運命の日
『速報です! 特務大尉がまた大活躍しました! 何と特務大尉は試作のワープ船を巧みに操り、単独でガル星人の後方指令所を爆破! 敵は大混乱に陥っています!』
『速報です! 本日は番組を中断して特務大尉のご活躍をお知らせします! 特務大尉は部下を率いて劣勢であったバンジ星の防衛隊に加勢し、民間人の避難を見事に達成しました!』
『特務大尉だ! テレビでやってた通りだった! 俺はあの人に助けられたんだ!』
『本日の特務大尉のコーナーです。本日未明に行われたサザ星宙域の戦いにおいて特務大尉は、ワープ船を用いて単独で加勢。現地の人型機動兵器を用いて司令船を破壊し、勝利に多大なる貢献を果たしました』
◆
『どうも特務大尉がおかしい』
『はい元帥閣下。戦線の各地から彼に助けられたと報告が上がっています』
『有能な指揮官が彼の裏にいると思っていたが、なんと言うか…戦果が変だ。報告にこちらの仕込みが混ざってはいないのだな?』
『はい。軍所属の者に絞り、その上で精査しました』
『うーむ。いや、話を逸らした。この件はまた後にしよう。艦隊と防衛施設は?』
『はっ。ガル星人の進行速度の低下により、艦隊の訓練、並びにセンター外域の防衛施設は順調です』
『戦略的な速度で負けている以上仕方ないとはいえ、防衛施設を利用しながらの本土決戦とはな。ザ・ファーストのシミュレーションは?』
『……現在の敵が分散している状況であれば、第一波に痛撃を与えれられる可能性はあれど、第二派への対処は不可能。また、もし敵艦隊が再集結するのであれば、痛手を与える事すら不可能と……』
『そうか……。だが軍人である以上やるしかない。だからこれは私個人として聞くが、最後方地にある船の準備は?』
『恐らく間に合うかと。既に船も完成し、動植物の遺伝情報も後は積み込むだけです。問題は、乗組員の選定が……』
『難しいか』
『はい。メインの乗組員となる青少年の方は、単純にIQの高さと心理テスト、社会性で選んでいるのですが、こちらは親の同意も得やすく問題ありません。ですが、技能を持ち相応しいと思われる大人ほど残ると言うものが多く……』
『個人としては誇らしさが胸に溢れるが、政府、軍の人間としてはそれでは困る。旅立つ頃には責任もくそもなかろう。その時になったらこちらで人をやって眠らせた後、箱舟に突っ込んでしまえ。政府にもそう言って置いてくれ』
『はっ。そのように。他に何かございますか?』
『ああ忘れる所だった。船に生きた鳩を詰め込むのは譲れん。あとお守りにオリーブの葉もな』
『ははは。分かりました』
◆
『総員起床!』
『サーイエッサー!』
『はっ!』
『どうされました特務!?』
『いつでも出撃出来ます!』
『おい起きろ!』
『な、なにが!?』
『え?』
『ザ・ファースト!』
『おはようございますエージェント。まあセンターは深夜なんですが。というかえらく大声ですね』
『そっちで作られているワープ船の性能はどうなっている?」
『無視ですかそうですか。そりゃあ今あなたが乗っている試作品よりもずっと性能が高いですよ。何と言っても私が直接設計しましたからね。最高速度、ワープ距離、搭載量ともに段違いです』
『搭乗員の数は?』
『パイロット1名、兵10名の11人乗りですね』
『バッフォーデンの基地は稼働していたな?』
『ええ。どうしてかガル星人が攻勢を掛けずに、後方に移動しましたからね。動向は掴めていませんが、ひょっとすると集結しての大攻勢の前兆かもしれません。それをされると防ぎようがありませんから、賭けは私の勝ちですね』
『今すぐそのワープ船をバッフォーデンに持って来てくれ。今すぐだ』
『ちょ!? ようやく組み終わった最初の一隻なんですよ!? この船から人類連合艦隊のアップデートが始まる基盤と言っていいのに!』
『人類が勝てるなら安いものだ。頼んだぞ』
『エージェ!?』
『選抜する! オーガスト! カーティス! グレイソン! ケニー! ストーン! ダルトン! ディエゴ! ナッシュ! ヒューストン! マーヴィン! 今すぐ揚陸艇に乗れ!』
『『『『『『『『『『サーイエッサー!!!!』』』』』』』』』』
『艦長聞こえるか? 作戦行動を中止する。センターに進路を取れ。今なら素通りで行ける。俺はやる事が出来た』
『分かりました。御武運を』
『ああ。さて、何が起こるか』
◆
《緊急速報・ガル星人艦隊が後退中。原因は不明》
◆
『臨時のニュースです。本日未明、ガル星人の艦隊が前線から全面後退をしているのを軍が確認。現在情報収集に全力を挙げている模様です。そのため本日は、軍より専門の方をお招きしています。よろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
『早速なのですが、今回のガル星人の動きはどのような事が原因なのでしょうか?』
『考えられることは2つあります。まず1つは、ついに敵の補給線が破綻した事です。敵の本拠地は何処か分かっていませんが、我々が知っている所よりも、はるか先なのは間違いありません。そのため、長大な行軍に補給切れを起こし、作戦そのものも破綻した可能性があります。これはまさに破壊工作を行っていた特務大尉の活躍が大きく、彼はまさに人類の英雄と言えるでしょう』
『なるほど。もう1つについてお伺いしてよろしいでしょうか?』
『これは単純な話で、彼等の母星に何か大きな混乱が起こった可能性があります。その解決の為に撤退したのかもしれません』
『では我々は何とか粘り勝ったと?』
『いえ、そこまでは言い切れません。ですが明るいニュースには間違いないでしょう。しかし油断は出来ません。市民の皆さん。皆さんに出ている避難命令は、強制的なものです。そのため敵が後退したとしても、避難計画に沿って慌てずに、そのまま避難してください』
◆
『それでエージェント。何が起こっているか説明してくれませんか?』
『それよりワープ船はどうなった?』
『言った通り手続きしましたよ。全く、周囲を説得するのに随分骨が折れました』
『よし。骨折り損にはさせないから安心しろ。お前に骨は無いがな』
『んなこたぁ知ってるよ! それで! 何をするんです!?』
『分からん』
『はあ!?』
『何が起こるか分からんから、行ってから考える。通信終わり』
『おまっ!?』
◆
『これがその新型船だな? よし、総員搭乗しろ』
『待て特務大尉! そんな指示は聞いていない! この船の価値が分かっ……』
『すまんが時間がない』
『は、反逆だ!』
『特務大尉!? 何をしたのか分かってい……』
『取り押さ……』
『ぐえ』
『よし行くぞ』
『はっ!』
◆
『元帥閣下! 緊急です!』
『何が起こった!?』
◆
《緊急速報・ガル星人艦隊が再集結。侵攻予測ルートは不明》
《緊急速報・ガル星人艦隊が周辺惑星を無視。侵攻ルートの予測は不明》
◆
『間違いないのだなザ・ファースト!?』
『はい。間違いなくガル星人の目標はここセンターでしょう。どこかで機密処理に失敗した可能性があります』
『何と言う事だ……』
『ガル星人艦隊との戦力比は、防衛施設と合わせても20対1以上になります』
『それでもセンターを落とされるわけにはいかん! 艦隊に出撃命令を出せ! 旗艦には私も乗る!』
『はっ!』
◆
《緊急速報・ガル星人艦隊の侵攻ルートが確定。侵攻目標はセンター》
《全人類に緊急速報! ガル星人艦隊がセンターを目標に侵攻中!》
《緊急速報!危険!危険!危険! ガル星人艦隊がセンターを目標に侵攻中!》
◆
『緊急の速報です! 再集結を終えたガル星人の艦隊がセンターに進路を取っている模様です! これに伴い、国民全員への皆兵令が議会に提出され、可決される見通しになります!』
◆
『お巡りさんが軍事訓練受けたのが、笑い話になったらよかったのにな』
『んだんだ。トランクに銃積んだ?』
『おう。双眼鏡も積んだし、無線機の調子もばっちり』
『そんじゃ最後の割り当て区の下見に行こうか』
『だな』
◆
『センターで戦闘になれば必ず強化兵が撃退し、軍は私の思うが儘だ!』
◆
『これがその爆弾ねえ』
『はあ……』
◆
『技術資料は全部後方に送れ!』
◆
『機密書類の処理急いで! ……神様』
◆
『新兵のお前達に出来る事なんざたかが知れてるし、上官もそんなこと分かっている! だから安全なとこからとにかく撃ちまくれ! 味方さえ打たなきゃ誰も文句は言わん! 別の事で文句を言われたら俺が後で問い詰めてやるから、それまで死ぬんじゃないぞ!』
◆
『元帥緊急です』
『ザ・ファースト、何か?』
『偵察の結果ガル星人艦隊の中央に、未確認の艦船を発見。全長約9Km。明らかにガル星人艦隊の旗艦と思われる超弩級戦艦が存在します』
『馬鹿な』
◆
『大統領、手続きが完了いたしました。センターで地上戦が始まり次第、後方地にいる副大統領が地位を引き継ぎます』
『ああ。皆兵令を通して置いて、私が逃げる事は許されん。あの船は?』
『既に成人の確保に軍が動いています。センターの陥落が間違いないと確認されれば、すぐに出港する予定となっております』
『そうか。許せ若人たち。種を託す』
◆
『諸君! この戦いが絶望的なんてことは分かり切っているだろう! しかしだ諸君! それならば我々の後ろにいる者達の事も分かり切っているだろう! ならば! ならば諸君! 負ける事など許されないと分かり切っているだろう! 我々はなんとしてでも勝たねばならんのだ! 諸君の! 人類の奮闘に期待する!』
◆
『死にたくねえ死にたくねえ』
『父さん母さん』
『敵を討ちたかった』
『故郷に戻れず、か』
『あと少しで始まる……』
◆
『敵艦隊レッドゾーンに入りましたあ!』
『全艦撃てぇい!』
◆
『あれが欲しい。何としても欲しい。絶対に欲しい。あれさえ奪えれば、人類は黄金よりも価値ある時間を手に入れられる。技術を手に入れられる。勝利と平穏を手に入れられるのだ。だから行こう戦友諸君、妻を守れ、子を守れ、親を守れ、隣人を守れ。そして罪なき人々を、人類を守るのだ。軍人の本懐を遂げに行こう』
『『『『『『『『『『サーイエッサー!!!!』』』』』』』』』』
◆
『防衛施設の62%を喪失!』
『ベガ、サターン撃沈!』
『アルタイル大破! 総員退艦命令が発令しました!』
『ロンドン撃沈! 生存者は不明です!』
『敵機動兵器群、我が軍の防空圏を突破しつつあり!』
『敵旗艦に動きは!?』
『ありません!』
『それでこれか!』
◆
『大統領、やはり圧倒されているようです』
『そうか……』
◆
『国民皆兵令が全会一致で』
『我が軍劣勢』
『この本社ビルは軍に』
『自動車は全て脇に』
『消防や警察は軍の指揮下に』
『緊急手当ての方法は』
『連絡を密に』
『決して諦めてはいけません』
◆
『敵旗艦を奪取した。繰り返す。敵旗艦を奪取した』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます