THE WORLD WAR (X)

 「主が、お前の名は何かとお尋ねになるとソレは応えた。我が名はレギオン。我々は大勢であるが故に」


 「火力をレギオンの頭部に集中し、ガメラを援護せよ!!」


―『ガメラ2レギオン襲来』(大映株式会社)


(一)


 バックパックが重い。タクティカル・ブーツのファスナーが徐々に下がっていくのが分かる。側にいる通信兵の無線機へ手をのばす。


〈―こちらアルファ6―ブラボー3と合流し無事目標地点へ到達した。教会を取り囲む武装兵にはまだ気づかれいない。今から掃討作戦を開始する。輸送部隊へ連絡を送りヘリから弾薬を下ろすよう手配をたのむ〉


「浮かない顔をするなE。俺と組めて光栄だと思え。生きて還れるぞ。お前がくれたナイフの切れ味は本当に良かった。CBQ(近接戦闘)で役に立ちそうだ。改めて礼を言っておく」

「ハッ!! 了解です小隊長! これからどう動きますか」

後方には敵のカラーに偽装・改造を施したM-ATV《汎用軽装車両》を控えさせてある。

先方には協会を囲む堀が点在している。

「お前が先にいけ。まずは一番近いあの堀に身を隠すんだ。いいか、敵にばれてもいいように次の遮蔽物も見つけておけ。援護射撃は任せろ」

 アッパー・レシーバーにバレルを装着。ストック部を差し込む動作を秒で実演してみせる。速ければ速いほど信頼と士気は高まる。

アサルト・ライフル―俺の相棒。

「教祖様にぶちこんでやる。いいか。AIDMAN《衛生兵》はRATERO《小型無線手》と行動を共にしろ」


 ジリジリと間をつめる。順調だ。順調であるが歩兵部隊の距離が目標へ近づくことのデメリットを挙げるとするならば神経が摩耗する点にあるだろう。


(あの馬鹿!!銃身をだし過ぎだ。あれでは守衛に見えるのも時間の―)

敵の砲弾が頭上を通過した。

(ばれたか―!?)

無線が鳴りひびく。

〈―ブラボー3。こちらブラボー3。敵兵士に見つかった。注意を引きつけておくので側面から迂回路を辿っ―〉銃撃音に遮断される。

味方のヘリが制空権内ぎりぎりの距離を漂っている。が狙いを定めたRPGに弾薬庫ごと撃ち堕とされる。流砂が舞う。

「ちくしょう」

(もう弾数残り少ないってのに)

その光景に臆したのかEがうずくまる。

(ちっ……仕方ない)

俺は、ほふく前進に切り替えて、Eに近づく。

「脅えてる場合か!!命拾いの馬鹿野郎が!!冷静なのと臆病なのとは違う。戦士なら勇を鼓舞して投げ出さなければならない時があるんだ」

「は……はい」

「お前は後ろに控えさせた車両を持ってくるように伝えて、前線から退け」


 数分後、偽装車に乗る。ギアをトップに入れる。

本部入口近くまで乗りつける。教会内部から伏兵が次々に現れる。ドアを開け窓からバレット掃射……!!

ニ、三人を倒す。扉まで到達したその時……

最奥からグレネードを手にする兵隊が見えた。 扉を盾に身を隠す。壁一つ隔てた空間に緊張が走る。先に倒した兵士の死体を持ち上げ、正面の視界へ入るように横倒しにする。


 兵士の動きが鈍った。一瞬のためらい―。すかさず肘を撃つ。軌道と速度を失ったグレネードは後方に残る敵兵士をも巻き込み血肉の塊へそれをと変貌させる。胃にせりあがってくる不快感。堪えきれずわずかに嘔吐した。頭がくらくらする。

(我慢だ……耐えきれ。耐えるんだ)

一瞬の不覚。視線を戻すとライフリングが目にとまった。

(敵残存兵……。)

こちらの弾は尽きてしまっている。

「危ない!!小隊長」

(―!?)

相手も予測だにしない状況だったのだろう。

Eを撃ち抜いたバレットの他が跳弾となり敵の右大腿をかすめる。恐れたのか兵士の両足が揃っているのに気づいた。

「うおおおおお!!!!」

右脚を後ろに引くと同時に体重をあずける。視線を返そうとする兵士の左側面テンプルへ渾身の左フックを引っかける。

「ぐ……ぁ」

カウンターとなり崩折れかかる。

まだ右足の『溜め』が残っている。戻す反動で腰を入れる。返しの右ストレートがジョーを割った。

俺はコンバットナイフを手にかけ、すれ違いざまに

抜き切る。

「た……隊長」

「E……!!喋るな。喋るんじゃない」

「いいえ。僕はもう駄目です」

胸ポケットから出したカードを渡される。

カードの中身には四つ角が擦り切れ手垢にまみれた女性の笑っている写真が入っていた。

「彼女……です。住所もここに載せてあります」

「馬鹿野郎!! 頼むには早すぎる。メディック班を呼ぶ。ちょっと待っててくれ」

幼子のようにEは首を左右にふって

「いいえ……わかるんです。もう…し…ぬって。

衛生兵には死体袋の用意だけお願いします」

頬を一条の涙がつたう。

それでも生きようとする生命の必死の抵抗なのか

Eは俺のチェーンを掴みドッグタグと同時に十字架をも引きだす。

「神の御加護を……」

「ああ……お前の勇敢な姿にもお前のナイフにも助けられたよ。お前はもう、ルーキーじゃない」

「あり……が…と……」

Eは事切れた。


 車にもどり大口をあけている聖堂へと突っこむ。

バリバリと会衆席が吹っとぶ。逃げ惑う信者の列にの中には、あの三人も認められた。構うものか。

微塵となった木片が空を舞う。

 ステンドグラスを背にして黒い穴がぽっかり空いている。いや影ではない。

主祭壇に一人の男が立っている。目が合うと同時に

俺はハンドルを左に切っていた。

重力が一瞬なくなる。が、次の瞬間―怒涛の衝撃が身体を走った。


「う…うぅ」

(頭からの出血で片目が塞がったか)

「横転した車のドアから登場とは随分派手だね。しかし多大な代償を支払ったみたいだが」

(確かにな。左肋が逝ったか。いや肋だけじゃない。左腕も、おしゃかか)

本を片手に俺を見下ろしている。後光を背にした姿は神と同じ視点だとでも主張するように。


俺は男にハンドガンをむける。

「なんで、てめえがココにいんだよ」


(ニ)



 「まさかこうして君と対面するとは僕も驚きだよ。ここまで来れたということはあの部隊を倒したということ」

「B……!! てめえがこの組織の親玉だったのか。

そしてAに改宗を求めた真犯人」

「いかにも」

「俺たちは冷戦を望んでいたはずだ。それを何故今になってあの場所へ手をだした」

「君にはその言葉は言えないだろう。否―誰にも言えないさ」

「…………」

「宗教の理念は増殖にあるんだよ。正しいと思うものは拡めねばいられない。中途半端な色は染めかえねばならない。それがだからだ。宗教こそが人類原初に根ざすmeme《文的遺伝子》なんだよ。

それに君の言い分は偽善の塊でしかない」

「何っ!?」

「Aを疑ってたじゃないか。お前はどうせAが犯人でなくても犯人である理由を仕立て上げてたくせに」

「…………」


「U君の推理は鋭かったが四つ間違いが含まれていた。


①組織の末端(実行犯)は日本語を喋れないが教祖・幹部クラスは多言語を話せるんだ。

下っ端に機密情報を漏らさない防衛手段をとっている。


②僕を中庸だと言ったが……ククク……の間違いだよ。その一帯の実に過激な分派だ。



③Dの不在を無視して推理を組み立ててしまったこと



④首切りの凶器をつきとめていなかったこと。


 Dを殺したのは他でもない―僕だ。

奴はあの場で切り口から凶器に見当がついてしまった。さすがは考古学者だ。ただあの場で推理を披露されると困る。

せっかくAを改宗させれるチャンスを逃してしまうのだから。言葉での説得が弱いのであれば現象として彼の仏法への信仰心にふるいにかける。それでも迷いが生じるようであれば再度言葉での説得を試みるそういうプランだったのさ」


「君たちだってそうだろう 僕と同じで何度も彼を勧誘しては失敗に終わっていたんじゃないのかい。

Aが僕たちを訝しむのも仕方がない。


だってそうだろう?


語り手はユダヤ教

君はキリスト教


なんだからさ」


 「僕が君たちの推理に参加していたのは核心に迫られた場合は軌道修正する必要があったから監視していたんだよ。計画を台無しにされる所だった。一瞬ヒヤリとしたが、本人が恐怖で逃げだしたのは好都合だった。追ってを差しむけて捕まえさせたよ。知られたからには殺さなければならなかった。

神に誓って人形と同じ手で葬ってやったのさ」


本の中から取り出したもの。それは一丁の拳銃だった。

銃口を俺にむける。


「私は太陽を背負いし『卐』の使者!!

君は『卍』を背負い私の野望を破壊する者。奇しくもAの言った通りになったな」


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