第8話 銀髪のなびき

後ろから聞きなれた音色の声が聞こえた。

その瞬間周りが真っ黒になった。

 

声の主、それは誰よりも私が一番よく知っている人。

私はゆっくりと、ゆっくりと体と首を回して後ろに振り向く。

「わ……たし?」

そこにいたのは限りなく私に似た小さな女の子だった。

いや、この子はどう見ても私。

髪は藍色に美しく輝き、肌は透き通るように華麗な子……自分で言うのもなんだけどとても恥ずかしい。


『――――――』

その女の子の笑顔から底知れぬおぞましさを感じる。

「ねぇ、貴女は誰?」

私は試しに話しかけてみる。

『――――――』

しかし、女の子は何も答えない。

むしろ私が声を発したとたん、首が左右に揺れ始めた。けど、体の方はびくとも動かない、本当に頭だけが動いている状態。

私と女の子の間に少しお互い睨め合っていた。

すると女の子は私に向かって足を進め始める。

この光景はもうホラー映像で出てきても違和感がないぐらいにゆらゆらと揺れながらこちらに向かって歩く。


……なんだろう、これだいぶ危険な状況じゃ……。

あれ? 身体が動かない!?


これっていわゆる金縛り? でもこれは科学的に嘘と判明されたはず……。


動いて……!


お願い……!


動いて……! 動いて……!!


『ハァ……ハァ……』

「あ」

気づけば女の子は私の近くまで来ており、そのまま胸に飛びついてきた。

そして私の着物を無理やり脱がし、そして懐に入れていた勾玉を無理やり取り出した。

女の子はその勾玉をぎゅっと握りしめ―――――。

『ナビィの言霊、鎖変換』と唱えた。

次の瞬間女の子が光の粒になってこの場から消えた。

その光の粒は私の頭の上をグルグルと周り、そして色は白色から徐々に新橋色に変わる。


「これは……一体?」

私はゆっくりとその光に手を伸ばす。

すると私の周りから白く光る人が地面から生えてきた。

その人の特徴は赤い目と私より高い身長なのはわかるけど、それ以外はまぶしくて分からない。


でも、何となくだけど外見的特徴から女性みたいな体型と男性みたいな体型があり、そしてその人は一人だけじゃなくて五人で私を囲んでいる。

「一体……これは何? あ、そうだ勾玉は……良かった、大丈夫」

私は勾玉を大切に握る。

これは祖母から貰った大事な勾玉だから、もしなくなったって祖母が知ったらそのままぽっくり逝っちゃうかもしれないからね。


で、とりあえず今の状況を整理しよう。

まず、最初に私はササ先生にさよならと言って理事長室から出て、その時変な臭いがしたのは覚えている。

そして下駄箱に近づいていくと変な臭いがきつくなってきたから草履に履き替えて今に至る。

いや、急すぎない?


全く、意味が分からない。


何? これ映画の撮影か何か? もしそうだとしたら早く監督さん出てきてくれないかな。これどう考えても理解がなかなか追いつけないんだけ――――――。

その時私を囲む五人はどこからか楽器を取り出し、それぞれ演奏を始めた。

楽器は聞いた感じ尺八と胡弓、そして笙の三つ。

 

 『――――――』

 そしてさっき光の粒になって消えたはずの女の子がぼんやりと空から降りてきて、足が地面に触れた途端くっきりと姿を見せた。

 そしてその女の子は綺麗な歌声をこの真っ暗な空間に響き渡らせる。

 

 五人の楽器と女の子の歌声はまるで子守歌のように安らぎを与え、まるで天国にいる感覚になる。

 絵面としては意味が分からないけど。

 

 それから一時間ほど演奏した後、女の子はゆっくりと私を見た。

 そして口をパクパクさせて。

 『時は来た』

 「…………へ?」

 女の子はそうマジな顔でおかしなことを言い、そのまま闇に溶けるように消えた。

 いや待ってこれどうするの!?

 私、ここにずっといないといけないの!?

「……そうだぜ」

その時後ろから突風が襲い、前に吹き飛ばされた。

地面に手から着地したけど、手の平には不思議と痛みはなかった。

「いたた」

一体何?

 

私は後ろを向く。


そこにいたのは私の何倍もあろう巨大な牛鬼だった。

牛鬼の特徴は牛の頭に鬼のような角を生し、胴体はまるでお伽話に出てくる鬼のように二足歩行で爬虫類のように、うろこで覆われてる。さらに両手には刀を握っていた。

……はい?


え、ここはいつからこの世界創作物でよくある話になってたの?

しかし牛鬼は私の体を見ると嬉しそうに笑う。

「くくく、まさかこんなところに隠していたとは……やはりナビィのことは侮れんなぁ

?」

「え、えっと……一体何のことで?」

「はは、何をとぼけてるぅ? お前はなぁ、俺様の生贄だ。かつてユダンダベアを恐怖に陥れた炎を司る大邪神こと……俺、鬼牙きばのな!!」

「あ」

牛鬼こと鬼牙はそういうと手に持っていた刀を振り下ろし、私が気づいた時にはもう目の前にあった。

まずい……死ぬ。


その時、私は一瞬だけ青白い光を見た。


「何!?」

鬼牙は驚愕の声を上げた。

それもそのはず、むしろ私が声を上げたいぐらいなんだもの。

それは今目の前にさっきの白く輝く人たちが私の前でその刀を食い止めているから。

鬼牙は苛ついているのか息が粗くなる。

「がぁー! 鬱陶しい。とっととくたばりやがれ!!」

鬼牙はもう一つの刀を全力で振り下ろす。

するとあの五人の人たちが一瞬で粉砕された。

いや、これはだいぶまずい状況じゃ。



「あーくそ。よーしあとはお前だけだぁ。さすがにお前だけだなぁ。これはどうでもいい話なんだがぁ、ちょうと昔調子に乗ってた時に、勇者が来てまさかの一刻もかからず殺された過去があるからトラウマなんだよ」

「……それ私に話して何か得になります?」

「あぁ……俺は優しいからなぁ。冥土の土産にと思ってのことだよぉ!!」

「簡単に死にたくない!」

私はとっさに立ち上がって横に走る。

行ける? いや、行くしかない!!


「おーい、おーい逃げるのかぁ? 戦わねぇのか?」

 

「無理に決まってるでしょ! どう戦えばいいのよ!!」

「手足で俺に殴りかかる」

「余計無理!!」

私は全力疾走で逃げる。

多分追いつかれると思うけど……せめて抵抗はしたい。


私は後ろを少し見る。鬼牙はゆっくりと歩きながら私を追ってきていた。

そして巨大な体型だから振動が凄く、歩幅も大きいため少しでも早くなれば追いつかれてしまう。

 走っているはずなのにしっかりと伝わる。

 これ、どうすればいいの?


 すると鬼牙は――――――。

 「ヒャーハハハハハハ!! 逃げろ怯えろ!! そして焼け死ぬがいぃ!」

 そう鬼牙が言ったとたん一気にこの真っ暗な空間が真っ赤に輝き、そして地面の感触が岩山にいる感覚になった。

 「これは……へ? 溶……岩?」

 足元を見てみるとぐつぐつと溶岩が燃え盛っている。

少し寒気がする。もしあのまま一直線に逃げていたら死んでもおかしくなかった……。

 そして周りを見渡すと溶岩の真ん中に今私がいる地面がただ一つあるだけ。

 さらに私がいるところの四方には火柱が立っている。

 えっと、これどう見ても詰んでるとしか言えないんだけど。


 後ろから荒い息が聞こえる。

 そしてこの場所は暑さまでも感じてとても不愉快だ。

その時首筋に刃物の感触がした。

「くくく、どうだもう諦めるか? キカカカカ!!」

「あきらめ……ない」

「まぁーだ言ってんのか。この空間はこの俺様が生み出したもの。これはいくら神の加護を受けている人間ですら見つけることが出来ない業だぁ。あーあお前みたいなちんけな小娘を追い続けてたもんだから腹減ったわ。じゃ、死――――――」

 

その時刀がとても遅く振り下ろされているように見えた。

私は死ぬの?

そんなの嫌だ、せっかく見つけた、楽しく暮らせる環境なのに。

助けて、誰か助けて……。

 私は目をつぶった。


 その時後ろから――――――。

「風の言霊、神風大天狗かむかぜおほてんぐ!!」

「水の言霊、水神ノ轟みずがみのとどろき!!」

二人の女性が鬼牙目掛けて風の斬撃と巨大な水の弾丸をぶつける。

鬼牙でもさすがにその衝撃に耐えられなかったのか一瞬怯み、私はその隙に一人の女性に腕を掴まれた。


 よく見るとその人は私の担任のササ先生だった。

ササ先生は安堵の表情を浮かべながら。

 「さっきぶりですねウズメさん」

 「ササ先生……!」

 私はそのまま遠くに避難させられた。

 しかし、生憎ここは溶岩に囲まれている為離れることしか出来ないけど。


 するともう一人の女性が近づく。

 その女性はまさに今会いたかった人……。

 桃色の衣を着て、赤い髪をなびかせ、小さいころから私の味方でいてくれる美しい女性……縫お姉ちゃん。

 「縫お姉ちゃん!!」

 「良かった。良かった!!」

 縫お姉ちゃんは涙目で私に飛びついた。

 「大丈夫? 怪我はない?」

 「うん……怪我はしてない」

 「良かった――――――」

 「だーー!! ほんっとうに俺の前に現れる奴らは邪魔しかしねぇなぁ!!」

 その時鬼牙は地面を思いっきり蹴り、そのまま溶岩の中に入った。

 それから溶岩の色がまるでもう一つ太陽と言ってもおかしくないぐらい光が強くなり、次の瞬間炎を纏った鬼牙が宙に浮きながら現れた。


 その姿はまるで神話に出てくる怪物。

 これは……どう戦うんだろう。

 そして地面の四方に立っている火柱が触手のように動き出す。

 「どうだぁ? 怖気付いたか小娘どもぉ」

 「さー? どうだろうね?」

 縫お姉ちゃんは声を低くして答える。

 そして私の頭を優しくポンポンと叩く。

 「……君はボクの妹を殺そうとした。それだけでも許せない」

 縫お姉ちゃんは立ち上がると鬼牙に剣と顔を向けた。


 それに続いてササ先生も鬼牙に剣を向け。

 「そうですね、師匠の言う通りです。自分の生徒を傷付けられたままでは先生としての顔が丸つぶれですからね」

 「じゃ、行くよササ」

 「はい! 師匠!!」

 「ふん! 雑魚が二人に増えようともこの俺に勝てると思うなよ!!」

 鬼牙はそういい刀を高く上げ、剣先に火球を生み出し。

 「塵になれ小娘ども!!」

 それを縫お姉ちゃんとササ先生目掛けて火球を投げつけた。

 「そんなもので勝てると思って思ってますか? 風の言霊、疾風神しっぷうしん

 ササ先生はそう唱えて剣に風の渦を纏わせ、火球を吹き消す。 


 「今です師匠!!」

 「分かった!!」

 縫お姉ちゃんはササ先生が火球を吹き消したと同時に高く飛びあがり。

 剣を横に構える。

 そしてまるで歌うように――――――。

「ナビィの覚醒、神大水かむおほのみず――――」

と術を唱えると同時に縫お姉ちゃんの体が青白く輝き―――――。

「はあぁ!!」

鬼牙が両手に持ってる刀を高く上げたと思ったとたん、地面の四方で昇っていた火柱が鞭のようにササ先生目掛けて振り下ろされた。

もしあのまま振り下ろされたらササ先生が!


「ササ先生危ない!!」

「え、危な!!」

ササ先生は間一髪避けることが出来た。

「ササ!! はぁ!!」

縫お姉ちゃんは鬼牙目掛けて水流を叩きつける。

しかし、それは惜しくも防がれた。

「その程度かぁ?」

すると鬼牙は口から炎を吐き出した。

炎は火炎放射器のように地面を一直線に焼き尽くしながら突き進む。

縫お姉ちゃんはそれが後ろにいる私たちに当たらないように「火の言霊、火炎流かえんりゅう!」と、炎の渦巻きを発生させ、鬼牙の炎の軌道を変えた。。


「ちっ」

鬼牙は舌打ちする。

「くっそ。本当に面倒くさいなぁ。なら、これはどうだぁ?」

鬼牙は刀を天高く上げ————。

「うおぉぉ!!」

すると火柱から大量の火球は吹き出し、それは全て私たちに向かって来ていた。

縫お姉ちゃんとササ先生は汗を拭って。

「師匠、これは流石に防げません?」

「無理無理無理! ほら、早く逃げるよ!!」

私は縫お姉ちゃんに引っ張られながら逃げた。


火球は次々に地面に衝突し、その当たった場所は溶岩みたいにグツグツと音を立てる。

これはどう見ても当たったら死ぬ。

そして当たりそうなものは全てササ先生が剣で消し飛ばした。

雨のように振り続ける火球はどうやったら防げる?

そしてその火球は火柱から出てい————。

「そこだぁ!」

その時上空から鬼牙は剣先をこちらに向けて地面に突っ込んできた。

「風の言霊、大嵐おおあらし!!」

「くそっ!」

そしてそれをなんとかササ先生が嵐を起こすことで吹き飛ばし、なんとか攻撃を防いだ。


それにしても火球が多すぎてどこから鬼牙が攻撃を仕掛けて来るのかがわからない。

とりあえず————。

その時ササ先生が縫お姉ちゃんの方を向き、真剣な顔つきで火柱に指を刺した。

「師匠、もしかしたらというか、まず火柱を消しませんか?」

「あ、やっぱりか。よし、なら早速火柱を消しに行こう」

そうして縫お姉ちゃんは私を連れて逃げ回り、ササ先生が火柱を消しに向かった。

そしてササ先生は火球のせいで見えなくなった。


その時縫お姉ちゃんは私の手を掴んだ。

「よし、ウズメ。走れる?」

「う、うん……ササ先生大丈夫かな?」

すると縫お姉ちゃんは私を優しく抱きしめる。

「大丈夫。あの子は強いから」

「————」

これは縫お姉ちゃんのことを信じても大丈夫かな?

確かにササ先生は頼りないことが多いし、昨日の授業だって資料を間違えたり、プログラミングの授業ではあまりにも説明が下手くそで、外部講師の先生がマジギレしたりした。

けど、あの巨大蠍との戦いをみて、ササ先生がとても頼りに見えるようになったのも事実。

なら、信じても問題ないか。

だからササ先生……。


死なないで。


————————。

————。


「はぁはぁ……」

「ウズメ、耐えよう。ササがなんとかするまで」

「うん!」

私と縫お姉ちゃんは鬼牙の攻撃をかわしながら逃げ回る。

鬼牙の刀に触れた地面は灼熱に晒されるため、湯気が立っているのが分かる。

それに時々奥から剣同士がぶつかり合う音が聞こえるけど、もしかしたらササ先生が何かと戦ってるのかな?

その時、正面から巨大な火柱が立つ。

「————!! ウズメ! ごめん!!」

「きゃっ!」

私は縫お姉ちゃんに後ろに突き飛ばされる。

そして前では鬼牙の二本の刀を縫お姉ちゃんがかろうじて受け止めていた。


「ほーう。よく止めれたなぁ? 小娘の分際で」

鬼牙は嘲笑じみた口調で言った。

「く、くぅー……」

縫お姉ちゃんはなんとか踏ん張る。

けど、やはり体格からか徐々に押されていき、縫お姉ちゃんの足が地面に沈んできている。


しかしお構いなく鬼牙はさらに力を強める。

「どうしたぁ? そんなものか人間!」

「あ、くききき……」

縫お姉ちゃんの腕はどんどん下がる。

とても限界が近そうだ。

どうすればいいの?

私はどうすればいいの?

自分は何も出来ず、見ているだけ。

でも、ここでもし私が余計なことをして状況がさらに劣勢になったらどうしよう………。

「はぁー!!」

「グハァ!」

縫お姉ちゃんが力を振り絞って鬼牙を突き飛ばした。

そして剣に力を込めて————。

「風の言霊、大天狗斬おほてんぐり!!」

そして自身を横回転させ竜巻を作り、その勢いで鬼牙を消しとばした。

「す、すごい……あれ? 火柱が消えて……あれ? お姉ちゃん!」

「————」

その時縫お姉ちゃんが地面に倒れた。

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

私は必死に縫お姉ちゃんをゆすり、意識を確認する。


その時————。

「そこだぁ!!」

「————え」

その時、背中に刃物が当たり、それがどんどん体の中に入ってこようとしている感覚がする。

「あ……」

『————氷の言霊、氷柱つらら

「あ、ちっ!!」


その時後ろで鬼牙の悲痛な声が聞こえた。

あれ、私生きてる?

さっき確かに背中に刀が刺さる感覚がしたはずなのに。

私は後ろを振り返る。

するとそこには白い衣を身にまとい、銀髪で赤眼の男が右手に剣を握りしめ、それは鬼牙に向けて、鬼牙の両肩には大きなつららが突き刺さっていた。


すると私の近くにササ先生がやってきた。

「ウズメさん!」

「先生! 縫お姉ちゃんが!!」

「師匠が!?」

ササ先生はすぐに縫お姉ちゃんの首に手を当てた。

けど、なんともなさそうだったのか軽い口調で。

「あ、多分目を回しての気絶なんで大丈夫ですよ」と言った。

すると銀髪の男が鬼牙を睨みながら。

『本当に懲りないな』

そういうと鬼牙は何か思い出したかのように怯え始めた。

「ば、馬鹿な……何故、何故お前がここに!!」

『…………声うるさい』

銀髪の男は若干苛立ちながら答えた。

感情のこもっていない顔をしながら。

男は剣を横に構える。その瞬間剣が青白く輝きだした。

『鬼牙、今度こそ完全に消し飛ばす。ナビィの覚醒、八百万やおよろずの力』

そう言った瞬間に地面は揺り籠のように揺れ、溶岩はまるで海の波のように揺れ始めた。

そして男は勢いよく飛び上がった。 

鬼牙は刀を男めがけて振るが、全て砕かれ、そして脳天から一直線に真っ二つに切断した。

「————!!」

体を縦に二つに切られた鬼牙は声にならない音を発しながら消滅した。

その時溶岩が消滅した。しかし空間は一向に変わることがない。

ただ変わったのがあまり熱くなくなっただけ。

地面があった場所を少し覗くとかなり深く、そこが見えなかった。


とても怖い。



その時、男が私たちの方を向く。

よく見るとその男性はワラにそっくりだった。


それを見て一番驚いていたのはササ先生だった。

ササ先生は動揺しながら男に話しかけた。

「……どうして君がここに」

『来る』

「え?」

男は表情を変えず、淡々と話し始める。

『……鬼牙は元とは言え炎の精霊。精霊は力を供給するための霊脈があるからそれを破壊しない限り倒すことは出来ない』

「え……」

炎の精霊…‥?


男は続けて。

『昔、奴の霊脈は火柱で、鬼牙が消えると同時に霊力が消滅した。しかしその鬼牙の霊力がいまだに残ると言うことは……まだ生きている。それも邪神に乗っ取られた状態で』

すると底からは鈍い叫び声ここまで響いて来た。

「えーと、今のは?」

 『そこから離れて』

 「うん、分かった」

私とササ先生は縫お姉ちゃんを二人で協力して運び、そこから離れた。

するそこ奥深くから風を切る音が聞こえる。

そして————。

『シャー!!』

鬼牙のものと思われる頭蓋骨が飛び出してきた。

そして頭蓋骨は私たちの周り回る。

次第に二体、三体と高速に回転するため分身しているような錯覚に襲われる。

しかし、男は一切の恐れがなく、目を瞑った。

どうして目を瞑るんだろう?

そして頭蓋骨が一斉にこちらに突進してきた。 


男は剣を納め——————。

『————』

勾玉を握りした。

するとあたりを真っ白な光が遅い、頭蓋骨はそのまま消滅した。

その後真っ黒な空間に戻った。


その光景を見てまず一番に反応したのはササ先生。

ササ先生は男を見ると。

「————君はどうしてここにいるの?」

そう言うと男性はこちらに振り返る。

男は私とササ先生、そして縫お姉ちゃんを見ると。

『————心配だったから』

「そう……やっぱり君は高校生になってもなって臆病なんだから」

ササ先生はそう懐かしそうに言う。

待って高校生!?

男はその問いには何も答えず、ただ私だけを見ていた。 


すると空にヒビが入った。 

『ウズメ————』

するとあたり一面を白い光が覆う。


すると男性は感情が顔を隠らせず、本当にワラみたいな口調で。

『今まで隠しててすまなかった』

申し訳なさそうに謝った。

あ、この人はワラだ。

私はこの時確信した。


その理由は何となくで、それは感情のこもってないまるでナマコみたいな感じの目をしているから。

そしてワラの癖みたいになってる、謝るときまるで子犬みたいに頭を少しさげ、とても申し訳にしている仕草だから。

私はその人に近づく。

「あの……ワラ……だよね?」

『————もし違ったら?』

「えっと……その時はごめんなさい」

私は静かに頭を下げた。

その人は少し悲しい顔をしながらも答えた。

『そうか………』

そしてその人は一回目を閉じて、しばらく間を置いた後ゆっくりと開けた。

『俺の名前は————源尊、または日比和羅尊』

その人、ワラがそう答えるとササ先生は私とワラの間に入った。

「では、戻りましょうか」

ササ先生がそう言うとワラは首を縦にふる。 

その時、ちょうど縫お姉ちゃんが目を開けようとしていた。


  ――――――――――――。

  ―――――――――。

  ――――――。


「縫お姉ちゃんへぶぅ!」

 「ふみゅ!!」

 私は眼が覚めたと同時にベッドから起き上がったと同時に何かが頭にぶつかった。

 頭すっごく痛い。

「……あれ? ここ病院?」

辺りは真っ白で、横には見慣れない機器がたくさん置いてあった。

そして床を見てみるとササ先生がおでこを手で押さえながら涙目で床に倒れていた。

あ、さっきのササ先生だったんだ。


私は少し……いや、とても申し訳ありません。

「あの、ササ先生……ごめんなさい」

するとササ先生は涙声で。

「……DNAプログラミング、ウズメさんだけ強制補習です」

「横暴じゃありません!?」

「まぁまぁ、目覚めてくれてよかったよ」

「あ、縫お姉ちゃん……」

ベッドの横で縫お姉ちゃんが笑顔で私を見る。

久々に見た縫お姉ちゃんの顔はとても落ち着きを与えるもので、不安な感情が全て消える感じだ。


私は久々にあった嬉しさを抑えつつ、縫お姉ちゃんの袖を引っ張った。 

「縫お姉ちゃん大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。ウズメこそ、何か体におかしなところはない?」

「うん、むしろ元気が有り余るぐらい」

「それは良かった。ウズメが下駄箱で倒れてるとき、本当に心配だったんだから。ね、ササ?」


ササ先生は立ち上がりながら頭を擦り、椅子に座った後私を見た。

「そうですね。学校内は大丈夫と思っていたのにこうなるなんて、一体何が……」

すると縫お姉ちゃんがしばらく考えた後、人差し指を上げて話し始めた。

「多分……これは見た感じ分かれた霊力を一つにまとめる術式かも。だって邪神は五年前に突如消滅して、他人に寄生しないと力を取り戻せなくなっているはずだし」

「あ、そういえば縫お姉ちゃん。邪神ってなに?」


私が質問すると縫お姉ちゃんは優しい声で教えてくれた。

「そうだね、まずこれから説明しないと分からないしね。まず、邪神と言うのは大昔に出てきては国を脅かしてきた神のことを指すの」

えーとつまり……。

「なるほど……ということは大昔から人々を脅かし続けた邪神が……」

「うん、分かりやすく言ったらたまたま近くに浮遊していた邪神がこの霊力を融合する術式でたまたまウズメの中に入ってきたのかもね。それでウズメが邪神の力で倒れてしまったと言うわけかな」

「なるほど……」

あれ? でもそれだったら白い光に包めれた人たちと私そっくりの女の子は?

今回の一番の謎はあの私そっくりの女の子。

もしこれが縫お姉ちゃんの話していた、霊力を一つにまとめるものならその女の子が私の言霊にくっつこうとしたのはわかる。けど、それだったらなんで途中くっつくのを止めて、白い人たちが現れて一緒に演奏していたのかが分からないし、そしてその女の子が言ってた。

『時は来た』と言うのもよく分からない。

その時とは一体何? 何か不吉なことを指しているのかな。


私はササ先生と縫お姉ちゃんの二人を見た。

二人は私を見てとても幸せそうに見ていた。

そういえば、よくよく考えればどうしてこの二人が私の中に入ってきていたのかな。「あの、先生と縫お姉ちゃん……助けてくれてありがとうございました」

「え、あぁ、いいのよ別に。大事な生徒を助けるのが先生の務めですから」

「でも、それにしてもどうやって私の中に入って来れたのですか?」

「「あ」」

私が質問すると二人が顔を真っ赤にして下に俯いた。

どうしたんだろう、二人とも。

ちょっと今気づいたけど上半身が寒いし、それに何か肌に直接負担が当たってる気がする。

ちょっと……、あれ?

おかしい、今手を胸に手を当ててるけどどう考えてもこれ素肌の感触。さらしの感触もしないからこれは絶対素肌。絶対素肌!!

私は一回布団を捲って確認しようとした、しかしそれを縫お姉ちゃんが掛け布団を力強く手で押さえて邪魔をする。


「あの、縫お姉ちゃん。なんで掛け布団を捲るだけなのに手で抑えるのかな?」

「えーえと、それはね?」

お姉ちゃんが明らか怪しい動作をする。


なんだろう……少し怖いんだけど。

「一応聞くけど私と縫お姉ちゃんたちがいた世界はどう言うものなの?」

「あ、あーそこはウズメの心の世界。そこであの邪神と戦っていたの」

「そうなんだ。で、そこにはどうやって入ったの?」

「————黙秘」

「それ自分で言う……分かったもう掛け布団捲らないから。手を退けて」

私がそう言うと縫お姉ちゃんは手を退けてくれた。

実はさっき縫お姉ちゃんが私の胸を手で押さえた時分かったけど多分私は上の着物脱がされてる。捲られてると言った方が正しいと思うけど。


本当に最悪。

さっき縫お姉ちゃんとても焦りながら私の質問に答えていたけど……うん、なんていうか色々とわかりやすすぎた。

大方私の胸に直接触れて心の世界に入っていたとかかな。

そこはあまり触れないようにしよう。

……え?

だとするとワラも同じ手段で……!!


その時かなり空気になっていたササ先生が————。

「なら師匠。もうウズメちゃんが起きたとこですのでご両親とお医者さんを呼びましょう」

「そうだね、なら呼び出しボタンを押すね。ウズメは着物を直してね」

「うん分かった。て、お父さんとお母さんも来てたの?」

 私は着物を着直しながら縫おねえちゃん聞いてみた。

「そらもちろんだよ。ウズメが搬送されたって聞いた瞬間とても焦ってたんだから。そこで私がたまたま顔見知りのお医者さんがいる病院だから私とササでウズメの治療をしていたの」

「そうなんだ。ササ先生も本当にご迷惑かけてしましました。もし良ければ何かお返しをしたいのですが……」


「お返しねー。別にいいですよ、むしろこれからも一生懸命授業を聞いてくださいね」 

「分かりました」

「本当に、ウズメは変わってくれたね。いい意味でだけど」

縫お姉ちゃんはニコニコ笑いながらそう言った。

「て、ワラはどうしたの?」

「ワラ………あぁ、ミコト君ね、ミコト君は妹の晩御飯作らないと行けないからって先に帰ったよ」

「そうなんですね……」

するとササ先生は懐から手紙を取り出した。

「それとウズメさん、これ、ミコト君から」

「あ、はい……ありがとうございます」


 その後はお医者さんがきて体調などをいろいろ聞かれたり、お父さんとお母さんからはとても心配したとか大丈夫かとかいっぱい心配されたり、そしてササ先生から学校生活をたくさん暴露された。

 でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

 けど感謝すべきはササ先生と縫お姉ちゃん。

 私達はそんな会話をした。

ちなみに私は過呼吸で倒れたってお医者さんが言ってたけどなぜかの当日で退院。その時のお医者さんと看護師さんの顔が少し赤かったのは何故だろう?


まぁ、別にそんなことはいいか。


私は病院から出てみると外はとても暗く、寒かった。

ササ先生は先に学校で残っている仕事を済ませるって行って先に帰ったため、今いるのは私と縫お姉ちゃん、そしてお父さんとお母さんの四人でそのまま家に歩いて帰り、部屋で繍お姉ちゃんとくつろいでいた。

縫お姉ちゃんは長旅だったみたいで、お父さんとお母さんと話した後、そのまま布団もかけないで熟睡してしまった。


本当に、お姉ちゃんは昔のままなんだから。


あ、そうだ。ワラから手紙もらってるんだった。

けど……ワラに胸を触られて……いるんだよね確実に。

ど、どうしよー、これ絶対顔合わされないじゃない!!

で、でも手紙は流石に見たいとだめだよね……うん。


私はワラから貰った手紙をその場で読んだ。

『ウズメ、今回は本当にすまなかった。本当なら君はこんな経験をしないで済んだはずなのに、俺が判断を見誤ったせいでこんなことになってしまった』

こんなことって、一体なんだろう?

もしかしてあの鬼牙との戦いをさしているのかな?

私は続きを読んだ。

『特に一番後悔しているのは欲に駆られず、病院に着いた後すぐに君が助けを求めている心の世界に行けばよかった。だが、それをするのが遅くなってしまったんだ』

欲……。

一体何が?

『なぜなら君の胸に触れた時、その感触の良さに少し浸かろうと考えてしまった』

は?

いやいや……え?

これどう返せば良いのかわからない。特にワラも一応恩人な訳だからどう言えば良いのかが本当に分からない。

えっと……まだ続きがある……?

『このことは本当に後悔してる。これは本当だ。だから私は見せる顔が無いと判断して先に帰り、君にこの手紙を送る……追記、もし明日土曜日、音楽の授業が終わった後農場に来てくれないか? そこで話したいことがある』

私は手紙を静かに閉じる。

そして胸を押さえ、一人で頭を俯かせたまま顔を赤くした。

もー本当にどう反応すればいいのか分からないよ!!

けど、なんでか……嬉しい。

……嬉しい……。


本当に不思議な気持ち……。

心が温かくなる。助けてくれたからかな?


――――ていうか明日音楽の授業だったんだ。

忘れてた。


でも、なんだろう……。


あの銀髪の状態のワラと……会った気がする。

私は勾玉を優しく手に包んだ。


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