでしょ?」


 としかわれなかった。




 何で信じてくれないの?




 どうして私を信じてくれないの?




 動物と喋ってるから?




 人狼だから?




 ――――――――――――。


 ―――――――。


 ――――。




 その日を境に私はいじめられた。


 「動物の声が聞こえるなんて頭おかしい」


 「気持ち悪い」


 「病院に行けば?」




 そんな悪口を同じ年少の子や年中・年長の子たちからも言われ続けいじめられた。挙句に先生からも拒絶され私の味方は誰もいなかった。


 毎日のように物が消えたり服を切り裂かれたり。


 殴られたり蹴られたりの日々が続いた。




 それでも私は耐え続け自分の無罪を主張し続け、結局晴れないまま幼稚園を卒業。


 この時から私は動物の声を聴くのを自分から拒絶し、気づけば白色の獣の声しか聴けなくなっていた――――――。






** * * * * * * * * * * * * * * * * * * 




 時は過ぎて、キク先輩のお別れ会を終えた次の日のこと。


 「ウズメ、肥料」


 「うん分かった。えっと……野菜に当てないように水鉢に……」




 そろそろ五月に入ろうとする日は特に暑く。


 その中でも今日は四月で一番暑い日。


 本当に最悪。




 着物も汗で濡れるし薄着にしたくても今度は汚れてしまうと冷たい水で洗わないといけない。


 けどこの暑さではさすがにやっていけないから袖をまくってただ今作業中。


 ……はぁ。


 で、今は農業実習で赤茄子あかなすと胡瓜きゅうりの植え付けをし、只今肥料を散布してる。


 そしてその後にもだいぶ大きくなった萵苣ちしゃの水やりだけだけどこんな暑さだと参っちゃうな。




 そして私と同じうねを管理しているワラ。というかほぼ毎日雑草抜きやら水やりをしているから実質このうねの管理者はワラだと私は思う。


 さて、ちゃっちゃと水やりしちゃうか。


 「はい水」


 「え、あ、ありがとう……」


 ワラは風の速さで水の入った柄杓を私に渡す。


 え、待って。


 いつの間に用意してたのすごく怖い。


 しかしそんなワラはすました顔で首を傾ける。


 「どうした?」


 「ううん。ありがとう」


 「そうか…‥雑草抜いておく」


 ワラはそういって黙々というか割と楽しんでいるとしか言えない速度で次々と雑草を抜いては桶に入れていく。


 「――――――あ」


 その時私の足下で二匹のカマキリが何やら喧嘩していた。




 そういえばここはよく虫がいるからなー。




 よし、暑いしちゃちゃっと水やりしよ!!


 私は意気揚々柄杓の水を野菜の根元に作ってある水鉢に入れ、どうしてだか私は喧嘩している二匹のカマキリを見て。


 「―――――この子たち何をしゃべってるんだろ」




 そう思ってしまった。


 いつもなら思わないことを最近は良く思うようになってしまっている。


 今日ササ先生にそれについて聞いてみよっか―――――。


 「ウズメ水入れすぎ」


 「え、あぁぁー!!」




 そして一番大きく身が詰まっている萵苣は水浸しの犠牲になってしまった。


 ごめんなさい萵苣……。




 ―――――――――――。


 ――――――。


 ――――。




 五、六時間目の農業実習が終わり終礼。


 組のみんなは実習で疲れたのかお通夜のように暗く明るいのはササ先生だけ。


 ササ先生はそんな私たちを見て。


 「もー最後ぐらいビシッと決めますよ!!」


 と、大きな声を出す。


 しかし誰も反応しないものなのでササ先生は深くため息をつく。




 「では委員長さん。きちんと大きな声で皆さんを引っ張らなかったらDNAプログラミング座学の小テスト難しくしますよ?」


 その声に反応したのか組の中でもとても怖そうな河童髪を金髪に染めた女侍のような委員長がスッと席から立つ。


 その時の彼女の顔は冷や汗で光っていた。




 「ごっらーてめーら立ち上がれや―!!」


 委員長がそう叫んだとたん私含め全員が立ち上がり、腰を揃えた。


 そして声を合わせて。


 「「「起立! 礼! ありがとうございました!! 気を付け!」」」


 委員長がどこかおかしい挨拶を済ませるとみんな次々と教室から出ていく。




 そうだ。




 「ごめんチヒロさん。今日は少し学校に残らないとだめなの」


 私は右側の席で帰り支度をしているチヒロさんにそういうと彼女は。


 「大丈夫ですよ。ウズメさんこそ学校に残りすぎて危ない時間にかえらないようにしてくださいね」


 チヒロさんは少し得意げに母親のような表情を浮かべる。


 いや本当に母親だよ。




 「チヒロさんは私のお母さんかな?」


 「あ、それいいかもしれませんね。ほら、お母さんと呼んでもいいですよ」




 チヒロさんは冗談交じりにそう返し。


 「では、私は先に帰りますね」


 「うん。気を付けてね」


 私はチヒロさんにを教室のから手を振って見送る。


 さて、ササ先生は……。


 そう思って振り返るとササ先生は複数の女子生徒に囲まれながら――――――。


 「ねえーササ先生は結婚してるんですかぁ?」


 「うーん。まだしてませんよー」


 「先生先生! 最近この化粧流行ってるのでしてみます?」


 「化粧は遠慮します。私肌が弱いので化粧はダメなんですよー」


 「えっ、じゃ今はすっぴんなんですか!?」


 「そうですよー」


 「「「えぇー!!」」」


 とても盛り上がっている。


 何だろう。




 教卓前であんなに群がって会話が弾んでると質問しずらい……。




 ……よし、レポートしているフリでごまかそう。




 私はカバンから筆箱とレポート用紙を取り出す。


 そしてファイルを出そうカバンに手を入れる。


 しかしどこを探ってみてもない。




 うん、これはあれか。




 持ってきてすらいなかったやつね。


 うん、思ってたよ。どうせ私のことだから入れてないって。




 その時誰かが冷たい手で私の耳に触れる。


 「ウーズメちゃん!」


 「ひゃわ!!」


 耳を抑えて席から立ち上がり。すぐに後ろを向いてみるとそこには今朝電車であった五組のミサトちゃん。


 「うーミサトちゃん……!!」


 「にゃははーん!」


 ミサトちゃんは赤色の着物を着てひざ丈ぐらいの黒い馬上袴を穿いている女の子。




 特徴的なのは鉢巻で後ろ髪を左右に分けている。


 彼女とは今朝電車で少し話しただけで深く関わってはいないはずなんだけど……。


 ミサトちゃんは私の反応に満足したのか近くに寄る。


 そして私の机の上を見て「あー」と呟く。




 「にゃるほど……レポートしてたんだね」


 「うん……ちょっとササ先生と組の子たちの話が終わるまでの時間つぶしにね」


 「あーね。でも、ササ先生ならさっき出ていったよ」


 「はい!? あ、本当にいない!!」




 ミサトちゃんに言われ教卓を見るとそこには誰一人いなかった。


 本当にいつの間に。


 「にゃはは!」


 ミサトちゃんはそんな私の反応を見て面白かったのか笑い出す。




 じゃ早く追いかけないとだめね。


 私は机の上に出していたものを全てまとめカバンに押し込み、肩に掛ける。


 「それじゃミサトちゃん私はこれで」


 「はいにゃーん。滑らないようにねー」




 私はミサトちゃんに手を振ると早足で教室から出て職員室に向かった。




 職員室に着くと私は扉を何回か叩いて「失礼します」と言い、中に入った。




 そして最初は一瞬だけ職員室内を見渡し。


 「一年四組の天河です。ササ先生はいらっしゃいますでしょうか?」


 と一回見まわしてから言う方が良い間違いしても悪い気がしないからだ。




 私がそういうと手前にいた数学の先生が私に気づいて「ササ先生に用事ね。少しだけ待ってね」と言い職員室中を見渡した。


 しかしそこにはいなかったのか数学の先生は残念そうな顔を浮かべながら。




「ごめんねーいないみたい」


 「そうなんですか……すみませんありがとうございました」


 私はそういって出ようとすると数学の先生に止められた。




 「あウズメさん待って」


 「はい?」


 「ちょっとこの紙見て欲しいんだけど」


 そういって数学の先生から紙を受け取る。






 そこに書いてあったのは。


 「えーと……数学の補習……?」


 「そうそう。ウズメちゃん少し数学に追い付いていなさそうだったから先生が勝手に決めちゃったんだけど大丈夫? もしあれだったら日にち変えるけど」


 「日にちは……中間試験の一週間前ですか。はい、大丈夫です」


 「そう良かったわ。じゃそれでいくね。あとササ先生は多分理事長で雑用にされてると思うから理事長室にいると思う。知らないけど」


 「いえ、こちらこそありがとうございます。理事長室ですね。一回行ってみます。それでは失礼しましたー」


 挨拶を済ませると職員室から出る。




 そして先ほど受け取った紙をよく見ると二枚あった。


 もう一枚は何だろう?


 私はもう一枚の紙を見ると―――――。




 『数学小テスト第一回から五回。平均点二点のため補習の必要あり』


 と、今までのテスト結果をまとめられた紙。




 うん……これ私が悪いのかなー。


 まぁ消去法とか関係なく私が悪いんだけど。


 私はトボトボ理事長室に向かう。




            *




 理事長室に到着した私は扉を三回叩く。


 すると中から「はいはいーい」とササ先生の声がして扉が開いた。


 扉から出てきたのは服がはだけ袴を穿いていないササ先生だった。


 いや、なんでその格好なの?




 ササ先生は顔を真っ赤にして息を荒くしながら。


 「え、えっとウズメさん?」


 「はい。少し先生に聞きたいことがあったので伺いました」


 私が返事をした後少し間を開けて。


 「あ、あーそうですか……。なら中にどうぞ」


 「失礼しま……あれ? ここ理事長室ですよね?」




 「そうよ?」


 ササ先生は何言ってんだと言いたげな顔をする。


 本当に大丈夫かな?


 中に入ってみるとそこには少し布がずれたら色々と規制されそうなっているチカさんが縄に縛られて放置されている。


 それ以外は光沢がある木製の机に椅子。そして様々な書類やら記念品をまとめて棚に保管されている。




 あの柱に縛られている“オブジェクト理事長”さえなければ威厳を感じられる部屋だろうに……。




 「で、話は何ですか?」


 ササ先生は何も見ていないのか私を見る。


 いや、まずあれが一番気になるんですが?


 私は校長先生に指を向ける。


 「あれって何ですか?」


 「いや、そこの柱に縛られてるチカさんのこと――――――」


 「理事長が? どこにいるのですか?」


 私は確かに指をさして言ったのだがササ先生には何も見えていないらしい。




 ならこの話はほっとくか。




 「その、言霊術について聞きたいのですが。霊力の感知は高校生からでも行けるんですか?」


 「霊力の感知? 貴女は確か出来るはずでしょう?」


 「いいえ……感知でも動物の霊力の感知です。幼い時に拒絶しちゃった動物の―――言葉をもう一度聴きたくなってしまって。それで動物の霊力をまた感知できるようになって話したいのです。」




 「ふむ。なるほどねー」




 ササ先生は手を顎に当てる。


 「まぁ……幼稚園の時ならともかく高校生かー」


 「無理ですか?」


 「えぇ、言霊術でもあなたの動物の言葉を聴くのは幼稚園生の時ぐらいからやり続けないといけないんじゃなかったっけ??」


 「はい……そうです」




 ササ先生は少し悩むと。


 「私には動物の声を聴く言霊術なんて専門外ですしねー」


 「――――――」


 やっぱり無理だったか。


 祖母も教えてくれてたけど動物の言葉を聞くには白い獣から慣れてからじゃないと普通の動物の声は聴けないと教わった。


 そしてササ先生の言ったとおりにこれは感知できる霊力が固定される数年間続けないといけないはずが私は止めてしまったから白い獣しか聞けなくなってしまった。


 これはどう考えても自業自得なんだけどね。




 その時ササ先生は私の頭をポンポンと叩く。


 「あ、これは言葉を読み取る物じゃないのですが使ってみますか?」


 ササ先生は理事長の机の上から虹色の言霊を私に見せた。


 「これは……?」


 「これはその日の運勢を占うものなんですが。少し前にこれは他人から見た自分の好感度が解る勾玉だって転売されていたんですよねー。で、騙された阿保理事長はあちらです」




 ササ先生はチカさんに指をさしてゴミの眼差しで見る。


 「だって……だって……知りたかったんだもん……」


 「チ、チカさん?」


 チカ先生は子供みたいにグズグズ泣き始める。


 確かに人間関係は好感度とかどう見ても嘘だと分かると思うけど……なんとなくあの山の件もあるからチカさんて結構騙されやすいのかな?




 それにしたってチカさんが泣くほどって何があったんだろう?




 するとチカさんは頭をゆっくりと上げた。


 「本当に何だってんのよアイツらは。どう考えても陰湿すぎるでしょ。私はせっかく親しんでくれてると思ってそれに応えようと流れに乗ってるのになんなのよ好感度真っ黒って、裏切られた気分だわ……」


と、死んだ魚の眼でぶつぶつ呟きだした。


 この光景ははたから見るともうホラーでしかない。




 そしてササ先生は―――――。


 「はぁ……そもそもこれが心読めるなんて嘘と分かるのに高い金を払って校長先生に内緒で買ったのに結局はこれですよ。挙句にヤケ酒して妹を脱がすなんて……」


 そういって再び理事長に指をさした。




 すると理事長は顔を背けた。


 あ、これ本当なんですね。


 ていうかササ先生チカさんの妹なんだ……。


 言われてみれば目つきと髪の質感も同じ。




 て、なんで突然この話を?


 ……もしかしたらこれはササ先生なりに落ち込んでる私へのサポートなのかな……?


 ササ先生は私の耳元に口を近づける。


 「ウズメさん。多分固定してからの動物の霊力の感知方法は縫さんに聞いたら分かるんじゃないかしら」


 「縫お姉ちゃんに?」


 私は小さな声で返す。




 それに反応してササ先生は首を縦に振った。


 「えぇ。あの人は色々なところを旅してたから何か知っているはずよ……それに」


 ササ先生は私の耳元に顔を近づける。


 「――――――私はそれで彼女に助けられましたから」




 最後は何を言ったか聞き取れなかったけどササ先生は私から離れた。


 縫お姉ちゃんか……。


 ……一回試しに今日電話でもしてみよっかな


 でも……これで本当にまた動物の声が聴けるのかな?


 ……そんなことは考えないでおこう。いつまでも悲観で居続けたら何も成長しないから。


 出来る出来ないかをはっきりさせよう。


 私はササ先生とチカさんに「失礼しました」と言い、理事長室から出た。


 その時一瞬だけ世界が歪んだ。


 すると学校の中から突然人が消えた。


 外も何故か赤紫色の空が覆い、空気も何故か刺激臭が充満している。


 それにこの感覚はササ先生と蠍が戦った時に感覚に似ている。




 私は少し嫌な感じがしたため、理事長室の扉を開こうとしたけど開かなかった。


 どう考えてもおかしい。


 でも、あれと似たようなことってこんなにも頻発するものかな?


 ――――――ちょっと怖い。




 少し不気味だな……。と、私はそう思いながら駆け足で階段から降りて下駄箱にも向かう。


 下駄箱は先ほどの理事長よりもさらに強い刺激臭が私の鼻を襲う。


 正直言って鼻がえぐれるほど痛い。




 私はとりあえずここから離れようと学校の外に向かった。




 ――――――――――――。


 ――――――。




 『ミーツケタ』

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