ボーイ・ミーツ・ガール2
レイハルト達は少女が暮らしているという洞穴に向かっていた。
移動の間に会話はなかった。フォレスレオンがいたため他にも大型が居るかもしれないと警戒していたが杞憂に終わった。
「ん、帰ったか」
洞穴につくと男の声がした。
「ただいま」
少女が返事を返す。その方向を見てみると、1匹の狼が座っていた。ただ、ただの狼ではない、見ればわかる。その体毛は銀色、毛の先が炎のように揺らめいている。これをレイハルトは知っていた。
(フェンリル!)
反射的に腰の弓に手が伸びる。それを感じ取ったのかフェンリルも立ち上がりこちらに向く。
「大丈夫、彼は私の友達だから」
それに気づいた少女はレイハルトの前に出る。フェンリルは敵じゃない、攻撃しないでと目で訴えている。
レイハルトは弓から手を放すとフェンリルも座った。
「改めて、私を助けてくれてありがとう、私はリリアよ。そして彼がオルガ」
少女、リリアはレイハルトに頭を下げて自分とフェンリルの紹介をした。
「俺はレイハルトだ」
レイハルトも名乗り返す。
「リリア、その男のこともそうだが助けられたとはどういうことだ?」
オルガが不信そうな口調で聞いてきた。まあいきなり知らないやつが現れたらそうなるよな。
リリアがフォレスレオンのことを話すとオルガは目を大きくした。
「フォレスレオンを単体撃破だと!貴様、何者だ?」
まあ、聞かれるとは思ってたよ、うん。とはいえただで教えるわけにはいかないよな。
「俺にしてみればあんたらのほうが気になるな。女の子がフェンリルがいるとはいえ一人でこんな森の中にいるなんて」
リリアが少し考え込んでから口を開いた。
「そうね、まずは私たちから。私はトレジャーハンターをやってるの。オルガはそれに付き合ってくれてるの」
「付き合うも何もお前は我の主であろう」
「もう、オルガ。そういう関係は無しっていつも行ってるじゃない!」
二人(一人と一匹?)で言い争いをしているようだがレイハルトはそこはもう聞いていなかった。
(嘘だな)
トレジャーハンターの部分。そこは嘘をついている。何というかトレジャーハンターという割には気品のようなものがある。
「と、とりあえずこっちの話はしたし、今度はあなたの番」
「ん、ああそうだな、俺は」
何て言おう。ゲームのジョブは星輝士(パラディン)だけどそれが通じるとは思わないしとりあえずは、
「旅人だ」
リリアから「嘘つけ!」というような視線を感じる。
うん、わかるよ。ただの旅人にしては強すぎるもんな。とはいえほんとのことを言っても信じてもらえるかどうか。
ただ、深く追及するつもりはないのか特に何か言われることはなかった、リリアからは。
「その力、旅をしていたら身についたというのか?」
「オルガ!」
その疑問はもっともだ。
「一人旅は大変なんだよ。特に長距離となると」
「へー、レイハルトは遠くから来たんだ」
「ん、まあ、そうだな」
嘘は言っていない、嘘は。
オルガもまだ不信そうな雰囲気(狼の表情は分からん)をしているがリリアにたしなめられたか、それ以上聞いてこなかった。
「ところでレイハルトも今はこの近くに寝床があるの?」
この近く、うーん、近くはないな、テレポーターで移動してるから詳しい距離は分からないが。
「近、くはないかな」
「え?じゃあどうやってここまで」
言葉より実物見せた方が早い。というか言っても多分分からないだろう。
見せていいのかという考えもよぎったがここまで来た方法をはぐらかす方がめんどくさい。
レイハルトはARパネルを操作してテレポーターを設置する。そのままテレポーターを起動して転送場所を今の住処の近くに設定。
あとは転送開始を押すだけ。そこまで準備してから二人を呼ぶ。二人とも訳が分からなそうにしていたがとりあえずテレポーターの中に入ってくれた。
二人が完全に入るのを確認すると転送開始を押した。
するといきなり視界が切り替わった。先ほど設置したテレポーターからレイハルトの拠点の近くのテレポーターまで移動したのだ。
「え?え?何?どういうこと?」
リリアが戸惑いの声を上げた。
「あなた、転移魔法が使えるの!?」
なるほど、この世界には魔法があるのか。しかし、
「転移魔法?いやこれは魔法じゃないぞ」
「え?じゃあどうやって?」
レイハルトがどうやって説明しようか迷っているとオルガが口を開いた。
「魔道具ではないのか?」
「ああ、それなら。でもどこで手に入れたの?」
魔道具ではないのだが、まあそういうことにしておこう。しかしどこで手に入れたのか、か。確かクラフトで作れたな。
「自分で作ったんだよ」
「へ?今なんて?」
「だから、自分で作ったんだって」
「いやだって、魔道具作るのって色々設備が必要なんだよ」
へえ、そうなのか。失敗したか?
「作れるというなら作って見せてもらえばよかろう」
「そ、それもそうね」
「あれを作ればいいのか?了解、ちょっと待っててくれ」
レイハルトはARパネルを操作しクラフトキットを取り出す。
「なにそれ?」
「これで作るんだよ」
「こんな変なもので作れるの?」
クラフトキットはノートパソコンに四角い板がいくつかくっついてるような形状をしている。
魔法があるということはあまり科学は発達していないだろうから見たことがなくて当然だが、変なものって。
気を取り直してクラフトしていく。
まずは作りたいものを選択し、そのあと素材となるアイテムを四角い板の上に置いていく。
次々アイテムがクラフトキットに取り込まれていく。最後の素材が取り込まれると作製の項目が出てくるのでそれを押す。
すると板の上にテレポーターが出てくる。これでクラフト終了。
これが簡易クラフトのやり方。
少し面倒だが最初に作るものを選択しないやり方もあり、そっちのほうが効果付与率が高いのだがまあ今回はこれでいいだろ。
「よしできたぞ」
「早!じゃ、じゃあ使ってみて」
「了解」
レイハルトはさっき作ったテレポーターを地面に置き、起動させる。そしてARパネルを操作し転送先を先ほど転送した拠点の近くのテレポーターに設定、転送。
「ほ、ほんとに転移してる」
「魔力をほとんど感じない。魔法ではないな」
ポカーンと口を開けているリリア、あれこの顔さっきも見たぞ。
「そ、そうだ。一旦私たちの洞穴に戻りたいんだけど、これの使い方教えてくれる?」
「ああ、まず」
ARパネルを出したところで動きを止める。
(これ、俺しか操作できなくね?)
ARパネルを操作している以上脳内にマイクロチップが入っていない彼女らには操作はできない。
「まず、何」
どう説明しようか迷って黙ってしまったレイハルトを不思議に思ってリリアが声をかけてきた。
「ん、ああ。すまない。これ、俺以外が操作できないようにしていたんだ」
「え?何で?」
「この森のいろんなところにおいてるからな。魔物が間違って転移して来たら面倒だからな」
「それ、私たちも使えるようにできない?」
「今すぐは無理かなー。時間かければできると思う」
要はARパネルを見えるようにすればいいわけで、クラフトで何とか、何とか。
「それ用のレシピを作らなきゃいけないのね。まあ無理にとは言わないわ」
テレポーターのレシピではないがまあ間違ってないか。
「いや、作ってみるよ。」
この世界がゲームとは違うのはすでに分かっている。なら、ゲームになかったものも作れるはず。
「っと、そろそろ暗くなるな。君たちの洞穴まで送るよ」
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