第一章20 新たな相棒
(2874年7月31日)
声をかけてきたゴースキンという青年は茶髪の短髪でなぜか白衣を着ている。
「そういえばソウタさん。さっき空飛んでいましたよね」
流石に先ほどの滑空を見られていたみたいだ。
そしてそれに続けてゴースキンは当たり前のようにその言葉を口にする。
「もしかして、ソウタさんは権能者ではありませんか?」
「な、なぜそれを?」
「だって、普通の人間は空なんて飛びませんもん」
「まあ、それもそうか」
「ところでソウタさんはどうしてここに?」
「実は今、オレはサンリ村に向かっているんだ。だからその最中で……」
「サンリ村ですか。実は私はキー村で働いているんですよ。もし良かったら途中までご一緒しませんか?」
想定外の話の流れにオレは歓喜の気持ちであった。
「お、おう! マジか! 是非ぜひ」
オレはゴースキンのお言葉に甘えて、ゴースキンの車に乗せてもらって、キー村に向かうこととなった。
******
(呪縛師団支部 病)
そこには椅子に重たく腰を掛けているネクロスがいた。あまり納得のいかない表情で好物のダークチョコレートを口にする。
すると病の従者が緊迫した表情で室内に入って来た。
「ネクロス様! ドリス様がソウタにやられました」
「わ、わかっている。ドリスの魂が消えていくのを感じたからな…… くそっ! 易々と負けやがって!」
ネクロスは怒りの拳を机に叩きつけた。
そこにふらっと1人の初老の男がやって来た。物凄い口髭を蓄えている。
「くっ! お前は! 何の用だ!」
動揺が隠せないネクロスが初老の男に突っかかる。
「お久ブリーフ、私はボクサー派。オヤオヤ、両親じゃねーよ! そんな目で見ないで下サイ、サイの角は美味しそう」
「これだからサイコパスは嫌いよ! 訳の分からない言い回ししないでもらえる!」
「これは私のアジ、塩焼きが好き」
「一体私に何の用かしら? イーター」
「コノタビは、子供の足袋じゃねーよ、デザイア様から命令を受けまして、ネクロスを本部に呼んでくることになってマスカラ、あっ化粧はしませんよっ、キタのです、北の反対は南」
「わかったわ。とにかく本部に行けば良いのね」
「アト、ビフォーアフター、今度の討伐は我々”老”にメイジられました、文明開化はしねーよ! モウ、牛、貴方の出る幕はないのデス、死!」
「くっ……!」
ネクロスは俯きながら、強く歯を噛みしめ、悔しさを露わにしていた。
******
オレはゴースキンの車に揺られる。ゴースキンの運転はとても穏やかで、まず酔うことは愚か、今にも寝てしまいそうな勢いである。
うとうとしていると突然ゴースキンが話しかけてきた。
「そういえば」
「……っん!?」
「あっすいません。急に」
気持ちよさげだったオレを見て、申し訳なく思ったのかゴースキンは少し申しなさげな表情だった。
「あっ、大丈夫大丈夫。少し疲れちゃってて、こちらこそごめん」
オレは少しどころではなく、かなり疲れていた。流石に昨日と今日で即席みそ汁と果物感グミだけではキツイ。お腹もかなり空いている。
「1つ聞いても良いか? ゴースキン」
「何ですか?」
「白衣なんか着てるけど、ゴースキンは何の仕事をしているんだ?」
「仕事、ですか…… 実は私、こういう者なんです」
そう言うとゴースキンは胸ポケットから手帳を取り出して、見せてくれた。
「なになに、えっと…… クレデリア王国所属”権能者”って……! まさかゴースキンも権能者なのか?」
「は、はい。そうなんです」
「何の権能なんだ?」
「私は嗅覚の権能者です。でも他の権能者の方とは違って、私は戦闘タイプではないので、役に立つことなんてほとんどありません……」
とっさにゴースキンの表情が暗くなる。
どうやらオレは無神経にも地雷を踏んでしまったのかもしれない…… もしかしたらこれが最大のコンプレックスだったりして……
「そ、そんなことないよ……」
何も分からない奴の同情ほどイラつくものはない、それはオレが一番わかっているはずなのに、オレは安易にも同情してしまった。
何とか話を立て直さなければ。
「ところでゴースキンはキー村で何をしているんだ?」
「はい。私はキー村で研究開発が進められている『フルアーマー・スーツ』の製造に携わっているんです! 今はその休憩時間で。これでも一応公務なんですよ」
ゴースキンは少し元気を取り戻し、オレは安堵した。
「なんだその『フルアーマー・スーツ』っていうのは?」
「まあ簡単に言うと、人体機能向上装備です」
「ほ、ほう……」
オレが頭にはてなマークを浮かべていると、ゴースキンは透かさず具体的な説明をしてくれる。
「そうですね。人間の各部位に装着して、肉体機能を増強させるマシーンですね。例えば力が強くなったり、足が速くなったり、視力が向上したり、とかですかね…… わかりますか?」
まるで塾の先生と生徒状態で本当に不甲斐なかった。
オレはゴースキンの親切さに感銘を受けた。
「ああ、何となくわかった」
「それが完成すれば、私も戦闘に参加できるようになりますし、胸を張って”権能者”を名乗れるようになると確信しています!」
ゴースキンの表情はかなりの自信と希望に満ち溢れていた。それと同時にオレは、ゴースキンは相当に戦えないことを気にしているんだなあ、と思った。
「そういうことか。じゃあこの際だから、キー村の案内と共にオレにもその『フルアーマー・スーツ』の研究開発を少し見せてくれよ」
「ええ! もちろん構いませんよ!」
ゴースキンはとてもうれしそうな表情を浮かべる。
オレはこうしてキー村にある『フルアーマー・スーツ』の製造現場にお邪魔することになった。
「うわあ! なんか異様に大きな建物が続々と見えてきたぞ!」
「あれがキー村ですよ」
ゴースキンと話している間に、辺り一帯が平地だった今までとは違い、100m級の高層ビルやマンションが建ち並ぶ、一級の都市がお目見えした。今までの景色しか知らないオレにとっては、まるで別世界に来たようだった。
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