第5話 推理⑤ 解決編

 「論理の砂漠の中から一握の雫を飲み干したように」


―らきむぼん『シャカミス推理会』より抜粋


 (一)


 Aの甥っ子は探偵。

今までの推理は大人の視点だけだったからどうかなと思ってとAに提案され我々は快諾した。

全容は伝えてくれている。


 U君が宣う。

「最初に伝えておきたいのですが今回の事件は現実には死人が出ていません。なので人形による予告殺人の線は消させてもらっています」

皆が首肯する。

「それでは今から容疑を絞ります。まずはAさんBさんCさんDさん語り手さん(私)は以下のケースから除外されます」


ほっとした。知りあいが犯人だったら心穏やかではない。


「Aさんは監視カメラを操作できる唯一の人物ですが今回の事件はAさんの信条にはマッチしません。何故なら古今東西の玩具コレクターのAさんは玩具への入れこみようは半端ではないはずです。そんなオモチャ愛に溢れた彼が人形を自らの手で切るなどの行為に移せるでしょうか。

仮にAさんがカメラのスイッチを切ったとして一人で台の分解や仕掛けを施すのはあまりにリスキーです。Cさん推理の動機で考えてみてもあまりに短期的視野となります。噂なんて七十五日。それで売上に影響しないとなると手を変え品を変え、しないといけません。いずれ仕掛けたボロが出ます。そうなると店の悪評に繋がり経営不振です。よって除外されます」


「続けてBさんですが彼はメンバーの中でも常に中庸ちゅうようを心がけている節に見受けられます。唯一自分の信条を持たない人柄といっても過言ではありません。よって彼も除外されます。何故なら今回の事件は犯人像が伺えるからです。後に説明します」そう言い置いてU君は推理を再開した。

「次にCさんですね。Cさんは直情な気性をおもちなので、やるなら混みいった手段はとらず堂々とするでしょう。語り手さんはミステリを読まれているにも関わらずあのトリックを考えるぐらいなので除外です」

「じゃあ誰だよ!! 俺はAだと思ってたけど、それが違うんなら消えたDが一番怪しいじゃねえか」

「Dさんは依然として姿をあらわさないので除外します」

次に来るのは……。

「語り手さんは、Bさん推理で容疑となる二点―

①既存トリックの流用もしくは改変使用

②高みの見物説で上げてます。

ただし、①の場合は、そもそも小説のトリックは実用的に作られてない場合が多い上に、今回の密室自体が特殊すぎるので当てはまりにくいです②の動機は面白いのですけれど、自分で推理を組み上げていきたい語り手さんの信条と相反しますし、わざわざ自分より上の推理を披露する人間に劣等感を抱くほうが正当な気もするので除外させてもらいました」

「ちなみにですがAさん推理の業者犯人説もありえません」

「そうなのか。筐体に細工するのに最も疑われにくい人物だと思ってたんだけどなあ」

「はい。Aさんの推理は面白かったですしガチャガチャでしか実行できないギミックを利用した匣内部での唯一の犯行……密室殺人としては秀逸でした。曼荼羅への見立てと犯人側の狂人の論理も。袋の壁は犯人が取り出すのならその方法で問題はありません。切り口は指一本で誤魔化せますし」


U君の口ぶりだと完全犯罪として成立している。

では一体何が問題がなんだろうか。


「それはに限られるからです」


 そうか。事件の当事者は三名。業者とは別の人間でありその年齢差も社会的立場もかけ離れているじゃないか。いや、ちょっと待て。

「業者と他の三人は家族だった場合も考えられるのでは」私は共犯説を投げかけた。

「残念ながらその線は薄いかと思われます。Aさんの推理の通り次にでてくるガシャポンの順番はある程度設定で仕組めますが」


「そうか! 人の行き来までは操作できない」


「口裏を事前に合わす。もしくは電話でその場の状況を確認して連絡するなどの手はあります。しかし業者の筐体点検をする曜日・時間帯は第一発見者の学生の授業中なので居合わせる事が厳しいのです。まあサボっていた場合は可能ではありますが。あのカメラに映し出された映像はその日一日の出来事だったので、三個のガシャポンに計六本の線を歯車に結びつけるとなるとカプセルの重さでレバーが回転しませんから。それに時間帯にばらつきがあるのでカプセルの操作できる範囲を軽く超えてしまいます」



「これでかなり範囲が絞られました」

残る容疑者候補は以下の三人になった。


●学生服の少年

●買いだし帰りの主婦

●痩身の老人


「この共通項は何でしょうか? ガシャポンを廻し事件の目撃者となり、カメラに収まっていた人たちですね。実はあと二つ共通項があります。」




「皆さんとは少し異なる視点での推理となりますが最初に申し上げますと―ボクの論理の起点はです。今回の事件においては何よりがありました。その証拠に事件に遭遇した人間すべてはを発しておりません。なぜでしょうか」

「なぜってガシャポンを置いてるのと文具店とは直接関係ねえからだろ。あーゆーのは契約でんだろ」

「それは大人の論理ロジックですよ。少なくとも小さなお子さんには通用しません。こどもなら不満の声を店主に伝える行動に出てもおかしくはない」

大人である場合は何もAさんに相談する必要性はない。その場でクレームの電話をかける事もできる。そういった対応をすべての客がしてない。つまりはそう言いたいのか。


「彼らは喋れなかった、いや喋れなかったのではなく言語の壁がAさんとあったのです。この背景から一本の線が導きだせます。つまり事件の目撃者に偽装することでAさんに情報を与えていた。非言語の」


 急にU少年の言ってる意味が分からなくなった。


「彼らは最近できたキリスト教会の信者であり、かつ日本語を話せなかった。しかし少しでも信者を獲得したい。その為の行動だったのです。よって時を同じくしてできた寺ではなく犯人像は外人が確定します。Aさん」

「なにかな」

「Aさんは仏教徒ですよね。たとえば仏壇が不可解な破損をしたとして―その現象が連続で起きるとなるとどう思われますか」

「それは……不吉な徴候だと捉えるね」

「仏の力をもってしても無力なのかとは」

「言われてみるとそのような気も」

「はい。真相はつまりそういう事です」


を勧めようとしていたのかだと」

「はい。Aさんはそのターゲットの一人に選ばれたに過ぎません。そしてその為にうってつけのガシャだったのです。では三重密室の謎解きに移ります。先の動機は密室作成にも深く関わってきます。つまり視せなくてはならない。ちなみにCさんやAさんCさんそして不在のDさんの推理は非常に示唆に富んでましたしかなり確信に近かったです」

「そ、そうなのか」

「その部分はボクの推理に組みこませてもらいました


A さんの小論:π論  


Cさん推理:外側から入れ込もうとした


Dさんの思いつき①:秘密の通路説 


ちなみにDさんの思いつき②損壊箇所による凶器の選定はボクの推理では捨てさせてもらいました。ボクの推理を組み立てる上で特に必要ないからです。それは今からお伝えするトリックからも察してもらえると思います」


私の推理は? と言いかけたが思いとどまった。

聞くだけ野暮なのだろう。バカミス推理枠だしバカミス推理枠だしバカミス推理枠だし。


「密室作成の原理は非常にシンプルです。


①ガシャポンを廻す。


②出てきたカプセルを袖口、または買い物袋へ入れる


 Dさんの秘密の通路説を採用しました。秘密の通路と言われると行き来が可能な道だと誤解を招きますがこの場合は出てきたカプセルを袖口に落としこむルートとして。


③あらかじめ細工を加えておいたカプセルにすり替える。


筐体から出てきたカプセルを秘密の通路へ誘うと同時に隠し持っていた別のカプセルを取り出し口から出てきたように見せかける心理トリックです。


これは二つめの共通項だからこそのなせる技で

三人が三人とも実行できる外見をしています。


ボクがこの推理にたどりつけたのはCさんの外側から筐体内部へ入れこもうとしたストレートな発想があってこそでした。

よって犯行は手によって直接行われた。Aさんの弄ぶ説ですね。定点カメラは俯瞰なので袖口は死角になり、かつモノクロ。交換する容器の色は異なっていても問題はありません」


そうか。最初の少年は

やられた!!他のメンバーも同じ顔でU君を見つめている。

「ちなみに袋の壁は先述した方法でも可能ですし実はもう一つ方法があります」

「…………」

「…………」

「そうか!!袋にそもそも入れない方法だ。人形の上にただ乗せただけ。透明なので上からの視点だと中に入ってるように見えます。もちろん首の切断で一回は取り出しているので破れ目や切れ目はあります。切り口を更に広げるだけで証拠隠滅が可能となる」

U少年は私を見て口角をあげた。

「語り手さんのその推理、お見事です……ボクとまったく同じです。以上―Q・E・D(証明終わり)」


あまりにシンプルな方法。


つまりは目撃者=犯人たちだったのか。

統一された切断により犯人は一人だと勘違いしていた。

いや教祖が裏で糸を引く真犯人で彼らはあくまでもその手足か。


(ニ)



Uが話おえると同時にCが「作戦決行だ」と送話口に語りかける。


(無線機……)


「おいCどうしたんだ? 」

「うるさい!!黙ってろ。お前たちと一年ともに過ごした日は楽しかった。だがそれとは別だ。俺の正義を懸ける闘いの幕が切っておとされた」

何を言ってるんだ? それは我々の知っているCの口調とは遠くかけ離れたものだった。粗暴でなく知的な言葉選び。

そして言うなりCは私たちに背を向け外へと走る。

追うなり熱した空気が私たちを襲った。

火薬の匂い……硝煙と土埃が混ざりあい私たちとCの世界を分断する。


「ついてくるな。お前たちを巻き込みたくない。だが次に邪魔をするのなら殺す!!

殺してやる。そのために数年前から準備し整えたんだ。警告もした。あいつらは気づいてないようだがな。気づく前に皆殺しだ」


 装甲車が列をなして走ってくる。

傭兵が出てきてCから指令を受け散在する。


〈―こちらチームアルファ応答せよ。こちらチームアルファ。チームアルファはこれよりチームブラボーと合流し残存兵を確認後それぞれ最短通路をとり二方向から協会を挟んで攻撃する。真正面切っての特攻だ!! 外にはAKを所持した戦闘兵が複数確認されている。幸運を祈る〉


 Cが胸元の鎖からすくいあげたその先は―。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る