ボーイ・ミーツ・ガール1
「おし、肉ゲット」
異世界に来てから10日目、レイハルトはまだ森の中にいた。
なかなか森の出口を見つけられないレイハルトは今日も食材調達中である。さっき狩ったイノシシモドキをアイテムストレージに入れる。生き物以外(死体は生き物ではないらしい)は何でも入るアイテムストレージ、ほんと便利。
肉も木の実もそれなりに採ったところで帰ろうとテレポーターを使おうとた。
ARパネルを操作していた手が止まる。
草がこすれる音と獣のような声。この森には狼型のエネミーもいる。あれはなかなか好戦的なので警戒が必要。もっとも、剣一振りで終わるのだが。
気にせずに帰ってもいいのだが、なんだか嫌な予感がする。最近はこの勘が役に立っている。
音のする方へ近づいてみると、狼型のエネミーが3匹同じ方向を向いていた。
エネミーが見ている方に目を向けるとナイフを構えた人が、人!?この世界に来て初めて人に出会った。
エネミーの1匹がその人に向かってとびかかるがナイフで受けとめる。さらに1匹がとびかかり腕に噛みつく。
噛みつかれた本人はエネミーを振り払おうとするが2匹相手では難しいみたいだ。
(これ以上はまずいな)
狩りなのか襲われているのか判別がつかなかったから見ていたがこのままじゃあの人が死ぬ。そう思ったレイハルトは武器スロットを操作し弓を取り出し構える。
最後の1匹がとびかかる体勢を取ったところでそのエネミーに矢を放つ。矢はエネミーの頭を正確に捉え、一撃で仕留める。
異変を感じたのだろう、ナイフに噛みついていたエネミーがこちらを向くが立て続けに放った矢をくらい絶命する。
2匹仕留めたところで茂みから出て最後の1匹に向かう。
噛まれていた人もエネミーを何とか振り払ったところのようで腕から血を流しながら少し離れたところのエネミーを睨み付けている。
エネミーは牙から血を滴らせながらこちらに向かってとびかかってきた。
武器スロットを操作しながら回避、そして片手剣に持ち替え首元に一振り。派手に血をまき散らしながら最後の一匹も倒れこんだ。
エネミーが絶命したのを確認すると噛まれた人のところへ駆け寄る。
「あんた、大丈夫か?」
「え、ええ大丈夫よ」
女性の声だった。銀色の長髪、整ってはいるがまだ幼さが残る顔立ち、服装は中世ヨーロッパの庶民風(勝手なイメージだが)で今は土で汚れている。
(きれいな人だ)
そのきれいな顔が今は土で汚れ、痛みでゆがんでいる。
レイハルトは光の初級補助魔技「ケアラ」を使うことにした。これは自己回復用の魔技だが、魔技のレベルが5以上になると周囲のプレイヤーも回復させられる。
レイハルトは「ケアラ」をレベル20で最大チャージで発動する。すると女性、いや少女か。少女の傷口がみるみるふさがっていく。
念のため、同じく光の初級補助魔技「キュアラ」を使う。これは自己状態異常回復だが以下略。ゲームでは病はなかったからさっきのエネミーが病気持ちだった場合、これで効くかはわからないが。
傷もふさがったところで話を聞こうとしたとき、背筋に寒気が走った。少女の顔が真っ青になっている。
振り返ってみると、人の背丈の3倍はありそうな大型のエネミーが近づいてきていた。
身体は緑と黒のしま模様、四本の足には大きな爪。牙はサーベルタイガーを思わせるように長く、しかし首周りはライオンのたてがみを思わせるようなものがある。
(ファングライガー?にしては色合いが違うな。レア種か?)
ゲームにいたファングライガーは黄色と黒のしま模様でたてがみというよりは背中に毛が生えているといった感じであった。似てるけど違う。
「そんな、フォレスレオン!」
少女がエネミーの名前を口にする。このエネミーはフォレスレオンというらしい。少女の怯え具合からなかなか強いエネミーのようである。
くく、腕が鳴る。
この世界に来て大型と戦うのは初めてだが、戦い方はわかっている。問題はない。
「あなた、逃げて!あれは一人二人で倒せるものじゃない!」
逃げる?この俺が?せっかく力が試せるんだ逃げるなんてもったいない。
「早く逃げて!」
その言葉が合図だったかのようにフォレスレオンが襲い掛かってくる。爪による切り裂き、それを盾でガードする。
パッシブスキル「ジャストガード」、相手の攻撃が当たる直前にガードすることでダメージを0にし、反撃を叩き込む。フォレスレオンの爪をはじきマイクロチップから送られる信号によって剣を振る。剣はフォレスレオンの牙に当たり、牙を砕く。え?
「うそ!?」
後ろで少女の驚く声が聞こえた。まあ、倒せないと思っていたエネミーをいきなり部位破壊されたら驚くよな。こっちはあまりの弱さに驚いたが。
フォレスレオンは一度距離を取ってこちらを睨み付けている。正直こっちは拍子抜けしてしまった。
反撃の攻撃力は通常攻撃と同じ、それ一回で部位破壊できるとか、もしかして、難易度ノーマルかハードぐらいなのか?
ゲームには各クエスト毎にN(ノーマル)、H(ハード)、VH(ベリーハード)、SH(スーパーハード)、UH(ウルトラハード)の5つの難易度が用意されていた。プレイヤーは自分のレベルやプレイヤースキルによって難易度を選べる。
レイハルトは最近はずっとUHばかり行っていた。NやHではエネミーがたいてい即死してしまう。大型が相手だとさっきみたいに。
(弱い。この程度か)
「ちょっとあなた!」
レイハルトは構えを解いていた。敵を前にしてそのようなことをすれば少女の反応も当然というものだろう。
フォレスレオンが再び攻撃を仕掛けてくる。少女が悲鳴を上げているが気にしない。
フォレスレオンの爪が当たる少し前に風の中級魔技「アル・ウィドウ」をレベル8でチャージ無しで起動する。
レイハルトを中心に小規模の竜巻が発生する。その竜巻に触れたフォレスレオンは後方にはじき返された。
起き上がったフォレスレオンを見てみると残りの牙も爪もたてがみもすべてぼろぼろだった。ゲーム的な言い方をすれば、「前面の部位破壊完了」だ。
ぼろぼろになりながらもフォレスレオンは戦意を失っていないようだ。左右に前後に跳躍している。動き回って攻撃をあてにくくするつもりなのだろう。まあ、関係ないな。
レイハルトは相手の着地場所を予測し「イーズ」をレベル6で起動する。
冷気の塊は狙い違わずフォレスレオンの着地と同時に着弾する。
冷気によってフォレスレオンの足ごと氷で覆われた。
フォレスレオンが動けなくなったのを確認するとレイハルトは弓に持ち替え弓の武技「ボマーシェイプ」をレベル10で起動、マイクロチップの信号の通りに身体が弓を引く。
矢に魔力が込められる。
レイハルトが放った矢はフォレスレオンの頭に直撃し、爆発する。爆発の衝撃でフォレスレオンの頭がバラバラになり飛び散る。うお!グロッ!女の子に見せるものじゃなかったな。
フォレスレオンが絶命したのを確認すると振り返って少女のほうを見る。何やら口をパクパクさせているが、少し刺激が強すぎたか。
「あなたは一体…」
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